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【源氏物語】「車争ひ」(内容意訳・原文・解説)

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よろづの言の葉を愛する古典Vtuber、よろづ萩葉です🖌️

今回は源氏物語より、「車争ひ」のお話です。
この話は「葵」の巻に出てきます。

原文「車争ひ」

 大殿には、かやうの御歩きもをさをさし給はぬに、御心地さへなやまけしれば思しかけざりけるを、若き人々、「いでや、おのがどちひき忍びて見侍らむこそ、はえなかるべけれ。おほよそ人だに、今日の物見には、大将殿をこそは、あやしき山がつさへ見奉らむとすなれ。遠き国々より、妻子を引き具しつつもまうで来なるを、御覧ぜぬは、いとあまりも侍るかな。」と言ふを、大宮聞こしめして、「御心地もよろしき暇なり。候ふ人々もさうざうしげなめり。」とて、にはかにめぐらし仰せ給ひて見給ふ。
 日たけゆきて、儀式もわざとならぬさまにて出で給へり。隙もなう立ちわたりたるに、よそほしう引きつづきて立ちわづらふ。よき女房車多くて、雑々の人なき隙を思ひ定めてみなさし退けさする中に、網代のすこし馴れたるが、下簾のさまなど由ばめるに、いたう引き入りて、ほのかなる袖口、裳の裾、汗衫など、物の色いときよらにて、ことさらにやつれたる気配しるく見ゆる車二つあり。「これは、さらにさやうにさし退けなどすべき御車にもあらず。」と、口強くて手触れさせず。いづ方にも、若き者ども酔ひ過ぎたち騒ぎたるほどのことはえしたためあへず。おとなおとなしき御前の人々は、「かくな。」など言へど、えとどめあへず。
 斎宮の御母御息所、もの思し乱るる慰めにもやと、忍びて出で給へるなりけり。つれなしづくれど、おのづから見知りぬ。「さばかりにては、さな言はせそ。大将殿をぞ豪家には思ひ聞こゆらむ。」など言ふを、その御方の人も交じれれば、いとほしと見ながら、用意せむもわづらはしければ、知らず顔をつくる。つひに御車ども立てつづけつれば、副車の奥に押しやられてものも見えず。心やましきをばさるものにて、かかるやつれをそれと知られぬるが、いみじうねたきこと限りなし。榻などもみな押し折られて、すずろなる車の筒にうちかけたれば、またなう人わろく、悔しう何に来つらむと思ふかひなし。
 ものも見で帰らむとし給へど、通り出でむ隙もなきに、「事なりぬ。」と言へば、さすがにつらき人の御前渡りの待たるるも心弱しや、笹の隈にだにあらねばにや、つれなく過ぎ給ふにつけても、なかなか御心づくしなり。げに、常よりも好みととのへたる車どもの、我も我もと乗りこぼれたる下簾の隙間どもも、さらぬ顔なれど、ほほ笑みつつ後目にとどめ給ふもあり。大殿のはしるければ、まめだちて渡り給ふ。御供の人々うちかしこまり心ばへありつつ渡るを、おし消たれたるありさまこよなう思さる。

影をのみみたらし川のつれなきに身のうきほどぞいとど知らるる

と、涙のこぼるるを人の見るもはしたなけれど、目もあやなる御さま容貌のいとどしう出で栄えを見ざらましかばと思さる。

源氏物語 葵

語句

大殿

葵の上。左大臣の娘で、光源氏の正妻。
この時、葵の上は妊娠していた。

大将殿

このとき右大将だった光源氏のこと。

大宮

葵の上の母親。

御息所

六条御息所。前(さきの)東宮妃。
光源氏の若い頃の恋人だったが、この頃は疎遠になっていた。

間木(まき)

上長押の上に設けられた棚のこと。

「笹の隈(くま)にだにあらねばにや」

古今和歌集の「ささの隈 檜隈川(ひのくまがわ)に 駒とめて しばし水かへ かげをだに見む」という和歌を引用している。

意味)檜隈川は奈良県にある川で、笹の物陰を流れる檜隈川で馬に水を飲ませるために立ち止まってくれたら、私はあなたの姿を見ることができます。

和歌

影をのみみたらし川のつれなきに 身のうきほどぞいとど知らるる

訳)あなたの姿を見たら、影だけをうつして流れる御手洗川のようにつれないあなたの態度に、私の身の辛さを思い知らされました。

みたらし、は賀茂神社の御手洗川と「見た」の掛け言葉、
うき、は「浮き」と「憂き」の掛け言葉。
浮く、は川の縁語。

意訳

光源氏が21歳の時。
帝であった桐壺帝が長男の朱雀帝に譲位し、伊勢の斎宮と賀茂の斎院も交替することになりました。
斎宮・斎院:伊勢神宮と賀茂神社に仕える未婚の皇族の女性のこと
賀茂神社:賀茂御祖神社(下鴨神社)と賀茂別雷神社(上賀茂神社)
賀茂祭(葵祭)に先立っておこなわれる御禊の儀で、光源氏が行列のお供を務めました。
大勢の人が光源氏を一目見ようと押しかけます。
六条御息所の娘は斎宮として伊勢に向かうこととなり、御息所も着いていこうかと悩みながら、光源氏への気持ちを捨てきれずにいました。

葵の上は、このような御禊の行列を見に行くといった外出はめったにしない。
さらに妊娠中で体調も良くないので、行くつもりはなかったが、
若い女房たちが「いやいや、私たちがお忍びで見物に行くほうがぱっとしないでしょう。今日は関係ない人でさえ、身分の低い田舎者でさえ、光源氏を見に来るそうですよ。遠いところから妻子を連れて来る人もいるというのに、それほどのものをご覧にならないなんて、あんまりですよ」
と言うのを、葵の上の母親がお聞きになり、
「ご気分もよろしい時ですし、女房たちもつまらなさそうですよ」
と言って、急に外出の準備をさせて見物に出かけることになった。

日が高くなって、さりげない様子でお出かけになった。
隙間なく物見の牛車が立ち並んでいるので、物々しく連なって牛車が置けそうな場所を探す。
身分の高い女性が乗っている牛車が多いので、牛車の両側に付き添っている人たちがいない隙間を狙って、その周りの牛車をみな退けさせた。
その中に、少し古ぼけた網代車があった。
下簾など趣がありそうな様子で、中に乗っている人は奥に引っ込んで、わずかに見える袖口、裳の裾、汗衫(かざみ)など、とても美しい色合いで、意図的に目立たなくしているのは明らかだ。
そんな牛車が2両ある。
従者は「これは、決してそのように立ち退かせてよいお車ではない」と強く言い張って、手を触れさせない。
どちらの方でも、若い従者たちが酔いすぎて大騒ぎしてしまい、抑え切ることができなくなってしまう。
先導していた年輩の人たちは「やめてくれ」などと言うが、止められなかった。

その車は、斎宮の母である六条御息所が、何かと思い悩んでいる気晴らしになればと、お忍びで来たものだった。
御息所の方は何気ない風を装うも、葵の上の側には御息所の一行であることがバレてしまった。
葵の上側の若い従者たちは、「光源氏の愛人の立場で、そんなことは言わせないぞ。どうせ光源氏を笠に着てるんだろう」などと言う。
葵の上は、光源氏に仕えている人もいるのだからかわいそうだと思いながらも、仲裁するのも厄介なので知らん顔をした。

ついに葵の上側の牛車を並べてしまったので、御息所の牛車は、葵の上の女房たちの乗った牛車の奥に追いやられて何も見えなくなってしまった。

六条御息所にとって不愉快なのは言うまでもなく、このような人目を忍んだ姿を自分だと知られてしまったことがこの上なく悔しい。
牛車をボロボロに壊されて、とてもみっともなく、悔しくて、何のために来たのだろうと思ってもどうすることもできない。

御息所は見物をやめて帰ろうとしたが、通り抜ける隙間もない。
そうこうしているうちに「行列が来た」との声が聞こえて、結局は光源氏が前を通り過ぎるのを見たいと思ってしまうのだった。

古今集の和歌にあるように、笹の生い茂った物陰であれば馬も止まるのだろうが、そうではないので光源氏は素知らぬ顔で目の前を通り過ぎて行ってしまい、かえって気落ちしてしまう。
いつもより飾り立てられた牛車に乗り込んでいる女房たちが、こぞって衣服の裾を下簾の下から出しているのを、光源氏は微笑みつつ横目に見たりしている。
葵の上の牛車ははっきりとわかるので、光源氏はかしこまった様子でその前を通り過ぎた。
光源氏のお供の人たちも葵の上の牛車の前では姿勢を正して通り過ぎるのを見て、御息所は圧倒されてしまった。
光源氏に無視された御息所は自分の立場を思い知らされ、この上なく惨めな気持ちになった。

影をのみみたらし川のつれなきに 身のうきほどぞいとど知らるる

と、涙を人に見られるのも嫌だけど、
この晴れの場でいつも以上に美しい光源氏のお姿を見なかったら後悔する、と思わずにはいられない。

解説

周りにけしかけられて嫌々物見に行った葵の上と、思い悩みながらも気晴らしのつもりで物見に行った六条御息所。
従者たちが勝手に喧嘩を始めてしまったせいで、この2人はお互いに深く傷ついてしまうのです。

このあと、葵の上は光源氏との子どもを生みますが、嫉妬した六条御息所は気持ちのコントロールができなくなってしまい、ついに生霊となって葵の上を呪い殺してしまいます。
御息所はそんな自分が許せず、光源氏への気持ちを捨てて娘と共に伊勢へ行くことになるのです。


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