連載「石破農政改革はなぜ頓挫したのか」①
今後5年間の農政の指針となる食料・農業・農村基本計画。4月に改訂されたこの計画には、2030年のコメの輸出量を35万トンにする目標が新たに盛り込まれた。
24年実績の8倍に増やす野心的な青写真。実は、農林水産省が石破茂首相(当時)に渡した説明資料には、35万トンとは別に、石破氏の肝いりの目標が括弧書きで記されていた。
(40年 100万トン)
後の首相交代で幻に終わる、非公表の輸出目標だった。
石破氏は、半世紀以上にわたる生産調整をやめ、増産にかじを切ると宣言した。人口減で国内需要が先細るのは不可避ななか、輸出拡大は増産路線の成否を決める、いわば肝だった。
石破氏の100万トン目標に、農水省は当初は反対した。実現できない目標を掲げて増産すれば、コメが余って米価が暴落し、農家の救済に巨額の税金が投入される事態に陥ることを心配したからだ。
粘り気がある日本の短粒種は、世界では非主流だ。しかも、生産性の低い日本のコメには、価格競争力もない。農水省は、世界の輸出市場は年200万トン程度にとどまると見ていた。その中で、日本のコメを100万トンも輸出できるのか。
「100万トンはとんでもない目標ですよ」。江藤拓農水相(同)は、日本の米価が海外の各国よりも数倍も高い資料をつくって、説得しようとした。だが、石破氏は一歩も持論を譲らなかったという。
「おにぎりは海外でもっと売れるはずだ」
「やってみなければわからないではないか」
政府関係者によると、農水省は当初、30年に18万トンとする案を提示した。首相周辺に「1桁違う」とはねつけられると、困り果てた。
農水省は策を講じた。
基本計画の目標年次は30年だ。100万トンを40年の目標に位置づければ、計画に書かなくてすむ。非公表にさえしておけば、首相が代わったら100万トンは存在しない目標になるはずだ――。
江藤氏は、100万トン目標について省内でこう話していたという。「私の頭の片隅にもない」
事態は農水省の読みどおりになった。増産路線は高市政権下で雲散霧消し、100万トン目標を支持する有力者は、もはや官邸にいない。自民党農水族議員からは、早くも35万トン目標でさえ、「できるわけないから、現実的な数字に変えるべきだ」との声があがる。
石破氏と江藤氏のどちらが正しかったのか。将来の予想は難しい。ただ、石破氏がごり押しした100万トンの根拠を、農水省が納得していなかったことは、確かだ。
農水省のある幹部は100万トンを、「単に切りがいいだけで、EBPM(証拠に基づく政策立案)とはほど遠い数字だ」と批判する。
本当に「切りがいいから」なのか。朝日新聞はインタビューで、石破氏に尋ねた。石破氏は「そうだ」と認めた上で、こう続けた。「大きな目標を掲げないと、そこに至る道を考えない」
改革は必ず反対を伴う。反対を乗り越えるには、改革の根拠を明確に示し、丁寧に説明をすることが欠かせない。輸出目標をめぐる石破氏と江藤氏のさや当ては、理想と現実のはざまに埋もれた、石破氏のコメ改革の実像を端的に示している。
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