中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わない」現状――医師の危機感で始まった愛媛の「思春期教室」#性のギモン
指導内容をパッケージ化 導入ハードルを下げる
医師たちの呼びかけに松山市の教育現場も動いた。市教委が事務局になり、学習指導要領に沿い、市の性に関する指導書資料をベースに、思春期教室のパッケージをつくった。 「生徒が自分の目標を定め、振り返ることができるように学活(学級活動)の時間を思春期教室に充てました。学んだことをワークシートに記入し、保護者と話し合うなど家庭との連携を大事にしています」(松山市教委) 思春期教室は希望制で、市立中29校のうち、取り組みを始めた2024年度には4校、2025年度は10月時点で9校が思春期教室を開いた。夏休み前の依頼も目立つ。 広がっているのには要因がある。一つは忙しい教員が授業をしやすいように指導内容をパッケージ化したこと。ワークシートのひな形もあり、ハードルを低くした。もう一つは講師の育成。菊池さんらが、助産師や医師らと包括的性教育に関する学習会をして、講師を増やしている。 「先生の工夫によって、いろいろな授業が展開されます。思春期教室に正解はありません。友達や先生と一緒に、教室で性について真剣に考える。その経験を大事にしてほしい」(菊池さん)
包括的性教育 日本では導入に遅れ
包括的性教育とは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が提唱する国際基準「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に基づいた、人権を基盤にした性教育だ。ガイダンスは2009年に作成された。
菊池さんは「体や生殖の仕組みにとどまらず、ジェンダーや人間関係への理解、性の多様性など幅広いテーマを含む教育です」と説明する。 海外ではこのガイダンスに沿って、性教育が行われているという。幼児期である5歳から年齢に応じ、繰り返し段階的に学んでいく。性に関する権利を知り、その上で意思決定したり、自分の権利について意見を表明したりして、自分や周りの幸せを追求できるようになる。 日本でも包括的性教育を取り入れる自治体や学校は一部にあるが、全体的には遅れている。遅れは国会でも取り上げられ、立憲民主党が2022年に文科省に学校で包括的性教育を進めるよう申し入れている。 松山市のある中学校で、思春期教室で学んだ生徒は、授業後のアンケートにこう書いている。 「好きな人ができたり、エッチなことに興味を持ったりするのは当たり前と聞いて安心した。性と向き合うことは『生』に関係しているので、誤った性情報に惑わされず、正しい性情報を知ることが大切。(中略)お互いに性と向き合って対等な関係で話し合えることが大切だ」 松山では保護者向けの性教育講座も開かれている。性的いじめや性暴力を防ぐには、子どもたちとともに大人も学び、相談しやすい環境をつくることが欠かせない。 田中瑠衣子 ジャーナリスト。北海道新聞、繊維専門紙記者を経てフリーに。 「#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。