大学生からのQ 私のA

今日は稽古休み。
家で台詞やったり、散歩ついでに近所のスーパーに買い物に出掛けたり、明日からまた再開される稽古に向けてお弁当を作ったりと、のんびり過ごそうと思っていたが、そう言えば数日前にメールを頂いた件を思い出した。

以下、メールの内容。

突然のご連絡失礼いたします。
〇〇大学法学部4年の〇〇〇〇と申します。
現在、卒業論文で「人はどのように幸福な生き方を選び直せるのか」
というテーマを研究しています。
生き方を一度見つめ直して、自然の中での暮らしを
ウンタラカンタラ
5〜10分ほどの短いインタビューをお願いできますでしょうか。
ウンヌンカンヌン
どうぞよろしくお願いいたします。


卒論を書いたことはないが、人生を左右する何からしいということは聞いたことがある。
ウンヌンの間で省力した中にも切実さと誠実さが滲み出ていたので、こんな私で良ければちょいとお話くらい。と思い、お返事をした。

そして以下がその大学生の問いと、私の答えである

せっかく「雑記」と宣言したnoteだから、ここにも転載させて頂きます。

①現在山を拠点に生活されているという事ですが、山で暮らされる前、何かに依存したり執着した経験はありますか?
また、それらをどう手放されたのでしょうか?

先ず第一に「お金を稼がなければ」という強迫観念が強くありました。家、車、良い服、良い生活、良い食事。
それらを叶えるためには、仕事に忙殺される日々を送らねばならない、と。
漢字とは上手く出来たもので「忙」という字は「心」を「亡くす」と書きます。
忙しい日々を耐え忍ぶには、アルコールを過度に摂取したり、タバコの本数が増えたり、眠る為に眠剤を飲んだり。
「バリバリ働く」は身の回りの寸暇をバリバリと剥ぎ取る行為にも似ています。明確な目標を設定し、効率化を目指し、自身の集中を阻害する事象を鬱陶しく思い、自分だけの世界に固執する。
その綱渡りのような生活の中で、更に自身の精神を安定させようと欲をかいたりしているうちに、更に幸せから遠ざかり「まだ見ぬ幸せってやつはもっと偉大で、もっと遠くにあるものなんだろう」と自らに言い聞かせ、奮い立たせ、目の前に置かれた食事にも感謝の念が湧かず「これは先々に向けての栄養補給だ」とさえ思って摂食する。お金を稼ぐことの先にこそ、幸せはあるのだと思っていました。
「どう手放したか」ではなく、お金も仕事も無くなって、それでも田舎で一人寝起きする生活になり、4500年前のシュメール人の諺の真意が、私にもしっくり来ました。
“多くの銀を持つ者は幸せかも知れない。多くの麦を持つ者は幸せかも知れない。けれど、何も持たない者はゆっくりと眠ることが出来る”



②「足る」「満ちる」という感覚は、どの様な瞬間に感じられますか?

後輩から喫茶喫飯という禅語を教わりました。
茶を喫する時には茶の味、色、温かさを楽しみ、茶葉の育った土地に想像の翼を広げれば、今自分が飲めていることがどれだけの巡り合わせによって叶っているのかを空想出来る。飯も然り。そこには感謝が自然発生する。
生活の中で想いを巡らせられる事象は至る所に散らばっている筈なのですが、日進月歩でテックの進歩が進み、効率化が叫ばれる現代、むしろそんな事を考えられる余暇は見つけにくいものになりつつあります。物には溢れていても、感謝を覚える暇がない。
私は最近、昼寝が幸せです。朝食を食べ、元気な犬の散歩も終え、もう冷凍庫にも肉はパンパンだし、薪も昨日割ったから、特にしなければならない事もない。なら、家族で昼寝をしようと、午前中から布団に潜り込み、犬が胸元に飛び込んで来た時に「あぁ〜今幸せだぁ〜」と感情が口からダラダラと洩れます。



③東出さんご自身の、人との距離の取り方は、都会で過ごしていた頃と、いまの暮らしに変わってからで、なにか変化はありましたか?
また、その変化はご自身で望んだものでしたが、それとも暮らしが自然とそうさせた感じでしょうか?

年齢も30代の後半になり、都会と田舎の差異なのか、単純に加齢の影響なのか、私の精神の変化はどちらか一方と明確に答えることは出来ません。
ただ、自分が何も持たなくなった頃、何もすべきことが無くなった頃に、例えば日々の農家さんの畑仕事や、林業従事者の木の伐採、町の電気屋さんの配線工事などを見て、みんな凄いことを継続してるんだなぁと感動しました。
それからは自分ももっと勉強したい。と思うようになり、色々な作業をちょっとかじっては余計に、凡ゆるものに心を打たれる豊かな日々になりました。


④東出さんにとっての、都会での幸せと田舎での幸せとは何ですか?

情報の種類の差だと思います。
都会には人工物の情報が多くあります。スシローのCMではマグロが旬と教えてくれるし、イブサンローランのショーウィンドウでは新作のルックが発表されている。流行りの映画が興行収入〇〇億突破、この本が〇〇万部のベストセラーも、人間の社会の中だけで共有されている情報です。だから人工物の情報はいくらでも摂取できるけど、虫は異物認定されるし、ビルに阻まれた空は狭く、都会の明かりで星は見え難い。
田舎には自然物の情報が多い。タラの木の芽吹きが春を知らせ、ヒグラシの鳴き声が夏の夕方を演出し、女郎蜘蛛の大きな巣が台風シーズンが過ぎ去ったことを教えてくれる。自然物の情報は自分が詳しくなったり観察しないと、気付き難いものではある。しかし、色々な生き物の息吹は自分も多くの生き物の中の一匹だと世界の広さを教えてくれる安心感に繋がるし、人間社会では当たり前に必要な“金銭の介在”が無い。
歌舞伎町を歩くと、キャバクラの看板を眺めながらソワソワする。町内のフォトスタジオでプロが加工した似たり寄ったりの写真が、源氏名とともに看板に飾られている。いつからか、写真は加工が当たり前になり、若い子達はInstagramやYouTubeで美容整形を調べ、流行りの容姿に近づく為にお金を稼がねばならないという焦燥感に駆られるようになった。アンチエイジングという言葉がポジティブに捉えられる世相になって久しいが、快活にこなす農作業の末の日焼けや、よく笑う人の加齢による目尻の皺に、個人の懸け替えのない人間性が滲むという価値観は今やマイノリティなのかも知れない。
しかし、果たして、手段と目的が逆になっていやしないだろうかとも考える。サンローランの服が好きだから着るのなら良いが、サンローランを着ている自分が、サンローランを着ていると思われる自分が好きになってはいやしないだろうかと考える。寿司が食べたいのではなく、寿司屋に行っている自分を発信したくなっちゃっているのではなかろうかと。
SNSに時間が割かれることが多くなった現代人は、人工物の情報が氾濫する濁流の中で、承認される事を息継ぎにして溺れまいとしてはいないだろうか。
自然の中では、他者からイイね!を貰っても、腹は膨れない。しかし、何か食物になり得るものを得て、シンプルに腹が膨れるた時に「あぁ生きてる〜」ってな自己充足感が生まれる。腹一杯ですることもなく、ふと見上げた広い空の夕焼けが「こんなにまで綺麗なのか」と飽きずに見惚れる時間が、私は好きで田舎に住んでいる。


以上が私のA。しかし、Aは今後変わる可能性もあるし、
「人間一人が考えたところで正解など到底導き出せない。それが面白い」と気付かせてくれたのも、私の好きな自然だった。


そんなこんなです。

また雑記を上げますが、noteの使い方がまだ不慣れなので変なところあっても目を瞑ってやって下さい。
では、シーちゃんと散歩行ってきまーす!

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