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Vol.001|狂った世で気が狂うなら

『MONOLOGUE』は、エッセイのようでいてコラムのようでもある、そんな型に囚われない備忘録を兼ねたフリースタイル文筆を、毎回3本まとめてお届けするマガジンです。毎週月曜午前8時に定期更新。何かと思想強めですので、用法容量を守ってお読みください。

狂った世で気が狂うなら

シェイクスピアの『リア王』を題材にした黒澤明監督による映画『乱』では、特徴的な模様の派手な衣装をまとった道化の狂阿弥という人物が登場する。そんな狂阿弥の屈指の名ゼリフに、狂った秀虎に向けて言い放つ「狂った世で気が狂うなら気は確かだ」がある。

このセリフを耳にした時、自分が真っ先に思い浮かべたのは、不登校やひきこもり、あるいは適応障害を発症して無職になった人など、いわゆる一般的には社会不適合者とされるような人たちのことだった。

彼らはうまく社会に適応している人たちから見れば、それこそ「狂っている」かのように映るのだろうけれど、自分はそうは思っていない。むしろ、この狂った社会で気が狂っている彼らこそが、気が確かな人たちだと思っている。彼らが総じてとても人間的で、個性が際立っているのは、この狂った社会に迎合することを拒み、気を確かに持ち続けたからに他ならないのだと。

逆に社会にうまく適応している人間というのは、適応しているがゆえに生活に不自由はしていないのだろうし、なにもわかっちゃいない一定数の人間はうらやむのかもしれないが、没個性的で話していても驚くほどつまらない。その口から吐き出される言葉が、予想の範疇を一ミリも超えてこないのである。

一発逆転思考

人生を蝕む思考の中でも、これはマジで人生を台無しにする危険性があるなあと常日頃から感じているのが一発逆転思考。これはどこかのタイミングで、なぜかはわからないが奇跡が舞い降りて、うだつのあがらないこの人生が一発で逆転しねえかな、みたいな思考のことを指す。

人生に一発逆転なんてものはない。地道に積み上げるしかないのだ。それこそが人生を逆転させる唯一にして最速の方法である。ジャイロ・ツェペリも言ってるだろう。「一番の近道は遠回りだった」「遠回りこそが俺の最短の道だった」と。あれは本当にそうで、人生を逆転させた人はみな、これが真実であることを悟っている。人生において大事なことは、だいたいジョジョで描かれていると思っていい。

一発逆転思考の病理に冒された者は、真実から遠ざかるばかりか、いたずらに時を過ごすことで、ますます人生を逆転させる可能性が閉じていく。そして、もう取返しがつかなくなった時点で、ようやく人生に一発逆転なんてものはないこと、時間というリソースが有限であることを悟るのである。人生に遅すぎるなんてことはないなんてことはない(マッキー式否定文)。

とはいえ、地道に積み上げるといっても、積み上げたものに固執してもこれまたいけない。アカギが成功を積み重ねてきた原田に「動けねえだろ…?お前今…動けねえだろ…?」と看破するあの名シーンを思い浮かべてほしい。われわれは地道に積み上げていくしかないが、原田になってはいけないのである。アカギのように命を燃やし続けなければならない。

他者承認のパラドックス

他者の承認を欲している人ほど、しょうもないアピールがうざくて、結果として他者からの承認が得られないのに、他者からの承認を捨て去って、ただ自己であることを自己が受け入れた時、なぜか求めてもいない他者からの承認が降り注ぐ、みたいなある種のパラドックスがあるよなあと思う。皮肉な話だが、人生ってやつはそういう皮肉で満ち満ちている。

他にもたとえば成功哲学なんかがそう。あれは成功していない人間が触れたところで、別に成功へと導かれるわけではない。なんら具体性のない意識だけはチョモランマな話を、変な薬でもキメてんのかなみたいなパキった目でまくしたてる、なんだか近寄りがたい人になるのが関の山で、むしろ成功からは遠ざかるのがオチだ。皮肉な話だが、人生ってやつはそういう皮肉で満ち満ちている。

成功哲学に深く共感し、腑に落ちるような人というのは、すでに成功している。そういう人にとって、成功哲学は別段必要のないものであり、たしかにあれは真実だったなと、すでに確信していることをあらためて振り返るきっかけ程度にしかならないのである。

成功を追い求めて成功哲学にすがると成功は遠ざかり、成功哲学が腑に落ちる頃にはすでに成功していて必要がない、これが成功哲学のパラドックスである。

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