(フォーラム)「女子枠」と向き合う:1 意義は

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 理工系分野に進む女子学生を増やそうと、大学入試で「女子枠」を設ける動きが広がっています。2025年度に実施される入試では、国公立の38大学49学部が理工系学部に女子枠を設けています。入試の公平さ、そして社会の多様性について、皆さんと考えます。

 ■利用した女性 工学部で存分に学んだ、入学後が大事

 女子枠で入学した人は、どう感じているのか。制度を利用して愛知工業大学工学部に入学し、今は愛知県北名古屋市内の機械製造会社で働く女性(25)に聞いた。

 「大学では性別に関係なく、学びたいことを学べました」と女性は振り返る。小さい頃から物づくりが好きで、組み立て玩具や図工の授業に夢中になった。中学校の授業でプログラミングや小物の製作実習をするうち、技術科の教員になりたいと考えるようになり、工業高校への進学を決めた。

 面談で教師に伝えると、「女が行くところではない」と言われた。親が「いいんじゃない」と背中を押してくれ、工業高校の機械制御科に入学。生徒80人のうち女子は3人だけだったが、気にせずに金属を削る実習などに励んだ。

 大学は工学系を志望した。たまたま見たパンフレットで、愛知工業大に女子向けの推薦入試があることを知り、出願した。

 大学では一般入試で入った同級生と互いに勉強を教え合った。女子枠で入学したことを伝えても「そうなんだ」と言われるだけで、1年ほど経つと思い出すこともなくなったという。

 「人のためになる研究」に関心があり、レスキューロボットをつくるサークルに所属した。3年次には全国の大学が集まるコンテストで最優秀賞を受け、ロボットの振動を分析した論文で学内表彰も受けた。

 勤務する企業は菓子包装機械を製造しており、顧客が使う機器を調整し、メンテナンスする部署にいる。「ほかに女性はいないけど大丈夫?」という声もあったが、機械を触ることができて顧客の声もじかに聞けることに魅力を感じ、この部署を自ら希望した。

 女性の平均に近い身長であることを生かし、菓子工場の生産ラインで働く女性たちが操作しやすいようにボタンの高さや位置を調整したり、モニターの位置をチェックしたり。充実した日々を送る。

 「『女子枠』は間口を広げるものなので、入った後に何をやるかが大事だと思います。私は入学して、やりたいことはやり尽くせました」と女性は言う。「『男だから、女だから』で周りの大人が子どもを縛るのはやめて欲しい。自分が選んで本人が幸せなら、やりたいことを見つけられるはずです」

 ■「反対」の学生 男性にもプレッシャーや不自由、能力尊重を

 「女子枠」に対して、「男性に対する差別では」と懐疑的な立場の人もいる。国公立大学の女子枠設置に反対する学生団体の代表は、「性別で枠を設けるのはおかしい」と疑問を投げかける。

 東京大学の男子学生が代表を務める「UT-SFFA」は、同大生を中心に約10人で活動している。今年5月に設立し、女子枠が違憲に当たるかどうかを検討するオンラインの勉強会を開いたり、女子枠が設けられている大学のオープンキャンパス会場付近でビラを配ったりするなどの活動をしてきた。

 3年ほど前、当時の東京工業大(現東京科学大)で女子枠を設けるというニュースを見て、「性別で区別する枠は合法なのか」と疑問に思ったのが原点だという。一般受験の定員を減らして女子枠を拡大する動きを知り、一般枠でぎりぎりで落ちた人と自分が重なるような感覚を抱いた。「受験生の一生に影響を及ぼす制度であり、もしかしたら自分が『被害者』になっていたかもしれない」

 小学生のときから塾に通い、中高一貫校に進んだ。高校3年時の受験では東大に届かずに他大に進学したが、諦めきれずに中退して東大を再受験することにした。親には頼らず、夏季講習や模試の費用など約50万円は働いて工面した。早朝に3時間ほどアルバイトをした後、午後9時まで図書館で勉強する生活だった。

 東大に入学すると、裕福な家庭出身の学生が多いと感じた。一方、男子学生の中には自分以外の親族で大学に行った人がいないという人がおり、就職情報を得るのに苦労している姿を見た。「男なら稼げるところに就職を」というプレッシャーを受けて自由に進路選択できない学生もいた。

 「進路を選ぶ際に理系を選びづらい女子がいるのは事実です。しかし、男性でも進路の面で不自由を抱えている人はいる」

 難関大に女子枠で入学した学生よりも恵まれていない男性はたくさんおり、「性別」で枠を決めるのはおかしい。属性ではなく個人の能力が尊重されるべきだ……。そんな思いで、団体を設立した。

 多様な背景を持った人が理工系で学ぶことの意義を認めた上で、学生はこう提案する。「性別ではなく、地方出身だったり、家が貧しかったり、障害があったり、そういう人に加点する『逆境指数』を用いればよいのでは」

 「女子枠を使って入学した人を責めるつもりはありません。大学を運営する年配の人たちが決めた『多様性』の数合わせのために、若い男性が犠牲になっているのです」

 ■「機会の平等を実質的に保障」という捉え方も 桐蔭横浜大学准教授(憲法学)・茂木洋平さん

 女子枠制度について、「ロールモデルになる」などの肯定的な意見がある一方で、「男性差別では」という声も上がる。入試における平等などを研究する茂木洋平・桐蔭横浜大学准教授(憲法学)に聞いた。

     ◇

 性別で枠を割り当てるというのは、海外に例のない非常にラジカルな制度なので、広がりに驚いています。「機会の平等」を否定するものだとして、女子枠は差別だという議論が起こるのも自然でしょう。限定的とはいえ、男性に対して目に見える形で入学枠を獲得する機会を狭めているからです。

 批判の背景には「入試には公平性が求められる」という考えや能力主義への信奉がある。「生まれ持った能力と努力のみで評価されるべきだ」という立場と女子枠の考え方は相いれません。ただ、能力主義も一つの指標であり、絶対ではない。重要な社会目的がある場合は覆されることがあります。

 女性の社会的自己実現の障壁をなくすために、理工系で学ぶ学生の多様性を推進するという目的から考えると、女子枠について裁判所が違憲と判断することは難しいと考えます。

 憲法は能力主義を絶対としておらず、正当な理由があれば性別による区分を設けることも許されます。性別による措置が全て許されないなら、男女共同参画の取り組み自体を否定することになります。形骸化した「機会の平等」を実質的に保障するものだと捉えることも可能でしょう。

 女子枠があっても、男性は別の方法で入試を受けられる。機会が閉ざされているわけではなく、差別的構造がつくられているとまでは言えません。地方と東京の格差や困窮家庭の問題については別に検討すればよいでしょう。

 一方で、「多様性」を推進しようとする大学側の発信も足りないと感じます。女子枠を通して、どのような社会を目指すのかを明確にすべきです。「入り口」だけに議論が偏りがちですが、理工系で学ぶ女子学生が増えれば、「出口」の産業界も女性が働きやすい環境が求められる。長時間労働なども見直され、個人が働き方、生き方を選びやすくなるのではないでしょうか。

 ■進学しやすくなる/まず教育改善

 アンケートは、女子枠を設置する大学について知っている、という人からの回答が9割近くに上りました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/232/で読むことができます。

 ●世間の考えを変える 女の子がより進学しやすくなりますし、世間一般の考えを変えていくきっかけにもなると思います。(山口、50代)

 ●環境変われば 日本の理系分野で女性が少ない背景には、価値観や役割意識なども大きいと思う。海外からの理系留学生では女性比率が極端に低い印象はなく、環境が変われば状況も変わりうる。(愛知、男性、20代)

 ●結果の公平な評価を 入試は能力や努力の結果を公平に評価すべきであり、性別による枠を設けるのは逆に不平等だと感じます。理数分野への興味を育てる教育やロールモデルの可視化、職場環境の改善などが重要です。(東京、30代)

 ●若い世代に負担 安易な女子枠の設置には反対です。男尊女卑の前提のもとで恩恵を十分に受けてきた上の世代の男性たちはポストをほとんど手放さないまま、「多様性のため」と若い世代に負担を押しつけているように見えます。(大阪、女性、30代)

 ●理由の説明を なぜ女子枠が設けられるに至ったのか、丁寧に説明をしないと、男子生徒だけでなく女子生徒同士でも、不公平感や制度利用者への不信感を持つようになってしまうと思います。(千葉、女性、40代)

 ■《取材後記》6割が否定的、足りない議論

 アンケートでは、女子枠を設けることに否定的な人が6割を占めた。その理由について、どう考えたらいいのだろうか。

 改めて、女子枠を設ける国公立38大学の募集要項を読んでみた。設置意義や背景を説明しているのは5割程度。それも「多様性」を「尊重する」「推進する」といった、具体性のない言葉が並んでいるものも少なくない。

 理工系学部で学ぶ女性を増やす理由について、大学側の説明は十分だろうか。多様性という言葉が、便利に使われ過ぎてはいないか。賛成はできなくても、より多くの人が納得できるような社会の仕組みについて、さらに議論を重ねるべきだ。その支えとなるような記事を書いていけたらと思う。(関口佳代子)

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 せきぐち・かよこ 東京の下町出身。通った公立の小中学校には様々な階層の人がいた。近年、様々な国の人も集う地域になり、多様性を考える機会が増えた。

 ◇関口佳代子が担当しました。

 ◇アンケート「友達がいない?」「消防団を考える」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。

 ◇次回12月7日は「『女子枠』と向き合う:2」を掲載します。

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