ハハに「認知症」の太鼓判が押された日。
脳のMRIは胡桃のようにスカスカだった。
「同年代の人と比べたら少し物忘れが多いかもしれませんね。お薬を出しますから朝夕2回飲んでください。MRIと脳波のフィルムの返却について娘さんにお願いするので、お母さんは待合室で待っててくださいね」
ニコニコとやさしくハハを診察室から退室させた医師の目から「ニコニコ」がなくなった。
「思っていたよりもひどい。同年代の人と比べても極端に小さいです。前頭葉と海馬の部分が見られないので、突然悪化する覚悟もしておいてください」
コリャマタ シビアナ ゴイケンデ。
ちなみに現在の状況は「名前、生年月日、現在いるところ」は理解できているけれど「今が何月何日か」はわかりません。
まだ徘徊や迷子になるというような問題行動は出ていませんが。
料理上手だった人が食事を作れなくなった。
ゴミ出しがちゃんとできなくなった(生ゴミの収集車は夕方にくるので早朝から出すとカラスがくる)。
「水戸黄門」の「話の筋がわからん」というようになった。
若い頃にいじめたおされた、姑が最後にかましたボケ攻撃を一緒に戦ったのに。
なんで、そのばーちゃんとおんなしになるんだよう。
今日、お昼休みに「認知症の家族の会」に電話して、ワタシのしている選択を「間違っていない」と言ってもらっていてよかったとおもった。
お薬をもらって、いつも歩く商店街をハハと二人で歩いて帰った。
確信をもっていたくせに、覚悟もしていたはずなのに、ぽろぽろぽろぽろ涙がおちる。
* * * * *
普段は寄り付かなくなったくせに、こんなときにはなぜか「自転車貸して」とウンコ王子がやってくる。
「用事が終わったらさっさと帰り」
「んー、もうちょっと。」
いつものようにおやつやジュースを食い漁って、なかなか帰らないので、泣きたかった私は彼に話すことにした。
「アンタ、小さいときオバチャンのこと認知とかいうたやろ?」
「んー、あぁ。」
「オバチャンの脳みそな、縮んで小さくなって、本当に認知症になった。」
「マジ?!」
「うん。アンタのこともオネーチャンのことも、忘れてしまうかもしれん。
オバチャンのおかず、おいしいからオカズ屋さんしたら? っていうてくれた
オバチャンのごはんも、もう作れない。もう食べられへんねん。」
「・・・・・・・・・」
そのとき、二階からハハが階段を下りてくる音がした。
ワタシはボロボロないていた。
「テレビつけて! はやく!
・・いっ、いまかわいそうな犬の話しとってん!!
ほんでネェチャン泣いてるねんで!
今オレがチャンネル変えたけど、さっきまで犬のんやっとってん!」
ワタシの泣いている理由を、高校2年になったウンコ王子がそういってかばってくれた。
・・・別の意味でまた涙がでた。
帰り際「オバチャン、またカニたべよな! ほんで、オバチャンも一緒にカラオケいこう!」と言ってくれた。
ありがとう。
覚悟はしていたけど、やっぱり混乱する。
しなくちゃいけないことは山ほどあるけど、今はまだ冷静に考えることができない。
でも、ハハはウチにいる。
介護保険、つかいたおしちゃる。

ログインしてコメントを確認・投稿する