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Dr.イワケンの「感染症のリアル」

医療・健康・介護のコラム

ケネディ厚生長官は悪くない 悪いのはCDCの専門家だ 「ワクチンと自閉症」について世界の信頼を裏切る新見解

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 以前、厚生長官のロバート・ケネディ・ジュニア氏がやらかして、米疾病対策センター(CDC)の予防接種政策がヤバいことになっているよ、という話をしました。

https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20250627-OYTET50000/

ワクチンで自閉症「可能性を除外できていない」とCDC

 さて、またまたやらかしました、CDC。11月19日、ホームページでこんなことを表明したのです。

 「『ワクチンは自閉症を起こさない』という主張はエビデンスに基づいていません。なぜなら、研究では幼児期のワクチンが自閉症を起こすという可能性を除外できていないからです」

https://www.cdc.gov/vaccine-safety/about/autism.html#:~:text=,Vaccines%20and

 私はこれを読んで 愕然がくぜん としましたね。CDC、そこまで ちてしまったのか、と。

 ときに、神戸大学病院感染症内科の回診では、研修医や学生たちが「可能性は否定できない」と言うのを禁じ手にしています。例えば、「肺炎の可能性は否定できない」みたいな。

 理由は簡単です。可能性はほぼ常に否定できないからです。つまり、これは「なにも言っていない」にほぼ等しいのです。

 研修医のロジックとしては、「肺炎の可能性は否定できないから、抗生物質を使いたい」みたいな感じなのです。しかし、同じロジックを使うと「がんの可能性も否定できていないから、抗がん剤を使うの?」となり、「心筋 梗塞こうそく の可能性が否定できないから、カテーテル検査とか治療する?」となるのです。

 このロジックを使うと、検査や治療の遂行を無限に正当化してしまいます。検査や治療にはお金もかかりますし、手間もかかりますし、なにより一定の頻度で有害事象が起きます。本当に患者にメリットがあるの? むしろメリデメで考えたらデメリットの方が大きくならない?

 我々の責務は「患者のメリットの最大化と、デメリットの最小化」です。「可能性は否定できない」からと無限地獄的に検査や治療を連打する方法は、メリデメを考えない非合理的な方法なのです。

「可能性は否定できない」という言い方は無意味

 ですから、「可能性は否定できない」という意味のない問いの立て方はしてはいけないのです。正しくは「可能性は◯%くらいです」というべきなのです。「肺炎の可能性は否定できないけど、その可能性は0.1%くらいで、すぐに抗生物質に飛びつく程度ではありません」とか、「肺炎の可能性は99%なので、すぐに治療しましょう」とか。こういう言葉の使い方をすれば、妥当で合理的な判断の助けになります。

 だから、CDCの「言い方」は間違いなのです。

 別な観点で「可能性は否定できない」と主張した人にデビッド・ヒュームがいます。

 世界認識は、古代ギリシャ、インド、中国などいろいろな場所で行われ、アリストテレスの 演繹えんえき 法的な世界説明がそのなかでも特に素晴らしい説明であると、長い間考えられてきました。しかし、演繹法や直観で「正しい」と思えたことも、帰納法的に実験で検証すると間違っていることもしばしばあることが、近代科学の勃興で判明してしまいます。

 アリストテレスも「案外」間違えていたのです(例えば、天動説とか)。ところが、ヒュームは実験で繰り返し観察された事項であっても自然法則の「証明」にはなっていない、と主張します。その観察が「法則」によるものではなく、「偶然」のなせる業かどうかは、厳密には区別できないからです。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/sbp/34/0/34_2011_049/_pdf

 確かにその通りで、科学実験で観測されるデータが「法則」によるものなのか、「まぐれ」によるものかを厳密に区別することはできません。だから、我々は研究をして、論文を書いても、「〇〇が証明された」という言い方を基本的にはしません。我々の論文の結語はしばしば、「Our findings suggest(我々の知見は示唆する)」という言い方になるのです。

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岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学卒業。内科、感染症、漢方など国内外の専門医資格を持つ。ロンドン大学修士(感染症学)、博士(医学)。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院(千葉県)を経て、2008年から現職。一般向け著書に「医学部に行きたいあなた、医学生のあなた、そしてその親が読むべき勉強の方法」(中外医学社)「感染症医が教える性の話」(ちくまプリマー新書)「ワクチンは怖くない」(光文社)「99.9%が誤用の抗生物質」(光文社新書)「食べ物のことはからだに訊け!」(ちくま新書)など。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパートでもある。

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