この10年で、日本にもフェミニズムが一気に浸透しました。その一方、SNSを開けば、今日もどこかで男女が衝突を繰り返している。男性にとって、フェミニズムは自分たちの立場を危ぶませる脅威なのでしょうか。

けれど、フェミニズムと出会うことによって救われる男性もたくさんいる気がします。そこで話を聞いたのが、現在、全国の学校で子どもたちにフェミニズムの視点を取り入れた「生と性の授業」を教えている元小学校教員の星野俊樹さん。星野さんもまた“男らしさ”の呪縛に苦しめられていたとき、フェミニズムと出会い、救われたと言います。

今なぜ男性たちにフェミニズムが必要なのか。ミモレ特別授業の開講です。

(インタビュー:横川良明)
 


男社会でジェンダー平等を語ると、怪しい宗教扱いされる

「男性だって怒っていい。ただし怒るべきは女性にではなく、家父長制という社会構造」フェミニズムに救われた元小学校教諭が、生きづらい世の中と嘆く男性たちに伝えたいこと_img0
 

――今回は、星野先生になぜ男性に今フェミニズムが必要なのかということを聞いていきたいと思います。というのも、男性の中にはフェミニズムを嫌っている人が相当数いるなと感じていて。

わかります。僕も男の人だけで飲みに行ったとき、ジェンダー平等に関する話をしたら、「お前もあっち側に行ったのか」という扱いを受けたことがあります。それはもう怪しい宗教にハマった人を見るような目で。

――僕の友人男性ははっきりと「生きづらい世の中になった」と嘆いていました。

今、小学校では、性別にかかわらず児童を「さん付け」で呼んだり、本人が望む呼び方を尊重したりすることが推奨されています。けれど、中には、男子には「くん」、女子には「さん」や「ちゃん」といった呼び方に固執し、児童の性自認に配慮せず、性別二元論にこだわり続ける先生たちもいます。

――星野先生は、そうした価値観の相容れなさをどう乗り越えていくんでしょうか。

そういう相手が、なぜそのような価値観を持つに至ったのか、その人のこれまでの人生を含めた背景に関心をもち、耳を傾けようとする姿勢を示す必要があると思います。だから、もしその相手との関係性を諦めたくなかったら、まずはじっくり話をすることですよね。以前、伝統的なジェンダー規範を盲信し、無自覚に子どもたちにそれを強いる教員仲間がいて。僕は、ずっと彼と対話を避けてきたのですが、ある時、勉強会で会った時にやはり対話してみようと思いました。

よくよく彼の身の上を聞いてみると、彼は家父長制の中で、権威的な父親にひどく抑圧され苦しんだ生育歴を持っていたんですね。つまり、彼もまた家父長制の被害者であることがわかりました。自分の生育歴とも被るところが多かったので、僕は思わず「それは辛かったですね。そんな中、大変な思いをして生きてきたんですね」と労いの言葉を思わずかけてしまいました。

その上で、僕自身も家父長制の色濃い家庭で父に虐待されてきた生育歴を話し、さらにゲイとして、いかにこれまで社会からいないものと扱われ、抑圧され、悔しい思いをしてきたかを伝えました。だからこそ、子どもたちに自分と同じような思いをしてほしくないという思いで自分はフェミニズムの教育をしているのだと語りました。そして彼に、僕たちは思想が異なる敵同士ではなく、家父長制という共通の構造の被害者であり、むしろ、その傷や苦しみを分かち合える仲間なんじゃないですか? と伝えました。

すると、その人も「星野さんがなぜこんなにジェンダーの問題に深く関わっているのか、その理由がよくわかったよ。子どもたちの幸せを守りたいという意味では、自分と星野さんが目指す方向性は同じ。僕ももっと学ばなければいけないですね」と言ってくれて、それは本当にうれしかったですね。それまで僕は彼のことを「話が通じないやばい奴」と半ば悪魔化していたところがありました。でも、そうじゃなかった。とはいえ、もし僕が女性だったら、彼は僕の話に素直に耳を傾けてくれたろうかという疑問も残りました。

そう考えるとすごく複雑ではあったんですけど、でも同じ男性だから話が通じたのであれば、男性は男性に対し、ジェンダー平等について積極的に伝えていく義務と責任があるのではないかと強く思いました。