米国における生成AI著作権侵害訴訟の現時点でのまとめ
米国における生成AI関連の著作権侵害訴訟、数が多すぎて、かつ、変化も速くフォローするのが大変です。一般メディアの報道ですと重要な情報が抜けていることもあります。そんな中、米国のMcKool Smithという法律事務所の弁護士がメディアコンサルタントとの協力の下に、主要生成AI関連訴訟を月2回程度のペースでまとめていることを知りました。これは助かります。以下に最新の情報(2025年9月15日付)を引用して簡単にコメントします。
① Hendrix(作家陣)対 Apple
9月5日に提起された最近の訴訟です(関連記事)。Appleが生成AIによる著作権侵害で訴えられた初のケースです。正直、Appleは生成AI分野では主力とは言えませんが、一般に訴訟のターゲットになりやすい企業です(潤沢な資金を持っていることが明らかだからでしょう)。以下のAnthropicのケースと同様に海賊版書籍ライブラリをベースにしたAIモデルの学習が問題とされています。
② Bartz(作家陣)対 Anthropic
先日書いた件です。合法的に入手した書籍をAIモデルの訓練データとして使用することはフェアユース、しかし、(訓練データに使う場合であっても)海賊版の複製は著作権侵害という略式判決が出た後に、Anthropicが巨額補償金による和解を申し立てた状態です。最新の情報では、裁判所が和解を承認するまでにはまだ時間がかかりそうです(関連記事)。
③ Warner Bros. Discovery 対 Midjourney
先日書いた件です。まだ、訴状が出ただけの状態です。
④ Concord Music Group 対 Anthropic
音楽出版社が、歌詞の無断スクレイピングについて訴えています。現在、訴訟進行中です。②のケースがどう関係してくるかが要注目です。
⑤ Kadrey(作家陣) 対 Meta
複数の作家によるMetaのLlamaに関する訴訟です。私はまだ記事化していませんが、①と並んでAI訓練のフェアユース該当性に関して要注目の訴訟です。この訴訟では、AIモデルの訓練自体はフェアユースと認定されています。仮に海賊版を元に学習してもプロセス全体がフェアユースということであり、その意味では②と判断が割れています。また、フェアユースの判定において「市場の希釈化」(権利者の市場が奪われていること)が重要であることが判示されています。原告側が「市場の希釈化」を充分に主張していないのでフェアユース認定されたという論理構成であり、逆に言うと「市場の希釈化」を立証できればフェアユース認定されない(著作権侵害とされる)可能性を残しています。現在証拠開示手続きが進行中。2026年2月12日に審理再開予定です。
⑥ SDNY Multi-District Litigation(MDL)
OpenAIおよびMicrosoftを被告とする同種の著作権侵害訴訟12件をSDNY(ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所)のMDL(多地区訴訟手続)として一元的に処理する手続きが進行中です。裁判所も同種の訴訟が多すぎてやってられないのでしょう。個別の訴訟については、私もフォローしきれていません。
⑦ The New York Times 対 Microsoft & OpenAI
私はまだ記事化していませんが、重要な訴訟です。現在審理継続中です。
⑧ Disney & Universal 対 Midjourney
これはちょっと前に書いた件です。②と同様です。Midjourney側から(やや微妙な)答弁書が出た段階です(関連記事)。②についてもこれと同じような答弁書が出ると思われます。
⑨ Thomson Reuters 対 Ross Intelligence
これは、AIの訓練に関する著作権侵害訴訟ではありますが、一般的な生成AIの話とはちょっと異なり、競合企業の判例データベースを勝手に訓練に使った件が問題になっています。AIの訓練がフェアユース認定されなかった判決の例として挙げられることがありますが、一般的な生成AIの話とは事情がかなり異なりますので適用拡張はしにくいと思います。
⑩ Reddit 対 Anthropic
Redditは米国の大規模匿名掲示板です(2ちゃんねるよりはちゃんとしてます)。Anthropicによる無許可のスクレイピングを契約違反や不当競争で提訴しています。審理継続中です。
⑪ UMG Recordings 対 Uncharted Labs(Udio)
音楽生成AIをレコード会社が訴えた件です。私も記事化しています。証拠開示手続き進行中です。
⑫ UMG Recordings 対 Suno
⑪と類似の話です。私も⑪と同じ記事でまとめて書いています。同じく証拠開示手続きが進行中です。
⑬ Sarah Andersen(漫画家) 対 Stability AI
生成AIに関する最初期の著作権侵害訴訟の一つです。画像(漫画)の著作権が問題とされていること、画風(スタイル)の模倣が争点になっていること等により興味深い訴訟ですが、原告側にいろいろ瑕疵があったり、証人の選定におけるいざこざがあったりで、訴訟が長引いています。
⑭ Dow Jones & Co. 対 Perplexity AI
東京地裁における読売新聞、朝日新聞、日経新聞を原告とする訴訟(関連記事)と同じパターンです。生成された出力が原文をそのまま含む点が争点になっています。現在、訴訟は停滞状態です。日米での判断がどうなるかは大変興味深いところです。
⑮ Getty Images 対 Midjourney / Stability AI
有名な素材写真提供会社が原告です。正直、有料で販売している素材をベースに学習されて新素材を生成されてしまうとたまらんでしょうね。裁判はあまり進展が見られていないようです。個人的な想像ですが、この当事者どうしであれば、所定のライセンス料支払いを条件に和解決着するのではと思います。
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全体的に見ると、判例法として確定はしていませんが、今のところの裁判所判断としては、公表された著作物を使ってAIモデルを訓練するだけであればフェアユースで合法(学習元の著作物がそのまま生成されてしまうような場合はまた別)、ただし、「市場の希釈化」つまり著作権者が具体的に損失を受けていることを立証できた場合には、フェアユースとされない可能性があるという感じかと思います。
結果的に、日本の著作権法30条の4の規定ぶり(AIモデル訓練は非享受目的であれば許諾不要、ただし、著作権者の利益を不当に害する場合を除く)に似た感じになっているのは興味深いところです。