中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わない」現状――医師の危機感で始まった愛媛の「思春期教室」#性のギモン
10代の望まない妊娠や、性暴力を防ぎたい。そんな危機感を持つ医師や教員、自治体がチームを組み、学校で「包括的性教育」を進める動きが出てきた。包括的性教育とは、人権尊重を基盤に幅広く性について学ぶこと。SNSなどで多様な情報があふれる今、子どもたちが性暴力の被害者、加害者、傍観者にならないための教育とはどんなものか。新しい取り組みに挑戦する学校の授業、医師、教員らを取材した。(文・写真:ジャーナリスト・田中瑠衣子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
外部講師とクラス担任がそれぞれ授業
西に松山城、北には道後温泉がある愛媛大学教育学部附属中学校。10月下旬、同校で「思春期教室」が開かれていた。 「中学生は子どもだけれども、妊娠したり、妊娠させたりすることがある。マルかバツ、どちらだと思いますか?」 元小学校教員で外部講師の菊池準子さんが、中学2年生約130人にこう尋ねた。 生徒たちは周りの子と話し合う。 「中学生が妊娠したってテレビで見たからあるんじゃない?」 「体が変わる途中だから、ないと思う」 大半の生徒が「マル」に手を挙げた。
菊池さんは30年以上性教育のあり方を研究し、2017年に教員を退職。その後、外部講師として愛媛県内の小中学校などで性について教えている。講演は8年間で500回を超えた。 基本的な思春期教室のカリキュラムは3年間で計6時間。菊池さんたち外部講師とクラス担任が年に1回、1時間ずつ計2時間の授業を行う。 「医師や助産師など外部講師が専門的な知識を教え、クラス担任が身近な事例に落とし込みます。クラス担任が授業をすることで、生徒が相談しやすくなります」(菊池さん) 中1のときは思春期の体の変化、月経や射精の仕組み、ズボンを下げる「ずりパン」などのいたずらも性的いじめになることを教えた。自慰は自然なことだが、清潔な手で触り、強い刺激は避けることも伝えた。
中2の今回は、生命の誕生や性衝動への対応がテーマだ。前半は助産師の福岡花奈江さんが受精の仕組み、胎児や新生児の成長の様子を、クイズを交えて説明した。自分自身が、どう生まれてきたのか知ってもらう。 この日の授業で、菊池さんは「中学生なのだから、ちょっとエッチなことに興味が出てきたり、好きな子ができたりするのは当たり前」と伝えた上で、こう話した。 「性的な接触をしたらね、妊娠したり性感染症になったりすることもあるし、性暴力の当事者になることもあります。興味半分でも真剣な付き合いでも、です。男の子は妊娠させることができる体だということを自覚してください。女の子はノーと言える勇気を持ってね」