フリマアプリの
メルカリで2024年11月、利用者間で返品をめぐるトラブルが起きた。事案はSNSなどで「炎上」し、メルカリは個別の取引への介入姿勢を強め、補償もする方針を発表。ただ悪質な利用者の一掃は困難とみられる。デジタル空間での個人間取引で見落とされてきた「購入者の悪意」への対処が課題として浮かぶ。
メルカリの返品をめぐる騒動 24年11月中旬までに表面化した。プラモデルを出品した人が購入者から商品の状態に関する苦情を受けて返品に応じたところ、「出品した物とは別の物が返送され、商品をだましとられた」として被害をメルカリに訴えた。メルカリは購入者の主張も踏まえ、すぐに補償などの対応をしなかった。出品者が一連のやりとりをSNSに投稿したところ、ネット上でメルカリへの批判が相次いだ。
六本木に社員かり出され
騒動がネットで炎上してしまったのを受け、メルカリは24年11月25日、不正利用による利用者同士のトラブル抑制に向けた新たな対応方針を発表した。安心安全に関する体制を強化し、新たな補償方針で対応するとの内容だ。
取引商品を回収して適切な取引ができていたかどうかを目視で確認する回収センターも同日稼働した。主要な国内フリマアプリでは初めての取り組みとなる。
メルカリが発表した具体的な対応方針は、出品者と購入者が主張する商品の状態や中身に相違があり、2者間での問題の解決が難しい場合にメルカリが取引された商品を回収するというものだ。実物を確認した結果、不利益を被ったと判断した利用者には請求に応じてメルカリが補償金を支払う。
メルカリはこれまでに回収した商品の個数や補償額は明らかにしていないが、専用拠点を設けて確認作業を日々進めている。商品回収の取り組み当初はメルカリの六本木ヒルズの本社オフィスに商品が届けられ、社員が確認にかり出されていたという。
「議論になったことは一度もない」
メルカリの取引では、これまでも「炎上」が繰り返されてきた。17年には現金の出品をめぐり社会問題化した。新型コロナウイルス禍の初期には、店頭で品薄となったマスクの高額転売が世間を騒がせてきた。
対策に手をこまぬいてきたわけではない。マスクの高額出品を踏まえて、メルカリは21年にフリマアプリの売買を巡る基本原則を策定した。外部の有識者を招いて定期的にフリマアプリの運営を検証する「マーケットプレイスのあり方に関するアドバイザリーボード」も設けている。
ただ、今回のような悪意のある購入者への規制はほとんどない。アドバイザリーボードの一員で基本原則の策定にも携わった国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「何を出品していいかが議論の中心で、購入者が出品者をだます行為が議論になったことは私の記憶では一度もない」と振り返る。
国民生活センターによると、フリマサービス関連の相談件数は23年度に前年比14%増の7965件だった。24年度も12月末時点で5960件で、このままのペースが続くと23年度並みの相談件数に達する。「出品したゲーム機の返品に対応したら空箱が戻ってきた」などのように、メルカリで起きた騒動と類似する相談も多く寄せられている。
山口氏は購入者の悪意を念頭にした騒動について、「C2C(個人間取引)サービスである限りゼロにはできない」と話す。
法も個人間取引は対象外
13年のメルカリの誕生から急速に普及したフリマアプリは、国による法規制の整備も途上だ。
電子商取引(EC)モール運営会社に消費者利益の保護のための対応を求めた法規制では、22年に施行された「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(取引DPF消費者保護法)がある。同法では、消費者と販売業者の間の連絡を円滑にする措置をECモールに求める。
ただ、同法は販売業者と消費者の取引を対象としており、個人間取引は対象外だ。今回のように売り手となる出品者が被害に遭うことも想定していない。
その他のEC事業者に関連する法規制では、デジタルプラットフォームを利用する事業者の保護を主目的とした「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(特定DPF取引透明化法)がある。
21年施行の同法では、返金・返品をめぐるトラブルを念頭に、EC事業者側が返金の条件などをあらかじめ販売業者に開示するよう求めている。
同法は総合物販オンラインモールのうち、単年度の流通総額が3000億円以上の企業を対象としている。現在は条件を満たすアマゾンジャパンや
楽天グループ、LINEヤフーが指定対象となっている。
メルカリも24年6月期の流通総額が1兆円を超えているが、指定事業者となる公算は小さい。売り手が主に事業者であることが条件のため、フリマアプリは対象外だからだ。
「お墨付き」与える動きも
法規制が整わないなか、メルカリを含むフリマアプリサービスは不正取引をめぐる対応を独自で進めている。
LINEヤフーは運営する「Yahoo!オークション」と「Yahoo!フリマ」で、購入者を対象とした商品補償制度を整備している。届いた商品に購入時の商品説明と異なる点がある場合は、事務局側で審査のうえ年に1回上限1万円分のポイントを見舞金として支給する。25年春にはYahoo!フリマで優良出品者を対象に、購入者が受取評価をする前でも配達完了から最短24時間後に売上金を受け取れる仕組みを整える。
Yahoo!オークションでは、出品時の「入札者認証制限」機能も設けている。過去にトラブルがあったユーザーや低評価なユーザーなどからの入札を制限できる。
楽天グループはフリマアプリ「楽天ラクマ」で、購入申請機能を設けている。購入を希望する人は購入申請をした後、出品者から承認されると取引が始まる。出品者は誰と取引をするか事前に選ぶことができ、トラブルを未然に防ぐことができる。
個人間取引のプラットフォーム側が出品者と購入者の間に立ち、商品に「お墨付き」を与えることでトラブルを予防する動きもある。楽天ラクマはブランド品の鑑定を24年10月から義務付けた。ロレックスなど400以上のブランド品で、配送方法が特殊な場合などを除き、提携する
コメ兵ホールディングスの鑑定士が検品してから発送する。追加費用はかからない。
メルカリもブランドバッグやトレーディングカードなどを対象に「あんしん鑑定機能」を設ける。ただ、購入者が鑑定機能を利用するには追加手数料を支払う必要がある。
売り手が販売業者ではなく一個人の個人間取引では、「強い立場の販売業者と弱い立場の購入者」の取引を前提とした法規制では対応しきれない。取引DPF消費者保護法は施行から3年をメドに経済社会情勢などを勘案して見直しを検討することになっており、国の動きが注目される。
(湯沢周平)