私を守る「バウンダリー」 自分にだめ出しせず「境界線」を引き直す

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聞き手・吉村千彰
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Re:Ron特集「時代のことば」 バウンダリー

 学校で、職場で、家庭で、人間関係に悩んだことがありませんか? 自分も相手も守るカギになる「バウンダリー」という考え方があります。ソーシャルワーカーで『わたしはわたし。あなたじゃない。 10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』の著者、鴻巣麻里香さんに、DVや虐待など、バウンダリーが侵害されている実情や対処法についてききました。

話題のキーワードや新たな価値観、違和感の言語化……時代を象徴する「ことば」を、背景にある社会とともに考えます。

 ――「バウンダリー」とはどういうものなのでしょうか。

 私と私以外の誰かとの間にある、目には見えない心の境界線です。私は「心の皮膚」という例で説明します。皮膚は外からの刺激を感じ、身体に害のあるものは防いでくれる。バウンダリーは、誰かからネガティブなことを言われたりされたりしたときに自分を守ってくれるバリアーになります。

 ――いつごろから使われ始めたのでしょうか。

 境界線の概念自体は古くからありますが、自分の尊厳や価値観を守る「自他境界線」という形が定着したのは、日本だと2000年代になってから。「バウンダリー」という言葉自体はここ数年でしょうか。この言葉ができたことによって、ソーシャルワーカーとして活動しやすくなったと感じています。支援する方々が、自分を否定することなく悩みに対処できるようになるための言葉だと思います。

■トラウマ体験の影響が今ここに

 ――バウンダリー侵害の事例を教えてください。具体的にはどのような相談を受けていますか。

 学校に行けなくて苦しいという子どもに、どういうことに困っているのかを聞くと、勉強の遅れ、友達関係の不安、夜眠れない、ゲームばかりしてしまうなどと返ってきます。短時間登校や別室登校、フリースクールなどを提案してみるのですがうまくいかないことも。実は、周りの大人の期待や願いや心配をくみ取っているんです。

 何カ月か話していると、とにかく今は疲れて何も考えたくないから休みたいと出てくることがあります。自分の本当の願いに気付いていなかった。「わたしはわたし、あなたはあなた」という軸が揺らいでしまっていた。そんな例が多いです。

 DVや虐待の被害者や貧困などトラウマ経験を持つ人の中にも、苦しくても助けを求めたり相談したりできず、自分を傷つけたり頑張りすぎたり不器用な生き方をしている人がいます。誰かから抑圧されたり、虐げられたり、傷つけられたり、否定される言葉を浴び続けたりしてきた。仲間はずれやいじめ、生活の困窮、両親が目の前でいがみ合うなど、いろんな怖い、苦しい、逃げ場がない環境というトラウマ体験のほとんどにバウンダリー侵害があります。

 トラウマは過去のことですが、それによる影響が今ここにある。大事なのは「あなたはあなた、わたしはわたし」というバウンダリーを引き直すことです。

 ――なぜバウンダリーが大事なのでしょう。

 自分の生きづらさやしんどさの理由をしっかりと見つめることは難しいことです。

 例えば、DVやモラルハラスメントは徹底的に否定して服従させる支配で、相手の「わたし」を消し去る最悪のバウンダリー侵害です。しかし、被害者は、逃げたいけど私1人では何にも出来ないと思わされることで、ここにいた方がいいと自分の中で理由をつけてしまう。自分にだめ出しせず、相手との間の境界線に欠陥がある、境界線が揺らいでいると考えてみてほしい。

 相手を支配する癖を身に付けた人が変わるのはすごく難しい。日本ではDV加害者の更生プログラムはまだほとんど進行していませんし、逃げることも大切。いろんな相談窓口に相談して、一緒に考えてくれる人と出会うのも大切です。

■ポジティブ変換はやめましょう

 ――自分の周りにバウンダリーを引き直すために、どのようなアドバイスをされますか。

 あなたが悪いのではない、弱…

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この記事を書いた人
吉村千彰
デジタル企画報道部|Re:Ron編集部
専門・関心分野
文化、芸能、海外ドラマ、フィギュアスケート