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2025年11月30日日曜日

Re:ローグライクハーフ・町オプション【モフージャの町】&新職業【吟遊詩人】 FT新聞 No.4694

おはようございます、編集長の水波流です。
来月第一日曜に配信予定のローグライクハーフシナリオは、ロア・スペイダーによるd66『龍脈温泉(仮)』
その舞台となる町サプリメントと新職業を再配信いたします。

舞台はラドリド大陸の南西部、ポートス地方。その中心部に位置する「闇の森」を避けるように作られたモフージャの町です。
この町はもふもふと楽器の音色があふれる町。都市というには規模は小さいですが、そこには確かに歴史や人々の営みがあります。

また、このモフージャは【吟遊詩人】という職業に縁が深い町となります。このため、楽器や楽譜など【吟遊詩人】専用のアイテムが買えるようになってます。
【吟遊詩人】を極めようとしてる方はぜひ訪れることを検討してみてください!

↓町オプション【モフージャの町】
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_SUP_Mofuja.txt


◆吟遊詩人
アランツァの各地を渡り歩き、歌や演奏の技術、世界の伝承知識を身につけた職業のことを【吟遊詩人】と呼びます。
副能力値は幸運点。
習得できる特殊技能は魔法の力を持つ音楽「奏楽」です。

↓新職業【吟遊詩人】
https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_NewClass_Bard.txt


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2025年11月29日土曜日

FT新聞1ウィーク! 第668号 FT新聞 No.4693

From:水波流
執筆の生命線であるATOK。
プレミアムの機能が全く不要なので月額330円のベーシック契約していたが、ついに廃止……。
強制的にプレミアム契約になるのかー。AI文章生成支援などの新機能より月額料金2倍になるのが厳しい。
しかし各種辞典データと連想変換辞書の機能は、他の日本語IMEには無いので代えがたい。

From:葉山海月
『ヨグ・ソトースの飛沫』を『ヨーグルトソースの秘密』と言い張って譲らない32歳

From:明日槇悠
隣町のお寺へ怪談を聞きにうかがいました。
出演された怪談師の語る怪談よりも、お上人のしごき体験談のほうが圧倒的にこわい!
この時期、お像にかぶせられる綿帽子の紅白はおめでたいからではなく血の滲んだ色なのです……と、これは怪談ではなくためになるお話(雑学)。

From:中山将平
僕ら今日11月29日(土)と明日30日(日)、「トレジャーズオブファンタジア6」というイベントにサークル参加しています。
開催地はJR大阪環状線新今宮駅近くの「YORO BASE」。
ブース配置は【B14】です。
個人的にも大好きなイベントなので、遊びにお越しいただけましたら幸いです。


さて土曜日は一週間を振り返るまとめの日なので、今週の記事をご紹介します。
紹介文の執筆者は、以下の通りです。
(葉)=葉山海月
(天)=天狗ろむ
(明)=明日槇悠
(く)=くろやなぎ
(水)=水波流


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■11/23(日)~11/28(金)の記事一覧
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2025年11月23日(日)かなでひびき FT新聞 No.4687

読者参加企画『みんなのリドルストーリー』第11回(出題編) 
・かなでひびき氏による企画。かなで氏が集めた奇妙で結末がない物語の断片。この前半部に、読者の皆様がオチに当たるストーリーを考えるという企画です。
今回のお話は、
「たぐいまれな美貌を持ったエルフ。エルフ・ザ・ピンチ!
おにゃのこに囲まれながら税関を通過しようとすると、いいかがりに近いバカ高い通行税を請求されてしまう!
突っぱねようとしても、『それなら女の子たちを置いてけ』
この欲の皮が突っ張った税関に。はたしてピンチは」……
今回の出題編はここまで!
皆様の名解答! お待ちしております!
(葉)


2025年11月24日(月)杉本=ヨハネ FT新聞 No.4688

☆冬コミ新刊の話☆
・先日開催された秋のゲームマーケットでは、1人用TRPGローグライクハーフの最新サプリメント『ヒーローズオブダークネス』を引っ提げて参加して参りました。おかげさまで好評で、通販も近い内に開始予定です。
次は冬のコミックマーケット!「モンスター!モンスター!TRPG」の最重要サプリメント『ズィムララのモンスターラリー モンスター編』の刊行を目指し、ハイピッチで作業を進めています。
杉本氏が『ズィムララのモンスターラリー』を読んだとき、「こんなモンスターがプレイ可能なのか」という驚きがあったそうです。
そんな驚きと多様性と魅力に溢れ、プレイヤーとしても、シナリオ作者としても、創作のタネとなるインスピレーションを刺激してくれる「魔法の本」、楽しみにお待ちください!
(天)


2025年11月25日(火)中山将平 FT新聞 No.4689

カエル人が教えてくれたファンタジー創作 第48回
・『カエルの勇者ケロナイツ』の作者である中山氏が、新サークル「ギルド黄金の蛙」を立ち上げられました!
カエル人の創作を通じて新たなファンタジー世界を構築する氏にとって、避けては通れない今回のテーマは「吸血鬼」。
自作にも吸血鬼を描きたいと夢みてきた中山氏、いざその段になって大いに悩んだのは、「吸血鬼がいかなる存在かの設定が作品ごとに違いすぎる」という問題でした。
「求められる吸血鬼像」自体が多様なのだとしか思えないカオティックな状況から、氏は「吸血鬼を特別にしているものは、吸血という行為ではないか」と考えます。
どんな吸血鬼も血を吸うのであれば、その行為の意味——捕食なのか、契約なのか、愛情なのか、はたまた——によって存在のあり方を定めうるのではないか。
ファンタジー世界フログワルドにも存在するという吸血鬼に果敢に挑む、「ギルド黄金の蛙」への熱血応援をよろしくお願いします!
(明)


2025年11月26日(水)ぜろ FT新聞 No.4690

第15回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
・精緻な原作を深く豊かな解釈で描き直す、ぜろ氏のリプレイ第467回です。
このリプレイで3度目となる吸血鬼の館のシーン。今回の仲間のボラミーは、館を目前にして、自らがその館と深い因縁をもつことをミナに打ち明けます。
ボラミーは、ミナとは別に、館に来るべき理由を持っていました。では、闇神が戯れに時を巻き戻さなければ、ミナと戦ったボラミーや、ミナと出会わなかったボラミーは、いつかひとりでこの館へと辿り着いていたのでしょうか。そして、間に合わなかったという後悔を、いつまでも抱え続けることになったのでしょうか…?
そんな「もしも」の可能性も想像させながら、物語はクライマックスに向けて加速していきます。
(く)


2025年11月27日(木)岡和田晃 FT新聞 No.4691

「奇妙な仕事を斜めから見る」
・岡和田晃氏による、奇妙な味のするオリジナル小説をお届けします。
元OL、元デリヘル嬢でキーツ研究に没頭する世莉愛(ぜりあ)の今度の勤め先は、レポート代行業を行う「学術出版・オフィスGOKAK」。
そこで受けた新たな依頼は、「夢魔と幻獣、時間と"猟犬"の関係について論じよ」……明らかに世莉愛が大学時代からお世話になっている教授のクラスへのレポート代筆でした。
かつて博論の草稿を読んだその教授は、世莉愛を特別研究書庫に案内しますが、そこで手に取った水晶から、世莉愛は時間を斜めから見てしまうことに……!?
向学心によるサクセスストーリーが逃亡劇に変転した末に、彼女が見たものとは? ご自身の目でお確かめください!
※秘密結社「白金の落日」の痕跡を追うにあたっては、パラグラフジャンプに擬せし注記を参照せよ。
(明)


2025年11月28日(金)休刊日 FT新聞 No.4692

休刊日のお知らせ 
・毎週金曜日は、読者から投稿された記事がここに入れるように、空けてある曜日です。
あなたの記事を、お待ちしております!
(葉)


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2025年11月28日金曜日

休刊日のお知らせ FT新聞 No.4692

おはようございます。
本日は、タイトルのとおり休刊日です。

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2025年11月27日木曜日

「奇妙な仕事を斜めから見る」 FT新聞 No.4691

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オリジナル小説「奇妙な仕事を斜めから見る」

 岡和田晃
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 彼方、彼方へ! 私はきみの世界(もと)へと翔んでゆきたい。——キーツ

 時間を斜めから見てしまったあの日から、できるだけ弧を描くように歩くことにしている(注1)。
 急ぎすぎると変な奴だと思われてしまうこともあるみたいだけど、適度にペースを落としていけば、見咎められる危険性はぐっと減る。本当は軽いサンダルやヒールの高めの靴を履いときたいところ。でもそれじゃあ、この地味目のスーツに合わないから、仕方なく、上下のスーツとセットで買ったローファーを履いて出勤している。
 ——時間というのは劫初の瞬間を憧れてやまない神の回想から生まれた。そう書かれた研究書(注2)を、こないだ読んだばかりだ。ならばさしずめ私は、無理にでも世の中を、斜に構えて見られるようにしたいと思っているんだろうな……。そう、世莉愛(ぜりあ)は独りごちた(注3)。
 ここは、東京と神奈川の境目から、少し都内寄りのところにある高級住宅街。圧倒的大多数の人らは、一生涯額に汗して働いても、このあたりにマイホームを買うのは夢のまた夢。通行人は驚くほど少なく、なのに、最新型の監視カメラがそこかしこに設けられ、警備車両が行き来している。野宿者が徹底して排除された「住みやすい」街だ(注4)。
 その一角に、いまの職場は存在する。見た目こそ普通の一軒家と変わらないものの、実はここ、ユニークなデザイナーズ物件として、知る人が知る家屋なのだ。周囲の建物からは浮いているが、さりとて場違い感はなく、むしろ辺りを従え、君臨し、監視すらしているかのような重圧を放っている。
 前に偶然、北海道の廃校を探訪する動画サイトを見たことがある。追いかけ亭雪国(注5)とかいうフザけた名前の配信者のチャンネルだ。彼はホラー系ライターを名乗ってはいるものの、ウケそうなことなら何でもやるノリの軽さと節操の無さがウリらしく、投げ銭頼みであちこちの心霊スポットを行脚して回っているらしい。そのなかに、円形をした小学校の廃墟があった。北海道には戦後のベビーブーム期、あちこちに円形校舎が建てられたのだと蘊蓄(うんちく)を披露していた。あそこまで大きくはないけれど、印象としては近いものがある(注6)。
 表札には、大きく「学術出版・オフィスGOKAK(注7)」と掲げられている。それを見るたびに、世莉愛は内心、誰か突っ込みを入れないのだろうかとハラハラする。わざわざ「学術出版」と名乗ってはいるが、実態は大きくかけ離れているからだ。やっているのは、レポート代行業なのである。
 面接の模様はこうだった。
「レポート代行って、イメージがよくないですよね。大学をレジャーランドと勘違いして遊び呆けている学生が、最後に泣きつく先だと思われがちです。ですが、イマドキまるごと論文を書いてもらいたい人は、むしろChat GPTなんかに頼んで手軽に仕上げちゃいますから。生成AI使用に特化した安手の業者もいます。もちろん、安かろう悪かろうで、いかにもコンピュータに書かせたものだとバレてしまう可能性が高いわけなんですがね……」
 アメリカ生まれだという代表のハンフリー・リトルウィット(注8)は、オーバーに手を合わせて「ご愁傷さまです」とでも言いたげなポーズを取る。
「だから私たちの場合、メインの案件は、レポート代行というよりむしろ研究サポートというほうが近いんですよ。日本の法律には触れませんし、親御さんやら教員の方々にも、感謝されることが多いくらいなんです」
 最初に日本の大学に留学した際すぐに問題に気づいたと、まったく訛りのない流暢な日本語で説明を続ける。
「いちばん多いのは、指導教官に疎まれ論文指導を受けられていないから書くことがわからない、フルでバイトを入れなければ学費が払えないから授業に出られなかった、なんてケースですね」
「それって、本来は教師やゼミの上級生が適切にケアしていれば済んだはずの案件ですよね。あるいは、もっと効率のよいバイトをするか」
 率直な疑問を世莉愛は挟んだ。
「まさしく。適切なサポートがなされていれば、わざわざ私どもに頼る必要などない方ばかりです。それに、私たちが提供するのは、あくまでも完成一歩手前の原稿で、最終的な仕上げはご当人にやっていただくわけですから、メインは"お手伝い"なんですよね」
 自信ありげにハンフリーが言う。実際のところ、オフィスGOKAKに所属しているライターの多くはポスドクか非常勤講師、あるいは院生で、本当に研究サポートという感覚で仕事に取り組んでいるという。いまは学術論文の多くはフルデジタル化されているうえ、ビジネス用のチャットツールが浸透しているので、ちょっと研究センスに長けたものであれば、調査から納品までの間隔は意外なほどに短くて済む。期間も余裕を見て構成されており、これなら本業の研究にも支障は出ないはず……。
 世莉愛は一も二もなく、ライター登録を頼むことにした。少しでも「研究」に近い仕事をしていたかったし、ここで働いていれば自分の身は安全だ(注9)。そう直観したからというのも否めない。

 大学院(注10)に入る前、世莉愛はOLを三年やってきた。何事をするにも、まずは三年の間、社会人経験を積むのが大事だと言われてきたからだが、経済的な余裕も持ちたかった。母親がシングルマザーだったので、奨学金を頼んでもなお、学費と生活費を足したら足が出てしまう。そこで仕方なく、十代からデリヘルの仕事を始めた(注11)。キツイ肉体労働ではあったけど、報酬に比べたら拘束時間は短い。デリで呼ばれているときの自分は死んでいる、そう思うようにしていたが、そこそこ人気はあったようで、どうにかこうにか、学生ローンの世話にならずに大学を卒業することができた。周りには家庭教師をしていると説明していたが、賢しらぶって他人に教えるのはどうも苦手。だからOLになってからも、貯金を作るために週一くらいのペースで「仕事」を続けてはいたのだけど、職場で妙な噂を流され始めて嫌気がさし、ここらが潮時と進学を決意した。
 もともと大学では英文科にいた。文学に興味があったというよりは、母親の苦労を見てきたので英語ができれば食いっぱぐれはないだろう、という程度の動機で選んだ場所である。サークルにも悪友との遊びにも参加せず、教員に指定された本を真面目に図書館で読むようにし、忘れないよう細かいメモを取るようにしてきたので、いつの間にか基本的な知識は出来ていた。
 あるとき、待機室でジョン・キーツの詩集を読んでいたところ、ヤンキー上がりの人妻なのが売りの嬢が、わざわざパーテーション越しにこちらを覗き込んできて、「これみよがしにそーゆーの読んでるのって、あたしたちへのあてつけ? 自分はあんたらとは違うんだぞ、って、お高く止まってるんじゃねーぞコラ」と絡まれ、チューハイの空き缶を投げつけられた。曖昧に笑ってその場はごまかしたが、むしろ、それをきっかけとして、この詩人にもう少し付き合ってもいいかな、と思ったものである。
 会社を自己都合で辞めてすぐ、大学時代の指導教官である長鐘岷(ながかねみん)教授(注12)に連絡をとり、院に進みたいと話した。彼女は世莉愛のことをよく憶えており、卒論の出来が図抜けてよかったから就職したのはもったいないと思っていた、と言ってくれた。推薦書を書くのはやぶさかではないが、それには研究計画が必要だと言われたので、咄嗟に思い浮かんだジョン・キーツの"小夜啼鳥(ナイチンゲール)に寄せる頌歌(Ode to a nightingale)"で詠われる小夜啼鳥と「彼方」の関係について修士論文を書きたい、と話し、詩の一節を諳(そら)んじてみたところ(注13)、「キーツとは、いまどき珍しいね。でも、ケアの概念にも関係あるし、動物表象の研究は最近の流行りを押さえている。なかなかバランス感覚がいいと思うよ」と褒められ、とんとん拍子に話は進んだ。
 ティーチング・アシスタント(TA)をやりながら、修士時代は図書館と研究室にこもって、論文の執筆に集中した。幸い、関連文献の大半はオンラインで読める。関連文献の翻訳を自分で作り、それをもとに論文を書くので研究の効率は悪かったが、「M(注14)とは思えないほど綿密だ」と長鐘教授からは褒められ、決して悪い気はしなかった。ただ、貯金は急速に減っていった。ふたたびデリに戻ることも考えたところ、苦境を見越したのか、長鐘教授が日本学術振興会の特別研究員の口に応募してはどうか、と言ってきた。月三十万ばかりの報酬が出るという。幸い面接はパスしたが、期間は三年きり……。
 心配の種は尽きず、おまけに研究メインの生活に入ってから不思議な夢を見るようになった。一度や二度ではなく、ほぼ毎週、ひどいときは二、三日に一度ペースだから尋常ではない。中身は決まっており、自分が男になって、黒い面紗(ヴェール)をかけた女と、肉叢(ししむら)をぶつけ合うほど激しく交わる夢だった。顔の方はよく思い出せないが、背が高く豊満な体つきをしていたのは間違いない。事が終わると、長距離走を走り終えたあとのようにぐったりとした気分になる。精を抜き取られ、自分という器が空っぽになってしまったようで(注15)、布団までびっしょりと濡れてしまう。
 皮肉なものを感じた。自分が男になって、知らない女とセックスする夢を見続けるなんて! そういえば、よく指名してくる客に、小中(こなか)と名乗る青白い顔をした痩せっぽちの男がいたのを思い出した(注16)。彼は生まれつきの不能らしく、世莉愛の裸を見ても勃起した試しがない。互いに生まれたままの姿にて、あれこれ四方山話で時間を潰すのが常で、客としては対応が楽だった。最後に世莉愛を買ったとき、いちど翻訳しているという原稿の一部を読み聞かされたことがある。「なんて本なの?」と聞いたら、小中は軽く笑い、「本じゃないんだ。これは呪詛板という古代ギリシアに伝わる石版を、僕が翻刻したものでね。エウリュディケーのような冥界から戻ってきた存在の顔を見ても、それが冥界に引き戻されないよう、呪縛を込めるためのものなんだ」と言った。深く考えなかったけれども、どういう意味だったのか、問い質しておけばよかった。というのも夢のなかで、どうも世莉愛は自分が小中になったような気がしてならなかったからだ。
 OLも夜職も「卒業」し、研究に没頭しているときは束の間、悪夢を忘れられた。それどころか調べれば調べるほど、自分が十九世紀の詩人になったように思え、別の夢を見た気持ちになった。それだけなら"研究者あるある"なのだけども、有名な"ギリシア壺に寄せる頌歌(Ode on a Grecian Urn)"で詠われるような古典古代への憧れは増すばかり。ロマン派の詩人が理想化した時代と現実の歴史は違うと頭では理解しているのだが、詩人の憧憬を共有することで、時空を飛び越えていけるような気持ちになったからである。そこから一線を超えるまで、さほど長い時間はかからなかった。
 いち早く気づいたのは、長鐘教授だった。定期的に行われていた博士論文のための個別面談で、新章の草稿を読んだ彼女は面持ちを変え、「きみは時間をめぐる秘教(エソテリズム)に興味があるんだね? それなら、うちの大学の特別研究書庫を使うといいよ。推薦状を書いておくから、司書にそれを見せれば入れるはずだよ」と言ってきた。
 そんな書庫があるとは、聞いたこともなかった。閉架書庫の一角から、螺旋階段をひたすら降りていくのである。これがとても長く、体感時間では三十分以上降りたようだが、さらに下ったかもしれない。その先のごく狭い一室に、その特別研究書庫は位置していた。なかからは据えたような変な臭いがし、人の皮で装丁された、古代ギリシア語、ラテン語、アラビア語の書物が散在していた。あるのは本だけではなくて、妙に刀身がねじくれた剣やら、ピカピカ輝く黄金の盃やら、濃緑色の水晶やらが転がっていた。興味本位で世莉愛は水晶を手にし……。
 ——何か大いなる存在によって自分の意識がわしづかみにされ、あたかも粘土のごとくぐちゃぐちゃに捏(こ)ねられたかのようだった。いびつに変形させられたまま渦巻く奔流となり、ロケットを逆噴射させるような調子で、どこかありえない場所に精神が押し込められるのを感じた。それから、緑色の光が輝き、認識の一歩先を投網のように覆った。
 何かが奥の奥まで進み、世莉愛を深々と突き刺した——その痛みと重ね合わされるかのように、緑青…薄紫…赤紫…青紫…深紅——黄赤…赤黄…黄…緑黄…黄緑…緑——チラチラと煌めく色とりどりの円がひたすらに循環し、色彩の輪が幾重にも連なる。転輪のなかに大いなる存在が、ぼんやりと浮かび上がってくる。迫ってきた。速かった。ものすごい勢いで、"猟犬"は、世莉愛の侵入を見咎めたのだ。
 それからだ。世莉愛が時間を斜めに見、弧を描くように歩き始めたのは。不用意に角に近けば、あいつが数十億年前の昔から追いつき、姿を現してしまうことだろう。

 問題なくオフィスGOKAKから採用の連絡が来た。リモート勤務ではなく、出勤して働くことを選んだ。その方が、業務に関しての細かいニュアンスが伝わると思ったからである。「研究サポート」の仕事は向いていたようだ。というのも教員の求めるレベルと、勉強をしない学生たちの間に横たわる断絶の質が、すぐに掴めたからである。論文の完成度を高めすぎないように注意しながら、九割がた完成させたレポートと資料を送るように心がけた。ハンフリー代表は、すぐに世莉愛の適性を見抜いた。
「なかなかやりますね。CiNiiでヒットしない論文以外も、ちゃんと参考文献に入れている。これなら、まず剽窃や代筆を疑われずに済むでしょう」
「いや、これはクライアントからもらった資料のなかで言及されていたものなんですよ」
「謙遜が上手いですね。たとえそうでも、それを使って論に仕上げることなど、なかなか出来ないものです。あなたはこの仕事、向いていると思います」
 実際、仕事は次から次へと振られたが、世莉愛にはルーチンでこなすことができ、やればやるほど、仕事の能率を上げられることもわかってきた。オフィスにいる時間は、少しずつ長くなってきた。好きで残業をしているわけではないが、できるだけ外にいる時間を減らしたいのも、確かだったのである。
 新しい生活にも慣れたと感じたある日、気になる依頼が舞い込んできた。クライアントは事情があってメールでの相談しかできないという話だったが、「夢魔と幻獣、時間と"猟犬"の関係について論じよ」という題目からして、長鐘教授のクラス、しかも大学院ゼミへのレポート代筆を頼まれたというのは、すぐにわかった。
 さすがにリスクが大きすぎる、違うライターに振ってほしいとハンフリー代表に頼んだが、「そういうこともけっこうあります。むしろ、傾向がわかって好都合じゃないですか。先輩として指導してあげるべきでしょう。この手のケースって、問題になりづらいんですよ。教員の側が"自分が教えたことがちゃんと伝わっている"と手応えを抱いてくれるものですから」と、わかったような返しをしてくる。
 博士論文を仕上げる時間を、別の仕事に注ぎ込んでいるとバレたら大目玉だな……と思ったが、あいつに出くわしてから、そもそも世莉愛は、長鐘教授と顔を合わせた記憶がないのに気づいた。住所も電話番号もメールアドレスも変えてしまったし、そもそも、博士論文を仕上げるという名目で休学したが、その実、あいつから逃れる手立てを探していたのではなかったか。
 幸い、代表の言った通りで、教授からのお咎めはなかった。それどころかクライアントは味をしめたようで、修論の代行すら頼んできた。しかも、題目を見て戦慄した。「"小夜啼鳥に寄せる頌歌"で詠われる小夜啼鳥と「彼方」の関係について」とあるではないか。
 教授は私が代行をしていることに、まず間違いなく気づいている。さすがに自分の修論を、まるまる提出する気にはなれず、自分が修論で書けなかった論点を積極的に盛り込んだ「新作」を、提供することになったわけである。次の依頼は、案の定、予想通りのものだった。「"ギリシア壺に寄せる頌歌"と時間について」。そう、教授は依頼人のフリをして、私に博士論文の続きを書かせようとしているのだ。
 そして私は代行のつもりで、自分の原稿を書いていただけだったのである。自分の意思のつもりでいて、知らず、退路を絶たれていた——自らの尻尾を齧る蛇ウロボロスのように! そういえば世莉愛はここ数日、自分がオフィスから出ていなかったことに気づいた。見回したが、代表の姿はどこにもない。あたかも宙吊りになり、時空の狭間、いや深奥にふたたび迷い込んでしまったかのようで……そのまま、世界が濃緑色に包まれた。

【注記】これはゲームブック専門出版社の日刊メールマガジンに掲載される小説という体裁をとっているが、どうも、我々が追っている秘密結社「白金の落日」についての情報が盛り込まれているらしい。そこで、知りうる情報を注記という形で示すことにした(ファイル作成者記す)。

(注1)視点人物は、おそらく本能的に"猟犬"を避けようとしているのだろう。
(注2)アウグスティヌスの『告白』と思われるが、グノーシス主義やカタリ派の基本思想にもつながる。
(注3)この名前はハワード・フィリップス・ラヴクラフト(HPL)に小説の添削を依頼していた顧客、ゼリア(ズィーリア)・ビショップを思わせる。
(注4)彼らは、いったい何を警戒しているのか? 野宿者の排除は許されないが、排除されているのは野宿者だけななのか?
(注5)このライターは実在する。「ナイトランド・クォータリー・タイムス」Issue25の「レンタルおぞましい人」や、Vol.36の花田一三六「【ザ・ハウス・オブ・ナイトメア】悪夢の家を探索してみる【絶叫配信?】」参照。何かを知っているかもしれないから、コンタクト候補に要追加。
(注6)つまり"猟犬"から逃れるための設計だろう。
(注7)「合格」に引っ掛けたネーミングに見せかけているが、この綴りはインドの神智学者V・K・ゴーカク博士のファミリーネームを彷彿させる。神智学ネットワークの寓喩か?
(注8)HPLが用いた多数の筆名のひとつと一致。これは偶然か?
(注9)この特異な外観の建物が、"猟犬"から身を守るためのシェルターになっているということだろう。
(注10)この大学院がどこなのか、故意に語り落とされているようだが、察しはつく。新興宗教団体の肝要りで作られたとの報道もあるが、正しくない。あそこは、「白金の落日」がバックにいるところだ。教員にも息がかかっていると見て、まず間違いない。
(注11)女子大生が十代で身体を売るのは珍しくなく、今日日(きょうび)社会問題にもなっているのは我々も承知しているが、「白金の落日」の「修行」の一環という可能性はないか?
(注12)この教授の名前から、HPL周辺の最年長作家で"ティンダロスの猟犬"をめぐる秘密を小説の形で綴ったフランク・ベルナップ・ロングを連想するのは、深読みのしすぎか?
(注13)諳んじて見せたのは、詩の一節というよりは呪文なのではないか? キーツというのも本当だろうか。
(注14)MとはMaster、つまり「修士課程」のことを指すが、ひょっとすると「白金の日没」の「導師」の略称という意味でのMasterということも考えられるのではないか?
(注15)魔術の痕跡と思われる。HPLが「魔女の家の夢」で書いたとおりだ。あるいは、「戸口にあらわれたもの」か? 後半のあからさまな魔術や魔導書、アーティファクトの描写についての注記は略す。
(注16)大正時代に似た作家がいたらしい。「ナイトランド・クォータリー」Vol.36の岡和田晃「青い花」参照。

※本作は「ナイトランド・クォータリー・タイムス」Issue21に掲載された「彼方の転輪、白金の落日」を、加筆修正のうえ改題したものである。


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2025年11月26日水曜日

第15回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ FT新聞 No.4690

第15回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ

※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。


ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」リプレイです。
主人公ミナは、エルフ7姉妹の末妹。奴隷商人に売られた姉たちを探す旅を始めました。
闇神オスクリードの加護を得た魔法の時計を駆使し、「還らずの森」深くの吸血鬼の館に赴きます。
闇神の戯れによる時の巻き戻しに気づき一度は絶望しますが、ボラミーという随伴者を得て、脆く壊れそうな心を奮い立たせます。
ボラミーとの関係を深めながら旅は続き、いよいよ目的のローズ家の館へ。
そのときボラミーが語り始めたこととは……。


【ミナ 体力点4/4 悪夢袋6/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<沙羅双樹の予知時計>いつでも選択肢の先の未来を予知できる。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。


●アタック03-9 ボラミーの告白

「ミナに、話しておくことがある」

そう切り出したボラミーだが、その次の言葉がなかなか出てこなかった。
言いにくいことを、言葉を選びながら伝えようとしていることがわかった。

「私は幼い頃、あの館で暮らしていたんだ。ビバイアという弟と一緒に」

ボクは黙って、ボラミーの話の続きを待つ。

「ミナのお姉さんたちを買い取ったローズ家のあるじ、マルティン・ローズは、私の父親なんだ」

それは、ボクに伝えるには、あまりにも話しづらいことだっただろう。
それでも、話してくれた。ボクは話の内容の衝撃よりも、ボラミーがそう決意してくれたことの方がうれしかった。

「父は私が幼い頃、自分の意思で吸血鬼になった。私は、様子がすっかり変わってしまった父に恐怖を抱いて、家を出たんだ。まだ10歳になるかという年だった」

ボラミーがボクと一緒に旅をしてくれたのは、ボクのことが心配だっただけじゃなかった。
きっと、父親がボクの姉たちにしたことに、責任を感じていたんだ。

「もちろん、贖罪の気持ちはあった。けれど、それだけじゃない。信じてほしいとは言わないけれど」

そんなこと、言われるまでもない。
事情はどうあれ、ボラミーがいなければ、ボクはここに来られるだけの心の強さを持てなかった。
ボラミーの存在に、どれほど助けられたことか。
もしボラミーがボクを、吸血鬼である父親に差し出すために連れて来た、と言ったとしても、ボクは受け入れるかもしれない。
もちろん、そんなことは決してない。ボクの中でボラミーの存在は、それほどに大きくなっていた。

「あのとき、私が家を出たとき、弟を連れ出せなかったことが、ずっと心に引っかかっていた」

でも、それは仕方がないことだと思う。10歳の子どもが、さらに小さい子どもを連れて家を出るなんて。

「そうじゃない! ……弟を連れ出したら、追われるだろうと思った。父はビバイアを溺愛していたから。それで私は、ビバイアをあの館に置き去りにした。すべて私の利己的な計算だ」

ボラミーの言葉には、悔悟の念が強く感じられた。

「好きだったんだね、弟のこと」
「ああ、自分で言うのもなんだけど、仲の良い姉弟だったと思うよ」

ボクには、ニナ姉がいた。ニナ姉を頼って生きてきた。
その頃からたったひとりで生きてきたボラミーは、どんなに過酷な人生を歩んできたんだろう。
生きるために、必死に力と技を磨いたに違いない。

「あるとき、館に残した弟が病気になったと聞いた。父が治癒の手段を求めていると。それで私は、薬を探した。そうして、やっと手に入れたんだ。ロング・ナリクの大僧正が清めた、万病に効くという貴重な聖水だ」

ボラミーは、首にかけた木製の小瓶を握りしめた。ボラミーが前に言っていた「私の宝物」だ。

「私はこの薬を使って、弟の、ビバイアの病気を治してやりたい。そのためにあの館に行きたいんだ」

ボラミーの告白は終わった。
ボクはボラミーの腰に手を回し、その胸に顔をうずめた。
そして顔を上げると、ボラミーにそっと微笑んだ。

「どうして私に笑顔を向けるんだい? 私は、ミナに嘘をついてここまで連れてきたのに」
「ボクたち、似てるなって思って」
「似ている? 私とミナが?」
「うん。昔の取り返しのつかない出来事で、ずっと後悔してること。今、きょうだいを助けようとしていること」
「そうか。……そうかもしれないな」
「ボクはボラミーに感謝してる。ボラミーがいなかったら、ボクはここまで来られなかった。ボラミーに違う目的があるなんて関係ないよ」
「私も、ミナの不思議な魔法にはずいぶん助けられた。ミナがいなければ、ここまで来られなかった」

短い旅を通じて、ボクたちはもう、かけがえのない存在になっていたんだ。

「行こう、館へ。ボクたちのきょうだいを助けるために」


●アタック03-10 ボラミーの宝物

ボクが館に入る方法を思案していると、ボラミーは正面から堂々と入ればいいと、こともなげに言った。

「吸血鬼である父は白昼はすぐには起き出せないはずだ。それに、私は自分の家に帰るんだ。何の遠慮もいらないさ」

館の外観は、ボラミーが出て行った頃より、いっそう無気味なたたずまいになっているという。
それでもボラミーはためらうことなく玄関のノッカーを叩く。
反応ないのかな、と思うほどの間があって、ようやく中から人の動く気配がした。

やがて扉が重々しく開く。出てきたのは、背の曲がった中年の男性だ。おそらく使用人だろう。

「こんなへんぴなところにお客さんとは珍しい。どうなされましたかな?」
「見ない顔だな。新しい使用人か?」

ボラミーが問いかける。

「何をおっしゃいますやら。もう何年もここで働いておりますが」
「そうか。失礼した。私の不在が長すぎたのだな」

そうしてボラミーは告げた。

「私はボラミー・ローズ。弟のビバイアに会うために帰ってきた。取り次いでもらいたい」
「ビバイア様に……」

使用人は目を伏せた。

「ビバイア様は……亡くなられました」

「えっ」と短く反応し、ボラミーは絶句した。ボクも発する言葉がない。

「案内しましょう。こちらです」

使用人は館の外をぐるりと回る。ボクとボラミーは無言でついていく。
裏庭の隅に、盛り土があった。

「ビバイア様が亡くなられたのはほんの数日前でございました。あの、死者の跋扈する墓所へ埋葬するわけにもいかず、こちらへ」

盛り土の上部を払うとまだ新しい石板が顔をのぞかせた。
「ビバイア・ローズ 享年16」と刻まれている。

ボラミーは肩を震わせ、その場にかがみこんだ。

「ビバイア……ああ、ビバイア。もっと、もっと早くに来ていれば……」

ボラミーの言葉は、悔やんでも悔やみきれない思いを吐露したものだった。

「ビバイアの病を治す薬を、やっと見つけたというのに、間に合わなかった……」
「ボラミー……」
「……! こんなもの!!」

ボラミーは木製の瓶を首から外すと、思い切り地面に叩きつけようとし……握りしめたその手を震わせながら、止めた。
そうして、それをそっと墓前に置いた。

「私はビバイアに謝りたかった。彼を置いて、ひとりで家を出てしまったことを。しかしその機会は永遠に失われてしまった……!」

ボラミーの言葉は、誰に向けられたものでもない。

「私は治癒薬を用意し謝罪をすることで、贖罪になると思おうとしていた。できなくなってわかった。私が犯した許しがたい罪を。ビバイアを置いて行くべきではなかった」

ボクには、かける言葉が見つからない。
背の曲がった使用人がボラミーに声をかけた。

「お部屋をごらんになりますか?」
「あ……ああ。頼む」

ボラミーは涙声で返答する。使用人の案内でボラミーが館に戻っていくのを、ボクは見送った。
ボクはある決意をすると、ビバイアの墓前に置いてある木製の聖水の小瓶を拾い上げ、ボラミーの後を追った。

館に入り、1階にあるビバイアの部屋へと向かう。
案内がなくても、ボクの頭の中にある未来の思い出が、だいたいの場所を把握している。

ボラミーはその部屋にいた。使用人の姿は見えない。
ボラミーはしゃがんで、日記帳を読みふけっていた。ビバイアが書き残した日記だ。
そこには、元気だった頃のビバイアのことが、ビバイアの言葉で書かれている。
特に、姉がいなくなった時のショックと、病気になった時の嘆きが印象に強く残る。
最後のページには、ビバイアであろう少年が、姉と一緒に笑顔で手を繋いでいるイラストがあった。
幼い頃のビバイアが描いたものだろうか。

ボラミーの頬から涙がこぼれ落ち、姉弟のイラストを濡らした。

「ボラミー」

ボクはボラミーに声をかけた。

「『宝物』は、簡単に手放しちゃダメ」
「ミナ……。ありがとう。でももう……いらないんだ」
「違うよ。この聖水があるから、ビバイアを助けられる」

ボクはボラミーの木製の瓶を手に、言った。

「ミナ、何を言ってるんだ。ビバイアはもう……」
「ボラミーがこの聖水を手に入れてきたから。聖水がここにあるから、助けられるんだ。ボクの魔法の力で」

ボクはボラミーに伝えた。

「ボクの魔法は時を操る。これからビバイアが亡くなる前に戻って、聖水を飲ませてくる。ビバイアが生き延びたら、今起きている出来事は全部、悪夢になって消えるから」

<跳兎の懐中時計>を取り出し、動かす。
<跳兎の懐中時計>は、悪夢袋を2つ使う。残りの悪夢袋の数を考えると、エナ姉とティナ姉を助ける時に使える魔法の回数に不安はある。
けど、今使わなくて、いつ使うんだ。
ボクはボラミーがここまでやってきたことを、無駄にさせたくない。
懐中時計は、オルゴールが跳ねるような軽快な針音を響かせ始めた。ボクは跳んだ。過去へと。ビバイアがまだ生きている時へと。


●アタック03-11 ふたつの再会

薄暗い部屋だ。
苦しげなうめき声が聞こえる。
<跳兎の懐中時計>は、場所までは移動できない。
だからここは、ビバイアの部屋だ。
ベッドに横たわり、死の時をただ待つばかりのようなやせ細った若者が、ビバイアなのだろう。
その目からはすでに生気が失われており、口からはよだれが垂れている。

ボクはベッドのそばに寄った。

「あなた……は?」

ビバイアは怪訝な声を出す。その声には恐怖が混じっている。
突然現れた正体不明のボクに、警戒心を抱いている。

「ボクはミナ。君のお姉さんに頼まれて、これを届けに来たんだ」

ボクはビバイアの警戒心を解きたくて、やさしい口調で伝えた。
木製の瓶を取り出す。

「これはボラミーが君の病を癒すために手に入れた、万病に効く聖水。ボラミーはまだ来られないから、ボクが先に届けに来たんだ」
「ボラミー……姉さんが?」
「うん。君のこと、とっても心配してたよ」
「そうか……。ああ、姉さん、会いたいよ……」

ビバイアはボクから木製の瓶を受け取ろうとして、うまく受け取れずに落としてしまった。

「ミナ。すまないけど、その聖水を私に飲ませてくれないか?」
「……いいの?」
「ああ。私にはどのみち先はない。だからミナの言うことを信じてみる」

ボクはビバイアに口を開けてもらい、瓶の中の液体を、口元に少しずつ流していく。

「こぼさないで。飲み込んで」

ごくり、とビバイアの喉が鳴った。こくこくと、少しずつ飲んでいく。
聖水の効果はてきめんだった。
さっきまでの苦しそうな表情はおだやかになっていく。眠気も出てきたようだ。

「じゃあ、ビバイア。ボクは行くから。ボラミーは必ず君に会いに来るから、待っていて」

ビバイアはすぐに安らかな寝息を立て始めた。
ボクがほっと気を抜いたところで、魔法の効果が切れた。

一瞬で現在に戻ってくる。
現在のビバイアの部屋。
そこは、ボラミーとビバイアの再会の瞬間だった。
場面転換が急すぎて、事態を把握するのに数秒かかった。
ボラミーが手に入れてきた聖水の効果は本物だった。ビバイアは助かったんだ。

「姉さん、ボラミー姉さん、会いたかった……!」
「私もだビバイア。お前を置いて家を出たことを後悔しない日はなかった。すまない。すまない……」

ボクが<跳兎の懐中時計>で過去を変えて、ビバイアが死んだことを「なかったことにした」。
だから今、再会を喜んでいるボラミーは、ビバイアが死んで悲しみと絶望に打ちのめされていたことを覚えていない。ボクが何をしたのかも知らない。

でも、それでいい。

ボクは、再会を喜びあうふたりからそっと離れると、ひとりで部屋を出た。

ひとりになったボクが向かったのは、館の地下だ。
ボラミーはビバイアとの再会を果たした。今度はボクが、姉を助ける番だ。

地下のワイン蔵。そこにティナ姉がいる。そのことをボクはもう「知っている」。
すでに何度も経験してきた、未来の出来事だから。

たしかめるように、ワイン樽のコックをひねる。
そこから流れ出るものは、ワインではなく血だった。
それだけで、十分だった。中身はもう、見たくなかった。

この中に、このワイン樽の中に、血を抜かれた、ティナ姉の無惨な遺体が入っている。
ボラミーとビバイアの父、吸血鬼マルティン・ローズ。彼の仕業だ。
マルティンはビバイアの治療のため、エルフの生き血を欲していた。そのため、ティナ姉を拷問にかけ、血を流させ、殺した。

ボクは、脳裏に焼き付いたティナ姉のむごたらしい姿を振り払うと、もう一度<跳兎の懐中時計>を取り出した。
ボクは諦めない。今度は、ティナ姉が生きている頃まで戻り、姉を救うんだ。

<跳兎の懐中時計>が再び時を刻み始める。ボクは過去へと跳躍する。
行き先は、10日前。闇エルフたちがエナ姉とティナ姉をここに売り払った後、そしてビバイアが本来亡くなっていただろう日の間だ。
悪夢袋は残り4つ。ここで<跳兎の懐中時計>を使えば、残りは2つ。それでも、ここが使いどきだ。

10日前のワイン蔵は、ほとんど変わらない風景だった。
ただ、血のワイン樽はまだ置かれていなかった。
ということは、ティナ姉はまだ生きている。
どこにいるのか、それもわかっている。

ボクは、闇エルフの隠れ里の長ネフェルロックから聞き出した地下の拷問部屋を探し、隠し扉を開いた。
ティナ姉が、そこにいた。縛られて、猿ぐつわをかまされ、でもまだ、生きていた。血は抜かれていない。

時間はあまりない。ボクは自分が未来に戻ってしまう前に、できることをしなければならない。
急いで、ティナ姉の拘束を解いた。

「……ミナ? どうしてこんなところに?」

ティナ姉は、肌の色が変わっていても、10年以上会っていなくても、すぐにボクだとわかってくれた。

「ようやく見つけた。ティナ姉を、助けにきたよ」
「まさかミナ、あなたが来てくれるなんて思わなかった」

ボクはティナ姉をきつく抱きしめ、お互いの存在を確かめ合った。
たくさん話したいことがある。あれからのこと。ニナ姉と一緒に姉たちを探してきたこと。
けれど、時間がない。ボクがここにいられるのはあとわずかだ。

ボクが現在に戻ったら、ティナ姉はここに取り残されてしまう。
ティナ姉が生き残れるために、ボクにできること。

ボクは荷物の中から、ありったけの非常食を置いた。

「よく聞いて。館の中も、外の森も危険だ。どこかに隠れて10日間やり過ごして。10日後に必ず会いに来るから」
「ミナ、あなたはどうするの?」
「ボクは一緒に行けない。特別な魔法の力でここにいるんだ。だから……」

ティナ姉はうなずいた。そしてボクに言った。

「エナは、森のゴルジュに連れて行かれた。『血をきれいにする』とあの吸血鬼が言っていた」
「ありがとう。ティナ姉。もしどうしても追い詰められたら、この館の1階に住むビバイアを訪ねて。ボクの名前を出せば、もしかしたらかくまってくれるかも」

確証はない。今の時点で病からどれほど回復しているかもわからない。彼はボクの名前をおぼえているだろうか。

そこで景色が変わった。無人の拷問室だ。
現在に戻ったんだ。
ティナ姉は逃げのびただろうか。

ワイン蔵に戻ると、血入りのワイン樽は置かれていなかった。
よかった。ティナ姉は無事に逃げられているみたいだ。

そこに、コツコツと甲高い靴音を立てながら何者かが階段を降りてくる。
ボラミーの靴音ではない。それが誰のものなのか、ボクは理解していた。

ローズ家のあるじ。吸血鬼マルティン・ローズ。

ボクはうす暗いワイン蔵で、彼との対峙の時を迎えた。


次回、マルティンとの決着。そして舞台はゴルジュへ。


【ミナ 体力点4/4 悪夢袋6→4→2/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
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<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。

■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
ボラミー 森の外縁の村にいた女剣士。ミナとともに森へと赴く。
ねこ人 黒ねこ人の旅人。希少種族。
ネフェルロック 闇エルフの隠れ里の長。ミナの力の源を欲している。
キーウ 初老のノーム。「還らずの森」の研究家。
ビバイア・ローズ ローズ家の病気の息子。
フェルナンド・ウティリヌス 通称フェル。森の案内人をしているノーム。
マルティン・ローズ ローズ家の当主。吸血鬼。
マイトレーヤ 時計塔を守るゴーレム。
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
テクア からくりの神。ノームにからくりの知識を授けたとも言われる。


■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/4897513


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2025年11月25日火曜日

カエル人が教えてくれたファンタジー創作 第48回 FT新聞 No.4689

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カエル人が教えてくれたファンタジー創作 第48回
「吸血鬼」
(中山将平)
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 おはようございます。
 久しぶりに「カエル人が教えてくれたファンタジー創作」の記事を書こうかなという気持ちになった、イラストレーターの中山将平です。
 実は来年の1月より僕個人として「ギルド黄金の蛙」という新サークルを立ち上げることになりました。
 これは今後、各種即売会にてカエル人の書籍やグッズを扱うサークルです。
 つまり、これまで「イラストレーター中山将平」や「カエルの勇者ケロナイツ」をサークル名としていた活動に、より気に入った名前を付けることにした、というご報告です!!
 名前を付けたことで、参加即売会を増やし、ちょっとしっかり活動しようと計画しています。
 ちなみに、前回12月のイベントに間に合わせたいとお伝えしていた書籍は結局時間が足らず、1月11日(日)の「スーパーコミックシティ関西31」にて刊行となりました。
 
 FT書房の活動もおよそこれまで通り参加する予定でして、不思議なことに関西のイベントの多くでは「FT書房」と「ギルド黄金の蛙」が両方出展する状況となりそうです。
 引き続き何卒応援をいただけますと幸いです。
 
 さて、「ギルド黄金の蛙」のお話はこれくらいにしておきまして、今日の話題は「吸血鬼」。
 この話題、「いやいや、もはやカエル人関係なくない!?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、僕自身はというと、そうは感じていません。
 カエル人の創作を通じて新たなファンタジー世界を構築する過程で、「吸血鬼」の設定は避けては通れないものなのだと気づかされました。
 そこで今回は、この経験を通じてどのような学びがあったのか、ご紹介したいと思います。
 ファンタジーを楽しまれている方にとって、有意義な記事にできれば幸いです。
 
 早速具体的に見ていきましょう。
 
◆ 結論 
 今日お伝えしたいことは次の2点です。
 ・吸血鬼がどんな存在なのかは作品ごとにかなり違い、そのどれかだけが求められているわけではないと感じる。
 ・吸血鬼を特別にしているものは、吸血という行為ではないかと感じる。
 ええ、いつも通り、結論から書きました。
 それぞれどういう意味か、深堀りしてまいります。

◆ 「吸血鬼がどんな存在なのかは作品ごとにかなり違い、そのどれかだけが求められているわけではないと感じる」件について
 まずは先述の結論のうち、前者についてお話ししましょう。
 
 僕は「呪われた血族の牙城」というローグライクハーフのシナリオを書いてしまうほど、吸血鬼が好きです。
 そのため、自分でファンタジー世界を作る際にも必ず「吸血鬼」を描きたいと願っていました。
 しかし、「いざ描くぞ」という状況になって大いに悩むことになったのです。
 それは、どのように表現するか、選択肢が多すぎると感じたからでした。 
 知れば知るほど、描かれるファンタジー作品によって、吸血鬼の性質や描かれ方が大きく違うように思えてきたのです。

 僕の大好きなあるファンタジー世界では、吸血鬼は独自の種族であり、正確にはアンデッド(一度死んで甦った存在)ではありませんでした。
 彼らはネクロマンサー(死霊術師)であり、アンデッドを使役する存在だったのです。
 別の作品では、吸血鬼は強大なアンデッドであり、通常の武器では傷つけられない存在として描かれていました。
 更にある作品では、吸血鬼は階層社会を形成する凶暴な一族で、吸血によって手下を増やしつつ、自種族の繁栄を目的に行動する種族とされていました。
 ほかにも、「呪いによって吸血が必要となったものの精神性は人間的なため苦悩する怪物」や「人間社会にまぎれてはいるが、実際は人間を食物と見なしている捕食者」等などの設定を見たことがあります。

 いわゆる西洋ファンタジー的な世界観での吸血鬼だけでも豊かなバリエーションがあるのではないでしょうか。
 これに他の地域の吸血鬼を合わせると、もはや状況は混沌(カオティック……もしくはケイオス)という他ない気がします。

 しかも、これだけ多くの描かれ方をしているということは、作品ごとに「求められる吸血鬼像」自体が多様なのだと思えてなりません。
 実際、吸血鬼に様々な氏族を作り、その種類ごとに性質(吸血鬼像)を変えている作品もありました。
 この状況を見て、僕は「書かなければならない吸血鬼像(お約束の吸血鬼モデル)」というものはものは存在しないのではないかと考えています。
 耽美を感じさせる吸血鬼も、ほとんど血に飢えた獣同然である小汚い吸血鬼も、葛藤に苦悩する吸血鬼も、サディスティックで他者に痛みを与えることに愉悦を感じる吸血鬼も、どれもあり得る形態なのではないでしょうか。

◆ 「吸血鬼を特別にしているものは、吸血という行為ではないかと感じる」件について
 続いて、先述の結論のうち後者についてお話ししましょう。

 もはやどのような描かれ方も許容されるように思えた吸血鬼というものを、自分の創作においてどんな存在と定めるのか、というお話でもあります。
 様々な吸血鬼像を知ったうえで、どれを選択するか悩むことになりますが、僕の中では2つ思考の柱となったものがありました。

 一つは、吸血鬼が吸血鬼であるのは、吸血するからだという考え。
 どんな吸血鬼も血を吸うことはさすがに前提だと感じました。
 で、あれば、その血を吸う行為の意味によって吸血鬼を定めうると感じたのです。
 吸血は捕食なのか、奴隷契約なのか、歪んだ愛情表現なのか、呪いなのか、それとも他の何かなのか。
 
 もう一つは、自分の作品のテーマとの整合性。
 僕が作るカエル人の世界フログワルドでは、吸血鬼は血を吸う様々な種族の総称であり、その中には吸血コウモリ人などがいる設定となりました。
 これは、フログワルドを「人間種族(ヒューマン・ドワーフ・エルフなど)を特別な存在として描かない世界観にしたい」というテーマ性から作った設定です。

◆ まとめ
 今日は吸血鬼について考えたことをつらつらと書いてみました。
 以前ドラゴンについて書いたときも楽しかったので、もし反響をいただけるようでしたら、このようなファンタジー要素についての話も描いてみようかなと考えています。

 それでは、今日はそろそろこのあたりで。
 よきファンタジー・ライフを。

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2025年11月24日月曜日

☆冬コミ新刊の話☆ FT新聞 No.4688

おはようございます、自宅の書斎から杉本です☆
冬が近づいてきましたね。
私は寒いのが苦手なのですが、慣れようとするのは早々にあきらめました。
その代わりに、冬の装備を軽くすることに意識を全集中するようにしました。
軽くて暖かい登山向きのダウンと、毎日最大4枚のカイロを使うことで、冬を暖かく、以前よりもずっと健康に、過ごすことができています。


◆秋のゲームマーケット!
昨日と一昨日、FT書房は秋のゲームマーケットに参加してまいりました!
「30分で遊ぶ1人用TRPG ローグライクハーフ(RLH)」の最新サプリメントである『ヒーローズオブダークネス』を引っ提げて……!!
おかげさまで好評です……通販も近いうちに開始しますね!

↓ご予約はこちらから!
https://ftbooks.booth.pm/items/7572242


◆『ズィムララのモンスターラリー モンスター編』!!
さて、秋が終われば冬。
秋のゲームマーケットを終えたら、次は冬のコミックマーケット!
今回は「モンスター!モンスター!TRPG」の最重要サプリメントとして『ズィムララのモンスターラリー モンスター編』を刊行できるよう、現在チームにハイピッチで取り組んでいただけております☆

多種多様なモンスターに彩られる、ズィムララの世界。
どこかで見たようなモンスターではない、個性あるさまざまな種族たち。
その発想力に頭を刺激されると同時に、オリジナルデザイナーであるケン・セント・アンドレの監修によってもたらされた統一性があります。
これらの種族を活用することで、どんなセッションになるんだろう──そんな期待感に満ちあふれています。
強力な種族もいれば、弱いながらに生き延びる力に長けた種族もいる。
遊び方は自由、広がりを持つ1冊です。


◆どんな種族がいるの?
最初に『ズィムララのモンスターラリー』を読んだとき、私は闇のユニコーン(アンチコーン)や地獄の悪魔(アーチデーモン)などが普通にプレイヤーキャラクターとしてプレイ可能であることに、まず驚きました。
球体状で坂道などを転がる動物(ディロウ)のような、シナリオに登場させると面白そうなモンスターもいつつ。
南米の都市伝説上のUMA(未確認の神秘的な生物)由来のモスマンがいるかと思えば、同じく南米の神話からケツァールが存在するなどの自由奔放な多様性を発揮しています。
それでいながら、ズィムララ固有のモンスターや神もちゃんと掲載されていて、さまざまな遊び方に対応している、魅力にあふれた1冊です。
プレイヤーとして、自分が使うキャラクターを増やしてくれる。
それがゲームマスターとして、シナリオに使うモンスターにもなる。
それだけにとどまらず、創作のタネとなるインスピレーションを刺激してくれる「魔法の本」です。


◆まとめ。
余談ですが、この本には、他のTRPGで遊ぶための解説がついています。
よく似たシステムを持つTRPGへのコンバートが、行いやすくなっています☆
そういう意味でも、広がりを持つ1冊に仕上がっていると思いました★

それではまた!





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2025年11月23日日曜日

読者参加企画『みんなのリドルストーリー』第11回出題編 FT新聞 No.4687

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読者参加企画『みんなのリドルストーリー』第11回(出題編)

かなでひびき
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 はろにちわー!
 初めての方は、はじめまして!
 おなじみの方は、毎度!
 『これはゲームブックなのですか!?』を掲載させていただいてる、ヴァーチャル図書委員長かなでひびきですぅ!

「としょいんちょー」なんてものを長年やってますと、中には奇妙な話をいただくことがあります。
 何が奇妙か? っていうと、謎かけの部分だけあって、答えがプッツン尻切れトンボなお話。
 推理小説の結末がどうしても知りたくなるように、かなでもいろいろ頭をひねっておりますが、どうも、イマイチ腑に落ちるオチがない。
 というわけで、FT書房の読者様、皆様のお知恵を貸していただけませんか?
 これから紹介いたしますショートストーリー。
 謎だけのお話に、オチを付けていただけませんか?
「物語で遊ぶ」のがゲームブックでしたら、これも「ゲームブック」!?
 世界で一つだけ、あなただけの結末がつけられる!
 もしも、この謎かけにピピぴと琴線が響きましたら、解答編のご応募、よろしくお願いいたします。

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『女の子に厳しい税関』

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「おにーちゃん!」
 そう言って、ぼくの手に絡みつくのは、まだ幼さが残る、というか幼い女の子。
「ちょっと! べたべたしないで! ピンチはあたしのものよ!」
 そう言って、邪険に彼女の手をはねつけようとする、フードをかぶった女の子。
 しかし、衣装のところどころから見える手足は、女豹のようにしなやかでしっかりしている。
 そして、その下には、きわどい踊り子の服。
「まぁまぁ。そう言わないで。ピンチ様を想う気持ちをもつ限り、皆仲間ですわ。
 ただし……」
 頬を赤らめて、言い放つ、品の良さそうな少女。背中にヴィオラを背負っている。
「あたし、ですけどね」
「あたしだもん!」
「あたしだよ!」

 やぁ! 僕の名はエルフ・ザ・ピンチ!
 特技は、「国ひとつ傾く」くらいの美貌な、冒険者。

 それはさておき、今回はね。
「アル・ポカネ」公爵の「娘」を、誘拐団から取り返して欲しい……。
 一週間前に、そんな依頼を受け、得意の女装で奴らに誘拐され、首尾よく彼女たちを奪回した。
 しかし、油断は禁物。
 追っ手がいつ飛んでくるかわからない。
 先を急がねば!

 関所の男は、いかにもモテなさそうなオーラを放った、アブラギッシュな中年だった。
 荷物をすべて調べられ、関税を払い、抜けようとしたところ。
「ちょっと待ってくださいな。あなた……」
 蛇のように絡みつく視線が、ぼくに、少女に絡みついた。
「また払ってませんよ。」
「でも、荷物はそれですべて……」
「分かってませんなぁ。あなたの……」
 そして、好色な目で、三人娘を見た。
「はべらせているお嬢さんたちですよ」

 なんでも、この国は女の人に課税される。
 しかも、その美しさ、可愛さに比例して。
 いわく、
 あなた、その子とまぁ、恋に落ちるでしょ? いえ、そこまで上玉なら、必ず誰か男がいいよってくるはずだ。
 となると、家族になる。家族になる、ということは「子どもを生むこと」
 だからね。未来の子どもさんの分も、課税しておるんですよ。
 ご理解いただきたいなぁ。
 舌なめずりをしそうなねっとりとした口調で言った。
 ここでトラブルを起こしたくない!
 聞いてみると、目玉の飛び出しそうな金額を、しかも三人分請求されるではないか!
 もう財布はからっけつ! 決して安くない金を支払ったのだ。
 言葉を濁していると、「じゃあ、彼女たちは没収しますね」
 ぼくが「とんでもない」と言った。やつはこうのたまわった。
「じゃあ、可愛らしいお坊ちゃん。あなたが人身御供として、ここに残りますか?」


∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴・∴

 出題編のお話はここまで。
 皆さんに解答編で書いて頂きたいのは「この女の子を見返りに請求するエロ税関を何とかしてごまかし、犠牲者を出さずに突破する方法を考えて欲しい」ということ!
 もちろん捕まってもバットエンドでもいいよ!
 なるべくフレッシュなものを考えて欲しい!

 まことに勝手ながら、期限は2週後の日曜24時までとさせていただきます。
 発表は来月の日曜記事にて!
 もちろんワタクシ、かなでひびきも1本書かせていただきます。

 また、答えに限らず、皆様が思いついた謎。そちらも大募集しております!
 日常を題材にしたミステリー。SF。そしてクトゥルフ神話ネタから剣と魔法のファンタジーまで!
 あなたの思いついた「出題編」をご投稿下さい!
 喜んでここで出題させていただきます。
 そして、読者のみなさんも、それにアンサーよろしくお願いいたしますうっ!
 かなでの方も、マジでマジでお返事ならぬマジ解答いたします!
 (つまんなかったらごめんなさい)


 あなただけの謎かけに、あなただけの答え!
 FT書房オンリーワンのショートショートを作り上げるのは、アナタですぅ!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■
「今回の解答編」及び「オリジナル出題編」
ご投稿はコチラより↓
https://ftbooks.xyz/ftshinbun/report
 *リドルストーリー投稿と文頭に追記下さい。


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2025年11月22日土曜日

FT新聞1ウィーク! 第667号 FT新聞 No.4686

From:水波流
三國志は昔から大好きなのですが、水滸伝は全く手を出せずにこの歳まで来ています。
小学生の頃にコーエーの水滸伝をクラスメイトとプレイした時は、肖像画の格好良さだけで九紋龍史進を選択。
手下が増えず、領地で出現した虎退治に自ら向かうしかない時の台詞「おいらがやるのがいちばんだ」に涙しましたが……
今から読むならどれが入門に良いのだろう?(教えて詳しい方)

From:葉山海月
年を取ると、目に見えるものより、「目に見えない失うもの」の方が大きいのかもしれない。
例えば年下の人の輪に入ること。
世代が違うので、ぶっちゃけ極論、話題がかみ合わない。感性が違う。
結果「浮いている」感がどうしても否めない。
「そんなのかんけぇねぇ」とばかり、必死でみんなとコミュニケーションしてる日々です。

From:中山将平
僕ら、以下の3つのイベントにサークル参加いたします。
・11月22日(土)・23(日)「ゲームマーケット2025秋(両日)」開催地:幕張メッセ、ブース配置:【K10】
・11月23(日)「ゲームアンティーク2025」開催地:大阪・西九条駅前の此花会館 3階大ホール、ブース配置:【03】
・11月23(日)「文学フリマ東京41」開催地:東京ビッグサイト南3-4ホール、ブース配置:【う-47】
ぜひ遊びにお越しいただけましたら。
上記の全てのイベントに、新刊「ローグライクハーフ ヒーローズオブダークネス」をお持ちします。
この新刊の情報はホームページにて公開しております。
以下のURLよりご覧いただけます。
https://ftbooks.xyz/shinkanjyoho/rlhdarkness


さて土曜日は一週間を振り返るまとめの日なので、今週の記事をご紹介します。
紹介文の執筆者は、以下の通りです。
(明)=明日槇悠
(天)=天狗ろむ
(く)=くろやなぎ
(葉)=葉山海月
(水)=水波流

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■11/16(日)~11/21(金)の記事一覧
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2025年11月16日(日)DON-CHANG FT新聞 No.4680

『トロールゴッドのクレーターアドベンチャー In Zimrala』 プロローグ編 
・『トンネルズ&トロールズ』『モンスター!モンスター!』などの生みの親、ケン・セント・アンドレ氏。
その作品群に対し、
DON-CHANG「ズィムララを舞台にして(オリジナルの)マンガを描きたいと思ってるんだけど」
ケン「それなら、オレの小説をマンガ化しろよ。コレなんかマンガ向きだぜ」
(意訳です)。
という熱いやり取りで、『トロールゴッドのクレーターアドベンチャー In Zimrala』をマンガ化!
その冒頭8ページをプロローグ編としてお届け!
アメリカンコミックテイスト満載な本作が、『ズィムララ』世界とマッチ!
どうぞお見逃しなきよう!
(葉)


2025年11月17日(月)杉本=ヨハネ FT新聞 No.4681
TRPGとサイコロ(ローグライクハーフの場合)
・「ローグライクハーフ」で使う「サイコロの数と種類」はどのように決まったのでしょうか?
【判定ロール】をいかに易しく処理できるか、楽しくできるか。「クリティカル」や「ファンブル」はもっと頻繁に起こってもいいじゃないか……。
最もシンプルな答え、「六面体1個」に行き着くまでには様々な検討とチーム内での意見交換とがありました。
「ローグライクハーフ」が遊びやすさを突き詰めた設計となった背景が、サイコロ1つから見えてくることでしょう。
(明)


2025年11月18日(火)くろやなぎ FT新聞 No.4682

ゲームブックにおける死と物語 第1回:『護国記』における主人公の死と「輪廻」
・ゲームブックの主人公は、(作品にもよりますが)しばしば死にます。そして、主人公が死ぬと、物語はだいたいそのまま途中で終わります。
読者が再び物語を読み始めるとき、ほとんどの主人公は、自分が物語の中で殺されたときのことを知りません。主人公は、まっさらな気持ちと記憶をもって、自分の代わりに自分の「前世」を記憶している読者によって導かれながら、前に死んだときとは異なる分岐を通って、物語の先へと進んでいきます。
ゲームブックにおける、そんな主人公と読者との関係性は、主人公が物語の中で自分の「前世」を記憶しているとき、どのようなものになるのでしょうか。波刀風賢治氏の『護国記』における主人公の「輪廻」をとおして考えてみました。よろしければ、ご意見・ご感想などお聞かせください。
(く)


2025年11月19日(水)ぜろ FT新聞 No.4683

第14回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ
・精緻な原作を深く豊かな解釈で描き直す、ぜろ氏のリプレイ第466回です。
闇神オスクリードの戯れによって、時を遡り、姉たちを救うための旅をやり直す主人公ミナ。かつては敵対してしまった剣士ボラミーが、こんどは心強い随伴者となって、ミナの旅路と心を支えてくれます。
以前の旅と、辿る道筋はよく似ていても、起こるできごとが全く同じというわけではありません。可能性の中で埋もれていたエピソードを拾い集めるようにして、ミナたちは「還らずの森」の奥へと向かいます。
(く)

2025年11月20日(木)東洋夏 FT新聞 No.4684

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.10
・X(旧Twitter)にて意欲的にリプレイ執筆中であり、生き生きとしたキャラクターたちが魅力的な、
東洋夏氏による「写身の殺人者」リプレイ第10回目にして最終回です。
北方都市サン・サレンを脅かす、「自分の姿をした何かに殺される夢を見た者が、実際に殺される」奇妙な連続殺人事件。
件の悪夢を見てしまった聖騎士見習いの少年シグナスは幻覚剤による毒に蝕まれ、喋る「おどる剣」クロの生命点は残すところ1点。真なる『写身の殺人者』に心身ともに追い詰められてしまっています。
窮地の二人が迎えた結末は……どうぞ記事にてお確かめください!
(天)


2025年11月21日(金)休刊日 FT新聞 No.4685

休刊日のお知らせ 
・毎週金曜日は、読者から投稿された記事がここに入れるように、空けてある曜日です。
あなたの記事を、お待ちしております!
(葉)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■今週の読者様の声のご紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ひとことアンケートへのご意見をご紹介します。
紙面の都合で、一部省略させていただくかも知れませんが何とぞご了承くださいませ。
すべてのお便りは編集部が目を通し、執筆者に転送しておりますので、いろんなご意見やご感想をぜひお送り下さい。

↓↓

(ポール・ブリッツさん)
ドラゴン・ウォーリアーズですが、体験した結果、特に低レベルキャラクターは、「ルール通りにプレイすると」まず死にます。「公式シナリオをシナリオ通りにそのままプレイすると」まず死にます。「モンスターを合理的な作戦で動かすと」まず死にます。ゲームマスターの考えるべきことの第一は、「どうすれば自然な感じでうまくPCを生き残らせるようにできるか」です。そのためには、プレイヤーに気づかれないように敵の作戦に穴を作ったり、問答無用で即死するイベントを弱めたり、シナリオに書いてある以上にヒントを出しまくったり、いろいろと努力しなくてはなりません。それだけやっても、PCはいい具合に死線をさまよいます。「あと一発喰らったら死ぬ!」というスリルを楽しむにはもってこいのTRPGで、実にスリリングでサスペンスフルな冒険を楽しめるいいゲームです。

(お返事:杉本=ヨハネ)
ありがとうございます☆
情報、とてもありがたいです。
私はドラゴン・ウォーリアーズのプレイヤー経験はあるのですが、ゲームマスター側をやったことがありません。
そこを補完していただけるお話です……舞台裏はそんな風なのですね!
お話と併せて考えると、ゲームブックよりもずっと危険というのも、言い過ぎではないようにも思えてきました……☆


(忍者福島さん)
オスクリード神という名を借りて、ぜろさんがこのゲームで我を楽しませてくれと思ってる気がしました。
そして読者である僕も楽しんでるので、僕はオスクリード神の眷属?

(お返事:ぜろ)
この作品を掲載し、皆さまから多くの反響をいただく中で、書いているときの私が考えてもいなかった、新たな解釈が成り立つことに気づきました。第13回でミナが経験してきた過去(そして未来)のゲームオーバーは、私だけでなくこの作品をプレイしたすべてのプレイヤーの経験も内包しているのだ、と。書き上げたリプレイの中身は変わらないのに、解釈ひとつでまた深みが増した気持ちになっております。本作はリプレイでありながらリプレイの枠をはみ出しつつあると思いますので、どうぞ最後までお楽しみください。そしてすべて読み終えた暁には、我が眷属として、その次のリプレイもお楽しみください。そしてその作品を読み終えたなら……(エンドレス)


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2025年11月20日木曜日

ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイvol.10 FT新聞 No.4684

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■
ローグライクハーフ『写身の殺人者』リプレイ vol.10
 
 (東洋 夏)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■□■
 
 FT新聞をお読みの皆様、こんにちは!
 東洋 夏(とうよう なつ)と申します。

 本日はサン・サレンが舞台のd33シナリオ『写身の殺人者』のリプレイ小説をお届けいたします。
 製本版『雪剣の頂 勇者の轍』に収録された、サン・サレン四部作のひとつです。
 ファンメイドのリプレイとなりますが、お楽しみいただけましたら幸いです。

 この連載は隔週でお送りしており、本日は第十回にあたります。
 実はこれが最終回となります。しかし今日が初めての方にも楽しんでもらえればと思い、少しだけ主人公たちと前回までのあらすじをご紹介させていただきますね。
 主人公を務めますのは、聖騎士見習いの少年シグナスと、元人間だと主張する不思議な〈おどる剣〉クロ。主人公ふたりをプレイヤーひとりが担当するスタイルでお送りします。
 シグナスとクロは居合わせたサン・サレンの街で「悪夢殺人」とでも言うべき事件に遭遇します。これは自分の姿をした何者かに殺される夢を見て、その後、現実でも殺されてしまう。そんな気味の悪い事件なのですが、ついにシグナスもその悪夢を見てしまいました。
 犯人を捕まえるべく捜査に乗り出したふたり。前回のリプレイでは、真犯人である宮廷医アグピレオとの対決が始まりました。
 信じられたアグピレオ先生に裏切られたシグナスは動揺が隠せず、フォローに回りたい〈おどる剣〉クロも満身創痍。最悪の対決の天秤は、明らかにアグピレオの側に傾いてしまっています。
 これを逆転する術はあるのか……。というところで、今回のリプレイは開幕します。

 
 なお、ここから先はシナリオのネタバレを前提に記述します。プレイするまで内緒にしておいてくれという方は一旦この新聞を閉じ、代わりにシナリオを開いてサン・サレンにお出かけいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
 
 それでは最終決着を、どうぞご覧あれ。
 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 
[真・最終イベント/写身の殺人者アグピレオ]

(※承前。真犯人、真なる〈写身の殺人者〉として立ちはだかるのは、シグナスくんが信用しきっていた宮廷医アグピレオ先生でした。先生のレベルは5、生命点は残り3、攻撃数2。対する主人公サイドはシグナスの生命点残り4、クロに到っては生命点1。危険水域に入って来ています。そこで奥の手、〈おどる剣〉の技能【装備化】を選択します。これはシグナスに「装備された状態」になるというもの。装備された〈おどる剣〉は攻撃の対象になりませんが、自分で攻撃をする事は可能になります。平たく言うと、攻撃はシグナス、クロともに可能だが、防御はすべてシグナスが引き受ける状態になるということですね。クロの攻撃能力を活かしつつ、まだ生命点のあるシグナスで粘ろうという作戦です。とはいえシグナスの生命点も残り4。残された希望は非常に際どいものでしょう)

 高らかに笑うアグピレオを前に、シグナスは呑まれている。動けない。
 ひび割れた剣身を引きずるようにして、慎重にクロは相棒の元に寄って行った。アグピレオはシグナスに夢中で、壊れかけの〈おどる剣〉には注意を払っていないらしい。宮廷医の体を回り込んでシグナスの手の中に柄を滑り込ませても、気づかれた様子は無かった。
「はははははは! たまらない! 今回は眼球を摘出することにしましょう! 保存液に漬けて……」
 シグナスの目に指を添えて、アグレピオがメスを振りかぶる。
 クロは、急いで相棒の筋肉に干渉した。少年の瑞々しい筋肉に毒が与えている影響を読み取りつつも、クロはそれに収縮し、伸張するように命じる。

(※正念場の4ラウンド。クロは【装備化】を選ぶため、シグナスが攻撃不可になります。ここで良いところを見せてくださいクロ先輩! 祈るように振った出目は6! クリティカルからの再ロールも出目4で成功。2ダメージが入り、アグピレオの生命点は残り1! 先輩頼りになる! ところが防御を2発とも失敗してしまい、シグナスの生命点も残り2に。技量点0に毒が重なっているシグナスくん、レベル5相手に防御もままなりません。これは先に当てた方が勝つ闘い。本気の命の取り合いです)

「ぐっ、ぷ……!?」
 覆い被さるようにシグナスに迫るアグピレオが、突然目を見開いて血を吐いた。その腹に剣が半ばまで埋もれている。
「なぜ、君はおっ……おど、る、剣を、持っ……手は動か、ない、はず……」
「舐めるんじゃない」
 クロはアグピレオの血潮を浴びながら言った。
「こちらはゴーレムだからな、貴様の計算通りには動かないんだよ。もうやめておけ」
 この傷なら長くないだろう。命は惜しいだろうから逃げるなり、降参するなり、とにかく退くはずだ。
「そう……です、か」
 しかし宮廷医のメスはあくまで冷静に二度振り下ろされ、無抵抗なシグナスの鎧の隙間を正確に突き通した。
「無駄な抵抗はやめろ! それでも医者か!」
「くふっ、はは、はは、はははははは」
 アグピレオは笑う。命を使い果たさんと高らかに打つ脈動と燃えるような体温が、直にクロの剣身に流れ込んできて感覚を圧倒した。
「私はまっとうな医者ですとも。これは医学の発展に貢献するための実験なのだと言っているでしょうが! さあシグナスくん、貴重な検体になってください」
 血にまみれ、ぬらぬらと光るメスがシグナスに迫る。クロは更に深く体に刺さっていくはずだが、それでもアグピレオは止まらない。
「これは騎士になって剣を振り回すよりね、ずっとずーーーっと世のためになることなんですよ。いい子ですね」
「シグナス!」
 クロは必死に叫んだ。シグナスの筋肉に干渉しようとするが、アグピレオから流れ込んでくる感覚の方が強くて難しい。シグナスが動かなくては、どうしようもできない。
 
(※運命の5ラウンド。まずはシグナスの攻撃ロールが、何と……6! クリティカル、何をしても成功になる出目。ここで引き当てましたシグナスくん! この戦いで初めての成功が、勝利を確定する決定打となりました)
 
「シグナス!」
「シグナスくん」
 その時シグナスが何を考えていたのかと言えば、何も考えられていなかった。頭の方にまで薬が回ってきていて、ただぼんやりと嬉しく思っている。自分が何かの役に立てるなどと、心から信じたことがなかったのだ。あぐぴれおせんせいやかんじゃさんのためになるならいいことなんだろう……。
「シグナス! サー・ノックスを泣かす気か!」
 不意に飛び出した名前と、そのイメージに不似合いな言葉に、シグナスは現実に引き戻された。
「サー・ノックスは泣いたりしないよ、クロ」
 そこから一拍遅れて、ようやく我が身の危機的状況に思考が追いつく。アグピレオが眼球の手前にメスの刃先を置いて、訝しげに覗き込んでいる。
(とんでもない。このまま死ぬ気だったのか、僕は!?)
 口の端から血の泡を噴きながら、アグピレオは言った。
「シグナスくん、瞳がおかしいですね。薬が切れてしまいましたか? それはいけない」
 そうしてローブのポケットを探ろうとする宮廷医の僅かな隙をついて、シグナスは渾身の力で手のひらに握りこんでいたクロの柄を捻って刃の位置を変え、更に切り上げた。ばりばりという骨と刃の噛み合う感覚、皮膚を切り裂く感覚、内臓の潰れる感覚が連続して、鳥肌が立つ。
 アグピレオが絶叫して床に倒れ込んだ。
 シグナスはクロを引き抜いて、転がるように宮廷医から距離を取る。
「先生……」
「ああ! シグナ、ス、くん、みな、見なさいっ」
 着々と広がっていく血溜まりを、床に這いつくばったまま宮廷医は指さした。瀕死とは思えない興奮した声で喋り始める。
「見える! 私の顔だ! こうすれば見えたのか……はははっ! 殺すこと、無かったんだな。大変、興味深い、結果、書き留め、な………………」
 シグナスが最後に記憶したアグピレオの顔は、何処までも深い闇を見ながら笑う人の顔をしていた。その笑顔をシグナスは知っている。孤児院に来る大人たちが幾人も浮かべていたのと同じ笑いだ。
 だからシグナスは、決してアグピレオのことを狂っていたなどと言いたくはなかった。それは苦しんだ末に闇の方を向いてしまった人の、抵抗の形なのだと思う。もし孤児院が酷いところだったら、あるいはクロやサー・ノックスがいてくれてなかったら、自分も同じような笑いに捕まっていたかもしれない。あるいは、これからも。
「クロ……。僕、また何か頭がぼーっとしてきた」
「しっかりしろシグナス! くそ、ポーションか治癒のスクロールくらい持ってないのか、この薮医者は」
 その時、扉が爆発したような音を立てて吹き飛んだ。クロがぎょっとして宙に浮き上がるのと、常日頃よりさらに鬼気迫る形相でサー・ノックスが部屋に踏み込んでくるのはほとんど同時。クロの見立てが正しければ、この聖騎士は驚くことに扉を蹴り破ったらしい。
「シグナス」
「サー・ノックス、僕は、アグピレオ先生を……」
「よくやった」
 泣き笑いの顔のまま失神した従騎士を主人が抱きとめる。その両者の顔を、クロは一生忘れないだろうと思った。サー・ノックスは微笑んでいたのである。



[エピローグ/少年と剣と主人と、去らざる何かの話]

 シグナスが失血による気絶から回復するのに、三日三晩かかった。太ももは刺された位置によっては死に至ると脅かされていたので、命があっただけ幸運だと思うべきなのだろう。
 その間にもう事件には臭いものに蓋とばかり速やかな幕引きが行われてしまったのだと、寝台の上に浮かんだクロは語った。こちらはひび割れだらけの剣身に継ぎがあたっている。自己修復もできるのだが、今回ばかりは損傷が大きかった。
「やっぱりアグピレオ先生が犯人だったんだよね」
「そのようだ。あのハーブティーを飲まなくなった途端、御領主様は悪夢を見なくなったそうな」
「そっか……」
「お前は英雄として持ち上げられているぞ、シグナス。式典の主賓になるんだと」
「えっ、何その式典って! 褒められて終わりじゃなくて!?」
 クロは呆れたように180度回って上下逆さまになり、
「サン・サレンを揺るがす一大事だったんだ。犯人はコイツでした、はい終わりでは住民も落ち着かんだろ。そこで「解決」の象徴として登場するのが若き英雄、果敢なる聖騎士、その名はシグナス様という訳だな」
「げげげ。そういうのはさぁ、どっちかって言うとサー・ノックスの出番じゃないの」
「僕は出ない」
「ギャーーーッ!」
 シグナスは叫んでから、途轍もなく失礼なことをしてしまったと青くなった。その気配があまりにも静かだったため察知できなかったのだが、何と主人は同じ部屋にいたのである。
 人生最速で掛け布団を跳ね除けて寝台の上に起き上がると、シグナスはしおしおと項垂れた。
「サー・ノックス、如何様にも罰してください。傲慢の罪です」
「……シグナス」
「はい」
「熱は」
「えっ」
「熱はあるのか」
「あの、少し、あると思います」
 恐る恐るシグナスが顔を上げると、主人は水差しを取って、美しいマーブル模様の石のグラスに中身を注ぎ入れるところだった。その所作の無駄のなさが恐ろしくなる。サー・ノックス、〈王女の猟犬〉あるいは〈ナリクの悪魔〉。何故この気難しさの権化のような人が自分などを選んだのか、シグナスにはまだ分からない。
「飲め」
 差し出されたグラスは程よく冷えており、熱のこもった手のひらに心地よい。
「檸檬水だ」
「あ、ありがとう、ございます」
 視線の圧を感じる。全部飲みきるまで質問は許されないということかもしれない。シグナスがおっかなびっくり飲んでいる間に、主人は片手で小さな椅子を寝台の横まで引いてきて、腰掛けた。クロはいつの間にか鞘の中に潜り込んで、見ざる言わざる聞かざるを決め込んでいる。
 とはいえ檸檬水は渇いた喉に美味しく、あっという間に空になった。サー・ノックスはグラスをひょいと取り上げると、二杯目を注いで持って来てくれる。
「シグナス」
「はい」
「誤解のないよう言っておくが、僕は怒っていない」
「ぶふっ!」
「……」
「ししし、失礼しましたっ」
「……まあいい。お前は良くやったと思う。僕が不在の中で最善を尽くした。それは認めている」
「ありがとうございます!」
「罪の意識は有るか」
 シグナスの脳裏に、鮮やかな赤が満ちた。血溜まり。自分が手にかけた、アグピレオ先生の──。
「あり、ます。でもそれは強い騎士が思ってはいけないことですよね、サー・ノックス」
「いや」
 いつの間にか床を眺めていた目を上げると、主人の黒曜石のような瞳がシグナスを真っ直ぐに見つめていた。
「違うんですか?」
「もし悩まなくなったのなら言え。僕が首を落とす」
「ぴゃ」
 ふん、と鼻を鳴らして主人は立ち上がる。どうやら慰めてくれたというか、勇気づけてくれたというか、少なくともシグナスのことを考えていてくれた事は間違いない。
「元気があるようで何よりだ。この機に包帯の巻き方を教える」
 椅子を下げ、代わりに大きな姿見をドスンと寝台の横に立て、サー・ノックスは部屋を出ていった。
「……相変わらず難しい男だな」
「クロ! ねえ知らんぷりしないでよ! 怖かったんだから!」
「うーん、元気があるようで何よりだ」
「全然似てないし……うわっ!」
「どうした、シグナス」
「今──」
シグナスは思わず目を見開く。姿見の鏡面に写った自分の顔が、笑ったように見えたのだ。あの日、水溜まりから笑いかけてきたように。アグピレオ先生のように。今はもう普通だ。青ざめた自分が写るだけ。
見間違いだったかもしれない。見間違いであって欲しい。
 その時、サー・ノックスが真新しい包帯を持って部屋に入ってきた。
「シグナス?」
「いえ、何でもないです」
 きっとまだハーブティーの影響が残っているのだろう。シグナスはそう信じて、この奇妙な現象のことを誰にも言わないことにした。

 ──さてこれはシグナスもクロも主人ノックスも後に知ったことであるが、聖騎士たちがナリクへ帰還したころから、サン・サレンの街では新たな噂が囁かれるようになった。曰く、雨上がりの夜の町をうろついていると、自分とそっくりな者とすれ違うことがある。そしてそれを3回見ると、そいつが殺しに来る……。
 ──いやいや自分そっくりの奴じゃない場合もあるんだ、と〈黒槌亭〉では常連客達が囁きかわす。雨が降ってない時にはね、宮廷医のアグピレオにそっくりな奴が水溜まりを指して言うんだ、顔が見えますかって。だけどそいつの顔は水溜まりには映っちゃいないんだよ。それで正直に見えないって言うと殺されちまうんだと……。
 これらはあくまで怪談の類、作り話だと誰もが知っている。けれど雨が降るたび、サン・サレンに雪解けが訪れる度に語られ続け、今でもまだ人々は水溜まりを避けるのだという。

 [完]


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 
 さて読者の皆様、お付き合いいただきありがとうございました!
 これにて『写身の殺人者』拙リプレイは完結となります。
 少年従騎士シグナスと〈おどる剣〉クロの初めての冒険、お楽しみいただけましたでしょうか。
 最後は心身ともに満身創痍という言葉がここまで似合うのかという死闘でしたが、何とか勝利をもぎ取ることが出来ました。これもふたりの持つ底力、運命を引き寄せる力、いわゆる主人公力の賜物なのでしょう。
 連載を通じてほんの少しでもローグライクハーフの面白さが伝わっておりましたら、シグナスくんとクロをアランツァ世界に送り出したプレイヤーとして、そしてリプレイの作者として大変嬉しく思います。
 ローグライクハーフをプレイしたいと思われた方は、BOOTHや公式wikiで基本ルールや一部のシナリオが無料公開されておりますので、是非チャレンジしてみてくださいませ!
 
 さて、生き延びたシグナス&クロには、これからまだ新しい冒険が待ち受けているはず。FT新聞様で皆様と再会する機会があるかもしれませんので、その際にはどうぞ、またふたりを応援していただけますと幸いです。

 それでは、名残惜しいですがお別れの刻となりました。
 皆様に善神セルウェーの祝福がありますよう、ロング・ナリクよりお祈り申し上げます。
 良きローグライクハーフを!

 ◇
 
 (登場人物)
 ・シグナス…ロング・ナリクの聖騎士見習い。12歳。殺人者の悪夢を見ておねしょした。
 ・クロ…シグナスの相棒の〈おどる剣〉。元は人間かつ騎士だと主張している。
 ・ノックス…シグナスの主人。超が付くほど厳格な聖騎士。
 ・ベルールガ…ノックスの同僚の聖騎士。優しい。
 ・サン・サレンの領主…殺人者の悪夢に苛まれている。
 ・アグピレオ…領主付きの医師。その真の姿は〈写身の殺人者〉。

■作品情報
作品名:『写身の殺人者』
著者:ロア・スペイダー
イラスト:海底キメラ
監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ
発行所・発行元:FT書房
購入はこちら
https://booth.pm/ja/items/6820046
『雪剣の頂 勇者の轍』ローグライクハーフd33シナリオ集に収録


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2025年11月19日水曜日

第14回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ FT新聞 No.4683

第14回【狂える魔女のゴルジュ】ゲームブックリプレイ

※ここから先はゲームブック【狂える魔女のゴルジュ】の詳細な内容に踏み込んでおりますのでご了承ください。また、大幅なアレンジが加えられている箇所がありますが、原作の選択肢をもとに構成しています。


ぜろです。
「狂える魔女のゴルジュ」リプレイです。
主人公ミナは、エルフ7姉妹の末妹。奴隷商人に売られた姉たちを探す旅を始めました。
闇神オスクリードの加護を得た魔法の時計を駆使し、「還らずの森」深くの吸血鬼の館に赴きます。
闇神の戯れによる時の巻き戻しに気づき絶望しますが、ボラミーという随伴者を得て、脆く壊れそうな心を奮い立たせます。
ボラミーとの関係を深めながら、旅は続きます。


【ミナ 体力点3/4 悪夢袋5/7】
金貨 7枚
歯車 0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。


●アタック03-5 時計塔のマイトレーヤ

ボクたちは、時計塔の前に立っていた。

「時計マニアのミナがここに来たがることは、わかっていたよ」

ボラミーがそんな風に茶化す。
ボクは時計マニアじゃないもん。
でも、6つも7つもの時計をつけていれば、そう思われても不思議じゃないか。

「さて、どうする。入口のカギを壊してやろうか?」
「あ。ちょっと待って」

ボクは、<跳兎の懐中時計>を取り出した。
ひとつ、試してみたいことがあったんだ。頼むよ、兎さん。

<跳兎の懐中時計>を動かす。跳ねる兎の音階が綺麗に鳴って、ボクを過去へと運ぶ。

目の前にあるのは、できたての新しい時計塔だ。
時計塔の中にある謎や秘密が、過去に跳ぶことで何かわからないかなって思ったんだ。

入口の扉が少し開いている。ボクはそっと中をのぞいた。

小柄な老人が作業をしていた。
ボクの気配に気づき、声をかけてくる。

「入口のワナは調整中なんだ。外すから少し待っておくれ」

待っていると、老人は中に招き入れてくれた。
老人はノームだった。ボクの記憶にあるノームに顔だちが似ている。血縁かもしれない。
そのノーム、フェルとはこの森を一緒に冒険した。
そんな思い出はあるけれど、ボクはボラミーと旅をしている。
だからそれは、「実現しなかった未来」になった。
ボクがフェルのことを少ししか覚えていないのと同じように、フェルはボクのこと、知りもしないって思うと、少し寂しい。

ノーム老人は、からくり仕掛けのゴーレムをいじっているところだった。

「この子はね、この塔を管理してくれるんだ。合言葉で動くんだよ」

ノーム老人は、最初はボクのことをいぶかしんでいた。
けど、それよりも説明したい欲求が勝ったらしく、あっさりボクに説明してくれた。
見ているとノーム老人は、ゴーレムを起動しようと、合言葉を唱え始めた。

「6人の賢者と4つの精霊のもとに命じる。ゴーレムよ、我が声に従え」

しかしゴーレムは起動しない。どうやら、数を間違えたらしい。

「はて。賢者の数か。精霊の数か」

ノーム老人が長考に入ったところで時間切れだ。ボクは現代に戻った。

そこは塔の内部だった。そうか。過去で場所を移動したから、中に入れてしまったのか。
けど、ボラミーは外にいるはず。ボクが急に消えて驚いているに違いない。入れてあげないと。
ボクは、過去のノーム老人がしていたみたいにワナのスイッチを切ると、入口の扉を開けた。

外には、ぽかんとした顔のボラミーがいた。

「急に消えたと思ったら、中から出てくるなんて。どんな魔法を使ったらそんなことができるんだ」
「ちょっとね。内側からワナを外してたんだ」

そんな風に言いながら、ボラミーを招き入れた。

「ミナには毎回驚かされてばっかりだな」

1階の奥部屋の入口には、ゴーレムが鎮座している。
間違いない。過去の世界でノーム老人が作成していたゴーレムだ。

合言葉を言えば、従わせることができる。
過去のノーム老人は賢者と精霊の数を間違えて、起動に失敗していた。
あのあと、調べ直して成功したには違いないと思う。

じゃあ、正しい数で合言葉を唱えてみよう。

賢者の人数は7人。これはチャマイの魔法学校に今もいる七賢者のことだろう。
そして精霊は6つ。4つの基本元素に光と闇を加えたものだ。
これがわかるのは、魔法学校に在籍していたおかげだ。
ボクは唱えた。

「7人の賢者と6つの精霊のもとに命じる。ゴーレムよ、我が声に従え」

するとゴーレムは、ガコガコとぎこちない音を立てながら、ボクのもとへ来た。
名前が刻印されている。「マイトレーヤ」と読めた。
ノーム老人の話によれば、このゴーレムは時計塔の番人。外まではついて来られないだろう。

「マイトレーヤ、この塔内にいる間、よろしく」

マイトレーヤは、宝石のような単眼のついた顔をくるくる回して恭順の意を示した。

そんなボクとマイトレーヤの様子を見て、ボラミーがまた、ぽかんとしていた。

奥の部屋には、魔法学校のジオラマがあった。7賢者のミニチュアが並んでいる。
ここまで来れば、賢者の数も精霊の数も把握できたようだ。
いったんマイトレーヤを無力化させ、この部屋に来てから<枝分かれの未来時計>を用いてゴーレムの前に戻る。
そういうやり方もあったかもしれない。

ここでは時計の修理に使える歯車を2枚手に入れた。

2階ではマイトレーヤが器用に機械を操作して、ボクの悪夢袋をすべていっぱいにしてくれた。

3階に上がる。小窓からの外の光景に言葉を失う。
この先にある墓場に、おびただしい数のゾンビが徘徊しているのが見えたからだ。

「あの数はさすがに厳しいな」

ボラミーでもたじろぐほどの数だ。

「あのゾンビたちをどうにかしないと、先へは進めない」

ボクがそう言うと、マイトレーヤは宝石のような単眼で窓から外を見つめたまま、動かなくなった。
ボクの言葉に反応したのか。待機状態に移行したらしい。

その視線の先はゾンビ墓場で固定されている。照準を合わせている?
だいぶ離れた場所だけれど、マイトレーヤに期待してもいいんだろうか。

動かなくなったマイトレーヤをその場に残したまま、ボクたちは時計塔をあとにした。


●アタック03-6 マイトレーヤの活躍

夜が近づく。野営の時間だ。
野営できそうな広場で、ボクは未来の思い出を辿った。
そうして、木の上の簡易住居を見つけた。森の研究家キーウがいるところだ。
ぶしつけなのは承知の上で上がり込ませてもらい、キーウに一夜の宿のお願いをする。

キーウは、突然の女性2人の闖入者に目を白黒させながらも、手伝いをすることを条件に承知してくれた。
ボラミーが水汲みをし、ボクはキーウの研究に助言をすることになった。
助言のはずが、気がつけば時計の話で盛り上がっていた。

「ミナ、それで時計マニアじゃないってのは、やっぱり無理があるよ」

ボラミーにそう茶化された。

その夜。ボクは悪夢を見た。
何度見たかわからない、家が襲撃される日の出来事だ。
ボクには、それが夢だという自覚があった。さらには、夢魔のしわざであることも。
だから、ベッド下の夢魔を発見して撃退するのに、さほど時間はかからなかった。

朝を迎える。

「おはよう。ふたりともうなされていたよ」

ボクだけじゃなく、ボラミーも悪夢にさいなまれていたみたい。
<夢渡りの覚醒時計>が使えたら、ボラミーの悪夢を取り除いてあげられたかな。

朝食を食べたら出発だ。
キーウはボクに、昨日のお礼にと、小さな修理用の歯車をひとつくれた。
これで歯車が3枚になった。あの時計が修理できる。

ボクはその場で、<刻々の狭間時計>を修理した。

キーウが時計の構造を、興味深そうにのぞきこんでいた。

ボクたちはキーウに、時計塔の入口のワナが解除されていることを伝え、別れた。
キーウは狂喜乱舞していたから、きっとこのあと時計塔に行くに違いない。

キーウは別れ際、ローズ家についての知り得る限りの情報を教えてくれた。
ローズ家は、当主の妻が若くして亡くなり、当主だけが吸血鬼となったこと。
当主の娘は家出し、病気の息子だけが家に残されていること。

この話を聞いている時、ボラミーの表情が硬くなったのを、ボクは見逃さなかった。
けど、そこに触れるのはやめておいた。ボラミーが自分から言うのを待とう。そう思ったから。

キーウは時計塔へ、ボクたちはローズ家の館へ。反対方向へ別れた。

ボクたちの行く先に待つのは、ゾンビ墓地だ。
ぬるい風に、たまらなく嫌な腐った臭いが漂ってくる。

墓地に着いた。数多くのゾンビたちが徘徊している。
これからここを突破しなければならないわけだけど……。

時計塔で待機状態になっているマイトレーヤは、ボクたちが墓地に到着したこと、見えているだろうか。
ボクは遠くに見える時計塔を振り仰いだ。
すると、その時、時計塔の上部に赤い光点が灯った。
瞬時に、墓地に赤い光の筋が走る。目の前で、地面すらも割るほどに。
次に風を感じ、遅れて轟音が響いた。
あたりにもうもうたる煙がたちこめる。

煙が薄まると、ゾンビの数が半減していた。
マイトレーヤ、すごすぎない?

あまりの光景に思考が停止しかけた。ボラミーの方がもっと狼狽している。

第二射を期待して、時計塔の方を振り向く。ボクの意識に呼応したのか、第二射が発射された。
しかし、赤い光の筋は、時計塔から上空に向けて放たれ、収束し消えていった。
ボクは理解した。マイトレーヤは、第一射の衝撃で仰向けに倒れたのだろう。起き上がれず、上空に第二射を放ったのだ。
でも、これだけでも十分だ。

「さあ、今のうちに行こ」
「あ、ああ」

この機を逃す手はない。今のうちに、ゾンビ墓地を突破しよう。

それでもゾンビたちはまだたくさん残っている。戦って切り抜ける必要はあった。
ボクは<速撃の戦時計>を使い、速度を上げて対応した。戦いながら突き抜けていく。
隣ではボラミーが、肩を並べて戦っている。

「一体一体を倒すより、進路を確保し少しでも進むことを優先するんだ」
「うん。やってみる」

ボクたちは多少の傷を負いつつも、着実にゾンビの数を減らし、ついに墓地を突破することができたのだった。


●アタック03-7 神は観察する

森の中に佇むからくり神テクアの神殿。
ボクはここに用があった。テクア神に確認したいことがある。

「ここは光が入らないから、吸血獣がねぐらにしてる。気をつけて」
「わかったよ。ミナ、まるでここに来たことがあるみたいだね」

警戒しながら神殿の最奥の神像まで、一直線に進む。
神像に呼びかけるが、反応はない。

「出たぞ」

ボラミーが剣を構え警告する。吸血獣が現れたのだ。
結局、ここでテクア神がボクの前に現れるには、同じ行動を取るしかないらしい。
あるいはこれもテクア神のいうからくりの定義「構造」のひとつなのかもしれない。

時計を使おうとすると、ボクだけ時間の狭間に落ちたかのように時が止まった。
神殿の最奥にあった神像が動き出す。内部の精巧な歯車が複雑に組み合わさり、回転している。
ボラミーも、吸血獣も、停止している。

「からくりの神テクアに、確認したいことがあって」

テクアの神像は沈黙している。ボクはかまわず続けた。

「ボクを、闇神のからくりに気づかせたのは、テクア神のしわざなの?」

からくり、という単語に反応してか、テクアの神像は語り出した。

「そうとも言える。そうでないとも言える」

どういうこと? 謎かけ?

「記憶などという矮小で不完全なものを意図的に操作などできぬ。しかし、我が与えた時を精密に操作する力は、その性質上、使い手の記憶力の向上をもたらす」

つまり「精密」の力を得たことでボクの記憶力は向上した。
ただ、その記憶力の中で、何を覚え、何を忘れるかは、テクア神にコントロールできない。
テクア神が何らかの意図をもって、闇神オスクリードの思惑に気づかせてくれたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。

それどころか、単に記憶力の問題なら、テクア神の力がなくとも、いつかは気づいていた可能性が高い。
神々は、ボクが記憶を継承しているかどうかなど、気にしてすらいないのではないか。
テクア神もオスクリード神も、時の魔法に興味があるのであって、使い手のボクにはまるで興味がない。

「我を求めてきたのであろう。精密に時を刻む力を授けよう。汝の目的を達成することが、我が子ノームの犠牲を少なくすることに繋がるゆえ」

テクア神は、今回も精密の力を授けてくれた。
ボクはありがたくその力を受け取った。

テクア神が去ると、ボクは時の流れを取り戻した。
吸血獣は逃げ去る。テクア神の存在感に圧されたのだろう。
今にも襲いかかろうとしていた吸血獣が急に逃げ出したので、ボラミーにとってはわけがわからない展開だったみたいだ。

テクア神との会話は、ボクにほんの少しだけ、希望を見出させてくれたように思った。
神々がボク自身を意に介さないのなら、ボクはボクの願いをかなえるために動くだけだ。
時の魔法を駆使して、神々に見せながら。
そうしている間は、きっとボクは生かされる。神が時の魔法への興味を失うまでは。

ボクは神の歯車にはならない。それが闇神オスクリードであっても、からくり神テクアであっても。


●アタック03-8 沙羅双樹の目覚め

神殿を出てからも森の中を歩き続ける。よじれた森の暗い雰囲気も、ボラミーと一緒なら気にならなかった。
やがてボクたちは、ローズ家の館付近まできた。すでに日暮れどきだ。
館に入るのは日中が良いという判断で、ボクとボラミーは突入前に野営をすることにした。

交代で眠ることにする。
最初はボラミーが、次にボクが眠る。
ボラミーは寝苦しそうにうなされているみたいだった。悪夢を見ているのだ。
ボクが<夢渡りの覚醒時計>を修理していれば、悪夢を取り除いてあげられたかもしれない。

ボラミーと交代すると、今度はボクが悪夢を見た。
ボクが魔法の時計を手に入れた時の夢。場面はチャマイの時計塔だ。
しかしボクは先回りしきれず、モータス教授が魔法の時計を前に、闇神オスクリードと契約を行っていた。
ボクが隠れて見ている前で、モータス教授の肌が闇色に染まる。教授が時の魔法を手に入れたことがわかる。
さらに教授は、<枝分かれの未来時計>に働きかけ、より完璧なものに仕上げていた。
ボクは、今見ているのが夢だと確信している。ボクの夢なのに、ボクの知識にないものが出てくる不思議。
よくわからないけれど、起きた時に覚えていたら試してみようと思った。

そうしてボクは、ボクに悪夢を見せている夢魔を見つけ、退治した。

朝。
目が覚める。
頭の横に、禍々しい黒クモの死骸があった。

「夢魔だね。悪夢を見せて食らう怪物。ミナがうなされていたのはそういうわけか」
「ボラミーも、悪夢を見ていたみたいだった」
「じゃあ、私の夢からミナの夢に移ったのかも。死んでるってことは、夢の中で夢魔を見つけて退治したんだな。すごいなミナは」

そうだ。思い出した。
夢魔を退治する前、夢で見たあの場面だ。
ボクは、<枝分かれの未来時計>を取り出した。

「なにをするんだい?」

ボクは、夢の中でモータス教授がしていたのと同じことをする。
丁寧に、綺麗に磨いて、時計の針を正午に合わせる。
そして、時計を起動させて、言葉を紡ぐ。

「時計よ、真の姿を見せよ」

すると、時計の形が変化していく。
枝状の針から緑葉が芽生えてゆく。
盤面も、逆方向を指す双子から、世界樹か生命樹かを思わせるデザインに変わってゆく。

<枝分かれの未来時計>は<沙羅双樹の予知時計>となった。
これが第8の時計だ。

この時計は、<枝分かれの未来時計>の発展版だ。
<枝分かれの未来時計>は特定の場面、特定の時間帯の中だけを行き来できる。
<沙羅双樹の予知時計>になったことで、今後は場面を選ばずに予知することができるようになった。

これはまさしく、ボクの命を繋いでくれる時計になるかもしれない。
とはいえ、無駄遣いは禁物だ。使いすぎれば悪夢の枯渇で肝心な時に何もできなくなってしまうかもしれない。
ボクは、新しい形になった時計を、ぎゅっと握りしめた。

夢魔を倒したことで、悪夢袋は全部いっぱいになるまで補充できた。
ボクは<時もどしの回復時計>を動かして、すべての傷を癒した。この時計は特殊だ。明け方の今の時間しか動かせない。
針が動く、ちりん、ちりんという風鈴のような音が、ボクの心も癒してくれた。

あとは食事を取り、支度をしたら、館に向かう準備は万端だ。
ボクの様子を見ていたボラミーは、その視線を館に向けた。しばらく館をじっと見つめていたかと思うと、ボクの方に向き直った。
その唇が、言おうとする言葉を探すように、動く。

「ミナに、話しておくことがある」

ボラミーは胸にかけた木製の瓶を握りしめて、語り始めた。


次回、ボラミーの過去が明らかになる。


【ミナ 体力点3→2→4/4 悪夢袋5→3→7→6→7→6/7】
金貨 7枚
歯車 0→2→3→0枚
<枝分かれの未来時計>選択のやり直しが可能。→<沙羅双樹の予知時計>いつでも選択肢の先の未来を予知できる。
<うたかたの齢時計>一時的に年齢を変えられる。
<跳兎の懐中時計>一時的に過去に行ける。
<速撃の戦時計>すごいスピードで動ける。
<時もどしの回復時計>身体の時を戻し回復する。
<刻々の狭間時計>短い時間だが時を止められる。

■登場人物
ミナ・ガーデンハート 主人公。双子の姉を助けるため、時を操る魔法を手に、還らずの森へと踏み込む。
エナとティナ ミナの双子の姉。ミナの双子の姉たち。還らずの森の吸血鬼の貴族に売られたという情報が。
ニナ・ガーデンハート ミナの長姉。ネグラレーナの盗賊ギルドに所属している。
モータス教授 魔法学校のミナの先生だった人物。禁断の時を操る魔法を開発する。
ボラミー 森の外縁の村にいた女剣士。ミナとともに森へと赴く。
ねこ人 黒ねこ人の旅人。希少種族。
ネフェルロック 闇エルフの隠れ里の長。ミナの力の源を欲している。
キーウ 初老のノーム。「還らずの森」の研究家。
ビバイア・ローズ ローズ家の病気の息子。
フェルナンド・ウティリヌス 通称フェル。森の案内人をしているノーム。
マルティン・ローズ ローズ家の当主。吸血鬼。
マイトレーヤ 時計塔を守るゴーレム。
オスクリード 闇神。魔法の時計を動かすには、オスクリードの加護が必要となる。
テクア からくりの神。ノームにからくりの知識を授けたとも言われる。


■作品情報
作品名:狂える魔女のゴルジュ
著者:杉本=ヨハネ
発行所・発行元:FT書房
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2025年11月18日火曜日

ゲームブックにおける死と物語 第1回:『護国記』における主人公の死と「輪廻」 FT新聞 No.4682

みなさん、こんにちは。編集部員のくろやなぎです。
先日、田林洋一氏の『スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本』の連載がついに完結を迎え、火曜日が少し寂しくなってしまいました。
新たな連載記事として、明日槇悠氏による『モンセギュール1244』のリプレイが開始されていますが、私からは『スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本』とはまた異なる切り口で、ゲームブックの紹介・考察的な記事をお届けします。

以前の私の記事『死はパラグラフに留まる——ゲームブックにおける「殺意」と死の意味について』(2025/08/22、No.4594)では、物語としてのゲームブックにおける死、その中でも特に、飛んだ先のパラグラフで突然訪れる死について考察しました。
今回からの一連の記事では、主人公の「死」に関連するギミックを持つゲームブックをいくつかご紹介しながら、ゲームブックにおける死と物語について、改めて考えていきたいと思います。
その第1回となる今回は、波刀風賢治氏の『護国記』(幻想迷宮書店、2018年)をご紹介します。

記事の中では、作品全体の構造や、物語の展開について言及しています。
そのため、『護国記』を未読の方で、「余計な知識を入れずにまっさらな状態で作品を楽しみたい」という場合は、読了後に改めてこの記事に戻ってきていただければ幸いです。
なお、以下のURLからは、出版元である幻想迷宮書店の作品紹介ページや、ゲーム情報サイト『4Gamer.net』における、著者の波刀風氏と幻想迷宮書店代表・酒井武之氏へのインタビュー記事をご覧いただけますので、適宜ご参照ください。
[幻想迷宮書店 作品紹介ページ]https://gensoumeikyuu.com/gb31/
[4Gamer.net インタビュー記事]https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20181203003/

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ゲームブックにおける死と物語
第1回:『護国記』における主人公の死と「輪廻」

 (くろやなぎ)
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■主人公の死と「輪廻」のはじまり

『護国記』は、剣と魔法が支配する世界「高ツ原」を舞台としたゲームブックです。
主人公の「ライゼ」は、高ツ原で最も古い歴史を持つ「壱の国」の史料編纂室の書記官であり、近衛兵でもあります。
物語の開始後まもなく、壱の国の王城は突然の襲撃を受け、主人公ライゼは近衛兵としての参戦を余儀なくされます。しかし、ライゼには優れた戦闘能力があるわけでも、魔法などの特別な力が備わっているわけでもありません。彼はまだ最初の数パラグラフしか進んでいない段階から、あるときは弓矢に射抜かれ、あるときは攻城兵器に押し潰され、とにかく実にあっさりと死んでしまいます。

多くの読者は、死んで最初の場面に戻り、また死んでは最初の場面に戻ることを何度か繰り返すうちに、序盤のかなり早い段階で、これはこういう「死にまくる」タイプのゲームブックなのだな、という印象を抱くことでしょう。
当然ながら、これは「読者」の視点であって、主人公ライゼの視点ではありません。プレイをやり直す読者にとっては「数回目」「数人目」のライゼであっても、物語の中のライゼにとっては、すべてが最初の経験であり、それが唯一の選択、唯一の人生に他ならないはずです。
読者は「前回」までの失敗を踏まえて、「次」は異なる選択肢を選んで先へ進んでいきますが、その失敗の記憶は読者のものでしかありません。物語の中のライゼは、新鮮に驚き、悩みながら、右往左往し、そして死んでいきます。

ところが、あるひとつの「死」の場面で起こるできごとが、主人公ライゼに重大な変化をもたらします。「残穢石」と呼ばれるものが、彼の身体の一部と同化し、それから彼が死ぬたびに、彼を過去のある時点へと「輪廻」させるようになるのです。
「輪廻」したライゼは、「前世」に起きたできごとの記憶をそのまま残しています。そして、もしライゼが「前世」と同じように行動すれば、周囲のできごとも、ごくわずかな例外を除いて同じように進行します。つまり「前世」の記憶は、彼にとっては「過去」の経験であると同時に、「未来」の予知という側面も持つことになります。
『護国記』の物語の大半は、この「輪廻」というギミックとともに進んで(あるいは「戻って」)いきます。当初は読者だけが知っていたはずの、ライゼが死んだ「前世」の記憶は、彼の「輪廻」が始まってからは、ライゼ自身の記憶でもあることになります。読者だけでなくライゼもまた、自らの「死」に慣れ、いくつもの「前世」における死の経緯を踏まえて、自らの行動を変えていくようになるのです。

■「輪廻」する主人公と読者のシンクロ

一般的に、主人公の死のパラグラフが頻出するタイプのゲームブックでは、読者の経験と主人公の経験は、物語が進むごとにどんどん乖離してしまいがちです。冒険の「やり直し」という読者の行為は、あくまで物語の外側にしかありません。物語の中にいる主人公にとっては、「輪廻」のような何か特殊な設定がない限り、いつもすべてが初めての経験であり続けます。
ふつうの主人公は、やがて読者だけが持つ「前世」の記憶に導かれて、「初めて」にしては不自然なほどに正しい選択を繰り返し、致命的な選択を回避し、さいごには奇跡的に冒険を成功させることになるでしょう。ここで主人公が、自分の「ただ一回の」冒険の背後にある、「前世」の自分たちの誤った選択の数々や、その帰結としての数多くの「死」の存在を知ることはありません。

しかし、『護国記』における読者と主人公の経験は、物語の中で主人公が死に続けても、それが「輪廻」の中にある限り、大きく乖離してしまうことはありません。選択肢を前にした読者が、「前回はこちらを選んで失敗したから、今度はこちらを選んでみよう」と考えるときに、主人公ライゼが物語の中で同じように考えていても、不自然ではないのです。
ゲームブックにおける死は、しばしば、物語に断絶を生み出し、「読者だけの経験や記憶」の蓄積を通じて、読者と主人公のあいだのギャップを広げていきます。逆に『護国記』における死は、物語を途絶えさせることはなく、むしろ繰り返されるたびに、読者と主人公をより強くシンクロさせていくもののように思います。もっとも、たとえば「平気で死に続ける主人公に、ちょっと引いてしまう読者」のように、経験や記憶はともかく気持ちの上で、読者と主人公との距離が広がってしまうこともあるかもしれません。

『護国記』は、二人称ではなく一人称で記述されるゲームブックです。物語の中のできごとは、「きみ」や「あなた」ではなく「僕」や「俺」の視点で語られ、地の文はいつも主人公ライゼの主観に彩られています。
さまざまな感情を表に出し、自己主張するライゼは、いわゆる「無色透明」な主人公とはかけ離れた存在です。この点で『護国記』は、そもそも読者が主人公に「なりきる」タイプのゲームブックではないと言えるかもしれません。しかしその一方で、「輪廻」という物語上の設定は、ゲームブックのギミックとして、経験や記憶の面から主人公と読者を重ね合わせます。
主人公ライゼの個性や考え方・感じ方は、必ずしも読者と同じではなく、ときとして正反対なことすらあるかもしれません。それでも、読者による一連の選択とその結果を、「死」も含めて共有してきたライゼは、読者とは異なる「僕」や「俺」であると同時に、やはり読者である「あなた」の分身に他ならないようにも思えるのです。(※)

※参考:松友健『夢幻の双刃』(幻想迷宮書店、2016年)「ゲームを始める前に」p.3
(以下引用)
 この物語の主人公も他の多くの物語と同じく、持ち前の名前と性格と背景を背負っています。ただし、物語の登場人物でありながら、その行動の選択はもっぱら読者たるあなたに委ねられています。無論、あなたとはまた別の人間です——あなたがなんらかの博士号を持つほどの知識があっても主人公はそこまで賢くありませんし、あなたがリュウマチを患って腰痛に悩まされていても主人公は元気に動き回ります——が、行動のかなりの部分をあなたの意思に委ねている以上、彼ら主人公達はあなたの半身であるといえましょう。
(引用ここまで)

■「輪廻」と物語の終わり

『護国記』において、読者と主人公ライゼ、この両者の記憶のあいだにギャップが生じるのは、ライゼが死んで「輪廻」するときではなく、彼が生き延びて『護国記』の物語の外に出るときです。これは、この物語における「輪廻」のあり方と関係しています。
ライゼの「輪廻」は、その力の源である「残穢石」という不吉な名前が示すとおり、決して英雄的でポジティブな能力ではありません。それはむしろ、「穢れ」を残して死ぬ者を時間の檻へと閉じ込める、ある種の呪いに他なりません。その「穢れ」とは、憤怒や後悔の念であり、輪廻の力が発動するには、ライゼの後悔と死が必要なのです。

物語の中では、戦いを運良く生き延びたライゼが、穏やかな日々や、ささやかな幸せを手に入れることがありえます。そこでライゼは、自分が生き延びたことや、あるいは大切な人を護れたことに、それなりに満足していて、強い怒りや後悔に苛まれる様子は見せません。おそらく「この」ライゼは、このまま自らの生をまっとうし、もう「輪廻」することはないのでしょう。そしてひとつの物語が終わります。
しかし多くの読者は、それでは満足しないでしょう。なぜなら、『護国記』の全体的なボリュームや、「特異点」と呼ばれる各章のタイトルとその構成などを踏まえれば、いま自分が見ている場面が、物語の「ほんとうの」終わりだとは到底思えないからです。
後悔を手放し、国を護ることを諦め、「輪廻」から逃れたライゼにも、何らかの物語は続いていくでしょう。ただ、それは『護国記』というゲームブックの外に出て行ってしまう物語です。『護国記』の物語に留まりたい読者は、「別の」ライゼを改めて呼び出すか、あるいは「このライゼが、実はあとからやっぱり後悔して死んで輪廻した」ということにするしかありません。

そのようにして読者が物語を再開するとき、「前の」ライゼが生きて迎えた物語の終わりの場面と、「今回の」ライゼが前回の「死」を経て輪廻する場面とを直接的につなぐような、両者の橋渡しとなる場面の描写はどこにも存在しません。
『護国記』では、主人公が「輪廻」の檻から逃れて生き延びることで、物語の断絶が生まれ、読者の側だけにひとつの結末の記憶が残されます。この物語では、後悔とともに繰り返される主人公の「死」のほうが、物語をつなぎ、主人公と読者の記憶を重ね合わせる役割を果たしているのです。

それでは、長い物語が終わるとき、主人公ライゼは輪廻の檻から完全に解放されるのでしょうか。そこでライゼには、どのような生と死が待っているのでしょうか。それは、輪廻を繰り返す中での、あるいは輪廻の力が失われた後での、ライゼと読者の選択によって決まります。
ひとつのルートでの、ひとつの結末を見届けた読者は、また別のルート、別の結末を探しにいくかもしれません。そして読者が、物語の最初や、どこかの「特異点」に戻ったとき、そこにいる「ライゼ」は、読者の見た「未来」をまだ何も知りません。
それでも、そこからまた死を繰り返し、読者もまだ知らない新たなルートやできごとに出会うたびに、ライゼと読者の距離は再び縮まり、そのルートにおける両者の記憶は重なり合っていくことでしょう。

■おわりに:この記事について

今回の記事では、主人公が「輪廻」の中で死を繰り返すゲームブック『護国記』について、読者と主人公の間のずれや重なりという点に着目しながらご紹介しました。
「輪廻」というギミックは、ある意味ではきわめて特殊な仕掛けであり、『護国記』を特徴あるゲームブックにしている源泉のひとつです。同時に、それはゲームブックという形式自体に内包された、「読者(プレイヤー)」と「主人公」との、そしてまた「死」と「物語」との複雑な関係性の一端を、水面下から浮かび上がらせるような仕掛けでもあるように思います。
次回(12月掲載予定)の記事でも、死に関連する特殊なギミックを持つゲームブックをご紹介する予定ですが、この一連の記事の趣旨は、それらの作品の「特殊性」の提示ではありません。むしろ、「輪廻」のようなギミックが浮き彫りにする、ゲームブックという形式に内在する普遍的な何かについて、個々の作品の魅力とともに改めて言語化することを目指しています(それは、ある意味「あたりまえ」の話になるかもしれませんが…)。
また、今回ご紹介した『護国記』の内容は、あくまで私の関心に沿って切り取った一部の要素を、私の解釈とともに提示したものにすぎません。関心を持たれた方は、ぜひ記事冒頭のリンクから、著者の波刀風氏自身の言葉や作品そのものをご覧になり、その物語やシステムの奥行きに触れてみてください。

【書誌情報】
波刀風賢治『護国記』(幻想迷宮書店、2018年)[2023年9月更新版]
(参考)松友健『夢幻の双刃』(幻想迷宮書店、2016年)


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2025年11月17日月曜日

TRPGとサイコロ(ローグライクハーフの場合) FT新聞 No.4681

おはようございます、自宅の書斎から杉本です。
寒くなってきましたね☆
今日は「ローグライクハーフ」とサイコロのお話を、書きたくなったので書いていきます。


◆サイコロ、どれを使う?
「30分で遊ぶ1人用TRPG ローグライクハーフ」を作る際に、いちばん迷ったのは「サイコロの数と種類」でした。
制作の段階では、【判定ロール】に使うサイコロは六面体2個の予定でした。
そこに意見をくれたのは、監修の紫隠ねこさんでした。

「サイコロが2個だと、【判定ロール】は1回ずつ別個にやらなければならない。1個なら、同じ種類の従者による【攻撃ロール】などを、一度に済ませられる」

私はこの考えをもっともだと思い、扱うサイコロの数を1個に絞ることを決めました。


◆ネット上なら、どんなサイコロでも☆
使うサイコロの「数」は決まりましたが、「種類」は六面体でいいのだろうか?
それとも、昨今のTRPGプレイヤーは十面体、あるいはもっとマニアックなサイコロでも所有しているのだろうか?
その部分については、まあまあ長いこと悩みました。
編集の緋色さんと打ち合わせする折に考えを聞いたところ、

「ネット上でやるんなら、何面体でも関係ないと思いますよ、今は」

と、教えてくれました。
彼女は「ココフォリア」でオンラインセッションをすることが多いのだけど、セッションの際にはネット上でサイコロを動かすため、リアルなサイコロは使わない、と。
この話は私にとって衝撃でした。
プレイヤーによってはオンライン専門であるため、サイコロを所持すらしていないこともある、というのです。
そして、オンラインで遊ぶ際には、クリックひとつで何面体でも選ぶことができるわけです。
六面体の代わりに検討していたプランは、ふたつありました。


◆たくさんの多面体を使う案。
ひとつは、さまざまな多面体を使用するというもの。
「ダンジョンズ&ドラゴンズ」では、さまざまなサイコロを使用します。
あの感覚の楽しさは、他のルールにない感覚がありました。
結局この案はボツになったのですが、四面体や八面体を使うというアイディアは「ローグライクハーフ」の一部に残されています。
ボツにした理由は、プレイ感が「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に寄ってしまうことが、いいことかどうか判じかねたからです。
「どのサイコロを使えばいいのか」を考えることが多少の負担になるように思えて、ルールの軽量化を旨(むね)とする「ローグライクハーフ」には、合わないように思われたからです。


◆十面体を使う案。
もうひとつの案は、十面体だけを使うものでした。
【判定ロール】の際には該当する能力値に十面体の出目を足して、目標値に達しているかどうかを比べるというものです。
これは制作においては、六面体を上まわっていると感じる案でした。
六面体を採用した場合、+1の価値が非常に大きいものになると感じていたからです。
十面体を採用した場合、能力値1点の価値がもう少しマイルドなものになり、遊びやすくなるように思えました。
これをボツにしたのは、「子どもたちにとってとっつきづらいゲームにしたくない」からでした。
十面体を使えば、たとえば能力値が2で出目が9の場合、11という数が出現します。
二桁の数字を扱うと、子どもや、計算があまり好きではない人にとっての遊びづらさになります。
また、十面体には出目「0」があります。
これを0と読ませるか、10と読ませるかについて、暗記またはルール確認をする必要が出てきます。
そういったことを避けるために、六面体を選ぶことを決めました。


◆六面体の「メリット」。
何かの本を読んだ折に、こういう言葉に出会ったことがあります。

「人間の脳は失敗率(または成功率)が20%に近いとき、いちばん興奮する」

ギャンブルをする際、「8割がた成功する」という状況で挑戦して失敗するという状況(あるいはその逆)が、とても刺激的だという話です。
そういう視点でみるとき、世のTRPGの「クリティカル」や「ファンブル」は、あまりにも起こりづらいと言えます。
たとえば「ダンジョンズ&ドラゴンズ」では、それぞれ5%でしょうか。
「クリティカル」や「ファンブル」は楽しいものなので、もっと頻繁に起こってもいいじゃないか。
そう思ったので、六面体を1個振って「1」の目が出たらファンブル、「6」の目が出たらクリティカルと定めました。
それぞれ16.7%の確率で起こります。
単純で刺激的なゲームが、結局は楽しい。
そういう思想に基づくとき、この頻繁な出現率は正しい、ということになります。


◆まとめ。
このようにして、「ローグライクハーフ」で使うサイコロの数と種類は決まっていきました。
サイコロをゴロゴロ振るのが好きなので、楽しいデザインになってくれたと感じています☆

それではまた!


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