気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい   作:たゆな

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第10幕

 俺は現在、フォンテーヌ廷の外部……その北東にある海岸で釣りをしている。

 

「住居を用意して貰ったはいいが、家具やらその他諸々に関しては自力で調達しなければならないということを失念していたッ! ヌっさんなら丸ごとセットで置いてくれるかなぁ〜なんて期待をしてたけど……流石にだったッ!」

 

『……貴方、水龍くんに求め過ぎよ。これ程の恩に報いる為には、相当に(つと)めなければならないわ。むしろ、これ以上返すモノが膨れ上がらなくて済んだと考えても良いんじゃないかしら』

 

 昨日ヌっさんに案内された場所は、パレ・メルモニアを出て北東にある住居──五百年後には冒険者協会の受付がある位置付近の建物だった。

 中は割と綺麗で見栄えが良い感じではあったが──家具はゼロ。どれくらいのゼロだったかと言うと、俺の声が少し響く程の……いや、洞窟まではいかないくらいのリバーブがあるという、数あるゼロの中でも精神に来るタイプのZEROだったッ!

 

「あのね、俺が言うのは違うと思いますがね、言わせて貰いますね……住居に加えて家具が追加されるだけで、そんなに変わらんやろがいッ!!

 

『まだ最高審判官に就任してから、それ程の年月を過ごしていない彼には……イツキ好みの家具を把握するというのが難しかったのかもしれないわね。嫌われることを避けようとしたあまりに、慎重になり過ぎた可能性があるわ』

 

「慎重になり過ぎた結果、何も選べなかった感じか……」

 

『百年経った後にでも、同じことを頼んでいたら……イツキが普通に働いても返せない程に膨大な贈り物へと変貌していたかも』

 

「ふぅ〜……家具はやっぱり、自分の好きなものを自分で揃えるのが一番だよなぁ〜!」

 

 一人暮らしなのに、人が何十人も住めるぐらいの部屋や設備を整えられても困るし! もし何らかの理由でクビになって、そんなレベルの借金を背負ったら返せる(あて)もないしな!

 

「無防備な状態でも安心して眠れる場所なら、別に床でも問題ないし……逆に家具とか要らない説はある」

 

『……イツキがまるで修行者のような事を言い始めたわ』

 

『私とマハちゃんがどうにかして、彼に欲を湧かせ続けないと……欲を抑え過ぎて、いつか精神が壊れてしまうんじゃないかしら』

 

 いや、流石の俺もそこまでは行かないぞ。この体質から考えて、削れる部分を削っているというだけで……その必要がないのなら、別にわざわざ好き好んでそんなことはしない。

 

「あ、そうだ。マハちゃんの元素力を放出してみる件はどうする?」

 

 たしか──まるで川の水を堰き止める為の門がある感覚で……一度全力で放出して、その入口をこじ開けてからでないと調節が難しい! ……的な事を言ってたよな。

 

『それを試す為の場所も慎重に探す必要があるわ。放出する方向を空へ向けたとしても、私がこのフォンテーヌの何処かで元素力を全力で放出した場合……フォンテーヌの民達の会話が、突如として出現した大木に関しての話題で持ちきりになるでしょうね』

 

「流石マハちゃん……いっぱいつよい魔神様はスケールが違ェ。しかも、そんな規模の木が生えたら……辺りに生息する植物の栄養も奪っちゃうかもしれないしなぁ。ん、それじゃあフォンテーヌに居る間は放出できなくね?」

 

『いえ、イツキの中から元素力を放出する為の入口をこじ開ける事さえ出来ればいいの。大木が生える……というように、形が残り続けてしまう現象が起こらなければ全力を出しても問題はないと思うわ』

 

「なるほどな。それはつまり……」

 

『雷元素を保有する私が……マハちゃんの代わりに放出すれば良いということね』

 

『ええ、そういうこと』

 

 ……ふむ。マハちゃんが全力を出す場合、元素力を放出する際に空へ向ける……つまり方向を一点に集中させたとしても、余波で地面から木が生えてしまう程に過剰なのか。

 

『空中に浮遊することが出来て……尚且つ天高くまで到達することが可能なら何も問題ないわね』

 

「……そんな事が可能になるようなモノを探して見つけ出すまでの道のりが問題だな」

 

『私は雷元素力を戦闘に使用したことが殆ど無いのだけど……だからこそ、辺りの地形を破壊する程の力を持ち合わせてはいない筈よ。逆に力不足でこじ開けることが出来ないかもしれないけれど……』

 

「……まぁ、まずはやってみよう」

 

『ええ。早速、フォンテーヌ廷から少し離れた位置まで移動しましょう』

 

「それって、具体的にはどこまで……?」

 

『……遠くに見える、あの山の頂上とかかしら』

 

「えっ。俺、今から山に登らなきゃダメなの?」

 

『そうよ』

 

「もう入れ替わることが出来る訳だし、もちろん三人で交代しながら登るって感じですよね……?」

 

『生まれてこの方、疲れを知らない人間という事で有名なイツキなら……きっと一人で登ることになっても大丈夫』

 

 この元草神様、俺が適当に言ったことを活用して意地悪してくるッ! ……眞、タスケテッ!

 

『……私は頂上で元素力を放出する為に力を蓄えないといけないから。イツキ、お願いね』

 

 くそッ!

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

「全力で走り続けて山頂に到達するなんて、元の世界での登山なら絶対にありえないな。道が整備されてないから、途中から命綱なし&素手の無限ロッククライミングだったけど」

 

『……岩の脆さは私達が元素視覚を使って確認していたから、比較的安全に登ることが出来たのではないかしら」

 

 ああ、疲れないから安定性も維持出来るしな。懸垂が出来るほどの力があるのに、アデルさんとの掴み合いで負けていた理由は何なのか疑問だったが……これで判明した。あの人は多分ゴリラだったんだ。

 

『……その言い方は彼女に対して失礼だと思うけど。せめて、常人を超えた筋力の持ち主と言うべきよ』

 

「いやそれ、ほぼ一緒やん」

 

『ふふっ。何にせよ、お疲れ様。負担を押し付けてしまって申し訳ないわ』

 

「ん? 別にそれほど苦ではなかったから全然大丈夫だぞ。ダラダラと歩いて、の〜んびりと進む訳ではなく……全力で進行する事によって、景色の移り変わりを堪能しつつ爽快感を味わうことが出来たからな。それにしても……うん、ヤバい。絶景過ぎて涙が出てきそう」

 

 下層雲より遙か上に位置するこの山の頂上からは、周囲の山々や遠くに存在するフォンテーヌ廷を丸ごと視認することが出来た。

 

『……確かに、綺麗ね』

 

『ええ、ここなら眞ちゃんが力を使っても地上への影響は無……少なそうよ』

 

 え、何でそこで言い直したんですか。『無い』から『少ない』に直すのはめちゃめちゃ不安になるのでやめて欲しいんですけど。

 

「う〜ん、あの辺に浮いている四角形の島が沢山あったのを記憶してるから……何かちょっと違和感を覚えるな」

 

 俺はフォンテーヌ廷が見える方角とは、ほぼ反対の位置を指差しながら呟く。

 

『浮遊する島……? 天空の島に近づける技術がフォンテーヌには存在したということ?』

 

 それは実際どうなのか分からんけど……五百年後、主人公がフォンテーヌに到着したちょい前くらいの時期に、フォンテーヌ科学院で大事故があったんだ。確かそれで出来たモノだった筈。

 

『大事故?』

 

 第二次大水期……予言の水害に備えて、科学院は色んな研究を行っていた訳だが、その中にはアルケウムという物のエネルギーを使うことで、フォンテーヌ廷を空中都市にして洪水の危機から逃れるという研究があった。

 

『アルケウム……』

 

 アルケウムは分離と沈殿の性質を持っていて……それを反転させることで凝縮と浮遊の性質を持たせるという研究だな。その途中でアルケウムが大爆発を起こして、科学院には多くの死者が発生、甚大な被害を被ってしまったんだ。

 

『何だか、フォンテーヌは爆発してばかりね……』

 

『……そうね。エリナスの遺骸内部での戦闘でも爆発が起こるみたいだし』

 

 た、確かに。ナヴィアの伝説任務でも、敵対組織の爆破計画やらなんやらで名〇偵コ〇ンさながらの爆弾解除をしてたし……やたらと爆発してるな。あ〜、話を戻すが……その大爆発事故が原因で、アルケウムの力により中央実験室の残骸は異重力凝水体っていう四角形に固まって浮遊している危険な水と共に空中へと残ったんだ。

 

『なるほど、凝縮して浮遊している島……ということね』

 

「そういうこと。フォンテーヌ廷を空中都市にして水害から逃れるというのは、悪くない考えだと思うけどなぁ」

 

『それを実現するまでの犠牲や想定すべき事柄が多過ぎるわ……研究過程での事故だけではなく、天理の怒りを買ってしまうかもしれないという危険性についても』

 

 あぁ、確かに。そっちの危険性もある訳か。技術が発展する過程でカーンルイアのように天理に滅ぼされる可能性が……といっても、カーンルイアの場合はレインドットが『原初の人間を作る』やら『世界の外を観測し、人工降臨者を生み出す』とかいう明らかにベクトルが違う感じのやつも含まれてるから、同一視するべきかは微妙だけどな。

 

『『……ッ!?』』

 

「じゃあ、そろそろ入れ替わろうか。えっと……準備はおっけーすかね、眞さん?」

 

『……ええ。お、おっけーよ』

 

「んじゃ、せーのっ!」

 

 一瞬で視点が入れ替わる感覚には未だに慣れないが、入れ替わること自体はもういつでもイケるな。

 

 

「……」

 

『……』

 

 うわっ! 山の頂上で三人称視点なの怖すぎッ! 足が地面に着いている感覚とかないから安心感がないんだk……ん、どうしたんだ? 二人とも。

 

「……やはり、あの国は滅ぼさなければならなかったということね」

 

 眞が声を震わせながらそう呟くと、足元の小石が紫電を走らせた後に砕け散った。

 

『……へ?』

 

『結局、カーンルイアも善道を外れる実験を行っていた。なるほど、天理は自らの卵の殻を使ってまでこの世界を宇宙と隔離したのにも関わらず、世界の秩序を(おびや)かす存在を招き入れてしまうという可能性を含み始めていたあの国を恐れたのかもしれないわね』

 

 拳を強く握りながら精神を落ち着かせている様子の眞を見て、反対に俺の精神が震え上がる。誰この人、いつもの眞じゃないんですけど。

 

「既に世界の……いえ、稲妻の未来は影に託した。ならば私はこの身体の内から、その行く末を見届けましょう」

 

 眞の存在を隠すかのように、周囲の雲が頂上の岩肌ごとその身体を覆う。

 

「ふふっ、私はもう将軍ではないわ……しかし、変化無き永遠(・・・・・・)を追い求める今の貴女とは違うモノ、目の前の瞬間を尊ぶ私の意志を理解することで……変化し続けても尚、継いで行く永遠(・・・・・・・)を目指すことが出来た五百年後の貴女にも届くように」

 

 雷のような性質を帯びた不思議な力が、浮かび上がる砂塵を焼却し始めた。彼女の元素力が蓄積しているのだろうか。

 

「現在……そして未来を含めた、次代の雷神へ向けて──私の全霊を以って、祝福の言葉を贈ります」

 

 うむ。現在だろうが未来だろうが、雷神はどちらも影ちゃんな訳だから……やはり眞は重度のシスコンだということが窺えるな。

 

「……」

 

 え、あ、眞さん! めっちゃバチバチ言ってるっす、めっちゃバチバチ言ってるっすッ!!

 

「……稲妻という国で生きていた者として、幕府に仕えてくれていた彼等の言葉を借りるわ」

 

 その言葉に稲妻を導く者の姿を幻視して──瞬間、閃光が辺りの大雲を照らす。

 

 

 

 

「──常道を恢弘(かいこう)せしは、永遠なる鳴神なりッ」

 

 

 

 

 直後、雲を霧散させると同時に山の天頂を破壊しながら……莫大な雷元素エネルギーが遙か天空へと駆け昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、あの……力が足りないかもとか言ったの誰ですか? 思いっきり山の形が変わってるんですが。

 

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