クマによる人身被害が今秋、多発している。捕獲に向けた陸上自衛隊の支援活動も秋田県で始まる中、とりわけ問題となっているのが市街地への相次ぐ出没だ。人の生活圏への出現は以前から警告されてきたが、なぜ危機的事態に至ったか。「災害と同じ」。緊迫する同県湯沢市中心部で人々の思いを聞いた。(松島京太、山田雄之、中根政人)
◆隣人が被害「自分が襲われていてもおかしくなかった」
「ここは絶対に安全だ。みんながそう思っていた。でも認識が変わった」
湯沢市の美術講師、加藤久夫さん(65)が厳しい表情で語る。加藤さんは、10月下旬にクマが数日間居座った住宅の隣に住む。JR湯沢駅から北東200メートルほどの住宅や店舗が立ち並ぶ市中心部だ。
クマは20日朝、住宅前で住人の男性を襲った後、玄関から侵入。25日未明、箱わなに入っているのが確認された。20日朝には他に周辺で男性3人が相次いでクマに襲われたという。
加藤さんは隣人が太ももから血を流しているのを見たと話し、「自分が襲われていてもおかしくなかった」とおびえる。それ以降、なるべく外出は控えるようにし、家を出る際はクマ避けの鈴と笛を身に着けるようにしたが、それでも不安は消えない。
◆居酒屋はガラガラ「いつまで続くのか」
市内では今月3日にもキノコ採りで山中に入ったとみられる女性(79)の遺体が確認されたばかりだ。
「こちら特報部」は5日午後、JR湯沢駅に降り立った。湯沢市は秋田県南部にある人口約3万8000人の街。稲庭うどんや漆器などの工芸で知られ、駅前では同市出身の菅義偉元首相の銅像が出迎えてくれる。2023年に地元有志によって建立されたという。
宿泊先のホテルに着いたが、なぜか自動ドアが開かない。故障かと困惑していると、ドアに「クマ出没多発中」「手動で開けて下さい」との張り紙。ホテル関係者によると、10月下旬から自動ドアの機能をオフにした。市内の消防署の自動ドアからクマが侵入したことを受けた対策という。
近くの居酒屋に入ったが、店内はガラガラ。個室席に客が1組いるのみだった。「ここ2、3週間でパタリと客足がやみましたね。いつまで続くんだろうか」。店主が肩を落とす。
店主によると、湯沢市には企業や官公庁の事業所などが多数あるが、クマへの警戒から飲み会の自粛指示が出ていて、予約のキャンセルは50人ほどに上るという。帰り道も出歩く人をほぼ見かけなかった。
◆クマ関連記事あふれる新聞、市役所職員は憔悴
6日朝、地元紙「秋田魁(さきがけ)新報」を開くと、クマの出没や緊急銃猟の実施など関連記事にあふれ、コロナ禍をほうふつとさせる。市役所では農林課の担当者が憔悴(しょうすい)しきった表情で「もうこれは災害対応と同じ」と漏らした。
これまでもクマをおびき寄せる柿や栗などの伐採に補助金を出し、人里と山の緩衝帯を整備してきたというが、被害がやまない。5日から支援活動を始めた自衛隊に、市として協力を要請する方向で調整しているとした。
市内を取材中にも自衛隊員の姿を見かけた。クマ被害の打開策になるのだろうか。前出の加藤さんは「自衛隊が来るのは心強いし、良いこと。猟友会は高齢化が進み、箱わな設置も大変だろうし」と期待する。
一方で「クマが街なかに来ないようにするためにどうすれば良いのか、調査や対策を国で検討してほしい」と注文した。
◆猟友会は「人手不足、限界超えた」
環境省によると、本年度のクマによる死者数は5日現在で13人と過去最多。出没件数も9月までの上半期で2万792件(速報値)で、前年度同時期の1万5832件をはるかに上回る過...
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