気付いたら五百年前のフォンテーヌに居たので、水神を救おうと頑張りたいのだが……脳内で語り掛けてくるナニカがうるさい 作:たゆな
『人間の身で、神の呪いを受ける少女……そんな子が神を演じている理由……貴方は知っているのでしょう?』
「……」
──おいおい、マジかよ。そんな事まで分かるの? という言葉が俺の頭を埋め尽くすが、天理に気付かれる訳にはいかないので……そこまでを口に出すことは出来ない。多分、フリーナを含めたフォンテーヌ人の特性までには流石に気付いていないだろう。……今のフォンテーヌ人の血管は原始胎海の水を包んでいる。ヌヴィレットが完全体水龍マンと化した後、先代水神エゲリアが原始胎海の力を盗んでフォンテーヌ人を創造したというその罪自体を許すこと──フォンテーヌ人を完全な人間にすることで……人々が原始胎海の水に触れても純水精霊に戻る事は無くなる訳だが。一体どこまで察知できるんだろうか……神の力を察知できたりするなら、諭示裁定カーディナルに神の心とフォカロルスの神格が存在することも分かっちゃうだろうし。その時点でゲームオーバーだ。
「……オレハナニモシラナイヨ」
『あの様な
見たことがある、というのは……カーンルイアでの戦いの時に、人間が呪いでヒルチャールになる所を見ていたとかか? フリーナに掛かっているのは、フォカロルスによる不死の呪い。ヒルチャールには荒野の呪いとかいうのが掛かってるらしいから……純粋なカーンルイア人が不死の呪いを掛けられるところを見ていたのかもな。
「……何のことか分からないな」
眞は今、異世界人である俺の脳内にいる。もしかしたら……雷神ではなくなり、既に天空の島とも繋がっていないはずの眞には、本当の事を話しても大丈夫なのかもしれない。
『そう、貴方が話したくないのなら……これ以上は聞かないわ。何でも知っているからと言って、全てを話す訳にはいかないものね』
しかし、フリーナが未来で旅人に手を差し伸べられた時……彼女の意志は、それでも尚揺らぐことは無かった。それならば俺も、この事をどんな状況であっても話す訳にはいかない。
そう決心した俺は、無言で歌劇場を後にする。
「……」
『……』
ルキナの泉を出て、あまりの気まずい空気に冷や汗をかきつつも……ゆっくりとフォンテーヌ廷へ向かう。それにしても、眞ママは理解ある人だなぁ〜! 相手を思いやるという気持ちが溢れているのが分かる……これが母性か。
「……マッマ」
『……へっ?』
やべ、思わず俺の内なるマッマが出てしまった。
「いや、なんでもない。……ところで、この後はどうする? 一応だけどモラを稼ぐ為にちょ〜適当に仕事を探すか、フリーナがケーキとパスタ好きということから……それを見越してケーキとパスタ専門店を経営するかの二択を考えてはいる」
『……後者の内容が妙に具体的ね。え、えーっと……ちなみに聞きたいのだけど、ケーキとパスタに関しての知識はどのくらいあるの?』
「全っっく無いッ!」
『……そう。なら実質一択ね』
なんでやッ! 時間はたっぷりあるんだから、ゼロからでも勉強すれば何とかなるかもしれないだろッ!
「……ふぅ。さてと──とりあえず街をぶらぶらしながら仕事を探すかな」
まぁ、勉強なんてものは全然遠慮させて貰いますけどね。
*********
フォンテーヌの街を歩き始めてから数時間が経った。
「……う〜む。良さげな所は沢山あるんだけども──俺はケーキとパスタの事をどうしても諦めることが出来ないッ! でも俺には技術も知識もない!」
『……欲張りなだけで、能力はないのね』
眞ママ? えぇ……ちょっと、言い方悪過ぎない? 俺じゃなかったら普通に泣いているレベルでぶっ刺してるぞ。……ヨシッ! 丁度心が折れた事だし、仕事をするのはやめよう!! 俺はこのままアウトドア系ニートを続行する!
「仕事をしないと決めたからには、目標を立てないとな」
『……一瞬の沈黙の間に考えが真逆になったわ!?』
フリーナを手助けしようにも、一般人じゃ到底近づけない。無職にはやはり限界があるか。
「ヌヴィレットが居れば……ワンチャン特巡隊に入れる可能性はあるんだけどなぁ」
目の前で何か適当に意味深なことを呟きまくって、興味を唆られる存在になれば……イけるッ!
『ねぇイツキ? ブツブツ呟きながら道の中央で行ったり来たりして……街の人に見られたら通報されるわよ』
いや、まて! 『人』のフリーナはフォカロルスから不死の呪いをかけられ、水神を演じるよう頼まれた。フリーナはフォンテーヌを救うためにその役目を受け入れ、フォンテーヌの水神として演じ始めた……つまり、水神就任式を終えたばかりのフリーナがヌヴィレットに手紙を送るのはもう少し後になるか? その場合、特巡隊はまだヌヴィレットの手が届く所にない上、ヌヴィレットがそもそもこの街に居らんやん!
「はぁ〜〜〜萎えた」
『えっ……私のせい、なの?』
エピクレシス歌劇場の建設を命令した時点でフォカロルスは既に自身とフリーナを分離している。ならば、就任演説までの間にヌヴィレット宛の手紙を送っている可能性が無きにしも非ずだが……あまり期待は出来ない。もういっその事スメールまで行くか? 行動が制限されるこの国より、別の国に行った方がまだ立ち回れるし。今はまだ巡水船が導入されていないから遠泳することになるが……まぁ、大丈夫だろう。
『……スメールへ行くの?』
「ん? あぁ、そうだなぁ……現状、フォンテーヌに居ても出来ることがない、し………………は?」
眞じゃ……ない? え、何? 眞以外の声が脳に響いて来たんだが!? それに俺は言葉を口に出していなかったはずだ……思考を読まれたッ!?
『この声……貴女は──草神ね? 暫く交流が無かったからか、懐かしさを感じるわ』
草神、だと……? 眞が知っているということは、マハールッカデヴァータか?
『ええ、どちらも正解よ。気軽にマハちゃんと呼んで?』
『マハちゃん……なら私の事も眞ちゃんと呼んで貰おうかしら』
『どうしてここに……もしかして貴女も?』
『そうね、眞ちゃんと同様……私も既にこの世界で死亡したわ。外の世界から来た貴方なら、いいえ……ゲームで得た知識を持っているイツキなら……理解できるわよね?』
ふむ、マハールッカデヴァータ以外の七神がカーンルイアへ召集された時……彼女には『世界樹を守る』という重要な任務があった。カーンルイアの災厄と共に禁忌の知識による汚染が現れたのと同時に、異変に気づいた彼女は世界樹に駆け寄ったが……既に禁忌の知識によって侵蝕されていた。一人では解決出来ない事を理解した彼女は、アーカーシャを創り……人々の夢を借り、知恵を統合することで禁忌の知識を世界樹から取り除くことに成功した。しかし、彼女の意識は世界樹と繋がっていた為……マハールッカデヴァータ自身も禁忌の知識によって汚染されてしまった。彼女に関しての全ての情報がこのテイワットに存在する限り、汚染を根絶することが出来ず……その上、パラドックスにより自身を削除することは出来ない為……自身の存在を世界から消す為に、世界樹の最も純粋な枝を折ってナヒーダを創造した。禁忌の知識によって死亡する時に自身を輪廻転生させたのがナヒーダになるから……まぁこの時点でマハールッカデヴァータも死んでいることになる。いやぁ〜この事を俺が知っていると……なるほどね。マハちゃんには文字通り、全てが筒抜けって訳か。
「あぁ。それが分かるということは……俺が思考したこと以外の情報も読み取れるのか?」
『眞ちゃんが目覚める前……恐らく、貴方がこの世界に来たのと同時に私の意識も覚醒したの。でも、突然の事に困惑してしまっていて……私の力を使って、貴方の記憶を盗み見てしまった。原神という作品に関わる知識だけじゃなく、それ以外のことも知っているの……その、貴方の恥ずかしい黒歴史? についても……だけど、その力はその時以外には使っていないわ』
……何故にわざわざ黒歴史の部分をピックアップして俺に伝えたんだッ! それを知られているという事実を認識したくなかったんだが! ……はぁ〜〜、ということは、そんなしゅごい力を使わずとも……俺が考えたことなら読み取れてしまうワケっすね。
『マハちゃんは、私よりもイツキの事を深く知っているということね……』
知られたくはなかったが……まぁ、俺が言えることじゃないな。
『でも、どうして今まで黙っていたの?』
『それは……私の計画が無駄になってしまうかもしれないということに、少し慌てていて……その心配はないと確信を持てるまで、落ち着くことが出来なかったからよ』
計画……? あぁ、世界樹から存在を抹消する関係の話しね〜! ……ウェッ!? 確かにッ!
『眞ちゃんには後で説明するけど、私はある理由で……自身の存在を世界から抹消する計画を立てていたの。でも、
「なるほど。ナヒーダに抹消して貰う時、世界そのものから完全にマハちゃんの存在を消すということが出来なくなってしまうと思ったワケか」
『そうよ。でも……今の私は、そもそも世界樹とは意識を共有していないという事実と……イツキの記憶に存在した”ある場面”について考えて、その心配はないという可能性が高いことに気付いたわ』
それは多分アレだな、降臨者である主人公の記憶にマハールッカデヴァータに関しての記憶が残ってたシーンのことだろう。俺の中に居て、世界樹と同期されていない状態のマハちゃんは……主人公の記憶と同じように、世界からは分離されていると考えて良い。つまり、五百年後にナヒーダが存在を抹消したとしても……俺の脳内にまでその影響が及ばない可能性が高い。……というだけで、別に計画が失敗に終わることはないんじゃないか? っていう話だな。
『今イツキが考えている内容で合っているわ』
「そうか。まぁ、眞だって……影ちゃんが持っている夢想の一心に意識を残していても、俺の中に居るし……神櫻も発芽してるし」
『……ねぇ、ちょっと待って? そんなことまで知っているの? というか……神櫻も発芽しているの!? ……二人共、本当に後で私に教えてくれるのよね?』
別に、フォンテーヌに関わる事じゃなければ教えてやらん事もないな。
『ええ、教えられるところまでならいくらでも教えるわよ』
『あら、嬉しい! なら早速……イツキの黒歴史? について教えて貰える?』
『ふふ、それなら大丈夫。恐らく教えられる範囲に入るわ』
いや、入らないがッ!?
『まずは……彼の歳がまだ五つの頃──』
「どんだけ遡った所まで見たんだよッ! ダメダメ! これ以上はダメでーす!」
『……ケチね』
『……ふふ、やっと二人と話せたわ。思った通り、凄く楽しい』
「そっすか……何かもう、好きにしてください」