自民党と日本維新の会が、連立合意で徹底を図るとした外国人スパイへの対応。「スパイ防止法」制定による取り締まりは、国民全体の監視につながる危険性が指摘されるが、問題はそこだけではない。合意には「対外情報機関の設置」も盛り込まれ、日本が主体的にスパイ活動に関わることも視野に入れている。日本が国際的なスパイ活動に踏み込めば、平和国家の理念と根本的に矛盾することになりかねない。(中根政人)
◆自民・維新の連立合意文書に記載が
「検討する論点は、司令塔機能の強化、対外情報機関の設置、カウンターインテリジェンス(防諜=ぼうちょう)の能力強化の3点だ」。11月21日に開かれた自民党のインテリジェンス戦略本部。本部長を務める小林鷹之政調会長は会合の冒頭、国家の安全や国益の確保に向けて政府のインテリジェンス(情報活動)機能の大幅な拡充の必要性を強調した。
小林氏が論点として示したテーマは、いずれも自民と日本維新の会が10月20日に交わした連立政権の合意文書に記載されている項目と一致する。「司令塔機能の強化」は、現在の内閣情報調査室(内調)や調査室トップの内閣情報官を格上げする形で「国家情報局」「国家情報局長」を創設することなどを指す。「カウンターインテリジェンスの能力強化」は、いわゆるスパイ防止法の制定につながる「インテリジェンス・スパイ防止関連法制」の法案策定や成立を意味する。
◆「諜報」「防諜」「非公然活動」3つの機能
スパイ防止法を巡っては、外国のスパイ活動の取り締まりにとどまらず、市民活動の監視強化につながるとの懸念が指摘されてきた。だが、野党にも制定に前向きな動きが目立つ。参政党は11月25日に関連法案を国会提出。外国勢力に特定秘密を漏らした場合の罰則強化などを求めた。翌日には国民民主党も、外国の利益を図る目的での活動に関する届け出制度創設などを盛り込んだ法案を提出した。
ここで気になるのは、「対外情報機関の設置」だ。自民と維新の合意文書には「2027年度末までに独立した対外情報庁(仮称)を創設する」とある。これは何を意味するのか。
維新は、政策文書で具体案を示している。同党の安全保障調査会などが、高市内閣発足前の10月1日に発表した中間論点整理では、対外情報庁の機能を「諜報」「防諜」「非公然活動」の三つと規定。活動対象は非軍事領域だが、組織の位置付けは米中央情報局(CIA)や英秘密情報局(MI6)を参考とし、組織構成はCIAにならって「総務班」や「工作班」「分析班」などを置くとしている。人員はプロパー職員で構成すると明記した。
◆高市早苗首相も解禁の必要性を示唆
維新の論点整理の文書からは、日本政府が国内外でスパイ活動を解禁すると読める。「対外情報機関」とは、国際社会ではいわゆるスパイ組織のこと。しかも、「非公然活動」を指す「Covert action(コバート・アクション)」は、一般的には「秘密工作」と訳されることが多く、非合法の活動も排除されていない。
維新の前原誠司安保調査会長は記者会見で「対外情報庁(の設置)が一番大きな柱だと思っている」と前のめりな姿勢を示した。
一方の高市早苗首相は就任前の今年5月、当時会長を務めていた自民の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会の会合で、対外情報機関が存在する国のような「スパイの交換」ができない日本の現状を紹介。日本政府によるスパイ活動解禁の必要性を示唆していた。11月26日の党首討論では、スパイ防止法について「今年検討を開始し、速やかに法案を策定することを考えている」と意気込んだ。
◆戦前は諜報員を養成する陸軍中野学校も存在した
世界各国の対外情報機関としては、米CIAや英MI6のほか、イスラエルの対外特務機関モサド、ロシアの対外情報局(SVR)、中国の国家安全部、韓国の国家情報院などが知られる。日本にはこれらのような対外情報機関は存在せず、海外での情報収集活動は限定的な範囲で実施されている。
日本では戦前、憲兵隊や特...
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