記者コラム
2023/01/17
(火)
11:50

【JRA賞】〝炎上〟なしでも〝火種〟は散見 問われる「記者投票の意義」と「新カテゴリーの意味」

 2022年度のJRA賞は9部門、および年度代表馬の受賞馬すべてが納得の顔触れとなった。マルシュロレーヌ(米GⅠブリーダーズCディスタフ)が特別賞受賞とならなかった21年度や、アーモンドアイが選外となった昨年の顕彰馬投票の時のような〝炎上〟は起きていないようだ。

 レース予想では結果的に的外れな◎を打つことが多い筆者も年度代表馬+7部門で受賞馬に票を入れている。とはいえ次点以下の投票全体を見渡すと…、潜在的な〝火種〟も浮かび上がってくる。

2022年度の満票は1頭のみ

288票の満票で最優秀2歳牝馬に輝いたリバティアイランド
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 288人が参加した今回の投票において、得票馬が3頭以下だった部門は年度代表馬(2頭)、2歳牡馬(3頭)、2歳牝馬(1頭)、3歳牡馬(2頭)、3歳牝馬(2頭)の5部門。対照的に残る5部門は〝該当馬なし〟を含め4~10頭に票が分散する乱戦だった。

 現実的に勝利を得るであろう対象GⅠが阪神JFのみの2歳牝馬部門はそもそも割れようがない。なぜか該当馬なしの票が入った年もあったが、今回はリバティアイランドが満票(288票)で選出されたことは健全な投票の証左として評価できる。

 一方、古馬が表彰対象となる各部門は間口が広い。パフォーマンスを評価すべきレースは「中央競馬の競走」に加えて「地方競馬指定交流競走であって理事長が適当と認めたもの」と「理事長が指定する外国の競走について(平成7年利自治用通達63号)に規程する外国の競走」(日本中央競馬界JRA賞表彰規則第1章第2条)が含まれる。JRAで古馬が出走可能な平地GⅠは14レース(牝馬限定2レース)。加えて地方で行われるJRA所属馬の古馬が出走可能なGⅠ・JpnⅠは8レース(牝馬限定1レース)を数える。その勝ち馬がすべてバラけたうえに、海外遠征馬も含むと年度内のGⅠ勝ち馬が30頭近くにおよぶ可能性もあり得る。実のところ多くの候補馬から〝最優秀馬〟を絞り込む基準が明示されていないことが騒動の遠因になりかねない。

曖昧な投票基準

最優秀障害馬はオジュウチョウサン(白帽)とニシノデイジー(橙帽)の一騎打ちに

 ある記者は競馬週刊誌のコラムでGⅠ~GⅢごとに点数を付ける〝ポイント制〟を採用していることを公表。また、障害馬部門において1票差でオジュウチョウサンに及ばなかったニシノデイジーの西山茂行オーナーは「秋陽ジャンプステークス2着が勝っていたら貰えた思うけど、あの2着で馬具を変えて中山大障害を勝てた。すべてはその馬の持っているものです」とツイート。しかし、表彰規則第1章第1条には「当該年度に特に優秀な成績を収めた競走馬にJRA賞を授与してこれを表彰する」としか明記されていない。果たして年度内を通して継続的に活躍した馬を上位に取るべきなのか? GⅡ~オープン特別の成績も加味するべきなのか? その他もろもろの判断はすべて有権者の裁量に任されているのだ。

 併せて、これまでも個人的には納得のいかないトンデモな投票にも、当事者にはそれなりの理由があったことを記しておきたい。例えば、ダート1600メートルGⅠを勝った馬を最優秀短距離に投票。その理由は「年度内の1600メートル以下のGⅠ勝ち馬で2着馬に最も大きい着差をつけた」からだという。また、GⅠ未勝利馬を最優秀3歳牝馬として投票した理由は「年間の総獲得賞金(=本賞金)が3歳牝馬の中で最も多かった」からだとか。先に述べたように緩い前提に立てば、オリジナルの基準があって構わない。投票内容を〝公開〟としたうえで、その根拠を問われた際に自信を持って答えられるならば他者が異議を唱える筋合いもないのだが…。

拭えぬ不公平感

 その一方でJRAは「通年での活躍」を暗黙の了解と考えているフシがある。筆者は4歳以上牡馬部門をタイトルホルダーとしたが、〝対抗馬〟としてはカフェファラオを考えていた。22年にGⅠ・JpnⅠを複数回勝利した古馬は宝塚記念、天皇賞・春の前者とフェブラリーS、南部杯(盛岡)の後者の2頭のみだから〝数の理論〟では一騎打ちという見方も成り立つからだ。しかし、スマートフォンの投票フォームにプリセットされた馬名の中に後者は見当たらない。

「中央競馬の競走馬…2022年中に、GⅠ競走(JpnⅠ競走・パートⅠ国のGⅠ競走を含む)を勝利した馬のみを掲載」の注意書きには合致するのだが、「該当馬が10頭以上いるので、該当馬のうち2022年度の獲得賞金上位9頭を掲載」と追記されている。両ダートGⅠ以外の年度内出走が芝のGⅠ安田記念(17着)のみで獲得賞金は1億8000万円。GⅠ1勝でも2着以下の入着賞金やGⅡ~GⅢの勝利で総額が上回った組にはじき出された形だ。

 アーモンドアイ不選出の背景には「本年度新たに選定対象となったGⅠ馬」のリストに他19頭と並列扱いの表記が〝埋没〟を誘発したと以前に述べた。とはいえ、GⅠ9勝馬であっても〝選挙管理委員会〟の側が候補者すべてを平等扱いするのは当然の態度だ。一方、〝手入力〟での投票は可能でもカフェファラオの〝門前払い〟は恣意的な選別と受け取られても仕方がない。むしろ個人的には年間3走どころか1走であっても、歴史的なGⅠ勝利であれば有資格馬と考える。

トウカイテイオーは年度代表馬に値するか

 わかりやすい例だと、1993年の有馬記念を1年ぶりの実戦で制したトウカイテイオー。もちろん同年中に稼いだ賞金は有馬記念の1億3000万円のみで同年にGⅠを制した4歳以上の牡馬・セン馬6頭では最下位。GⅠ未勝利馬も含めれば14位まで落ち込むことになる。しかし、このような数字だけでは拾い上げられない偉業にも光を当てることができるからこそ、自由度の高い記者投票が存在する意義があるのではなかろうか。

 最も票が散らばった部門は短距離馬。該当馬なし以外に9頭に投票があった事実が主観の多様性が許容されている証拠となる。同部門は23年度表彰からマイラー(1400メートル以上~1600メートル以下)とスプリンター(1400メートル未満)の2部門に〝分割〟される。当然ながら今年のような乱戦は避けられるが、後者の得票数はナランフレグ(36)、ジャンダルム(26)、ダンシングプリンス(1)と全体の2割強程度の計63票。香港スプリントの日本勢の結果(5、10、12、13着)を見ても、今回のタイミングでの〝増設〟で賞自体の価値が高まるとは思えないのだが…。改善を繰り返してベストを目指すのはサラブレッドだけでなく、JRA賞も同じ。今後も機会を見つけて、一石を投じていきたい。

山河 浩

この記事を書いた記者

1973年生まれ、神奈川県出身。競馬との出会いは「ダビスタ2」。入社1年目から美浦トレセンで取材を担当。初めて惚れた馬はトロットサンダー。ゆえに地方馬の評価はやや甘くなる傾向も。無理筋な◎にも破壊力と説得力を両立させることに意欲を燃やす。

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