気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい   作:たゆな

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第11幕

 フォンテーヌ廷──パレ・メルモニアにある最高審判官の執務室では……今日も今日とて、机の上へと山のように積まれている大量の書類を処理し続けている男が居た。

 

「…………」

 

 主に行政関係の物……復興作業により増え始めた市町村の新規制定について記載されている書類に加え、先日フリーナが勝手に置いていった公的手続きに関する書類を処理していたヌヴィレットは……ふと、その手を止める。

 

(……人間が好む家具とは何だろうか。あまり関係が近すぎてしまうと、司法制度の不正を疑われかねない為……イツキが必要とする物の全てを私が購入する訳にはいかないと思ったのだが、あの様な反応をされてしまっては……この件に関して再考せざるを得ない)

 

 以前、ヌヴィレットがイツキに提供した住居への案内を終え、そのままパレ・メルモニアへと戻ろうとした時の事──その瞬間まで非常に大喜びしつつ感謝を述べ続けていたイツキの顔に、一瞬だけ微妙な落胆の感情が浮かんだのを彼は認識した。悟られないようにする為か直ぐに表情を戻し、玄関に留まっているヌヴィレットとは反対の……家具が一つも存在しない空間を見ながら歓声をあげ始めたイツキ。その姿に何故か心を締め付けられてしまったヌヴィレットは、彼に贈る為の家具について……現在進行形で悩み倒していた。

 

(家具については何か要求があれば、その都度対応することにしよう。……もちろん、法の範囲内に限るが)

 

 ──よし、これならば失敗はない。寧ろ更に喜ぶ顔を見ることが出来るだろう。

 

 ……などと考え始めるヌヴィレット。しかし、イツキ側は既にこれ以上返す恩を増やさない方針へと固めている為、彼の考え通りに物事が進むことはない。

 

「その要望を聞く為には、彼に会いに行かなければならないが……ふむ」

 

 ヌヴィレットは、何を口実にしようかと思考を巡らせる。イツキと会ったところで家具を要求されることはないので、ここで仕事の手を止めてまで悩むという時間は……はっきり言って無駄なモノになってしまうだろう。

 

 

 

「──何だ?」

 

 

 

 だがその無駄になる筈だった数分間は、あるたった一瞬の出来事によって非常に価値のあるモノへと変わった。思考を整え、意識を集中させていた事で……ヌヴィレットは遙か遠方で一瞬、膨大なエネルギーが出現したのを感知することが出来たのだ。

 

「早急に対処しなければ……」

 

 折角この国に住み着いてくれそうな友人が出来たというのに、その者が恐怖を覚える程の存在が出現してしまえば……彼が此処を離れて行ってしまうかもしれない。──一刻も早く、この現象の原因を突き止め、フォンテーヌは安全な国であるということをイツキに、更に言えばフォンテーヌの民達に知らしめなければならない。そう考えたヌヴィレットは、書類を撒き散らすことの無いように建物の外へと移動してから、自身の保有する力を行使して遠方の山へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、一体」

 

 記憶している景色とはまるで違う。山頂部分が丸ごと刈り取られたような形へと変貌しているその場所を見て、驚愕の声を零すヌヴィレット。彼は辺りを見渡してみたが、既に犯行を行ったであろう人物の姿は無い。

 

「……ふむ、まるで目的が分からない」

 

 それはそうだろう。ヌヴィレットが──何故山頂の地形を変えるようなことをしたのか? と……当の本人達に聞いたとしても『理由なんて無いです、ごめんなさい』としか返ってこない筈だ。何故なら実際は、破壊を目的として生み出された惨状ではないのだから。

 

「雷元素を使用した破壊行為のようだが」

 

 ヌヴィレットが元素力の残滓を確認すると、それが雷元素であるという事が分かった。しかし、彼の知っている中には……雷元素の神の目を保有している且つ、これ程の力を扱える人物は存在しない。それ故にヌヴイレットは、新手の者……最近この国に来たという者の中から調査をすることにした。

 

「……一応、彼にも聞いておく必要があるな」

 

 ──イツキに会う為の良い口実が出来た。

 

 と、考えたヌヴィレットだが……その口実が出来たと同時に、彼が投獄されるまでに残されたタイムリミットもあと僅かとなったという事実が生じてしまったことに気付いてはいない。まさか部下となった直後の彼が、破壊行為を行うなど微塵も考えていないヌヴィレットは……今も共律官達が仕分け続けているであろう、新規住民登録者に関する書類に目を通す為……パレ・メルモニアへと戻るのであった。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

『えっと……眞さん?』

 

「マハちゃんが言っていた通り、一度全力を出してみたら加減が簡単になったわね」

 

 そんな事を言いながら、天空へ放出した一撃よりも遥かに小さい電気を帯びた右手を見せる眞。

 

『おお! ……って、いやそうじゃなくてね』

 

『これで大抵の事はその耐久力でどうにかできるイツキでさえ、到底対処不可能な事柄にも対応できるようになるわね』

 

 二人共、俺の声が聞こえているはずだが……どうやら話を聞き入れる気は無いようだ。

 

『うんうん、起こってしまったことに兎や角言っても生産性がないよな。さて、どうするか!』

 

『……まずは一刻も早くこの場を離れましょう。この状況を彼に見られるのは少し不味いわ』

 

 大丈夫じゃないか? アルレッキーノの伝説任務で、相当ヤバい力を使う某お父様と旅人が戦っても、ヌっさんが来る気配は無かったし。

 

『彼が気付かないことに賭けて此処に留まるより、気付く可能性を考慮して場所を移す方が得策よ』

 

 ……まぁ、そりゃそうか。

 

「と言っても、自宅どころか……フォンテーヌ廷にすら戻る訳には行かないわよ? こちらへ向かう水龍くんと鉢合わせするかも知れないもの」

 

『んじゃそうだなぁ。アランやらジェイコブ達が居る可能性のある工学科学研究院地区、ベリル地区、モルテ地区は避けた方が良い……となれば、エリニュス山林地区の霧の幽林道辺りに移動しようか』

 

『元素力を漏らす心配が無いように、イツキと眞ちゃんは今の内に入れ替わった方がいいわね』

 

「……了解っと」

 

『このままのんびりと山を降りる事もできないのよね? ……元素力を使わずにどうやって移動するというの?』

 

 確かに。一般人程度の速度で走る事しかできないこの身体では此処に留まることしかできないが、マハちゃんの草元素で適当に草を生やしたり、眞の雷元素で電磁浮遊的なことを行うというのは可能かもしれない……それならば、ここから飛び降りて斜面を転がり落ちたとしても、落下ダメージを軽減できる可能性がある。しかし、ヌヴィレットに俺の位置をリアルタイムで特定されてしまうことを避ける為には、元素力を抑える必要がある為……可能不可能に関係なく、それらの力自体を使うことができない。

 

『答えは簡単よ。イツキが生身でここから身を投げればいいの』

 

 ……Wait what(ちょっと待って、今なんて)

 

『……イツキ、何を言っているのか分からないわ』

 

『ふふ。困惑しているみたいだけど、大丈夫よ。幸い……山の片側は崖のような急斜面になっているから、転がり続けて目を回す心配はないわ』

 

 いや、誰もそんな心配はしてないんですが? つーか、身を投げるなんて言い方してビビらすなよ。何が幸いなの? 落下ダメージを軽減する話は? こちとら風の翼未所持なんですけど! パラグライダー無しでスカイダイビングするようなもんなんですけどッ!

 

『この山を登る時に言ったはずよ……足を踏み外しても問題はないと』

 

「いやいや、山頂からの飛び降りは流石に俺の耐久力でどうにかできる大抵の事に含まれていません!」

 

『含まれているわ、大丈夫よ』

 

『マハちゃんが大丈夫って言っているのだから、大丈夫よイツキ!』

 

 ……おい眞、眞おい。あれ程の雷元素エネルギーを地上で放出していたら、どれ程の惨状になったのか想像がつかない為下手なことは言えないが、こんな事になるのが分かっていたら山になんて登らなかった。

 

『……イツキ、急いで』

 

「分かった分かった」

 

 ロッククライミングをしていた時は掴めるものが前にあったから恐怖が半減していたようだ。足場を背にして何も無い場所へ向かって飛び降りなければならない状況に直面した今、死なないと分かっていてもエグい恐怖を感じてしまう。

 

「ふぅ……よし、イツキ行っきまーす!」

 

 俺は身体を大の字に広げながら、山頂から飛び降りた。

 

「うわあ”ぁ”ァァァア”ア”!」

 

『きゃぁぁぁっ!』

 

『……ちょっと音声を遮断するわね』

 

 恐怖から叫び声をあげている俺に対して、眞は何やら楽しそうにしている。そんな俺達が五月蝿かったのか、静かに耳栓をしてフェードアウトしようとするマハちゃん。オイ、そんなことが出来るなら俺にも音声遮断機能を付けてくれよ。

 

『…………』

 

『きゃぁぁぁああっ!』

 

 うん、音声を遮断しているせいで俺の声が聞こえてないから全く気付く気配がないんだよねェッ!

 

『イツキ〜! そろそろ地面に激突するわよぉぉ! 衝撃に備えt……』

 

「いぃ〜やぁアアァァァッ!」

 

 眞の言葉を聞いた俺はこのままだとギャグ漫画のように地面に埋まって脱出不可能となる未来が見えたので、着地場所の照準を付近の木へと変える。次の瞬間、その木をクッションとしてバキバキと折る音を立てながら……無事、地面へとクレーターを作る事に成功した。

 

「……うん、生きてる」

 

『上手く着地できたようね』

 

「……これが上手く着地できている様に見えているのなら、これからマハちゃんの事を頭のおかしい魔神として認識することになる!」

 

『ふふっ。冗談を言ってないで、ほら立って? 身体が埋まっていないのだから、硬直しているフリなんて止めて早く動かないと』

 

『サボっている暇はないわ。行動を開始して?』

 

 いや、冗談のつもりは一ミリも無いんですけど。……つーかお前ら鬼かよッ!

 

『こうしている間にも彼が此方へと向かっているかもしれない。私達の失態を私達で取り返すことができない以上、貴方にお願いするしかないの。もう少しだけの辛抱よ、イツキ。頑張って?』

 

 その言葉を聞いて何故か一瞬だけ心にモヤモヤを感じた俺は、直ぐに体を起き上がらせてエリニュス山林地区へ向かって走り始める。

 

「はぁ……俺達(・・)の失態だろ? ……二人だけの責任じゃないさ。アルレッキーノの力と、魔神戦争時代を生き抜いた神の力を同一視していた俺の考えが浅はかだっただけ。そこを意識できていれば、元素力の放出なんていう行事はスメールの砂漠地域とかでやっちゃってからフォンテーヌに戻るという手もあった」

 

『それは結果論よ』

 

「ちゃんと考えれば分かったことだ」

 

『貴方の記憶にあるアルレッキーノは、ペリンヘリの書籍に記されていた内容と旅人への対抗心を見せた場面から察するに……人工降臨者の可能性が高い。人工とはいえ、降臨者ともなれば……どれ程の力を有しているのかなんて、考えても分かるはずがないわ』

 

「数時間前まで人工降臨者に関しての話は知らなかったはずなのに、どうして今はそこまで詳しく知っているんだ?」

 

『カイトをフォローしt……イツキには責任が無いということを証明する為に、たった今貴方の記憶を覗いたわ』

 

 勝手に見た代償として、無駄なネタ知識まで覚えてしまったみたいだ。

 

「そうか、勝手に……そこまでするか。ま、一回目も勝手に見られた訳だし、何回見られたところで変わらないけどな」

 

『……っ!』

 

『……マハちゃんはただ貴方に責任を押し付けたく無かっただけよ。ねぇ、イツキ? いつもの貴方らしくないわ、突然どうしたの?』

 

 いつにも増して優しく語りかけてくる眞に、俺は少し拗ね気味に返答してしまった。

 

「私達とかいって、俺を省いた! 三人で友達なのに! 俺だけ仲間外れにされたら悲しいんだもんッ!」

 

『──は?』

 

『…………はぁ〜何よ面倒臭いわね〜! もう、全部イツキのせいよ! 大人しく走りなさい!』

 

『次からはもっと早く言ってくれると助かるわ。……あまり貴方と今のような言い争いはしたくないの』

 

 ふむ、皆の責任ではなく俺のみの責任にされてしまった。同じように仲間外れにされている……ということには変わりないはずなのだが、自己犠牲を選んだ二人が、その運命による束縛から逃れた今でも同じ選択をするということに耐えられなかった俺は、二人から全責任を押し付けて貰えたことにより……なんだか悲しみが薄れていくのを感じた。

 

 ──俺ってやっぱりMだったのかな。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 霧の幽林道へと到着した俺達は、一休みする為に付近の小さい岩へと腰掛けた。

 

「おお、汚染クリープが沢山あるな」

 

『……これは、放置して大丈夫なモノなの?』

 

「う〜む。紫色だから……このタイプは生命力が過剰なせいで出来た方じゃなくて、エリナスの血とかアビス関係の汚染と同一のモノだろうか……いつか旅人が全部除去してくれるだろうから放置しても大丈夫じゃね! いつから此処に住んでいるのかは分からないが、下手に除染してパシーフが出てきちゃったら困るし」

 

『パシーフ?』

 

「見た目はほぼメリュジーヌだけどメリュジーヌではない奴……具体的に言うとヴィシャップマンだな。知能の発達したヴィシャップは瞳孔を除けば、地上の人間と全く区別がつかない外見を持つと世界任務でジェイコブが教えてくれた記憶がある」

 

『……知識が豊富なのね、彼』

 

「そんなヴィシャップマンの中でも、龍王が完全に人間のような見た目をしているのがヌっさんで……ヴィシャップがメリュジーヌのような見た目に進化したのがパシーフだ。ヌっさんはメリュジーヌ達の事を自身の眷属であり後継者……すなわち最も優れた新世代の水のヴィシャップだと言っていたんだが、その内容から察するに……メリュジーヌ達に出会う以前にパシーフの事を知っていたんだろう。実際にヌヴィレットとパシーフは定期的に会っていたみたいだし」

 

『もしそうなら、彼がイツキに仲間意識を覚えたような態度を見せていることに違和感が出てくるわね』

 

「いくらパシーフがヴィシャップマンなのだと言っても、人間のような見た目に進化したヌヴィレットやメリュジーヌと違って、人間程に知能が発達している訳じゃない。ヴィシャップマンの中でもメリュジーヌ寄りのヴィシャップマン、ヴィシャップジーヌという訳だから……何かゲシュタルト崩壊してきたわ」

 

『つまりそのパシーフという子は、貴方や彼のようにフォンテーヌの人間社会に溶け込む余所者という段階までには至っていないということね』

 

「そういうこと。必然的にメリュジーヌ達が生まれる以前から此処に住んでいる可能性が出てくる訳だ」

 

 あれ、ちょっと待て。それなら此処にいるの不味くね? ヌっさんが此処に来るかもしれないんだが。

 

『そう言えば、少し思ったことがあるのだけど……』

 

「ん、どしたん? 話聞こか?」

 

『もしも水元素の龍王である彼が、私の元素力を感知していた場合……天空へ向けて放ったあの一撃を、天空の島に居る天理が感知できていても不思議じゃないわよね』

 

「まぁ、そうだな」

 

『半ば強制的に神の心の所有者が変わり、既に私が死んでいる事を知っているはずの天理がその異変を見逃すはずがないわ』

 

 ふむ。その理由は多分アレだろうな。

 

『……貴方、何か知っているのね?』

 

 くッ! ここを離れなければいけないのに、その話を始めたい欲が湧き出てくる!

 

『そんなに話したくないのなら別にいいわy……』

 

「そこまで言われちゃしょうがない! 教えてあげようではないか!」

 

『……別に、そんなには言っていないのだけど』

 

 うんうん、こんだけ言われちゃあなぁ! 流石になぁッ!

 

 

 

 

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