四番手の秘書
私の名はメッサー。
今年で四十になる魔族の男です。
仕事は五村の村長代行であるヨウコさま専属の文官をしております。
村長がいうには、秘書という立場だそうです。
よくわかりませんが、特別感があって気に入っております。
ただ、残念ながらヨウコさまの秘書は私だけではありません。
五村ほどの規模の代表となるヨウコさまを私一人では支えることはできません。
十人ほどいます。
そして、その十人の秘書に明確な順位があるわけではないのですが……私は四番手ぐらいの秘書でしょうか。
もっと頑張らねばと思う私はメッサー。
メッサーをよろしくお願いします。
さて、ヨウコさまの秘書たる私には多種多様な業務があるのですが、本日は五村の村議会場に複数ある応接室の一室で接客をしています。
時間はお昼過ぎ。
相手はとある宗教の関係者。
人族の……それなりの立場の方なのでしょう。
ここには二十人以上で訪れたようですから。
まあ、何人で来られても応接室に入れる人数は限られているのですけどね。
そして、今回の話は……簡単に言えば、五村に彼らの神殿を建ててほしいというものです。
建てるではなく、建ててほしい。
つまり、五村の金で土地を用意し神殿を建ててくれということですね。
もちろん、お断りします。
これは私の独断ではなく、五村の方針です。
神殿がほしいなら、自分たちでお金を出して建てたらいいのです。
五村に頼る必要はありません。
当たり前の話です。
なのになぜ、そんな話をここに持ち込んできたのか?
わかっています。
神社ですよね。
五村の村長が神社を建てました。
ならば、こちらの神殿もお願いできるのではないか。
そう希望を持ってしまったのでしょう。
残念ですが、あれは村長の私費で行われました。
建築や運営に五村のお金は使っていません。
また、五村は特定の宗教施設を建設する予定はございません。
そう説明すると、たいていの相手は私より上の者……ヨウコさまや村長との面会を求めます。
村長代行秘書の私では話にならんということでしょう。
気持ちはわかります。
ですが、残念ながら上の者は私以上に忙しいので時間が取れません。
お引き取りをと願います。
人によってはここで賄賂を出してきますが……
私は賄賂を求めているわけではありません。
また、お金で心が動くと思われるのは不愉快です。
五村に対する私の忠誠心は低くありません。
あらためて、お引き取りを。
なかなか粘る相手でした。
まあ、神の名を使って脅してこなかったので、理性的な部類ですけどね。
余談ですが、彼らが帰り際に天使族のレギンレイヴさまを見つけ、神殿の建設を頼んでいました。
彼らの宗教はガーレット王国でも信仰されていると言ってましたから、顔見知りだったのかもしれません。
それとも、レギンレイヴさまなら五村にも意見を通せると思ったのか。
なんにせよ、そのレギンレイヴさまの後ろに隠れるようにいるのが我が五村の村長なのですが、それを彼らは最後まで知ることはなかったので結果は語らなくてもいいでしょう。
村長はヨウコさまに呼ばれたそうです。
私もヨウコさまに報告があるので、ご一緒させてもらいました。
ここで働いている私が先導します。
すれ違う者が村長の姿を見ると、立ち止まって頭を下げます。
昔は素通りでしたから、村長の姿が広く認知されてきたのでしょう。
よいことです。
あ、いや、当然のことです。
あのヨウコさまの上司なのですから。
ヨウコさまの執務室の前に到着し、私は扉をノックします。
扉の向こうに控えていた侍女が扉を開けて私の姿を確認すると、怪訝な目で見てきます。
本来、秘書である私は執務室の隣にある秘書室に入り、そちらから執務室に入るべきですからね。
ただ、今回は村長が一緒です。
扉を開けた侍女も、私の後ろにいる村長を見て態度を改めました。
ヨウコさまに一声かけ、扉を広く開いて村長を招きます。
私も一緒に執務室に。
村長に同行していたレギンレイヴさまは……
村長の護衛なので、扉のそばで待機します。
そういえば、いつもいるダガさまやガルフさまはどうしたのでしょう?
レギンレイヴさまに確認すると、警備隊のほうに顔を出しているそうです。
ああ、警備隊には村長のお子さまたち、リリウスさま、リグルさま、ラテさまがいますからね。
様子を見に行かれたのでしょう。
あ、私はヨウコさまの秘書、メッサーです。
以後、よろしくお願いします。
村長とヨウコさまの話し合いは多岐に渡りましたが、スムーズに終わりました。
大きな内容は……
五村の近くに温泉施設が欲しいので、お湯が湧く場所を冒険者に探すように依頼を出す。
五村の麓に、魔王国の貴族たちの別邸用の区画を確保する。
五村が主体となって運営する遊戯場の設置計画。
あと、転移門の渋滞対策の迂回路として計画されている五村新道に、道を作るには難所があって道を曲げるか強行するかの相談がありました。
村長は強行を決定。
難所は村長が出てなんとかするそうです。
さすが村長。
頼もしい。
これらの話は、一番手秘書や二番手秘書が記録し、すぐに手続きに移っています。
私は報告に来たついでに同席しているだけなので仕事はありませんが、重要な話を聞けたのでよかったです。
ええ、よかったです。
この場には一番手と二番手の秘書はいますが、三番手の秘書はいません。
私がライバル視している三番手秘書のフォッケが。
そのフォッケに対し、私は情報面で優位に立ったのです。
いや、あとで情報共有はするんですけどね。
決定に至るまでの過程を知ることができたので、関連の仕事を与えられても私は柔軟に対応できるわけです。
この場にいたのですから、関連の仕事を与えられる可能性は高いでしょうしね。
ふふふ。
フォッケの悔しがる顔が浮かびます。
ただ、村長とヨウコさまの話し合いのなかで、新しい転移門を設置する話が頻繁に出たのが気になります。
転移門は魔王国のものではなかったでしょうか?
え?
あれって村長の奥さんの一人が作ったもの?
あの、これ、私が聞いて大丈夫な話ですか?
……
ご信頼いただき、ありがとうございます。
もちろん、外部に漏らすようなことはいたしません。
そう返事をしていると、秘書室に繋がる扉がノックされ、三番手秘書のフォッケが顔を見せました。
ふふふ。
一歩遅かったな。
あとで、教えてやる。
悔しがるがいい。
フォッケは執務室に村長がいることに驚き、改めて挨拶。
そして私がいることにも気づき、また驚いていました。
ふふふ。
ですがフォッケは余裕のある笑みを私にみせ、ヨウコさまに話しかけました。
「会議中に失礼します。
ヨウコさまにご報告があるのですが、よろしいでしょうか?」
んっ。
どうしたフォッケ?
そんなに急ぎ報告する重要案件なのか?
フォッケはヨウコさまの許可をもらい、報告した。
「お喜びください。
通りました」
通りました?
ヨウコさまが喜ぶことで……っ!
ま、まさか、例の件か!
あれは抵抗が激しく、通過の見込みは薄かったはず!
いや、不可能とまで言われていた!
それを通したのか!
フォッケが!
ヨウコさまも驚き、確認している。
「はい。
本日の村議会場運営会議にて、“ヨウコさまスペシャルセット”が食堂の定番メニューに加わることになりました」
通常、お揚げがのっているキツネうどん、お揚げに炊き込みごはんが詰められたお稲荷さんが二つ、それに小鉢がつく“キツネうどんセット”。
ヨウコさまスペシャルセットは、そのキツネうどんセットのお揚げが一回り大きくなり、さらに一枚追加される特別仕様メニュー!
ヨウコさまが交渉して、三十日に一度だけ数量限定で出されていた。
それが定番メニューになるとは!
「さらに、セットのお稲荷さんは三つになります」
ば、馬鹿なっ!
お稲荷さんはどうあっても二つのはずだ!
ヨウコさまがプライドを捨て、幼女の姿になって交渉しても二つだった!
それが三つだと!
「お揚げの材料となる豆腐の増産が決まりましたので」
おおおおおおおおおおおおっ!
喜ばしい!
私も頼もう!
あ、いや、違う。
悔しい!
ヨウコさまが、ことのほか喜んでおられる。
ぐぬぬぬぬぬっ!
私も、もっと頑張らねば。
私の名はメッサー。
ヨウコさまの秘書の一人。
秘書には多種多様な仕事があるのですが、主にヨウコさまの外交関連を補佐しております。
目標は三番手秘書。
駄目なら、フォッケが担当しているヨウコさまの内政関連の補佐。
向いているとか、向いていないとかは関係ありません。
外務関連の補佐だと、ヨウコさまと関われる機会が少ないんです。
四番手秘書「どちらかと言えば村長と話しをする機会が多く……」
三番手秘書「それはそれで羨ましいのだが……」
二番手秘書「二番手になるには、魔王さまやドラゴンを相手に交渉できなければ」
一番手秘書「一番手になるには、村長やヨウコさまにツッコミができなければ」
ヨウコ 「扱う仕事の重要度の違いはあれど、秘書に順番はないからな」
村長 「天使族が数人、豆腐作りに協力してくれるようになったから」
ヨウコ 「五村でも豆腐を作れるようにしたいが、水がなぁ……」