『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』などを手掛ける、渡辺信一郎監督の最新作となるテレビアニメ『LAZARUS ラザロ』。
放送されるやいなや、世界中で大きな話題となっている本作について、今回はその渡辺監督にインタビュー。『ジョン・ウィック』シリーズでおなじみのチャド・スタエルスキ監督をアクション監修として起用した経緯や、物語の中で取り上げられるAI、そして豪華面々の揃った音楽などについて、たくさん伺ってまいりました!

──そもそもチャド・スタエルスキ監督にアクション監修として起用したのはどんな経緯だったのでしょうか?
渡辺信一郎(以下、渡辺): 実は『ジョン・ウィック』がまだ日本で公開される前、イギリスのコンベンションに行った時にスタッフに「『ジョン・ウィック』は見た?」と言われたことがあったんです。その後ベルギーに行った時にも、「『ジョン・ウィック』は見た?」とまた言われました。
デジャブか?と思ったんですが、その後アメリカのコンベンションに行ったら、「君がぜひ見るべき映画がある」と言われたので、「言わなくていい。『ジョン・ウィック』だろ?」と返すと「何で分かるんだ?」と驚かれました。そんな風に世界中のみんなが勧めてくるなら、きっと何かあるんだろうなと想像してたんです。
それからようやく日本で公開されたので観てみたところ、面白いしアクションもすごい上に、なんだか自分の作品と共通するものを感じました。とはいえ、まあそこは偶然かもしれないな、とは思っていました。

それから何年も経ち、久しぶりにアクションものをやろうとなった時、思い浮かんだのがその『ジョン・ウィック』を作った人たち、チャド・スタエルスキさんと彼のアクション・チームの87Eleven Action Designなんです。
でもまあ、その時にはすでに彼らはアクション映画マニアだけが知ってるチームじゃなく、全米興行収入ナンバーワン作品を作ったビッグスターになっちゃってたから、ちょっと敷居が高くなっちゃって仕事が頼みにくいなぁと。
とりあえず、ダメもとで話だけでも聞けたらいいなと思ってたんですね。たとえばアクションシーンを作るコツ、みたいなことをね。
それでとりあえずコンタクトを取ってみると、すごい速さで返事が返ってきて、打ち合わせが決まったんです。それで直接話してみたら、チャドさんは『カウボーイビバップ』と『サムライチャンプルー』が大好きで、たくさんのインスピレーションをもらったと。今回はそのお返しということで、アクションの話をしてくれるだけじゃなく、監修として参加してもらうことになったのです。売れっ子になっても初心を忘れない、素晴らしいナイスガイですよ、彼は(笑)。

──アクション監修というのは具体的にはどういう形で参加してもらったのですか?
渡辺:全話をやってる訳じゃないんでとりあえず監修って名前になってますけど、参加してる話数については、実際にスタントマンを使ってアクションを実写で撮影・編集した映像を送ってもらい、アニメーターがそれを元に、一から描くという形式です。
今だとモーションキャプチャーを使ったり、実写をそのままトレースするロトスコープというやり方もあるんですが、そういう形は一切取っていません。
トレースするだけだと実写に負けちゃうんですよね。だからさらにアニメ的な要素を付け加えています。たとえばアクションをちょっとデフォルメしたり、タイミングをちょっと早くしたりとか。アニメ的なブラッシュアップをした上で映像にしています。

エピソードによっては、全面的にチャドさんたちのチームがアクションを作ってる話数もあれば、一部分だけだったり、完全にアニメのチーム側だけで作った話数もあったりと、いろいろな関わり方をしています。
当時は『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(シリーズ4作目)の撮影の真っ只中だったので、すごい忙しかったはずなのに、みんなすごいノリノリでやってくれました。今回、その映像作りの中心になってくれたのは、ジェレミー・マリナスさんというチャドさんの右腕的な人でした。
彼は単独での仕事も始めてて、近い将来、有名になるよとチャドさんが言ってましたね。彼がベースのアクションを考え、演じ、それをチャドさんが見て修正していくという体制でした。
──今作ではどういう方向性でミュージシャンを集めていったのでしょうか?
渡辺:以前の作品に比べ、今作はエレクトロニック・ミュージックやダンス・ミュージックの割合が多いのが特徴ですが、これはパルクールなどを交えたアクションをダンスのように見せたいというのが狙いでした。普段ならサスペンス感を出せる音楽をつけそうなところに、あえてダンス・ミュージックをつけてみたい。そこで、Floating PointsやBonoboに頼むことにしました。

でも全編がエレクトロニックだったりダンス・ミュージックだと合わないシーンもあるので、ジャズ・ミュージシャンのカマシ・ワシントンさんにも頼むことにしました。ちなみに、彼の曲を『カウボーイビバップ』っぽいって言う人が多いんですが、自分はそういうオーダーはしてないんですよ。ただ、彼がビバップの大ファンみたいなんで、無意識にビバップっぽくなってしまったところはあるかも知れない(笑)。
──本当に凄いメンバーが集まっていますが、どうやって頼んだんですか?
渡辺:とりあえず音楽を頼みたい人のリストを作って、順番にオファーしていっただけですよ。上から3人がみんなOKを出してくれたんで、そこで終了と(笑)。まあ、ラッキーでしたね。
──今回の物語の中心であり、万能鎮痛剤として流通しながら実は人々を死に至らしめる罠が仕掛けられていた「ハプナ」は、どういったことから着想を得たのでしょうか?
渡辺:海外のニュースを紹介する番組を見ていて、アメリカでオピオイド(注:麻薬性鎮痛薬)がかなり社会問題になっているというのを知ったんです。違法な薬ではなく、医者からもらえる処方薬なのにも関わらず、副作用とか過剰摂取とかで多くの死者が出ているというもので。そこから、わざと薬を売り出して人を殺すなんていうこともできるんじゃないかと考え、「ハプナ」は生まれました。

でも、これはあくまでインスピレーションの元という事であって、実在するものを揶揄するような意図ではないんです。ワクチン陰謀論みたいに言ってる人もいるらしいけど、違いますから!
『ラザロ』のような作品においてはやっぱり悪役が重要です。悪役が作りにくい世の中になった、とか言われますけど、今回大事なのは、単純に悪さや強さではなく、どんな考えをもって悪事をなすのか興味を惹かれる悪役であるかなんです。その考えを元に、鎮痛剤なのに服用してから3年後に死んでしまう薬を作ってばらまいた男、スキナーが生まれたんです。
──ハプナはオピオイド危機から着想を得たとのことですが、「ラザロ」は近未来を舞台にした作品であり、AIがいろいろな形で普及している世界として描かれていますよね。あのあたりは、テクノロジー進化に関する現代社会に向けたメッセージを持たせたものなのでしょうか?
渡辺:うーん、誤解しないでほしいのはこの作品は社会的なメッセージを主張するための作品ではなく、エンターテインメントなんですよということです。あくまでそのベースがあって、その上で見た後ちょっと考えさせられる、そんな作品になるといいなと思ってます。ちなみに海外のインタビューでは、4話でDJがAIに曲を任せてるというセリフが随分注目されて、みんなその事について質問をしてくるんですね。

──それ自体は、2019年の『キャロル&チューズデイ』でも取り扱った内容ですよね。時代を先取りしていましたね。
渡辺:ちょっと早すぎたのかな(笑)。音楽の世界では今、まさにAIに音楽を作らせるってことが起きてて、フィクションのつもりだったことが実際に起こっている。『キャロル&チューズデイ』は、ぜひ今、見直して欲しいアニメ作品です(笑)。
──その時からAI観に関しては変わりましたか?
渡辺:変わっていませんね。ちなみに『ラザロ』の第6話では、AIが新興宗教にとっての神、として登場します。それはフィクションとして考えたものですが、自分は近い将来、本当にそういうものが登場するだろうと思っています。
シンギュラリティを迎えたAIは人間を遥かに超える知能を持ち、しかも肉体を持たないから余計な欲望がなく純粋で、言わば神に近い存在である、という設定なんですけどね。
──ツールとしてはどう捉えていますか?
渡辺:実はアニメでもAIを導入しようという流れはあります。でもね、自分が思うのはそもそもアニメの仕事をしている人は絵が書きたいとか、お話が作りたいとか、いい作品を作りたいと思ってその仕事を始めたのじゃないのか、ってことですよ。
AIが全部作っちゃったら、いくら高度な作品だとしても意味があるのかという話なんです。作りたいから作ってるという基本的なことを忘れてるんじゃないか。『キャロル&チューズデイ』も、AIが音楽を作るのが普通になった時代に、何のために音楽を作るのかという話でした。ヒットを生み出すため、人の心を掴むためとかは言えても、最終的にそれを作って楽しいのかということなんですよ。人間はなぜ、創作するのかという話でもあります。

AIに限らずですが、長い事アニメで仕事をしてきた結論として、人間の手で描いたものには、たとえ絵が崩れていようが何だろうが、魅力があると思っています。それは、描いた人の気持ちが入ってるから。
でも、AIで自動生成されたものには、いくら緻密で情報量が多くハイクオリティな絵であっても、人の気持ちが入ってない。心のない怪物みたいなもんですよね。
人は情報量とか正確さとかに感動するんじゃないと思うんです。
──最近だと特定の作品っぽい絵に画像を変換するジェネレーターみたいなものも話題になりましたね。
渡辺:もちろん、区別がつかないんだからいいじゃないか、っていう意見もあるでしょう。だから逆に、見る側の審美眼が求められる様になったと思います。
まあ自分としては、他の分野はともかくとして、創作の分野にはAIは入れないほうがいい、というのが現時点での結論です。そして、ノーAIの手描きアニメーションをずっとやっていきたいと思ってるんで、今後もよろしくです(笑)。
『LAZARUS ラザロ』はテレ東系ほかにて放送中。またU-NEXT、DMM TV、アニメ放題他で配信中。
Source: 『LAZARUS ラザロ』公式サイト








