気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい   作:たゆな

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第6幕

 暫くの間、膝を抱えて地面に座っていたが……身体が固まる訳でも、おしりが痛くなる訳でもない。このままでは……快適過ぎて一時間など直ぐに過ぎ去ってしまうと考えた俺は、怠けようとする心に鞭を打ち……勢いよく顔を振り上げる。

 

「ヨシッ! 場所をパレ・メルモニア付近に移すか」

 

『あら……パレ・メルモニアまで行ってから、またいじけるの?』

 

「……いや、違うぞ。この広いフォンテーヌ廷を散策して、下手に予定時刻に間に合わなくなってしまうよりは……最初から行動範囲を現地付近に制限することで、遅刻しないようにしようと思っただけだ」

 

『……本当にギリギリまで怠けようとしている意志が伝わってくるわ』

 

 心はまだ野宿確定という現実を受け入れたくないと言っているが、仕方がない……切り替えよう。

 

「いいか、二人共。パレ・メルモニアの入口はあそこだ」

 

 俺は遠方に聳え立つ、巨大な建造物の方へ向けて指を差す。

 

『……大きい』

 

『立派な建物ね』

 

「あぁ……硬そうだ」

 

 五百年後のフォンテーヌでは、この頭上……それもかなりの高所部分に巡水船の線路が張り巡らされていて、それを辿っていけばエレベーターでパレ・メルモニアに上がることの出来るという……街の中心部──アクアロード・ターミナルへと着くのことが出来たのだが、現在はまだ巡水船が導入されていない為……それに頼ることなく中心部へと向かわなければならなかった。

 

「はい、この街広すぎッ! 道何処っ!? 入り組み過ぎて全然分からん!」

 

 ゲームではワープしたり、壁を登ったりと……あらゆる事が可能だったが、今は……ワープなんてできないし、他人の家や建物の壁を登るなんて事をすれば普通に通報されるだろう。そして何より、ゲームにあったフォンテーヌ廷の規模は……実際の数分の一スケールだったという事実が、俺の頭を混乱させる。

 

『街の人に端から聞いて行くのはどう?』

 

「ごめんなさい。街の人に突然話し掛けるなんて事……俺には出来ないっす」

 

 正確には、原神で見た事のあるキャラ以外への知識がないと……どう会話したら良いのかが分からない。

 

『イツキ……貴方意外と人見知りなのね』

 

『巡水船が導入されてないとはいえ、パレ・メルモニアがあのような高所に存在するのなら……律償混合エネルギーの収集、そして普及する為の場を整える過程で……既にエレベーター程度は完成しているはずよ』

 

 ずっと思ってたけど、俺から得た知識に適応するスピードが早すぎる……さすが知恵の神と言わざるを得ないな。

 

「つまり、アクアロード・ターミナルになる前の……それに近い施設が目印として建てられている可能性がある訳か」

 

『そういうことになるわね』

 

『……アクアロード・ターミナルって何?』

 

「五百年後にはこの広いフォンテーヌを船で行き来することができる、巡水船という設備が整っていて……その全てと繋がる中心部の施設にアクアロード・ターミナルというものがあったんだ」

 

『……なるほど。それを辿っていけば簡単にパレ・メルモニアへと着けるはずだったのに……今は存在しないから自力で行かなければならないという話ね』

 

「そうそう、そういうこと〜! ……つーかこんな悠長に話している場合じゃないッ! まだ約束の時間までクソ余裕ある〜! って思ってたのに、パレ・メルモニアに到達することが出来ないと分かった今……俺は非常に焦りを感じているッ!」

 

 やばい、マジでヤバい。このままだと、ヌヴィレットに約束をぶっちした人間として記憶される事になってしまうッ! そんなつもりは無かったのにそう思われてしまうというのが一番嫌だ!

 

「パレ・メルモニアはどこパレ・メルモニアはどこパレメルモニアどこパレ・メルモニアはどこ」

 

『同じ言葉を繰り返しながら走り回る人間が、これほどまでに不気味だなんて……』

 

『このまま誰かに通報でもされて特巡隊に連行されることになれば、パレ・メルモニアへと早く到着出来るかもしれないわね』

 

 マハちゃんが珍しくヤバいことを言い始めた為、俺は思わず動きを止める。

 

「……あ"あ"〜! どうしたらッ!」

 

 そうして俺が頭を抱えていると──、

 

「……コ、コホンッ! あ、あぁ〜そう言えば。僕は今から! これまでの行政管理について共律庭と話し合う為、パレ・メルモニアへと向かわなければならないんだった〜!」

 

「ん?」

 

『……彼女はもしかして』

 

『フリーナちゃん、みたいね』

 

 背後からやたらとパレ・メルモニアの部分を強調する……非常に聞き覚えのある声が耳に入ったので振り返ると……青い服を着た少女が、わざとらしく俺達……俺に聞こえるような大声で喋り始めていた。こちらから向けられる視線に気付いた様子の彼女は、ゆっくりと歩みを進めていく。

 

「……何やら定期的にこっちを見てるな」

 

『……ついて来れているのかを確認しているのね』

 

『可愛いわね』

 

 彼女は、後を追って歩く俺にチラチラと視線を向けながら……連続で道を曲がる時でさえ、(はぐ)れないように配慮してなのか……わざわざ気になる看板を見て足を止めたフリをしてくれていた。

 

「ふむ。ちょっとイタズラしてみるか」

 

『ねぇ、イツキ。フリーナちゃんの善意に対してそんなこと……最低よ?』

 

『私も少し……彼女の反応に興味があるわ』

 

『マハちゃん!?』

 

「……流石、知恵の神は好奇心旺盛だなぁ」

 

 悪戯心がくすぐられてしまった俺は、角を曲がるフリーナを見送った後……ついて行く足を止めて、その場で立ち止まってみることにした。

 

『ね、ねぇ……このまま彼女を見失ったら、パレ・メルモニアに行く事が出来ないと思うのだけど……大丈夫なの?』

 

「その時は頑張って──街の人に聞く」

 

『貴方、そこまでして彼女にイタズラしたいの!? というか結局他人任せじゃない……』

 

『ふふ、大丈夫。何とかなるわ』

 

『……マハちゃんもあまりイツキを甘やかし過ぎちゃダメよ!』

 

 暫くすると、何者かが走ってこちらへ向かう足音が聞こえて来る。そして案の定、そのまま戻ってきたフリーナとガッツリ目が合ってしまった。

 

「──と、突然、別の用事を思い出して焦ってしまったけど、どうやらそれは……後回しにしても良さそうだ! さて、このままパレ・メルモニアへ向かうとするか!」

 

 俺から外した視線を斜め右上へと向けたフリーナは、そう言いながら……もう一度同じ道を曲がって行く。彼女が苦し紛れに放った無理のありすぎる独り言には、優しさが溢れまくっていた。

 

『……イ、イツキ? 何だか私、非常に胸が痛いのだけど』

 

『禁忌の知識による汚染と同等の苦痛と言っても過言ではないわ……』

 

「これが知識を得たことによる代償か。……フリーナたん、マジでゴメン」

 

 そのまま俺は、今度こそ本当に彼女を追って道を曲がる。すると、先程と同じ様に……気になるモノに足を止めるフリをしては此方をチラ見するフリーナが居た。

 

「このペースで進んでたら……流石に間に合わないか」

 

『……フリーナちゃんに案内までして貰っているのに、彼との待ち合わせに遅刻する訳にはいかないわね』

 

 俺が動き始めたのを確認した彼女はナビを再開する。暫く何も言わずに追って行くと、(ようや)く……ゲームで良く見たことのあるモノが視線の先に現れた。広場の中心に不思議な力でクルクルと回っている水色の球体があった場所にはまだ何も設置されてはいないが、その前方に大きな時計が付いている建物が見える。

 

「ここは……」

 

『ヴァザーリ回廊ね』

 

 ふむ、この広場の見た目にはあまり変化がないな。中央の装置が無いのと……アクアロード・ターミナルがあった建物が少し変わっている程度か。

 

『ねぇ、イツキ』

 

 ん、マハちゃんどしたー?

 

『シェ・オリヴィアにあったモノにズレが無いのなら……彼との待ち合わせ時刻まで後数分程しかないわ』

 

「……マジかッ! それは流石に……走らないとヌヴィレットとの待ち合わせに間に合わない!」

 

 瞬間、猛ダッシュで眼前のフリーナを追い抜く。

 

「へっ……ヌヴィレット?」

 

 俺は急いで、目の前にあるアクアロード・ターミナル(仮)へと駆け込み……エレベーターに乗ってパレ・メルモニアへと向かう。

 

「……っと、そうだった」

 

 だがその前にやらなければならない事がある為、急に走り出した俺に困惑しているのか……その場で止まっているフリーナの方へと振り返る。

 

 

 

 

「フリーナ様ッ! 長い時間ここまで案内して頂き、ありがとうございましたッ!」

 

 と、俺は周りに居るフォンテーヌ人に聞こえるような大声でお礼を言った。

 

『きゃっ!』

 

 ……そういや、急に大声を出すと眞が驚いてしまうという事を忘れていた。

 

「……え、えぇ〜! な、何のことだい? 僕は別に、ただパレ・メルモニアに……」

 

 

 

「……フリーナ様だ」「フリーナ様よ!」「水神様に道案内をして頂けるなんて幸運な方だ」「フリーナ様……なんてお優しい方なのかしら」

 

 

 

 フリーナに対する疑いの視線を少しでも減らす為、俺が出来る事は片っ端からやっていこう。

 

「ハハッ、礼なんて必要ないさ。さぁ、何をボーっと突っ立っているんだい? 神としての僕が放つ魅力に、心を奪われてしまうのも仕方がない! しかし……どうやら君を待っている者が居るみたいだ。その者を悲しませる訳にはいかないだろう? 早くそれに乗って、待ち合わせの場所とやらに急ぐといい!」

 

 ヌっさんを悲しませて雨を降らせる訳にはいかないので、もっと喋っていたいという気持ちを抑えて、会話をここで切り上げる。

 

「ありがとうございます! では、また何処かで!」

 

 その挨拶と同時に、俺はエレベーターのボタンを押した。

 

 

 

*********

 

 

 

 パレ・メルモニア入口に到着したが、未だ彼の姿は見えないので付近の七天神像横でヌヴィレットを待つ。

 

「ふぅ……これで安心だ」

 

『少なくとも、遅刻をしてしまう……という心配はする必要がなくなったわね』

 

 俺も旅人のように……七天神像の神秘的な力で水元素力を扱えるようになるかもと考えたが、像をペタペタと触ってみたり、意味深に見つめてみたりしてみても……何も感じることは出来なかった。

 

『イツキに旅人のような力はないけれど……私達の元素力を、貴方の身体を媒介にして放出する事は可能よ』

 

 は? マジで言ってます? ちょっと、その事について詳しく聞かせて貰っても宜しいですかね? 二人の元素を同時に扱えるなんて……セルフ激化出来るってことだよな!?

 

『イツキが一時的にこの身体を明け渡すことで、その間は私達が直接力を扱える。つまり、いざという時……戦闘能力を確保出来るわ』

 

 ……それって眞とマハちゃんの力を俺が使えるんじゃなくて、眞とマハちゃんが俺の身体を使う感じやん……何か思ってたのと違う。

 

『そんなことも出来るのね』

 

 それこそ雷電将軍人形と影みたいな感じか。人形の身体に魔神の意識を宿す……ようなもの。まぁ、俺が影やナヒーダと会う事になったら、一時的に身体の主導権を明け渡してあげようとは思ってるから……楽しみに待っていてくれ。

 

『ふふ、ありがとう。私の輪廻と話せる日を楽しみにしているわ』

 

『あら、そんな事を言われたら……影だけじゃなくてあらゆるモノへの未練が蘇ってしまうわね。もしかしたら、身体を乗っ取ってしまうかも?』

 

 二人は決してそんなことをするような神ではないと信じていますまる。

 

『……はぁ、都合が良いんだから。もう』

 

 

 

「どうやら、退屈してしまう程の時間を過ごさせてしまったようだ……イツキ殿、待たせてしまってすまない」

 

 

 

 背後から何やら勘違いをしている声が聞こえてくる。どうやらヌヴィレットが到着したようだ。

 

「あ、いえ! ついさっき来たばかりなので大丈夫です。して、俺に頼み事とは一体……?」

 

「あぁ、それについて話すには……少し場所を変える必要があるだろう。私の執務室であれば、誰かに話を聞かれる心配はない」

 

 え、いや……誰かに聞かれたらマズイ話を俺にするつもりなの!? 怖すぎるンゴ。

 

「では、私について来てくれ」

 

「……了解っす」

 

 パレ・メルモニアの扉を開けるヌヴィレットに絶望を感じながら、俺は震える身体をどうにか動かして……その背中にピタリとついて行った。

 

 

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