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読み切りライトノベル 『法曹界の広背筋(ラットプルダウン)こと俺が、スラップ訴訟の意見書を読んだら大胸筋が痙攣した件』 都内某所、プロテインの甘いバニラ臭が漂う法律事務所。 そこには、特注のXXLサイズのスーツの縫い目を悲鳴と共にはち切れさせそうな男、豪徳寺 "バルク" 剛(ごうとくじ・ばるく・つよし)がいた。 通称、『六法全書をベンチプレスする男』。またの名を『リーガル・ハルク』。 脳みそまで筋肉でできていると噂されるが、実際はプロテインでできている。 「ふん……今日のパンプアップも悪くない」 彼は上腕二頭筋にキスの雨を降らせた後、デスクに置かれたKDDIからの封筒を手に取った。指先のグリップ力だけで封筒が粉砕されそうになる。 「さて、今回の開示請求……相手はどんな貧弱な『反論(レジスタンス)』をしてきたかな? 軽いダンベルみたいに持ち上げてやるぜ」 豪徳寺は余裕の笑みを浮かべ、書類を開いた。 しかし――1ページ目を見た瞬間、彼の自慢の大胸筋がピクリと引きつった。 「……なんだこの『Ver.7』って表記は? MMORPGの大型アップデートか?」 読み進めるにつれ、豪徳寺の表情筋(ここも鍛えている)が崩壊していく。 そこにあったのは、もやしっ子による抵抗などではなかった。論理で武装された重戦車が、アクセル全開でこちらに突っ込んでくる図だった。 「……『プライバシー侵害の不成立』? 自ら本名を公開して商売してる? まあいい、これは想定内の負荷(ワークアウト)だ」 だが、第2章に突入した瞬間、豪徳寺の思考回路(ニューロン)がショートした。 「『虚偽事実による威迫』……? 『クレジットカード情報も抜けるというデマ』……?」 豪徳寺の眼球が飛び出しそうになる。添付されたサムネイル画像には、依頼人がドヤ顔でこうテロップを出していた。 『豪徳寺弁護士から連絡あり。クレジットカード情報も開示請求を行うとのことです』 「ブフォッ!!!」 豪徳寺は口に含んでいたEAA(必須アミノ酸)ドリンクを盛大に噴射した。 待て待て待て! ステイ! ステイ!! 俺はそんなこと一言も言ってない! 開示請求でクレカ情報? そんな魔法が使えたら、俺は今頃ホグワーツで魔法省の大臣をやってるわ!! 「おいおいおい! これじゃあ俺が、法律を知らない『脳筋』か、依頼人とグルになってデマを流す『プロテイン詐欺師』みたいじゃねーか!!」 書類を持つ手が震え、無意識に握力80kgを発揮してしまい、紙がクシャクシャになる。 意見書は容赦なく、豪徳寺の心の急所(ゴールデンボール)を蹴り上げてくる。 『KDDIの情報セキュリティへの信頼を毀損する』 『司法手続を騙った脅迫である』 「ぐうの音も出ねえ! 完璧なロジックだ! 論理のボディブローが効きすぎて内臓破裂しそうだ!」 さらに続く、地獄のページ。 『住所隠し』『誇大広告(100%治る)』『クリーン・ハンズ違反』。 そして極めつけは、依頼人の60本以上の動画と、相手のたった2回の投稿を比較した表。 「攻撃の非対称性……『ダンプカー vs スプーン』だと……?」 豪徳寺は天を仰いだ。 これじゃあ、俺たちがダンプカーに乗って、スプーンを持った赤子を轢き殺そうとしてる悪党みたいじゃないか。いや、事実そう見える! 「俺の依頼人……コンプライアンス意識が、ささみカツ一枚分もねぇのかよ……!」 本来なら依頼人を守るのが弁護士だ。だが、この書類を書いた奴――『おきよ』とかいうふざけた名前の戦士――は、こちらのバーベルの重りを勝手に300kg増やしやがった。 こんなの持ち上がるわけがない。潰れる。物理的に俺が潰れる。 「これ、裁判官が見たらどう思う? 『被告人の主張はプロテインより純度が高いですね、却下!』で終了だろ!」 豪徳寺は激しく頭を抱えた。上腕三頭筋が頭蓋骨を締め付ける。 このままでは、『リーガル・ハルク』の名折れだ。いや、むしろ『リーガル・ピエロ』に改名するハメになる。 「……落ち着け。まずはアミノ酸だ。カタボリック(筋肉分解)が起きちまう」 彼は震える手でシェイカーを掴み、粉末を規定量の3倍投入した。 シャカシャカシャカシャカ!!! 静まり返った事務所に、虚しくシェイカーを振る音だけが高速で響き渡る。 「……依頼人に電話だ。その前に、スクワット100回して頭を冷やす。じゃないと電話口で『お前の脳みそは鳥のササミか!?』って叫んじまいそうだ」 豪徳寺は決意の眼差しでプロテインを一気飲みすると、受話器ではなく、床に置いてある20kgのダンベルへと手を伸ばした。 筋肉は裏切らない。だが、依頼人は平気でリーガル・ハルクを裏切る。それが、この世の真理(トゥルース)だった。
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