気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい   作:たゆな

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第5幕

 

「──それで、二時間くらいず〜っと抵抗してきたんですよ! 力が弱いくせに!」

 

「ふむ、それが本当ならば……アデル殿の体力も相当なモノだな」

 

『確かに……長い間イツキと掴み合いを続けられる程の体力が彼女にはあるのね』

 

『このお店をたった一人で経営し続けているだけのことはあるみたい……』

 

 メリュジーヌが生まれるきっかけとなった事件である──エリナスの遺骸内部で起こったマレショーセ・ファントムと水仙十字結社の戦いは、ヌっさんが水仙十字結社を過激派犯罪組織と認定した後だから、まだ始まっていない。……ここも何年か後に少しだけ荒れる事になるな。

 

「……そろそろ其方の御仁にも話を伺いたいのだが」

 

「え? あ、あぁ……はい、大丈夫です」

 

『イツキ……貴方、一度深く思考すると、かなりの時間……全くと言っていいほど周りの声が耳に入らない癖があるわよ? ……まるで影を見てるみたい』

 

 かの雷神様と似ている……などと言われるのは嬉しい事の筈だが、何故だか全くと言っていいほどに喜べない。

 

『ふふ、心配事が多いようだけど……イツキが気負い過ぎる必要はないわ。いざと言う時は私達が居るということを忘れないで?』

 

 偉大なる元俗世の七執政の方が二人も着いてくれているのだと思えば……そりゃ安心感はある。

 

『もう既に……あのアデルという女性の長い昔話が終わった後、さっきの揉め事に関する話が始まって、イツキが彼女に散々文句を言われつつ、伸びるに伸びた話がたった今終わったくらいの時間が経っているわ……流石の彼も痺れを切らしたようね』

 

 マジか、聞くからに長そう……ヌっさんごめん。というかあの女店長の名前、アデルっていうんか……オリヴィアじゃないんか。

 

「……アデル殿によると、貴殿が突然店内に侵入してきて……頭と膝を地面へと擦りつけながら、配達員として雇ってくれと懇願。その後、彼女が幾度となく断ったのにも関わらず……去る気配のなかった貴殿を無理やり店外へと押しやるが、扉の間に足を挟ませて抵抗した挙げ句……彼女に掴みかかった。……これらは全て事実か?」

 

「あの〜、はい。……全て事実です」

 

 うん、一ミリも間違ってないです! 普通に俺が全面的に悪いんで、なーんも言えません!

 

「そうか。幸い彼女は……貴殿が今後、二度とケーキを購入する以外の目的でシェ・オリヴィアへ訪問しないということを約束するのなら、全てを無かった事にすると言っているが……」

 

「いいんですカッ!」

 

 瞬間、俺はアデルさんの方へ……ぐりんッと、首を向ける。

 

「ひぃッ! ……コホンッ。貴方、物凄い力が弱かったし……私はまっったく痛くなかったけど、そっちの方は結構痛かったと思うから……その、挟んだ足とか。一応はお詫びとして……」

 

 いえ、この体……耐久力だけはあるっぽいので、全然痛くなかったです。

 

「ありがとうございます!」

 

『……イツキ、貴方』

 

 しかし、俺にとっては大変都合が宜しいので何も言わないでおこう。

 

『ここで変に話を拗らせる訳にはいかないということも……事実ではあるものね』

 

「……双方ともこの件は解決という事で良いだろうか」

 

「「はい」」

 

「私は次の仕事がある故に……即刻、ここを離れるとしよう。アデル殿、其方の御仁が約束を違えた際はマレショーセ・ファントムへ通報するといい」

 

「はい! 分かりました!」

 

 わぁ〜、いい笑顔!

 

「それと……貴殿の名前を伺いたい」

 

 ん〜っと……Why(なぜ)

 

「……イツキです」

 

「ではイツキ殿……突然の事で申し訳ないが、一つ頼みたい事がある。一時間後、パレ・メルモニアの入口まで来てくれ」

 

 と……俺の返事を聞く前に、店の外へと出て行ったヌっさん。

 

『あら、初対面の貴方に頼み事だなんて! ふふ、彼……ここに来た時から、ず〜っとイツキを観察してたものね』

 

『私達の気配を直感的に感じ取っていたのかとも思ったけど……どうやら貴方個人への興味が湧いているみたいね』

 

 え、何ソレ聞いてないんですけど。不穏過ぎワロタ。

 

「えっと……イツキくん、で良いのよね?」

 

「んぁ? あ、はい」

 

「そのぉ、多分。イツキくんがヌヴィレット様に呼ばれたのは私のせいかもッ! なんていうか……ゴメンね?」

 

 アデルさんはてへぺろっ! と、おちゃらけながら謝罪をしてきた。謝罪なんてされたら、まるでこの後に悪い事が起こるかの様に聞こえるじゃないですかヤダ〜。──頼むから本当に助けて欲しい。

 

「こちらこそ、面倒事を起こしてしまってスミマセン。今度来る時はケーキをいっぱい買いに来ますね」

 

「……うっ、ええ! 待ってるわ!」

 

 一瞬、来ないで欲しそうな顔がチラ見えしたが……きっと気の所為だろう。……気の所為であってくれ。

 

 

 

 

 

 シェ・オリヴィアを出て、フォンテーヌ廷を歩きながら……未だに将来の事が何も決まってないニートであるという現状を理解して、思わず愚痴をこぼす。

 

「別に無償で働いても良かったのに……俺のような無限に働ける人材を雇ったら、人件費をクソ節約できるのに……もしかして俺って、要らない子なのか?」

 

『あら? 待ち合わせの約束までされたのに……要らない子だなんて』

 

「あれは待ち合わせというか、呼び出しというか……あんまり好意的に捉えられるような感じじゃなかったぞ」

 

『確かに声や表情からは感情が読み取り難いわね』

 

『私の力を使っても感知出来なかった……という部分は、流石水元素の龍王と言わざるを得ないわ』

 

『……えっ? 彼、水元素の龍王なのッ!?』

 

「まぁ、アデルさんに拒絶されたということは変えようのない事実だけどな!」

 

『この感じ、イツキもその事について知っているのね……』

 

「……そうだけど。この事に関しては部分的にしか教えられることがないな」

 

『いえ……それはいいわ。ふふ、私が仲間外れにされたように感じると思って心配してくれたの?』

 

『大丈夫よ、イツキ。そんな貴方は私達にとって、大事な大事なお友達よ。だから……要らない子だなんて言わないで?』

 

「……別に本気で言った訳じゃないヨ」

 

『あら、私達の方はもちろん本気よ?』

 

 ぐぬぬぬぬ……。

 

「さて……また暇な時間ができちゃったな」

 

『ふふ、そうね……いっぱいお話できるわね!』

 

 ──少なくとも、話し相手としては必要としている。そんな気持ちを俺に伝えるように、わざとらしく……そう言葉を口にする眞。悪いが、既に今日……何時間も長話をしてしまっている俺からしたら、ここから一時間ほど二人と話し込むというのは流石に精神が疲れるので遠慮させて貰いたい。

 

「……フリーナたんでも探しに行こうかな」

 

『えっ?』

 

『……今の時期、普通に街中を歩いている可能性は低そうよ』

 

「あぁ、確かにな……と言っても思い付く場所なんか無いしなぁ」

 

『え〜〜〜! 私はもっと、お喋りし〜た〜い〜!』

 

 神を演じ始めたばかりのフリーナは、おそらくまだ精神的に辛たんな状態ではないだろう。そんな彼女の脳裏に俺という存在を刻むには……ふむ。試しに、目の前でふざけまくって苛立たせてみたりとか?

 

『ねぇ、イツキ? 私は貴方の考えていることが理解できるから定期的に会話が出来るけど、彼女は……』

 

『私は分からないし会話もできないもーん! 私だって、周りに人がいる時は我慢してるのにぃ〜!』

 

 ……これは困った。眞ママが駄々っ子になってしまわれた。

 

「俺の頭の中にいる筈なのに、眞とだけ会話できないのは何故なんだろうな」

 

『マハちゃんを経由すれば会話できるわね』

 

「……それって毎度マハちゃんに俺の言葉を伝えて貰わないといけないよな」

 

『私は別にそれでも構わないけど……他にも良い方法があるわよ』

 

「良い方法……?」

 

 そこから数秒の沈黙の後、一瞬だけ……思考がすっきりするような感覚を得た。

 

『ふふ、これで大丈夫。イツキ、試しに心の中で眞ちゃんに話し掛けてみて?』

 

 心の中で眞に……?

 

(フリーナたん可愛いッッ!)

 

『きゃっ!』

 

 あ、眞ママも可愛い。

 

「なるほど、何か分からないが……成功したみたいだな」

 

『私が力を使って眞ちゃんとイツキとの間に……思考を伝達できる回路を創ったの。アーカーシャの簡易版みたいなものね。これからはイツキの意思次第で眞ちゃんと会話が出来るようになるはずよ』

 

『……女性と会話する時は、他の女性が可愛いだなんて話をしてはいけないと教わらなかったの?』

 

「ハハッ、ご冗談を! 神である貴女が凡人の女性と同じような感情を持つ訳が……」

 

『今、謝るなら許すわ』

 

「本当に申し訳ございませんでした」

 

 ……流石に悪ふざけが過ぎたみたいだ。

 

『これで……自由に心の中でイツキと会話が出来るのね。ありがとう、マハちゃん!』

 

『ふふ、どういたしまして』

 

「……なるほど」

 

 ──意思によって言葉が伝わる。もしもこれから、心の中での会話をし続けた場合、いつかその境目が分からなくなり……伝える気が無かった言葉さえも眞に聞かれてしまうようになるかもしれない。それを避けるなら、基本的な会話は普段の通りにするべきだろう。

 

『そう言えば……このままモラを稼げないと、野宿が確定してしまうわよ』

 

『辺りはもう暗くなってきているし、ここからの巻き返しは絶望的ね』

 

「……」

 

 それを聞いた俺はあまりの悲しさから……フリーナを探しに行く気力が全て消滅し、そのまま付近の物陰で小一時間ほど(うずくま)り続けることを決めたのだった。

 

 

 

 

 

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