「言論活動を委縮させる」…東証グロース上場企業『売れるネット広告社』とウェブメディアの法廷闘争

削除しないと「1日10万円」

そんな同社が’24年3月12日、『Suan』の記事によって名誉を毀損されたとしてA氏を提訴。同日、

〈 SUANこと、A氏に対し『民事訴訟』『刑事告訴』を実施〉(A氏は実名で記載)

というプレスリリースを自社のホームページにアップし、同時に多くの報道機関に送信した。これまで匿名で活動をしてきたA氏の実名を公表し、A氏の顔写真や勤務先の外観写真などを複数枚掲載。学歴、経歴なども記載されていた。

なお、この名誉毀損訴訟は一審の東京地裁(’24年12月)、控訴審の東京高裁(’25年7月)ともに『売れる社』が敗訴している。

これに対して、A氏も動いた。自身の人格権などが侵害されたとして、東京地裁に当該プレスリリースの削除を求める仮処分を申し立てたのだ。

仮処分とは、正式な裁判には時間がかかるため、権利侵害が続いている緊急の場合に、裁判所が暫定的な措置として「いったん止めなさい」と命じる手続きのこと。

’24年11月14日、裁判所はこの申し立てを認め、『売れる社』に対し、A氏の個人名や写真、個人情報の記述などの削除を命じる決定を出した。

しかし、『売れる社』はこの仮処分決定にすぐには応じなかった。するとA氏は、次の手段に打って出た。

命令に従わない相手に金銭的なペナルティーを科すことで義務の履行を促すための「間接強制」を裁判所に申し立てたのだ。そして、この申し立てを受け、東京地裁は’24年12月20日、『売れる社』に対し、以下のような決定を下した。

〈債務を履行しないときは、債務者(編集部注:『売れる社』)は債権者(編集部注:A氏)に対し、(中略)1日につき金10万円の割合による金員を支払え〉(決定文より)

「削除しないと1日10万円」というペナルティーが『売れる社』に科されたのである。

『売れる社』は仮処分の決定を不服として裁判所に異議(保全異議)を申し立てる。しかし’25年2月27日、裁判所は『売れる社』の異議を退けた。その決定文では、プレスリリース公開の動機について次のように言及している。

関連記事