日向翔陽
彼は優しいから、基本怒ることはない。
でも今日は珍しく私が怒らせてしまった。いつもあんなに明るいのに、今日の態度が信じられない。
一言も喋らずまるで他人のように振る舞う。目が合うことは全くないし、もちろん会話もあるわけない。
話しかけても無視されることは目に見えるから、ソファでぼーっとしているとお腹の下あたりが気持ち悪い感覚に襲われる。まさか、と思いトイレに行ってみれば下着がじわっと赤く染まっていた。
「はぁ...(今月も来たか...)」
なんてタイミングで来るんだろう。普段から彼にさすってもらったりしているから今の状態だとかなりキツい事は目に見えていた。
1人で耐えないと...とお腹をさすりながらソファになだれ込む。
不思議なもので生理が来たと意識し始めると脳が支配されたように、その事しか考えられなくなる。
目の前で付いているテレビなんて、音は耳に入らない。
近くにあるスマホも触る気は起きずうんうんお腹を抱えて唸っていることしか出来なかった。
(今回の痛みいつもと段違いなんだけど!?)
普段横になれば治まっていた腰とお腹の痛み。でも今回はそうはいかなかった。
(なんで翔陽がいない時に限って...)
意識が遠のきそうになるくらいの痛みから逃れるように私はいつの間にか眠りについてしまっていた。
「ん...」
あれからどれだけ経っただろう。体の重みに違和感を感じて目を覚ますといつの間にかベッドの上にいた。
(あれ?私ソファにいたはずじゃ....)
ちらっと横を見ると、
(えっ!?翔陽....!?)
私のお腹に手を乗せてすやすやと寝ている彼。まさか、ここまで私を...?
「あ、起きた?」
私が動いた事で彼もむくっと起き上がる。
「うん、ベッドまで運んでくれた、んだよね?ありがと」
うん、と頷く彼。
「ごめんな、俺意地張っててさ。何があっても話してやるもんかなんて思ってたけど、ソファで〇〇がうずくまってるの見つけちゃって。もうどうでもいいやってなったんだ。」
久しぶりに聞いた声と、彼の優しさに涙が溢れる。
「あっ、ごめんね、泣かせちゃった?怖かったよね、もうしないから。ね?泣かないで」
1人であたふたして私を抱きしめてみたり、頭を撫でてみたり。
「大丈夫だよ、嬉しくて泣けてきちゃった。私も悪かったとこあったと思うから、...ごめんね」
「いいよ、そんなことより体調大丈夫?あそこで動けなくなっちゃうくらい今回酷いみたいだね?」
「いつもより痛みがすごくて」
「よし、俺が撫でてあげる」
「ふふ、ありがとう」
「何笑ってんの!真剣だよ!?」
「わかってるって笑」
はぁ、と気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ翔陽、ぎゅってしてもいい?」
「どうした?人肌恋しくなった?笑」
「そ、そういう訳じゃ....」
からかってくる割には彼の方から抱きついてくれる。私、結構甘やかされてるのかもしれない。
「元気な〇〇も好きだけど、弱ってる〇〇も好き」
「何物騒なこと言ってるの」
「だってずっとぎゅってしてって言ってくれるんでしょ?俺の彼女可愛すぎない?」
「や、やめてよ!恥ずかしい!」
やっぱり私は甘やかされてるのかもしれない。
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影山飛雄
久しぶりに彼女ちゃんと大喧嘩。そのまま家を飛び出して、怒りのままに動いてしまいそうなこの気持ちを落ち着かせようとしていた。
飛び出したはいいものの行くあてはなく。
家の近くを歩きまわるだけですることもなかった。
怒ってしまった自分に、大切な彼女を怖がらせてしまった自分に心底嫌気がさす。
(...顔見てぇ)
自分が家を飛び出て行ったのに、我儘だろうか。
「...ただいま」
扉を開けると、真っ暗な部屋。
(カーテンが閉まってるのか?)
日の落ちかかった夕方の外の方が明るいくらいだ。
一応挨拶はしてみたけど、予想通り返事はない。
(無視...か。なんか寂しいな)
そんなことを考えるなんて今までなかった。それくらい家に誰かがいることが、返事が帰ってくることが当たり前になっていたのだ。
彼女ちゃんを探す。でも、リビングのソファにもいないし、キッチンにもいない。
自室にいるのかと思って覗いてみると、ベッドで横になってる彼女ちゃんが。でも何か様子がおかしい。遠目でも明らかに息が荒くなっているのが分かる。
「お、おい!〇〇、大丈夫か!?」
慌てて駆け寄ると、
「と、飛雄、ちょっと熱出てるだけだから、だいじょぶ...」
苦しそうな声で答える彼女ちゃん。
「〇〇がこんなに苦しんでるのに、家出てくなんて酷すぎるな...ほんとごめん、ごめんな」
「そんな、」
そんなこと、ではなかった。
良く考えれば喧嘩前の違和感に気づけたはずだった。いつもよりなんだか重そうな身体、覇気のない声。
(それなのに、俺は....!)
それが悟れないくらい怒って、周りが見えなくなってしまった。
「...熱あるのか?」
「んー、そうみたい。ほんとバカだよね、倒れるまで気づかなかったの」
「っ、倒れた!?」
「そんな大事じゃないよ、ちょっとふらっと、!ね!」
寝ているベッドの横に座り込むと、寝ている彼女ちゃんの身体に顔を埋める。
「...ごめん。辛い時にそばにいてやれなくて。」
自分の胸に預けられた彼の頭をよしよしと撫でる。
「大丈夫、来てくれたじゃん」
顔をあげると、いつもの彼女ちゃんが優しい顔でこちらを見ていた。
「んーでもちょっと頭痛いかもな〜??」
「!?」
「ぎゅってしてほしいかも、ここで」
ぽんぽんとベッドを叩くと、そこへ大人しく移動する彼。
「ぎゅってしてて?」
「それだけで済むか分からねぇ」
「え、ちょ、ん」
抱きつかれたと思ったらそのまま引き寄せられいつの間にか彼の腕の中にいた。
「もう離さねぇ」