スーツ不況で明暗。快活クラブ好調なAOKI、変われなかった王者・青山
スーツ量販店といえば、「洋服の青山」を展開する青山商事とAOKIホールディングスの2社が長らく市場をけん引してきた。だが、リモートワークの普及やオフィスウェアのカジュアル化が一気に進み、スーツ需要は構造的な縮小局面にある。市場環境は同じはずなのに、ここ数年で両社の“明暗”が分かれつつある。 【全画像をみる】スーツ不況で明暗。快活クラブ好調なAOKI、変われなかった王者・青山 売上高で最大手なのは今も青山商事だ。しかし2019年、利益水準や時価総額ではAOKIが青山を逆転した。新型コロナウイルス禍でスーツ需要が蒸発したのちの回復局面でも、AOKIはコロナ前とほぼ同水準まで売り上げを戻した一方、青山商事は落ち込みから抜け出せていない。2025年12月1日段階の時価総額も、AOKIの約1500億円に対して、青山商事は約1200億円と水を空けられている。 同じ逆風下で、なぜここまで差が開いたのか。2社の戦略の違いをたどると、その答えが見えてくる。
AOKIの静かな逆転劇
まず、両社の直近の通期決算を見てみよう。 2025年3月期は、青山商事が売上高1947億9000万円/営業利益125億7300万円。 一方のAOKIホールディングスは売上高1926億8800万円/営業利益156億4600万円だった。売り上げ規模では青山商事がわずかに上回るものの、利益ではAOKIが約31億円差でリードする構図だ。この差はコロナ禍以前から続いていたものではない。 2019年3月期を振り返ると、青山商事は売上高2503億円/営業利益146億2900万円。AOKIは売上高1939億1800万円/営業利益134億9100万円と、当時は売り上げ・利益ともに青山が優勢だった。 しかし、パンデミック以降の推移を見ると風向きが変わる。AOKIはコロナ前の水準にほぼ戻るまでに業績を立て直した一方、青山商事はトップラインの回復に苦戦している。
スーツ量販店の時代を切りひらいたのは青山だった
両社の歴史を振り返ると、その立ち位置の違いが見えてくる。紳士服量販店が一気に伸びた1980年代、青山商事はその波をつかみ、長らく業界のトップランナーであり続けた。量販店各社が相次いで成功した時代にあっても、売上高No.1を堅持してきた“王道”の存在だ。 対してAOKIは同じ時流には乗りつつも、売り上げ規模では青山商事の背中を追う立場が続いた。市場の拡大期を共に駆け上がりながらも、ポジションは常に“2番手”だった。 そもそも日本において、初めて郊外立地の紳士服専門店が開店したのは1974年4月。青山商事の「洋服の青山」西条店(広島)だ。1973年は日本経済が第一次オイルショックに見舞われた年で、いわゆる高度経済成長が終わりを告げた時期に郊外立地の紳士服専門店が産声をあげたわけだ。 青山商事の創業者・青山五郎氏の手記によると、同社は1964年、広島県府中市で誕生した。創業当初は紳士服だけでなく、食料品や飲料品、県の特産品なども扱う、いわば“なんでも屋”としてスタートしたという。 その後、事業拡大を目指して顧客アンケートを実施したところ、「リーズナブルな価格で、品ぞろえが豊富な広い店がほしい」というニーズがはっきりと浮かび上がった。しかし、当時の家賃水準を踏まえれば、街中に大型店舗を構えるのはリスクが大きい。そこで創業者は、アメリカ視察での経験をもとに、当時日本でも爆発的に普及が進んでいた車で来店する前提の郊外立地を選ぶ決断をする。こうして、広島市から約40キロ離れた郊外に、業界で初めてとなる“郊外型の紳士服専門店”が誕生した。