「男性だって怒っていい。ただし怒るべきは女性にではなく、家父長制という社会構造」フェミニズムに救われた元小学校教諭が、生きづらい世の中と嘆く男性たちに伝えたいこと
“男らしさ”に縛られている人ほどフェミニズムに出会う必要がある
――すごくよくわかる反面、自分もまだまだジェンダー平等に対して知識が足りなかったり認識が甘いところがあって。たとえば、ジェンダー規範についても、世の中には「男は強くあるべき」「男は女を守るべき」と考える人はたくさんいて。それ自体は別に否定されるものではないじゃないですか。ただ、それらの考えを容認することが、いわゆる家父長制的な価値観の温存につながっているようにも感じられて、どうしたらいいのかわからなくなります。 「強くありたい」という願いは、個人の価値観としてただちに否定されるべきものではありません。しかし、それが「男は強くあるべき」というという規範になると話は別です。そこには、男であることに特定のふるまいを強制する圧が生まれてしまうからです。ましてや「男は女を守るべき」という規範は、慈悲的性差別として批判されるべきものです。 慈悲的性差別とは、表面上は「やさしさ」や「思いやり」に見える、女性を「守られる側」「弱い側」に固定してしまう考え方のことです。「男は女を守るべきだ」という言葉には、「女は自分で自分を守れない」「判断したり、責任を負ったりするのは男の役割だ」という前提がセットでくっついています。つまり、男女間における『守る/守られる』という非対称な関係を当たり前だとみなしてしまう。その結果、女性が対等なパートナーとして扱われず、男性に「守られること」を期待される一方で、自立しようとすると「かわいげがない」「生意気だ」と評価されてしまう危険があります。 同時に、男性の側にも「いつでも強く、頼りがいがなければならない」という圧がかかり、弱さや不安を見せられなくなる。こうして、男女ともに自由を狭めるしくみとして働いてしまうのです。こうした規範は、「父親が家長として家族を率い、妻や子どもを守るべきだ」とする家父長制の価値観を強化することにつながります。問題は、このような考えが社会の「唯一の正解」として押しつけられるときです。「そうでなければ男じゃない」という空気が構造的な圧力になっていくのです。 けれども改めて言いますが、筋肉をつけたい、強くありたい、認められたい、頼られたいといった願い自体は、僕はまっすぐなものだと思うし、否定したくはありません。ただ、それが唯一のあり方にされてしまうと他の選択肢が奪われ、「男らしさ」は呪縛となってしまう。そこに男性が抱える深い生きづらさがあるのだと思います。 男性学者の伊藤公雄さんは、「有害な男らしさ」とは、自分や他者を害するまでの過剰な男らしさへの執着だと語っています。だからこそ、僕は「男らしさがどんな場面で、どう機能するときに有害化するのか」を考え続けたいのです。 本(『とびこえる教室―フェミニズムと出会った僕が子どもたちと考えた「ふつう」』)に書いた通り、僕の家も家父長制が色濃い家庭で、父は息子である僕に「男らしさ」を押しつけてくるような人でした。父から「女の腐ったようなやつ」と罵倒され続けることで、僕は男らしくない自分を否定し、なんとか男性社会に適応しようと過度に自分を偽るようになった。のちにフェミニズムと出会い、僕は少年期の自分を苦しめていた構造的原因は家父長制にあったと発見するのですが、人によっては今もなお苦しみの正体に気づけず、自分で自分を抑圧し続けていたりする。そういう男性ほどフェミニズムと出会う必要があるのではないかと思います。 ――男性の生きづらさというのは、近年、徐々に可視化されるようになってきました。 ただ、間違えてはいけないのは、だからと言って「男だってつらい」と怒りの矛先を女性にむけてはいけないということ。男性の生きづらさがあるのは確か。でもそれ以上に男性というだけで自動的に与えられる特権のほうが大きいのもまた事実です。そこをちゃんと認識した上で、女性にケア役を押しつけるのではなく、男性同士で、シラフの状態で、自分たちの不安や愚痴を率直にシェアできる場を設けることが、男性の生きづらさを解消する有効な手段の一つではないでしょうか。 ――そこで伺いたいのですが、そういうふうに男性だけで吐き出す場を設けたときって、どうしても苦しみの感情が他者への攻撃に転化してしまうイメージがあって。男同士が寄り合って、たとえば「女様」みたいに愚痴を言い募ることって、差別を増長させることにしかならないし、男同士の有害な結びつきを強化させることになるんじゃないかという懸念があります。 なので、そういう場では主語を「私」にして話すことがいいと思います。「She is」の話はいらないんです。もちろん全ての男性とは言いませんが、一般的な傾向として男性はとにかく一人称で語るのが苦手です。それは一人称で自分を語るということをずっとしてこなかったからという背景があるんですけど。だから、まず語りの場では自分のことにフォーカスを絞って吐き出すようにするといいと思います。
星野 俊樹
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