気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい 作:たゆな
「……どうかしたか、イツキ殿。僅かに顔色が悪いようだが」
それを聞いて、表情を隠すように顔を俯かせながら慌て始めるマハちゃん。
「い、いえ! わた……オ、オレハ別に大丈夫だわ」
……いや誰?
『だわ……?』
『……マハちゃんの口調と混ざってめちゃめちゃ失礼な感じになってるな。若干カタコトだし』
(この身体で話し掛けられるという事に慣れていなくて、動揺からイツキのトレースに失敗してしまっただけよ。次からはもう大丈夫……ええ、大丈夫だから安心して欲しいわ)
「やはり……体調が優れないのであれば、今回は制服の採寸だけでも構わない。今日は説明が終わり次第、既にイツキ殿の為に手配した住居へと案内をしようと思っていたのだが……勤務に関する説明と、イツキ殿がこれから所属することになる組織についての話、ひいては初勤務までの予定を全て別日へと変更し……直ちに自宅へ向かって、身体を休めて頂きたい」
一呼吸する間に、ヌっさんから送られて来た長文がマハちゃんへと襲いかかる。
「オレなんかの心配をして貰ってありがたいですが……問題ないので、説明を始めて貰えると助かります」
案外すんなりと対処出来たようだな。今、俺の目の前では『テイワットの龍王に元草神が詰められる』という構図が完成している。ゲームをプレイしていた時には夢にも思わなかったモノでもあり、非常に特別感満載の場面ではあるが……ふむ。
『えっ〜と。な、何故か少し……イツキに対して』
「限界を迎えそうになったなら、無理などせず……必ず私に相談してくれ」
『ああ……明らかに過保護過ぎるよな』
相変わらず真顔ではあるが、態度の変化が昨日の比じゃない気がする……これは一体どういう事なのだろうか? 眞と俺が、そう疑問を浮かべていると……慣れ始めたことにより余裕が生まれたのか、落ち着きを取り戻したマハちゃんが答えてくれた。
(もしかすると……メリュジーヌが存在しないというこの段階で、フォンテーヌ人ではなく……いえ、普通の人間ですらない『余所人』であるイツキが、彼に対して一切の悪感情を向けなかったことによって、仲間意識が芽生えたのかもしれないわね)
なるほど……ね。本当はマハちゃんが焦る姿をもうちょっと見ていたかったんだが、ヌヴィレットからそれ程の誠意を向けられてしまったら、俺がこのまま向き合わないという選択を取る訳には行かないか。
「全然大丈夫ダ」
「……そうは見えないが」
『マハちゃん、また変な語尾になってるわよ』
──そもそも俺は、この世界の人間じゃない。それこそ、本当の余所人である俺のことをそんな風に思ってくれているのなら……隠し通す必要はないのかもしれない。
『や、やっと戻れたわ……』
『ふふ、お疲れ様……マハちゃん』
──少しだけ、本心を……憧れだったこの世界の住人と、仲良くなりたいというこの想いを。
「……ははっ! ありがとう、ヌっさん。俺はもう大丈夫だ!」
「……! ふむ、どうやら今度こそ本当に体調が回復したようだ」
……やべぇ、ついめちゃめちゃ馴れ馴れしく接してしまった。まぁ、なんか大丈夫そうだし……怒ってる感じだったら元の口調に戻せば良いか。
『彼、やっぱり……かなり敏感なのね』
『ええ、水元素の龍王だから……なんて理由ではなくて、これはもう今までの彼個人の経験、そして性格に基づいた特性のようね。何事にも相応の誠意を持って対応する彼だからこその』
「そう言えば、ヌっさん。早朝、フリーナ様が執務室に来てたぞ」
それを聞いて……腕を組み、手を顎の辺りへと持っていく様な仕草をするヌっさん。
「ふむ、フリーナが。……内容次第では、今から彼女に会いに行かなければならないが」
「たしか共律庭との全体会議で押し付けられた公的手続きの処理を手伝って欲しいとか何とか……」
「なるほど……それならば、フリーナの事は後回しで良いだろう」
考えるのを止めたのか、考える必要がなくなったのか……どちらかは分からないが、彼は組んでいた腕を降ろし、真顔でこちらへと向き直す。
『本当に大丈夫なのかしら? 水神就任後の仕事は……それほど何度もやっている訳ではないはずなのだけど』
『既に彼女との関係がある程度構築されている様子をみると、就任前から彼女は同じような事をしていたのかもしれないわね。水龍をフォンテーヌへと招待して彼がそれを了承してから、この短期間であのような対応をし始めるほどに……』
ヌヴィレットが俺の前でフリーナ殿ではなく
「まずは制服の採寸から始めるとしよう……先に執務室で待っていてくれ」
そう言い残して、一足先にパレ・メルモニアへと入っていったヌヴィレット。……採寸係でも呼びに行くのだろうか。
「さて……気まずいな」
こうして俺は、パレ・メルモニアを出たり入ったりして受付の人間に怪しまれないかという事を心配しながら、もう一度……ヌヴィレットの執務室へと足を向かわせるのだった。
*********
まだ天秤のマークしか刺繍されていないマレショーセ・ファントムの制服を着た係のお姉さんが、勢い良く執務室の扉を開けた後……驚く程のスピードで採寸をして故郷の星に帰っていったのを見届けた俺は、そのままヌヴィレットを待った。
「度々待たせることになってしまい……すまない。制服を仕立てるには最短でも五日程の時間が掛かるだろう。終わり次第自宅へと手紙を送る故、それまでは好きに過ごしていて貰って構わない。では、イツキが所属することとなる組織について……順を追って説明して行くとしよう」
昨日と同様、机の中央に大量に積まれた書類を移動させて、椅子へと腰を下ろすヌヴィレット。朝にはなかったから、これを置いたのはおそらくフリーナたんで間違いない。……こんな重そうなモノをちゃんと台車から机に運べて偉いッ!
『あら? ……それって』
『既にイツキが知っている内容のはず……ね』
「了解っす」
まぁ……知ってると言っても、ゲームで見た大雑把な知識だけで本当に細かい事は知らないからな。
「
……ん、まずは?
「執律庭という組織の特別部門である特巡隊は、通常の警察隊員が苦戦するような、特に困難な問題を扱っている。例えば、犯罪者が暴力に訴えるなどの行為に及んだ場合に対応して貰う事となる」
ウン、無理☆
「次に、マレショーセ・ファントムについて」
え、何故にマレショーセ・ファントムについての説明を? ま、まぁ……協力関係にある組織だから、情報としては知っておく必要があるよな、うん。
「マレショーセ・ファントムは私直属の組織であり……特巡隊員よりも、戦闘能力を有する者が所属している程に戦闘を得意分野とする組織だ」
……マレショーセ・ファントムも結局、メンバーのほとんどがメリュジーヌになって、犯罪捜査や巡水船のガイドなどに力を入れ始めるまでは……主に戦闘をメインとしていたしな。ファントムハンターという役職があり、フォンテーヌの安寧のために戦い、貢献した者には『狩人の胸花』という……ゲームでは聖遺物の花だな、それを勲章として贈与することで表彰していたらしい。
「マレショーセ・ファントムのエージェントには、執律庭が『脅威性あり』と判定した過激派犯罪組織などに対抗する為の戦闘能力が必要なのだが……以前、アデル殿の話を聞いた限り、君にはその状況に対処する力がないということを記憶している」
「犯罪者と正面から戦うことになったら……勝てないだろうな」
『イツキが戦うのなら……ね』
『……一応、嘘ではないわね』
どちらも戦闘能力が必要な組織なのにも関わらず、俺をスカウトした理由って……一体何なんだ?
「そこで君に、表向きには特巡隊へと加入して貰い……実際にはマレショーセ・ファントムとして、犯罪捜査を中心とした役割を担って欲しい」
「……なるほど」
現在……危険人物の行動を密かに監視して、その言動を記録したりするような犯罪調査は執律庭がメインとして行っているはずだ。つまり、これからの俺は……メリュジーヌがフォンテーヌへと来る前から、マレショーセ・ファントムの勤務形態を戦闘分野ではなく捜査分野へと移行する為の重要な架け橋とならなければならない……ということか。
『メリュジーヌ達のような純粋さが皆無であるイツキに、何故かこれ程までの信頼を置いている? どうやら、仲間意識を持っている……という理由だけではなさそうね』
皆無!? 皆無って……マハちゃん。流石に皆無は言い過ぎじゃないかい? ……先程イタズラされた事を根に持っているのだろうか。まぁ、ヌヴィレットの件に関しては流石に同意せざるを得ない……何だか不自然な程に贔屓されている気がする。絶対に何かあるはずなんだが……皆目見当もつかないな。
「説明は以上だ。イツキに依頼され、手配した住居への案内を最後に……今日の予定は終了となる。では早速、移動を開始するとしよう」
立ち上がって、執務室の扉へと向かうヌっさんの背中を見つめながら俺は思う……何か普通にイツキって呼ばれてるのマジすかッ!?
「いえっさー!」
喜びと感謝を込めて敬礼しつつ……その掛け声と共に執務室を退出した俺は、既に四回ほど顔を合わせている受付のお兄さんに挨拶をしてから、パレ・メルモニアを後にした。
感想を書きづらい……という方々から、一言欄があると助かる! とのご意見を頂きましたので、一言欄を追加致しました。必要文字数は最低の0に設定してある為、基本的には文章を入力する必要はないと思います!