魔法少女ものの世界で悪役紳士気取ってたらヘイトが溜まっていくが俺はただ生き延びたいだけ 作:イッツ
イレギュラー
俺はこの世界を視聴者として見ていた。そのはずだ。だから、知らないはずがない。なのに、あの魔法を俺は知らない。
番外編とか、ゲームでだってあんな技をビバーチェピンクは使わない。だって、ビバーチェピンクは"変身と必殺技以外の魔法が使えない"のだ。レジェロブルーも同じく。
なら、あれは。確かな熱量を持って飛んできたあの烈火のような魔法はなんだ。
「──イレギュラー」
これは異常だ。
俺が居る時点でおかしいのかもしれないけど、だけども、原作から話が変わっているからとはいえ、ビバーチェピンクの……雛芥子ユイコの根幹の設定まで変わるのか?
ブルブルと震える手でメガネをかけて、壁を支えに立ち上がる。
紐ゴムで髪を結び、シャツの襟を整える。
しっかり、皆橋の姿になっているから、この姿なら聞き出せるだろうか?
あれは、なんなのか──を
────
side 雛芥子ユイコ
「……逃げられた」
ギ、と歯噛みすると、優しく手を握られた。
レジェロは慰めるように私を見て手を離して、それから背を叩く。
「大丈夫だよ」
「うん。分かってる。今はこっちだね」
──ゆるりとマーガレットが怪人に黒い、豪奢な傘を向けた。パンと花が咲くように傘が開いた途端、怪人の身体に大穴が開く。カラフルな舌ごと、身体の真ん中に風穴を空けられたのだ。
「マーガレット! 何をしたの?」
レジェロが警戒しながら聞くと、マーガレットはうざったそうに私達を見下げ、少しの沈黙の後に口を開く
「わたくしの魔法です。そのくらいお前で考えたらどうですの、魔法少女」
キツく私たちを睨みつける鋭い眼のまま──マーガレットは傘をパタンと閉じる。それを見て咄嗟に、まずい。と思った。何故かは分からない。けれど、魔法少女としての感覚が危機を伝えたのだ。危険だ、今すぐ逃げろと……
「青い小娘。それとピンクの小娘。──お前達には借りもあるのだし……もう少し"キツく"」
「ビバーチェ──! まずいッ!」
ゴシックな傘が鞘に収まる刀のように構えられて、溢れるばかりの魔力が傘に集約していく。
──何をする気か分からない。分からないが、まずいのは凄く伝わってくる!
ザ、と地面を蹴る。もう逃げられない。なら、せめて──
「──痛め付けませんとねえッ!」
高い狂笑と共に、吹き荒れる黒い魔力が飛び出た。
それはビームにも似ていた。私達が使える必殺技にも、似ていた。魔力が見えるくらい濃厚に圧縮されて、辺りを薙ぎ払う小夜嵐と化していたのだが。
傘に収まっていた場所から吹き出た暴雨の如きその一撃を、私は"一身に受ける"。
「ぐ、ぁああッ……!」
「何を──いえ、庇ったのね」
床に崩れ落ちる。膝に砂利が当たって、あちこちが痛くて苦しいし、服も大穴が空いてしまった。なのに頭を下げなかったのは、ただの意地だった。
砂砂利を踏む音がして、正面からマーガレットがカツカツと歩いてくる。勝利を確信しきった腹の立つ顔をして、バカを見る目で私を見ている。きっと、あれをまたやれば勝てるだろう、なんて考えているのだ。実際次はどうしようもないのだけれど。
──ああもう、腹立つわね。
クラクラの頭で睨んでいると、背後から手が伸びた。その手が私を抱えて、後ろへと撤退していく。レジェロだ。私よりは軽傷だけど、それでも服のあちこちが破けている。
「レジェ……ロ」
「ビバーチェ」
とても頼もしい声がした。冷えた水のような、優しくて、柔くて、強い声。
「ねえ、相棒」
「……何、レジェロ」
「──まだ、やれる?」
は、と笑ってしまった。まだやれる、だなんて! どこをどう見たら、そんな発言が出てくるのよ。
──ああ、でも。
「当たり前……じゃない。私達、コンビなのよ。カッコ悪いとこばっか見せられないし」
レジェロの肩を借りて立ち上がり、薄く血の滲んだ唇を袖で擦る。霞む視界でも、黒いドレスの女が捉えられた。サラサラとした金髪と幽霊みたいなドレスが変に目立つから、ボヤボヤでもしっかり見えた。
パッと手を握る。触れ合う優しい手を、痛くなるくらい握り合わせる。
妄想イメージするのは、今までの記憶の塊。勇気と、屈辱。
「"またやる気か"! 魔法少女──」
カツカツという足音が速くなる。マーガレットが走っているのだ。ああ、もしかしたら前の時にトラウマになったのかもしれない。そうなのだとしたら、また怯えさせてやる。
これは、私達の必殺技だ。初めは不完全で、今も完璧では無い、私達らしい技。女王様は笑っていた。私達はあまりにも場当たり的で、けれど素晴らしいと讃えてくれた!
『──そうやって、無理矢理乗り越えていくのかい。うんうん。それが君達らしくて素敵だよ。』
「「マジカル・マジカル、ラプソディ──!」」
"巨大な魔法陣から"濃ゆい夢のような色をした眩い光線が飛び出て、マーガレットは包み込まれた。
────
「と、言うわけで、全身筋肉痛なんです。先生」
「それはそれは……」
俺は内心で顔を引き攣らせながらも、びっくりしてます……みたいな顔を健気にも保っていた。
何だかんだ学校が再開したので、今は誰もいない教室で緊急で情報交換をしているのだ。だが"皆橋"は何も知らないので、一方的に話を聞くことになっている。
──まあ、必殺技鍛えてんのかーいとか、あの赤い魔法なんやねーんとか、色々言いたいことはあったが、それはそれはの六文字に全て込めることで押えつつ。俺は乙女ゲーのキャラのように首に手を当て困った顔をするのだ。
「それにしても、夫人……は伯爵と行動していたのですね。魔法少女を捕らえる、でしたか」
「はい。マーガレットも女王様も、魔王は魔法少女を捕らえたいのだと言っていました。」
「確か……女王様に負けた仕返しがしたいのよね」
「なるほど」
まあ知っているけどなるほどと言い、俺は背中で汗を瀑布のようにしながら二人の子供たちを見つめた。この際に手を顎に置くと、考えているふうに見えるだろう。実際とくに考えていないのだが。
「しかし、魔法少女を使って仕返しとは、何をする気なのでしょう」
「それなんですよね。女王様は教えてくださらなくて……」
「──すみません。少し、気になることがあって」
朝顔に顔を向けると、朝顔はブルーローズの髪を耳にかけて、ゆっくりと口を開いた。
「皆橋先生」
「はい? どうしました、水無さん」
「先生は、怪人が出た時、どこにいましたか?」
「昨日ですか」
一丁前に人を詮索する顔の朝顔に穏やかに、毛程の違和感も出さないように俺は微笑み返した。
この顔ももう慣れたものである。
「昨日は──オジサン臭いかもしれませんが、連日の肉体労働で腰を痛めてしまったので、有給を使いました。それがどうしましたか?」
「……いえ。ただ、気になっていただけです」
「そうですか。気になったことはなんでも質問してくださいね。私は先生ですから」
フッ。勝ったな。子供相手に作っておいた嘘を貫くなんて、詐欺師からすれば何よりも簡単なことである。詐欺師じゃないけども。
俺は何か教師っぽいことを言うと、朝顔は納得したような顔をして顎に手を置いて黙り込んでいた。