黄砂は実際に飛来したのか? — 確認してみよう

竹村俊彦
九州大学応用力学研究所 主幹教授
提供:イメージマート

気象庁が実施している黄砂の予測に基づき、昨日(2025年11月25日)黄砂が飛来する可能性があるという話題が、様々なメディアで取り上げられました。11月に黄砂が飛来する頻度はそれほど高くなく、西日本では視程(水平方向に見通せる距離)が10kmを下回る比較的濃い黄砂の飛来が予測されたため、めずらしさもあってインパクトのあるニュースでした。

ところで、実際に黄砂は飛来したのでしょうか?報道されたのは、あくまでも「予測」に関する情報であるため、実際に飛来したとは限りません。飛来したかどうか、どのように確認すればよいのでしょうか。

シンプルに結論からいうと、予測された当日もしくは翌日に、黄砂が「観測」されたというニュースがあれば実際に飛来したということになり、ニュースがなければ飛来しなかった、あるいは飛来しても少量ということになります。黄砂は常に起こる現象ではないため、飛来が確認されれば各地の気象台から情報が提供され、ニュースになります。

昨日(2025年11月25日)は、うっすらと黄砂が飛来したような感じだった、という程度でした。前日の11月24日には、上流側である中国の各地で、比較的濃度の高い黄砂が観測されましたが、日本へ到達する前に、予測よりも強かった雨によって、黄砂が大気中から洗い流されたものと考えられます。

黄砂の観測はどのようにしているのか?

各地の気象台では、空を眺める目視観測、あるいは見通し距離(視程)の測定データに基づき、黄砂の飛来を確認します。過去には、各管区および地方気象台で目視観測がなされていましたが、2020年2月に地方気象台で廃止され、2024年3月に東京と大阪以外の管区気象台でも廃止されました(森田正光さんの記事参照)。国際的な取り決めで、黄砂は目視で観測されることになっています。したがって、公式な黄砂の記録としては、東京と大阪以外では残らなくなっています。ただし、各地の気象台では、住民サービスとして、明らかに黄砂が飛来した際の情報提供は継続してくれています。私が検索した限りでは、昨日(2025年11月25日)、黄砂の「観測」を発表したのは、長崎だけでした。

[13:30追記]条件としては以下で解説する煙霧に当てはまりませんでしたが、福岡市でも黄砂の観測を発表していました。

目視観測に代わり、現在は自動で視程を測定する機器が設置され、視程が10km未満になり、湿度が75%未満の場合は、「煙霧」が公式な記録として残るだけです(湿度が条件に入っているのは、水滴による視程の悪化、つまり「霧」や「もや」と区別するためです)。煙霧はスモッグのことなので、黄砂以外のPM2.5濃度が高いときも記録されます。昨日は、対馬で未明から昼過ぎにかけて、その他の長崎県内で30分間以下(長崎市内で視程9km)、煙霧が観測されただけでした。つまり、黄砂が最初に飛来する長崎県以外では、明確な黄砂の飛来はなかったということです。

一方で、専門的な観測機器では、昨日午後に、非常に薄い黄砂は検出されました。例えば、設置している高度での大気中の微粒子の数を数えるパーティクルカウンターという機器を、私の研究室(福岡都市圏)で設置していますが、黄砂飛来時の特徴である、サイズが5ミクロン以上の粒子数がわずかに上昇しました。それより小さい微粒子の濃度も少し上昇したため、PM2.5と混ざって飛来したことがわかります。また、国立環境研究所の研究グループが設置している、上空へ向けて射出するレーザー光の反射光を測定するライダーによる観測でも、福岡で地上から高度約1kmの間で、黄砂やPM2.5が少量検出されました。

黄砂は車や洗濯物を汚すだけではない! もっと重要な情報提供を

今回の黄砂の予測情報について、気象予報士の方々などがメディアで取り上げる際に、車や洗濯物への黄砂の付着に関する注意だけで終えているものを複数見かけました。以前に「PM2.5と黄砂の「命にかかわる情報」提供は不十分」という記事にさせていただいたとおり、車や洗濯物が黄砂で汚れても、命は脅かされません。黄砂が高濃度の場合は、お子様や高齢者、呼吸器や循環器の疾患をお持ちの方にとっては、命にかかわります。特に、気象予報士や報道機関の方々は、黄砂情報は命にかかわる情報であることを強く認識してください。

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九州大学応用力学研究所 主幹教授

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1974年生まれ。2001年に東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。九州大学応用力学研究所助手・准教授を経て、2014年から同研究所教授。専門は大気中の微粒子(エアロゾル)により引き起こされる気候変動・大気汚染を計算する気候モデルの開発。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書主執筆者。自ら開発したシステムSPRINTARSによりPM2.5・黄砂予測を運用。世界で影響力のある科学者を選出するHighly Cited Researcher(高被引用論文著者)に7年連続選出。2018年度日本学士院学術奨励賞など受賞多数。気象予報士。

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