原告暇空、被告東京都知事等の住民訴訟の面白さ
原告の少女アイコン40代男性が、東京都知事等に提起した住民訴訟の面白さに触れていきたい。
第1章:住民訴訟の概要と対象契約
住民訴訟の概要
地方自治法242条の2
地方自治法242条の2(住民訴訟)
1 普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求(住民監査請求)をした場合において、同条第五項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第五項の規定による監査若しくは勧告を同条第六項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもって次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二の八第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合には、当該賠償の命令をすることを求める請求
2 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める期間内に提起しなければならない。
一 監査委員の監査の結果又は勧告に不服がある場合 当該監査の結果又は当該勧告の内容の通知があつた日から三十日以内
二 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員の措置に不服がある場合 当該措置に係る監査委員の通知があつた日から三十日以内
三 監査委員が請求をした日から六十日を経過しても監査又は勧告を行わない場合 当該六十日を経過した日から三十日以内
四 監査委員の勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員が措置を講じない場合 当該勧告に示された期間を経過した日から三十日以内
3 前項の期間は、不変期間とする。
4 第一項の規定による訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができない。
5 第一項の規定による訴訟は、当該普通地方公共団体の事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。
6 第一項第一号の規定による請求に基づく差止めは、当該行為を差し止めることによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがあるときは、することができない。
7 第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。
8 前項の訴訟告知があつたときは、第一項第四号の規定による訴訟が終了した日から六月を経過するまでの間は、当該訴訟に係る損害賠償又は不当利得返還の請求権の時効は、完成しない。
9 民法第百五十三条第二項の規定は、前項の規定による時効の完成猶予について準用する。
10 第一項に規定する違法な行為又は怠る事実については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
11 第二項から前項までに定めるもののほか、第一項の規定による訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条の規定の適用があるものとする。
12 第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士、弁護士法人又は弁護士・外国法事務弁護士共同法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
行政事件訴訟法においては、審査請求をすることができる場合においても直ちに訴訟を提起できるのが原則であるが(行政事件訴訟法8条1項前段)、住民訴訟は例外である。(例外は法令で定められており、住民訴訟もその一つ)
住民監査請求前置主義を採用している「住民訴訟」は、住民監査請求の理解ができないと理解できない。少女アイコン40代男性が東京都監査委員に請求した住民監査請求については前々記事・前記事を参照してほしい。
【訴訟類型】地方自治法242条の2第1項
一号請求 差止請求
二号請求 取消または無効確認請求
三号請求 違法確認請求
四号請求 執行機関または職員に対して、職員又は相手方に損害賠償又は不当利得の返還をすることを求める請求
少女アイコン40代男性が原告として提起した住民訴訟も四号請求。
訴訟対象
令和3年度・令和4年度に東京都が実施した「東京都若年被害女性等支援事業」における「委託契約」(所轄:福祉保健局、現在の福祉局)及び令和3年度・令和4年度に東京都が実施した「東京都配偶者暴力被害者等セーフティネット強化支援交付金事業における支援金」(所轄:生活文化スポーツ局)をめぐり、住民訴訟が提起された。原告は「少女アイコン40代男性」で、対象となった契約団体はColabo、ぱっぷす、Bond、若草である。
原告は、東京都知事または職員が、契約相手や契約に関与した職員に対して損害賠償請求や返還請求を行うべきと主張している。
「令和3年度東京都若年被害女性等支援事業における委託契約」に対して提起された住民訴訟を簡易に図解したのが下図である。
第2章:原告の主張と請求内容
原告の主張は以下の4つに分類される:
• 契約相手が債務不履行をしたため、民法415条に基づく損害賠償請求をすべき
• 契約相手が不法行為を行ったため、民法709条に基づく損害賠償請求をすべき
• 契約相手に法律上の原因なく利得があるため、民法703条に基づく不当利得返還請求をすべき
• 職員が違法な手続きを行い、東京都に損害を与えたため、職員に対して損害賠償請求をすべき
請求相手は契約団体だけでなく、契約書に押印した職員個人にまで及んでおり、訴訟構造は複雑化している。
第3章:具体的な訴訟事例と請求構造
令和3年度・令和4年度の4団体に対する委託契約や支援金についてだけでなく、国の事業に対して事業自体の存在を否定する住民訴訟まで提起しているが、基本は同じである。
契約相手Colaboに対する「令和3年度東京都若年被害女性等支援事業」における「委託契約」に対して提起された住民訴訟
• 原告は、東京都知事(または担当職員)がColaboに対して2,600万円を請求すべきと主張
• 訴訟は「変更後」とされており(下図)、訴訟構造の変更による時間稼ぎが疑われている
令和3年度東京都配偶者暴力被害者等セーフティネット強化支援交付金事業においてBondに支給された支援金に対して提起された住民訴訟
• 主位的請求:東京都知事がBondに対して返還請求を行うべき
• 予備的請求:担当職員がBondに対して返還請求を行うべき、東京都知事が担当職員に損害賠償請求すべき
• さらに、印を押した職員の個人名を挙げた請求も含まれている
このように原告は10件以上の住民訴訟を提起しているが、いずれも「東京都に損害が生じているから金を払え」という主張に集約される。しかし、東京都に損失があったという事実や損失の根拠、責任の所在は不明瞭である。
第4章:被告(東京都知事)の反論
被告側は以下のような反論を展開している:
• 「選択的併合として不適法」:異なる請求原因(債務不履行・不法行為・不当利得)を一括して主張している点が問題
• 「局長は被告適格を有さない」:契約に関与していない財務局長などを被告に含めている点が不適切
被告である東京都知事のこれらの反論は、原告の提起した住民訴訟の訴訟構造の不備や立証責任の転嫁を指摘するものである。
「選択的併合として不適法」の意味
こちらは住民訴訟の東京地裁判決があるので判決文から(下図)
上段では「不法行為による損害賠償請求」に「不当利得による返還請求」を追加したことについて
・請求の相手が「Bond」であり
・東京都に金銭での支払請求
という「請求原因事実」が一定程度同一として、追加の訴えの併合を認めている。
下段では
・請求相手(Bondから担当職員に変更)
・請求原因(不法行為から債務不履行への変更)
ともに違うとして選択的併合を認めていない。
「局長が被告適格を通さない」の意味
「局長が被告適格を通さない」というのは、書類に判のある職員を請求相手にしているので、一般会計予算からの支払を承認した「財務局長」が含まれていると推測される。財務局長は「契約」には関係ないので被告適格を有さない。
第5章:補助参加人(Colabo)の主張
東京都との契約相手に対して金銭支払を請求しているから、代表としてColaboの主張について取り上げることにする。
①Colabo側は、東京都による再調査で契約金額の妥当性が確認されたことを根拠に、原告の主張を否定している。
②原告が提出すべき立証責任を、被告や補助参加人に転嫁している
③「活動計算書」と「年間の実施状況報告書」の目的の違いを理解せず、両者を比較して不正と断定している
Colaboは、契約金額に関係のない資料の提出を拒否しており、原告の主張は根拠に乏しいと主張している。
①Colabo側は、東京都による再調査で契約金額の妥当性が確認されたことを根拠に、原告の主張を否定している
住民監査請求において再調査が行われ、東京都から「令和3年度の委託契約において支払った委託料に問題が無かった」と公表された。Colaboは、契約相手である東京都から委託契約において東京都は損害が無かったと公表されたのだから、不法行為なり債務不履行責任による損害賠償義務も不当利得返還義務もないし、そのような債務の不存在を確認する利益がない。
東京都がColaboに対して契約の対価として支払った委託料2,600万円には問題がない。
東京都が、委託料算定のための東京都の事業経費として特定した金額が2,713万円であって、契約金額の上限2,600万円を契約金額を算定・形成する事業経費が上回っているため、問題無い。
②原告が提出すべき立証責任を、被告や補助参加人に転嫁している
原告の主張は
⑴監督・検査していないのに支払がされた
⇒再調査で領収書等の証憑と管理台帳の突合などがなされた
⑵疑わしい
⇒原告が証拠を持って立証したことになっていない
⑶東京都やColaboが証拠を提出して立証しろ
⇒東京都の損害をColaboが立証するのは不可能
③「活動計算書」と「年間の実施状況報告書」の目的の違いを理解せず、両者を比較して不正と断定している
原告は、疑わしい根拠して
・外部利害関係者への報告目的のためNPO法人会計基準によって作成される「活動計算書」
・委託契約における委託料算定目的で作成・報告される「年間の実施状況報告書」
を安易に比較しているだけであり、一致しない項目を見つけて勝手に問題にしたり、疑義があると繰り返しているだけ。
原告は、下記の図が理解できていないから「活動計算書」と「年間の実施状況報告書」を比較して、勝手に疑いを持っているのだろうと推測される。
第6章:住民監査請求の結果の措置である再調査結果等と会計資料を比較する誤解
上図のとおり、住民訴訟において補助参加人Colabo代理人から「活動計算書」と「年間の実施状況報告書」では金額が一致しない理由が述べられている。
再調査結果から同一の内容を指摘している事象を紹介する。
【令和3年度東京都若年被害女性等支援事業における委託契約に対してなされた住民監査請求の結果としてなされた再調査結果】
https://www.kansa.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/kansa/4jumin5_sochi2
再調査の結果、管理台帳に「給食費」として計上されていた金額は、東京都との契約においては「消耗品費」とされた。
この支出はお皿などの食器(紙皿、紙コップなど)だと推定される。
Colaboは食器を「食事のために要する」として「食事費」として管理台帳に記帳していたが、東京都は「食器という消耗品の購入のために要した」として「消耗品費」への振り替え指示をした。
Colaboの活動計算書における科目では、食事費でも消耗品費でも雑費でも食器費でもなんでもよいが、東京都との委託契約においては「消耗品」という「費用発生形態」に対する分類として「消耗品費」として計上してほしいとし、管理台帳に記帳していた「食事のため」という「費用発生目的別」の費用計上を修正指示しただけである。
このように「活動計算書」と「年間の実施状況報告書」は「同一の科目」であっても、目的の違うので集計取引範囲が異なる場合もある。
下図において上段の「会計報告」と「契約における報告」が全く関係ないことを理解してほしい。
・契約金額の算定のために、東京都が契約において「Colaboの会計」とは別に管理するように義務付けて、Colaboが東京都の事業に要したと考えている費用を計上した「管理台帳」は、法定の会計帳簿とは違うので「会計における」「活動計算書」の作成に関係がない。(上記☆1)
・管理台帳を元に作成・報告される「年間の実施状況報告書」と「会計における」「活動計算書」は目的が異なるため、金額の不一致は当然にある。
・東京都の精算処理を適正に行うためになされた「教示」を考慮した管理台帳は「令和3年度の委託契約における契約金額2,600万円、つまり東京都が支払った2,600万円」に全く関係がない。(上記☆2)
原告はこの違いを理解せず、証憑書類の提出を求めているが、契約金額とは無関係である。(下図)
第7章:原告の主張の問題点と住民監査請求における理解不足
原告の主張に対する問題点
原告の主張には以下の問題がある
• 請求相手・請求根拠が一貫しておらず、訴訟構造が不明瞭
• 会計資料の誤読に基づく不正認定が多く、立証責任の所在が曖昧
• 被告・補助参加人の反論は契約構造と法的適格性に基づいており、原告の主張は説得力に欠ける
結果として、原告の住民訴訟は「不正があるはずだ」という推測に基づいたものであり、具体的な証拠や法的根拠に乏しい。
原告の住民監査請求における理解不足
結局のところ、住民監査請求において「都の精算処理の不当性」が正しく理解されていないことが、訴訟の根本的な問題である。
教示されたのは、Colaboの会計から東京都事業分だけを算定する方法。
管理台帳に東京都以外の事業分の事業費用が計上されていても、会計報告には何も影響しない。
再調査において教示がなされた理由
令和3年度における委託契約における契約金額には問題がない。(東京都が支払う委託料2,600万円は変わらない)
しかし、令和4年度において
• 予算が4,500万円超に増額されたため、令和3年度と同様の計上方法(東京都事業+東京都以外事業)を用いた場合、東京都の担当職員が見逃す可能性があり、精算決定に誤りが生じるおそれがある。
• その結果、東京都以外の事業費用が契約金額に含まれることになり、「東京都事業費用の精算」という契約趣旨に反し、不当な支出が生じる可能性がある。
従って、令和5年2月中旬に再調査がなされ、再調査においては令和4年度の確定データが存在しなかったため、令和3年度の確定データを用いて東京都事業分を算定する方法が「教示」された。
教示の影響と住民訴訟との関係
• 令和3年度に誤りがあったとしても、東京都に損害は生じていない。
• 令和4年度においては、損害が生じる可能性があるため、教示された方法による修正が必要とされた。
• Colaboは、教示に基づき令和3年度の確定データを用いて再計算し、令和3年度の管理台帳を修正したと推測される。
• 裁判所の申し立てによる提出命令により、修正後の管理台帳が住民訴訟の資料として提出されたと考えられる。
なお、再調査において「領収書」の一部提示を支援女性の個人情報保護の観点から拒否したことによる、管理台帳への計上が否認された部分については、活動計算書には影響しない。これは単に「契約金額算定のための事業費用」として認められなかったにすぎないからである。
住民訴訟において
・再調査における管理台帳の修正
・管理台帳や年間の実施状況報告書を比較したり、両者と会計報告である活動計算書と比較して差額が存在する
という事象は原則「令和3年度の委託契約」には何も関係ないから争点にならない。争点になるのなら「令和3年度の契約金額」への影響を原告が立証するべきだが、原告の主張が「令和3年度の契約金額」に全く関係のないことであるのが理解できないのだろう。
委託契約において契約相手Colaboの場合を中心に述べたが、他の団体も基本同じで、会計報告と契約による報告を比較して違いを「不正の疑い」として訴訟しているだけで、実質的な立証を伴わない住民訴訟が、10件以上提起された。
追記
連中から資料を拾ったので解説
①(黄色部分)実際に東京都によって経費として認められたかどうかにかかわらず
住民監査請求による監査実施前の管理台帳に記載されていた合計金額2,900万円のことであり、東京都によって認められた経費を計上しているものではなく、あくまでColaboが東京都の事業実施に要したと判断した経費を計上している。
2,900万円計上して2,710万しか東京都に認められなかったからと言って「不正」ではない。
②(水色部分)再調査後の考え方でColaboが作成しなおした金額が4,290万円(事後的に認められなかったケースもある)
事後的に認められなかったケースとは、東京都の再調査時において支援女性の個人情報保護のために領収著提示を拒否した部分も含むという意味であり、Colaboは、東京都の事業に要したと判断している。契約では認められなかっただけであり、Colaboが東京都の事業を赤字で遂行していることを裁判所に示したかったのだろうと推測される。
「令和3年度の委託契約」には何も関係ないことであり、Colaboが東京都に報告した「実施状況報告書2,600万円」は問題無いことであり、東京都がColaboに支払った委託料2,600万円も何も問題がない。


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