中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わない」現状――医師の危機感で始まった愛媛の「思春期教室」#性のギモン
「Aの誘い方はちょっと強引。Bの立場になって考えてほしい」 「Bには『嫌だったら断れるようになろう』って言う」 グループごとにまとめた考えを、全員で共有した。 授業の最後、福岡さんは生徒たちにこう呼びかけた。 「悩みがあったら先生にもぜひ相談してください。力になれると思います」 終了後、生徒たちに感想を聞いた。 「普段、ふざけて『付き合いたい』って言うこともある。でも授業を受けるまで、その先のことを考えたことはありませんでした。友達が同じ状況になったら、声をかけたい」 「ネタ的に話すことはあるけれど、今日みたいに、みんなで真剣に話し合う機会はなかった。大事だと思いました」
福岡さんが思春期教室で教えるのは、この日が3回目。 「嫌なときはノーと言っていい」「お互いの気持ちを尊重する」と、生徒たちが性行為につながる前段の理解を深めたことに手応えを感じた。一方で、BがAの家に行った場合、どうするか考えさせるところまではたどり着けなかった。「次の課題ですね。生徒と一緒に学んでいきたいです」
宇和島の取り組みが松山に広がる
もともと「思春期教室」は、愛媛県宇和島市で行われていた。宇和島の取り組みを知った、医師の鉾石文彦さんが「松山でも広げられないか」と校長や養護教諭に呼びかけた。2023年のことだ。 市の性教育推進委員会の委員長を務める鉾石さんは医師としての視点で、「子どもたちが正しい判断をできるようになるには対等な人間関係を築くための人権を基盤にした教育と、生殖器の機能と構造について科学的に学ぶことが大切」と強調する。
性感染症や、望まない妊娠をした子どもたちを診察する、医師たちの危機感は大きい。 松山市の産婦人科医・鵜久森夏世さんが勤める「つばきウイメンズクリニック」には10代の女子も訪れる。 クラミジア感染で受診した高校生の女の子。避妊はせず、大学生のパートナーがネットで買ったアフターピルを飲んでいたという。トイレで性暴力を受けアフターピルをもらいにきた中学生、望まない妊娠で中絶した子もいる。 そうした子たちは家族や友人など周りの人に、相談できない傾向があるという。身近な人と性について相談し合えるようにと、鵜久森さんは県内の小中学校で性教育を行ってきた。 「今の子どもたちは、スマホでなんでも調べられるので、性のことを知っている子は知っています。でも、アダルトサイトの間違った情報を『知っている』ということもある。最初は嫌がっていて、最後は気持ちいいなんてあり得ません。同意のない性的な行為は性暴力で、他の人の境界線に勝手に踏み込んではいけないと教える必要があります。いま性行為をするわけではないけれども、将来のために学ぼうよという意識で教えています。高校に進学しない子もいるので、義務教育で教えることに意義があります」