気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい 作:たゆな
「……いや、あのね?」
フォンテーヌを離れてから、二日程が経過した。
「……マジでさ」
今もなお、全速力で走り続けているイツキは──視界に映り込む巨大な山々を見て思う。
「──稲妻遠すぎんだろッ!」
『ようやく絶雲の間を抜けられたわね』
『このまま進んで帰離原を通れば、後は南に直進するだけで璃月に到着するわよ〜! フレ〜フレ〜イ・ツ・キ!』
「んな応援はしなくていいから……コイツらをどうにかしてくれッ!」
谷間を驀進する彼が必死の形相のまま振り向くと、後方からイツキを追いかける魔物の軍勢が見える。
「モンスタートレインになっちゃってるから! 近隣住民に迷惑だからぁ!」
『”なるべく私達の力を使わないように”だなんて流石に厳しいとは思っていたのだけど……想像していたより大丈夫みたいね。イツキには追いつけないと理解した個体から順に、元の場所へと戻っているわよ!』
「うんうんうんうん……いや俺、全然大丈夫じゃないからねぇッ!」
『よりにもよって仙人の住処で下手に力を使ってしまえば、モラクスの眷族に感知されかれないわ。彼と鉢合わせをする前に……璃月を出ましょう?』
イツキの記憶上……フォンテーヌから稲妻へ向かうには、どう遠回りしても璃月を通ることになる。七神の中でも最強格であり、どれ程の力を有しているのかも未知数な──かの”金欠男”に見つかってしまえば……ヌヴィレットの時よりも更に抜け目が無い且つ上手い言い訳を考えなければならない。
「面倒なアビス関係と関わらない為にスメールと層岩巨淵を避けたのは良いけど……こっちもこっちで、沈玉の谷やら仙人やら岩神の眷族やら……」
『璃月を通ること自体を避けてドラゴンスパインから泳ぐことになっていたら、きっと途中で方向感覚が分からなくなって……永遠に稲妻へと辿り着くことができなかったかもしれないわよ』
「はぁ〜」
今更後悔をしたところでどうにもならないことなど理解しているはずの彼は──そういや、他にも沢山ミスってたわ……と、出発の際に行われた話し合いを思い出した。
******
──二日前まで遡る。
出発の直前、ルミドゥースハーバーにてヌヴィレットを待っていた時の事。
「おや? 紳士くんじゃないか! ……こうも頻繁に出会ってしまうと、何か運命を感じてしまうね」
『……あまり運命を感じてそうな表情はしていないようだけど』
『連日のあれこれで、イツキに対して苦手意識を持ってしまったみたいね』
(いやまぁ……そりゃそうか)
どこか遠い目をしながら──会いたくは無かった。という意が含まれていそうな”台詞”を吐くフリーナ。
「もしかして、君が例の……イツキくんなのかい?」
「例の?」
まるで誰かから噂を聞いたかのような彼女の発言に、イツキが疑問に思っていると──
「──今回の出張……その内容が内容なだけに、フリーナとは既に情報を共有している。君の事を勝手に話すこととなってしまい、申し訳ない」
フリーナの後ろから、ヌルッと現れる水の龍王。
「お、ヌっさんじゃん。おっす!」
「……へ、ヌっさん?」
突如目の前で行われたまさかのヌっさん呼びに、フリーナは思わずアホ面を浮かべる。
「ヌっさんがそうするって事は、必要なことなんだろう。別に隠そうとしていた訳でもないし、特に問題はないから全然大丈夫だぞ」
またもやイツキの表情から何かを読み取ろうとしているのか、少しの間沈黙するヌヴィレット。
「ふむ。しかし、次回からは……せめて君に聞いてから話すことにする」
「ははっ! まぁ、そうして貰えると助かる!」
すると、そのやり取りを見ていたフリーナは──
「───驚いた」
と、まるで心に思った言葉がそのまま漏れ出してしまったかのように吃驚した。そんな彼女に二人の視線が向けられる。
「あのヌヴィレットが……他人の心を汲んで行動を変えようとするだなんて……」
(ワロタ)
『散々な言われようね』
『……水龍くんもこの短期間で、彼女にそんな認識をされてしまう程のことをしていたのかしら』
フリーナが”共律庭との全体会議で押し付けられた公的手続きの処理を手伝って欲しい”と言っていた際に、それを後回しにする程には雑な対応をしていたヌヴィレット。何だかんだ──これに関してはお互い様か、とイツキ達は納得する。
「いや、昨日見た時は無機質なあの顔でいつも通り共律官達を怯えさせていたし……彼がおかしいだけかな?」
なにやら、イツキからすれば──非常に心外だ! と抗議するレベルの結論に至ろうとしているフリーナ。
「んン”ン”! ……ところで、フリーナ様はどうしてここに?」
「ぅえ? あ、あぁ……ヌヴィレットから予言の調査をする為に外国へ行こうとしている者が居ると聞いた時、調査へ向かう理由が”水神ですらどうにも出来ないことだったらヤバイ”からだと耳にしてね!」
『一言一句、そのまま伝えているのね』
(ヌっさんが”ヤバイ”とか言うんだ)
『……シュールね』
彼女は普段よりも更に完璧だと思えるような微笑みを浮かべる──まるで、本当の表情を隠すように。
「君からは──僕でさえどうにも出来ないことが存在する……そんな神に見えているのかい?」
──これは、しくじったか。と、脂汗をかきながら……同じように本心を隠そうと笑みを浮かべるイツキ。
『頑張って、イツキ……上手く返答しないと彼女の正体が水龍くんにバレちゃうわよ!』
『彼がこの場に居ることによって、難易度が格段に上がってしまったわね』
一瞬、誰からか呼吸の音が鳴る。
「いやいや、そんなことある訳がないじゃないですか! これは俺の性格によるもので」
「……というと?」
「俺は……フリーナ様が予言を食い止めることが可能、不可能に関わらず……全てを神である貴女に任せっきりという考えに不満を抱いていて」
と、この時点で……貼り付けた様な笑顔に固まっていたフリーナの表情が動き始める。
「……ほうほう」
「移住して来たとはいえ、今や俺もフォンテーヌの民。フォンテーヌ全体を脅かす危険には、フォンテーヌ全体で力を合わせて対抗すべきと考え……まずはその手段を調べるところから始めようと調査に行く次第です」
「ふむふむ、なるほど。君はもしかして…………良いヒトなのかい?」
分からないが、この声に手応えを感じると──、
「──はい、良いヒトです!」
などと、ただの馬鹿のように──否、ただの馬鹿が即答した。
『態度の変化から考えて、自身の思い浮かべた”民の不安を払拭するイメージ通りの水神”……それを演じる事が出来ていないかもしれないという可能性を案じていたんだわ』
『イツキがおかしいだけという仮定が、今の返答で確定へと成ったのね』
(……考え的には大分まともやろがい。めちゃくちゃ心外なんだが)
「ハ、ハハハ! 頼もしい人間だね君は。予言の阻止には神である僕の力だけでこと足りるとしても、君のような献身的な民にその思いを向けれられれば無下には出来ないね。無理をしない程度でいい……予言に対抗する手段、その調査を僕から君に依頼しても良いだろうか?」
(マジかよ……ガッツリ旅行気分でサボる気満々だったんだけど、どうしよう。予言に関するどんな情報も、俺からそれを渡してしまえば未来は変わってしまうんじゃないか?)
『そうね、近況報告と観光した感想とかで良いんじゃない?』
(いや、適当過ぎるやろ……)
『調べても見つかるのは……予言が必ず実現するという事についてや、エゲリアの犯した罪に関してのみのはずよ。世界を回っても、その対処法は見つからなかった……という事実を彼女に理解させることで、五百年後の旅人達へとバトンを繋げることが出来るはず』
(おっかしいなぁ……フリーナたんを笑顔にする為に働こうとしていたはずなんだが、曇らせルート確定マジすか?)
「む、無言で見つめてくる。……ねぇヌヴィレット、彼はいつもこんな感じなのかい?」
「ああ」
──フリーナを無視して脳内会議を始めていたイツキは、どこに焦点が合っているのか分からないような気味の悪い視線を彼女に向けている。
「是非ッ! 頑張らせていただきますッ!」
「ひぃッ……コ、コホン。ああ! 朗報が届くのを期待しているよ!」
距離が近いのにも関わらず、大声であまりにも遅い返答をした後……沈玉の谷方面へと歩みを進め始めるイツキ。
「うぅ……やっぱり僕、この子が苦手だよ」
(うん、聞こえてるんだよねぇ)
『言い訳は上手いけど……彼女を怖がらせ過ぎたわね』
(いやいや眞パイセン……冗談はよしてくれよ。そんなことをしたつもりは微塵もないぞ)
『私達と話し過ぎた……わね』
(なるほど……パイセンの言う通りだわ。ミスった……ぐうの音もでん)
心做しか雰囲気がどんよりとしている後ろ姿を見て、
「……?」
疑問の表情を浮かべるヌヴィレット。
大きな荷物を船に乗せ、必死にオールを漕ぐ彼を見送りながら、顔を引き攣らせるという拒絶気味の反応を見せるフリーナに──そうか。と一言だけ告げると、ヌヴィレットはそのままフォンテーヌ廷へと帰って行った。
──この翌日、フォンテーヌ廷には大量の雨が降り注いだという事をイツキ達は知らない。
******
「……」
思い出したことで、更に気分が落ちるイツキ。
「つーかこいつら、本当に元の場所に戻ってんのか? 後ろのヤツら……数が減っているどころか、増えてる気がするんだが!?」
『減って……ないわね』
『ええ、どうすれば良いのかしら』
イツキは手足を全力で振りながら──知恵の神〜!? と、内心で叫び声をあげた。
──すると、視界の上端から……イツキの後方に目掛けて、轟音を立てながら光る何かが向かってくる。
「……は? ──はああぁぁぁッ!?」
どうやら隕石のようなソレが頭上を通過すると、今もなお彼を追いかけ続けていた大群に着弾。そして衝撃波と共に吹き飛ばされたイツキは、回転しながら地面に転がった。
「………え、えぐぅ。……マジでなにぃ?」
視線を上げると、先程までけたたましい鳴き声を上げながら猛進していた魔物の大群、その全てが──石化していた。