2022.08.15
Exhibition

建築家の終わり、あるいは誕生

Andrew Kovacs──From Chicago to Shodoshima

鮫島卓臣

7月24日、HASEKO-KUMA HALL(東京大学本郷キャンパス)で、アメリカを中心に活躍する建築家のアンドリュー・コバック氏によるレクチャー「Andrew Kovacs──From Chicago to Shodoshima」が開催された。SEKISUI HOUSE - KUMA LABが2021年度に実施したコバックスタジオの参加学生による講評会と合わせて、コバック氏の取り組みと近作について知る貴重な機会となった。

ロサンゼルスを拠点に活動するコバック氏はUSCなどで教鞭を執りながら、自身が主宰する事務所Office Kovacs(O.K.)を通して実験的な作品を多数発表している。『a+u』2017年5月号の「米国の若手建築家」特集では、アンビルドの作品が中心だったが、それ以降、コーチェラ音楽祭のパヴィリオン「Colossal Cacti」(2019年)やジョージア州の公園内パブリックアート「Rainbow Forest」(2021年)fig.1などの実作も発表しており、アートと建築の双方を股に掛けて活動の幅を広げている。

彼の作品の特徴は、既存のモノ(=レディメイド)をひたすら「収集」し註 1、それらを場当たり的に組み合わせたり繋ぎ合わせたりすることで即物的に新たなモノをつくる、身体を介した「制作」の態度註 2にある。レクチャーではこの「収集と制作」を軸に、初期から現在までさまざまなスケールの作品が紹介された。収集されるモノは、例えばドールハウスの部品や建物のフィギュアから、そこら辺のおもちゃのように建築とはおよそ無関係のモノにまで及び、さらに2次元のモノであれば著名な建築家の平面図や誰かの殴り書きのスケッチなど、その対象は多岐に渡る。収集の判断基準は彼自身の個人的な好み、すなわち「Affinity」である。プリンストン大学在学中から継続されているプロジェクト「Archive of Affinities」(2010年〜)は、彼自身の収集の記録であり、好みの総体でもあるfig.2。スキャンされ、無分別に羅列された収集品は、すべて彼の「制作」の一部として使い回されるfig.3。ここで重要なのが、「著名な建築家の平面図」と「誰かのスケッチ」が対等に扱われることで、建築デザインの専門的な側面が意図的に消去されている点だ註 3。「FLOOR PLANS」(2012年)では、既存の平面図から抽象的で匿名の図形といったさまざまなモチーフが縫合され、新たなプランが描かれるfig.4。よいものがあれば、それが平面図であろうとなかろうと、使ってしまえばいい。建築家にしか共有できない専門性の文脈ではなく、「これ面白いじゃん」という個人的な好みを気軽に信じること註 4は、自身の感性を大衆のそれとパラレルに置き、誰でも面白いと思えるものへと歩み寄ることでもある註 5。「Colossal Cacti」では、アメリカの子ども番組に登場するサボテンのイメージを参考に、皆が親しみを持てるユーモラスなパヴィリオンを設計したfig.5。そのカラフルでポップな構造体は格好のインスタ映えスポットとなり、とある音楽番組の舞台セットとしてコピー品が流通する始末となった。コバック氏はこの経緯を嬉しそうに語る。インスタ映え、コピーされることはすべて、彼にとっては大衆にどれだけウケたかを測る成功の物差しなのである。ここでは建築家然とした作家性や、オーセンティックなものにこだわる態度はまるで見られない。

筆者がコバック氏と会った時、彼は次のように話した。「僕は建築を設計するのがうまくないから、うまい人がつくったモノや面白いと思ったモノを使っているんだ」註 6。これを聞いた時、彼の取り組みは建築を大衆に開くだけでなく、建築家という職業を民主化註 7しているのだと感じた。専門的な建築設計の知見がなくとも、デジタルにレファレンスやデータが共有され、動画サイトでさまざまなハウツーを見ることができる今、それらを「収集」することで誰でも建築家になれるかもしれない。収集の基準はあなたの好みでいいし、制作にはあなたの身体があればいい註 8。彼の作品は専門領域としての建築家像の終わりを示唆すると同時に、誰でも建築的に何かをつくれるかもしれないという、恐怖と希望の入り混じったアンビバレントな期待感を私たちに持たせる。

また、今回の来日に合わせて、彼がシカゴ建築ビエンナーレ2017に出展した作品「Proposal for Collective Living II (Homage to Sir John Soane)」の再組み立てが東京大学の学生によって行われた。組み立て後、小豆島の「新建築社 小豆島ハウス」(『新建築』2207)に移設・展示されている。ぜひ足を運んでみてほしい。

鮫島卓臣

1995年東京都生まれ/2018年慶應義塾大学システムデザイン工学科卒業/2022年イェール大学建築大学院修士課程修了/2022年よりSHoP Architects勤務

鮫島卓臣

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a+u 2017年5月号

「Archive of Affinities」(2010年〜)/提供:Office Kovacs

「Rainbow Forest」(2021年)/撮影:Dustin Chambers

「CHICAGO MODEL Proposal for Collective Living II(Homage to Sir John Soane)」(2017年) /提供:Office Kovacs

「Colossal Cacti」(2019年)/撮影:Phil Donohue

「FLOOR PLANS」(2012年)/提供:Office Kovacs

「Archive of Affinities」(2010年〜)/提供:Office Kovacs

「Rainbow Forest」(2021年)/撮影:Dustin Chambers

「CHICAGO MODEL Proposal for Collective Living II(Homage to Sir John Soane)」(2017年) /提供:Office Kovacs

「Colossal Cacti」(2019年)/撮影:Phil Donohue

「FLOOR PLANS」(2012年)/提供:Office Kovacs

fig. 5

fig. 1 (拡大)

fig. 2