中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わない」現状――医師の危機感で始まった愛媛の「思春期教室」#性のギモン
性交を教えてはいけないと解釈される「はどめ規定」
文部科学省が約10年に一度改訂する学習指導要領によると、中学校の保健体育で保健分野の授業時間は3年間で48時間程度とされる。ただし、性に関する単元で時間数に決まりがあるわけではない。 文科省が2023年度から推進するのが「生命(いのち)の安全教育」だ。子どもたちを性暴力の加害者や被害者、傍観者にしないことが目的で、プライベートパーツの大切さや、SNSで巻き込まれる性暴力などを年齢に応じて教える。就学前から大学までが対象だ。 インターネットで知り合った人や、教員や親といった身近な人からの性暴力が社会問題になっていることが背景にある。 そうした社会背景に合わせて指導内容も変わってきているが、変わっていないものもある。「性交」についてだ。
学習指導要領では中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」と定めている。要するに、性交を教えてはいけないと解釈されているのだ。これは「はどめ規定」と呼ばれている。 文科省は「決して教えてはならないというものではない」との見解だ。だが、「はどめ規定」があるために学校や教員が性教育に消極的になることもある。 そんななか、愛媛県松山市は2024年から市立中学校で思春期教室をスタートさせた。
「うちで一緒に勉強しよう」 どう答える?
10月の思春期教室。菊池さんの前では真面目な表情だった生徒たち。教室に戻ると、リラックスした表情に変わった。生徒たちは、講師から聞いた内容を今度は自分ごととして考える作業に入る。教えるのは学級担任の福岡拓矢さん。普段は英語担当だ。
授業は「ある状況」を設定したうえで、グループディスカッションが行われた。 《お互い好意を持つ中学生のAとBがいます。ある日の部活の帰り道、いきなりBの手をAが握りました。Bはびっくりしましたが、ドキドキしながらそのまましばらく歩き、家の近くで別れました。家に帰ってからAは「手をつないで良かったのかな」、Bは「やめて」と断ったほうがよかったのかなと悩みました。その後、2人きりになると、AはBの手や肩に何気なく触れてくるようになりました。しばらくして、Aが「今度の日曜日、家族が出かけて家にいない。うちで一緒に勉強しよう」と誘ってきました》 生徒たちは、AとBの友人という立場。2人がお互いを大切にする関係を続けるには、どんなアドバイスをすればよいか考える。 グループに分かれると、どんどん意見が上がった。 「勉強目的なら他の場所でもいいと思う。Aにはマックやスタバ、図書館とか場所を変えたほうがいいと言う」