水族館の「プロ」たちを支え続け 「元気?」「大きくなったね」と館内を見て回ります

話の肖像画 鴨川シーワールドの獣医師・勝俣悦子<1>

鴨川シーワールドの獣医、勝俣悦子さん。ベルーガ(シロイルカ)のナックと=千葉県鴨川市(鴨川一也撮影)
鴨川シーワールドの獣医、勝俣悦子さん。ベルーガ(シロイルカ)のナックと=千葉県鴨川市(鴨川一也撮影)

水族館の「プロ」たちを支え続け

《生態系の頂点といわれるシャチの美しく豪快なジャンプに、観客席から沸き上がる大歓声。大型海獣の飼育で知られる「鴨川シーワールド」に昭和52年から勤務する。国内「海獣医師」の先駆者だ》

当館は45年の開業以来、シャチやベルーガ(シロイルカ)など大型海獣を多く飼育していたことから、健康管理について知ってもらうために「海獣診療センター」という看板を掲げていたことがあります。かかってきた電話に「はい、カイジュウです」なんて応じると、「ええっ、怪獣っ?」とびっくりされたこともあったんですよ。職種としては「獣医師」ですが、テレビで「海獣医師」という言葉で紹介していただきました。

現在、魚類も含め800種1万1000点を飼育しています。このうちシャチやイルカなど鯨類や鰭脚(ききゃく)(ひれあし)類の海獣類とペンギンなど鳥類の健康管理が主な仕事です。

《取材中、治療方針を尋ねる動物看護師から内線電話が。すぐに切り替え、与える薬や処置をテキパキと伝えていく》

動物には全力で治療にあたります。いろいろな医療機器で診断がつく症例も増えましたが、今でも経験的に治療を始めることが多い。診断結果を待っていては悪化してしまうからです。動物には本来の生命力があります。その力を手助けするのが仕事と思っています。

飼育の基本は「1水(いちみず)、2種(にたね)、3餌料(さんじりょう)、4管理(よんかんり)」。「1水」は動物が暮らすプールなどの適切な環境。「2種」は健康な個体を搬入すること。ただし海獣類については飼育下での繁殖が主になっています。「3餌料」は良い餌を与えること、「4管理」は飼育や健康の管理です。

健康管理の基本は、個体それぞれの「いつも」を知っておくこと。例えばイルカが水面に浮かんでいるとします。いつもは背びれがよく見えているのに、今日はちょっとしか見えない。どこかが痛くて体を曲げているのかな? いつもと浮き方が違うのはなぜ? と。動物たちに「元気?」「大きくなったね」と話しかけながら観察して、館内を見て回るのです。

水族館で暮らす動物は、訪れる人にそのすばらしさ、力強さ、美しさを知ってもらうプロなんです。そのプロたちが健康で過ごせるよう支えることが獣医師の役割です。お客さまの前でそのプロたちが活躍して喜んでいただき、「すごい動物だね!」と言っていただくことがやりがいです。

《病気の際の治療は》

動物も人も同じで、様子がいつもと違ったら、呼吸を見て、体温を測り、血液検査を行うなどして原因を考えます。投薬は経口投与がメイン。ほとんどの海獣は餌を丸のみにするので、餌の魚に薬を詰めてしまえば難しくはありません。ただ、詰め込み過ぎると食感がおかしくなって気付いてしまうので、そこは欲張ってはいけないところです。

与える薬は人用と動物用があり、人用の薬を使う場合は、個体の体重に合わせて与える量を決めます。ただ、動物のサイズによって単純に体重に合わせず調整したりしますし、初めて使う薬には慎重になります。

近年は夏場の暑さ対策も。水温や気温が上昇して動物たちが体調を崩さないように気を使いますね。(聞き手 金谷かおり)

勝俣悦子

かつまた・えつこ 昭和28年生まれ、東京都出身。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒。52年に鴨川シーワールド入社、獣医師としてシャチやセイウチなどの海獣およびペンギンなど鳥類の健康管理を担当。平成15年には日本で初めてバンドウイルカの人工授精に成功し、研究チームとして「日本動物園水族館協会」の古賀賞受賞。17年に「飼育海生哺乳類の繁殖に関する研究」にて獣医学博士号。

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