気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい   作:たゆな

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この回は三人称視点です。


──稲妻出張編──
第13幕


「──許可しよう」

 

「へ?」

 

 家具が一切ない、殺風景な部屋の床に正座をしている人間──否、人外が二人。

 

「え、あの〜……何かこう、難しい手続きとか……あれこれは必要ないんですかね?」

 

 イツキは今──丸一日家に籠って段取りを考えようッ! なんて意気込んだ次の瞬間には、ヌヴィレットが家に押しかけて来るという絶望を目の当たりにしていた。

 

「無論必要だ。だがそれについてはこちら側で、イツキが稲妻への渡航を開始するまでには終わらせる予定故、今君が気にする必要はないだろう」

 

『……判断が早いわね。今回も今回とて、彼がこうまでする理由が想像できないわ』

 

『そうね……全く、イツキの何処が良いのかしら』

 

(……いやオイ)

 

 おそらく高級なのであろう『水』の入ったグラスをイツキへと手渡しながら、淡々とそう口にするヌヴィレット。どう見てもただの水、水だ……しかし、さも高級ワインのような雰囲気を醸し出しているソレに、思わず喉を鳴らしたイツキ。

 

「……はぁ。ヌっさんはどうして、こんなにあっさりと承諾してくれたんだ?」

 

 ──フォンテーヌの予言を阻止する為の方法を世界各地に探しに行きます、手始めに稲妻へ出張させてください。というイツキの申し出に、二つ返事で了承をした彼へと疑問を抱く三人。

 

「”どうして”という問いならば、むしろ私が君にしたいと思っている。どうしてフォンテーヌの民でさえ、”水神がどうにかしてくれる”などという漠然とした理由で思考を放棄している問題に、外から来た君がここまで尽力してくれるのか」

 

「それは……」

 

 本当は目の前で手を伸ばせば助けられる者でさえも、助けるつもりはさらさら無いなどと……そんな選択をしなければならない自身に対して酷く軽蔑心を浮かべ、そして──外面を偽る。

 

「──ははっ、もしその水神ですらどうにも出来ないことだったらヤバイし」

 

『……貴方が気に病むことではないの、どうかあまり罪の意識を感じ過ぎないで』

 

 だがその意識をいくら偽ろうとしても、漏れ出た思いの端をすくい取ることが出来てしまう、そんな脳内の草神には伝わる。そして彼女に伝わってしまえば……。

 

『マハちゃん……?』

 

(別にまだ実際にそんな場面に出くわした訳でもないだろ……罪の意識なんてモノは感じてないし、気に病んでもいない)

 

『イツキ貴方またッ──』

 

 もう一柱にも隠し通せはしない。

 

『歴史を改変しない為に、死ぬはずだった者を……救える者を見ないようにしなければならないなんて、そんな生き方をして何も感じずに居られる訳がないでしょう?』

 

(心配し過ぎだって! 俺は所詮この世界には元々存在しないはずの者だ。……ただ居なくなるはずだった者を救う方法も、探せばどうにかやりようはあるかもしれないだろ? そんな感じのメンタルで生きてるから、そこまで重く考えてはいないさ)

 

『──なるほど。どうして私達が引き寄せられ、貴方の中にいるのか……ずっと考えていたわ』

 

 すると、少し考えるような仕草をしているヌヴィレットを他所に──もしかしたらこれは……と、おそらく肉体の主導権があれば、彼と同じ仕草をしていたであろう声色で元草神は続ける。

 

『イツキの意志──居なくなるはずだった者を救いたいという貴方の願いによって引き起こされたモノ、なのかもしれないわね』

 

(俺が願うだけで救えるのなら今頃……)

 

 今頃──自身の頭の中には、数え切れない程のキャラクターが混在しているだろう……と。そうなってはいない時点で、草神の推測は外れている。

 

『───』

 

(あ〜! また心を読んだなぁ〜? さ、切り替えていこう! 何かいい感じに話が進んでるし、ミスらないように……さ!)

 

『……ええ』

 

『貴方の言う通り……ね』

 

「水神でさえどうにもできない……という考えに至ること自体が、この国の民には想像もし得ない内容であり、現状……イツキのみが特異的な考えの持ち主である証明になる。そしてそれは、通常とは違う観点から物事を認識する事が可能ということに他ならない」

 

『特巡隊兼マレショーセ・ファントムのエージェントとして雇われたのなら、必要な能力と言っても良いわね』

 

「でもそれって……犯罪調査に向いているってことだよな? 尚更別の国に行かせるより、ここに居たままの方が良いんじゃ……」

 

「そこで少し、イツキに聞きたいことがあるのだが……良いだろうか」

 

「ん? 全然いいけど、何すかね……?」

 

 手元のグラスに入った水を、口に含みながら……ヌヴィレットへと耳を傾けるイツキ。

 

「先日、ウラニア湖近辺にある山の頂上が……何者かに丸ごと吹き飛ばされていた事を確認し──」

 

「──ぶふぅッ〜!」

 

 あまりにも心当たりがあり過ぎる内容に、思わず吹き出してしまったイツキは……口に含んでいた水を全てヌヴィレットの顔面へとぶち撒ける。

 

「ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」

 

「まだ最後まで言っていないのだが……その様子から察するに、やはり君には心当たりがあるようだ」

 

(ば、ば、バレてるぅううう)

 

『あら、水龍くん。まるで”予想はしてた”みたいな反応』

 

『本来なら数日後に彼と交渉するはずだったのが、当日になってしまった……こうなるのも仕方がないわ』

 

『ええ、私が放出した雷元素力──その残滓が……少し見ただけでもまだイツキの身体にべっとりと付着していると分かるものね』

 

 ポケットから取り出した布で、吹きかけられた水をゆっくりと拭き始めるヌヴィレット。

 

「うぅ……ということは、逆にこの国から追い出す為とかそういう……?」

 

 そして……この場にはもう一人、イツキの感情に対して敏感な者が居る。彼は先程、イツキから水を吹きかけられた際に感じ取ったマイナスの感情──主に自責を含んだモノを記憶していた。

 

「私が君を畏怖し、除け者にするなど有り得ない──その様な事は今後起こりえないと断言しよう」

 

 ヌヴィレットはイツキの眼前まで顔を近付けると同時に、そう言い放つ。

 

「そ、そうすか」

 

『……ち、力強い』

 

『か、顔も近いわね。ビックリしたわ……』

 

 脳内に住まう二人の神でさえも、水の龍王が纏う”これはマジ”というオーラに気圧される。

 

「逆に言えば……君にそれ程の力があったが故に、稲妻への出張を許可したと言っても良いだろう。そうでなければ……漆黒の災い以降、魔物が蔓延る外海へ、抵抗する力を持たない部下を送り出すなどという愚行を働く事になってしまう」

 

「……なるほど」

 

「さて、資金についてだが……稲妻ではどれ程の期間を過ごす予定なのだろうか」

 

「ひゃ、百年程……」

 

「──なんだと?」

 

 眉を顰め──何故、それほどの時間を? やら──長すぎる……やらブツブツ呟き始めるヌヴィレット。

 

「予言に対処するための方法を模索するには必要な年月……ということか」

 

 イツキには聞こえない程の小さな声でそう結論づけると、

 

「──承知した。定期的にこちらへと近況の報告をするという条件の下……返事の手紙と共に送金をすることにしよう」

 

 ヌヴィレットはそのまま立ち上がり、家の玄関へと向かった。

 

「マ、マジか」

 

 まさか通るとは思っていなかった申し出に、ビビり散らかすイツキ。

 

『え? うそ……百年よ?』

 

『普通の人間では無いと知られていることを加味しても、到底許可できるような内容ではないと思うのだけど……イツキの言っていた、旅人の仲良しバフというのがこれよりもスゴいものだと考えると、もはや洗脳の類いを疑ってしまうわ』

 

 何やら玄関口で停止しているヌヴィレットを見て──また”ヌっさん呼び待ち”してるのか? という考えを浮かべたイツキは、のそのそと立ち上がってヌヴィレットを送ろうと玄関へ向かう。

 

「では、失礼する」

 

「またな、ヌっさん」

 

「………」

 

 そうして、扉が閉まるのを確認したイツキは……盛大にため息を吐いた。

 

「はぁぁぁ〜〜摩耗したぁ〜!」

 

『……してないわよ』

 

『それ程までに衝撃が絶えないものであった……ということには同意するわ』

 

「あ〜急に暇になったな」

 

『元素力の操作を慣らす訓練でもする?』

 

「……俺、見てるだけやん。結局暇なのは変わらないやん」

 

『なら、釣り……かしら』

 

「そうするか。原点にして頂点……原神はやはり釣りから始まり、釣りに終わる! ハイヤァァッ!」

 

 そう奇声をあげたイツキは、自家製の練りエサと竿を持ってフォンテーヌ廷西の海岸へと、軽快なステップを踏みながら向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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