7 knights to die   作:道造

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第83話 setting sun/斜陽

 

「無視するべきです、ドミニク卿。全くお話にならない」

「いや――」

 

 辺境伯家の陪臣騎士である、レオンハルト卿はそう断言する。

 如何にも話にならぬと言った顔つきで、言葉には怒りの色すら含まれていたが。

 私は横に首を振る。

 

「決闘はあくまでも正当な物でなければならぬ。どこで何を考えついたのかは知らぬが、アーデルベルトの言い分は正しい。なるほど、奴には鎧がない。剣を振るったこともない。アカデミーを名乗る馬鹿馬鹿しい教育機関は何を教えていたのやら、と罵ってやりたいところだが」

 

 ドミニクはそこまで言い終えて。

 アーデルベルトが金貨袋や宝石をふんだんに使って新聞社を雇い、王都中に布告した新聞を開いた。

 見出しには『公平で正当な決闘を!』と書かれている。

 このまま歴戦の騎士であるドミニクと、初陣も未経験の自分が相対するのでは公平な決闘と言えないと泣き言を並べているのだ。

 では何を以て公平とするかというと、それについても新聞に書かれている。

 

「アーデルベルトの決闘に対する要望はチェーンデスマッチ。鎧は着用せず、お互いの左手を鎖でつなぎ合い、右手にはナイフを持っての決闘。たしかに決闘裁判でも、コロッセウムの出し物でも過去にはありました。そこから着想を得たように思えます。あの阿呆、ここにきて知恵を巡らしたようですな」

 

 剣闘士であるヴォルフガング卿の私見。

 彼から見ても、過去にないわけではない。

 ならば、それに準ずるべきだろう。

 それが最も良いように思えた。

 

「いやいや、くだらんアーデルベルトの泣き言を聞く必要などないのです。一方的に打ちのめしてしまえばよろしい。鎧がない? それぐらい貸し出してやりましょう。実戦経験がない? あの阿呆の責任ではないですか。ドミニク卿がわざわざ危険を冒す必要はありません。手短に終わらせましょう」

 

 元黒騎士であるヨルダン卿の意見。

 彼としては何も危なげなく勝って終わらせよう。

 わざわざ、こんなチェーンデスマッチなどに応じてやる必要はないと。

 相手の物言いなど無視してしまえばよろしい。

 そう言いたげだが。

 

「圧倒的安全で、誰が見ても私が勝つと決まっている。それは決闘ではなく、もはや処刑である。決闘は誰が見ても公平であるべきだ。アーデルベルトの言い分にも一分の理はある」

 

 私としてはそう思えた。

 どうしても、言われてみれば卑劣に感じるのだ。

 それに、自分だけが安全に決闘を行うことへの引け目もある。

 

「他の六騎士殿、皆が命懸けで闘った。私だけが危険を何も冒さず、卑劣を全うせよと? それをこの先、誇らしく思って生きて行けと? それはない。それだけはありえぬよ」

 

 そう口にしてしまう。

 だが処刑執行人であるサムソン殿は首を横に振った。

 そして、否定的なヨルダン卿に味方するように口添える。

 

「卑劣ではない、正義と秩序を取り戻すだけの話です。誰もがアーデルベルトの死を望んでいる。その決着だけが必要であって、この期に及んで公平だなんだと抜かす被害妄想の馬鹿を相手にする必要はない」

「なるほど、確かにそうでしょう。私は奴めに死をもたらすつもりです。だが、全身甲冑姿の歴戦の騎士が、鎧も持たず剣も握れないアーデルベルトを一方的に殺害する。これをコロッセウムで観た市民がどう思うだろうか?」

 

 私だけの問題ではない。

 ことはイザベラ様の名誉にも関わる話であった。

 それを口にすると、誰もが押し黙る。

 

「私は誰が見ても正当かつ公平な決闘裁判が行われた上で、正義を貫き通す必要があると考えている」

 

 真正面から叩きのめしてやる。

 奴の心臓に短剣を差し込んでやろう。

 そう決意を固める。

 しかし、そこで領主騎士であるエーレンフリート卿が首を傾げた。

 

「正直言いまして、確かに外聞がよろしくないとは思います。同時に、仮にチェーンデスマッチでも、ドミニク卿ならば勝負は変わらないと誰もが思っています。ですが、その、何と言いますか。これでもドミニク卿の勝利は揺るがないことなど、アーデルベルト側も理解しているでしょう。これ以上に何か企んでいるのではないかと――」

 

 確かに、疑問点はある。

 なるほど、ある程度のハンディキャップを埋めてやることだけは許してやろう。

 だが、それだけといえばそれだけだ。

 決闘裁判において明らかに男女の性別差、老人や子供のように年齢差がある場合は何らかのハンディキャップを設けることはあるが。

 この場合、それでも私の勝利は揺るがないように思えた。

 そこのところをアーデルベルトはちゃんと理解しているのだろうか?

 

「例えば?」

 

 そのアーデルベルトの企みとやらに対する、疑問を口にする。

 それに紋章官であるヴェンデル卿が答えた。

 

「確実に毒ですな」

 

 あの阿呆の考えることなどお見通しだとばかりに、彼は断言した。

 淀みなく一言で結論付けた。

 

「まるで母親とやることが変わらぬ。似た者同士だ。決闘で短剣に毒を塗るなど禁止されていることを承知で、平気で実行するでしょう。愚劣の極みです」

 

 なるほど、と。

 理解した。

 結局、凡愚の考えることなど知れているのだと。

 ヴェンデル卿はそう言いたげに、言葉を連ねた。

 

「なるほど、チェーンデスマッチ。王都中にこれこそ公平であると布告されて印象を操作されては、それに応じねばイザベラ様の名誉に傷が少しなりとも付く恐れがあります。これについては仕方ありません。受け入れましょう。ですが、ドミニク卿がこんな馬鹿馬鹿しい勝負に真面目に応じる必要はない。決闘前に武器の確認を行い、防いでしまいましょう」

「というと?」

「毒を塗っていたならば、その場で取り押さえ、決闘を穢した罪により死刑を与える。意外にも塗っていないのならばドミニク卿が決闘を行い、そのまま殺してしまえばよろしい」

 

 冷静な判断だ。

 なるほど、そうしてしまえば簡単だ。

 全てが片付くだろう。

 だが、私の考えは違う。

 

「――別に構わない。そのままやらせてしまいましょう」

「というと?」

「毒を塗った短剣を使わせてやろうというのです。新聞社に返事をそう送りましょう」

 

 それでこそハンディキャップが埋まるというものだ。

 私はそう考えている。

 無精ひげを撫ぜながらにそう口にすると、ヴェンデル卿が慌てた。

 

「馬鹿な、本気でそう考えていらっしゃると?」

「本気も本気です。問題ない」

 

 私はそう告げる。

 もちろん、他の六騎士は猛烈に翻意を促す。

 促すが、私は決意を揺るがすつもりはない。

 別によいのだ。

 これでよいのだ。

 私は間違いなくアーデルベルトを殺すつもりだ。

 だが、別に。

 それと引き換えに、自分の命が惜しいわけでもなかった。

 「未払いのドミニク」の、あのアッカーマン辺境伯に仕えることも、支払いも出来なかった騎士の命など。

 もはやどうなっても構わないように思えていた。

 六人の騎士は、アッカーマン辺境伯に由縁ある私の戦友達は、言葉を尽くして説得に当たったが。

 私は頑として受け入れず、やがて六騎士も。

 ありとあらゆる反論を試みて一時間後、何かを悟ったかのように説得を諦めた。

 そうだ。

 私は、これからの人生でやるべきことがある貴方達とは違う。

 もう、アーデルベルトを殺して、イザベラ様の名誉を約束して。

 あとはきれいさっぱり未払いであった代価を支払えば、自分の命まで終わりにしたいのだ。

 だって。

 あの御方を、アッカーマン辺境伯を失った私には、このドミニクには。

 もう何もこの世ですべきことなど、残っていないだろうから。

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