よわよわTS転生生徒(高火力)   作:まっしろたまご

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圧倒的火力、硝子の大砲

 ウタハさんに連れられて……もとい部活動用の車で連行された先にあったのはポストアポカリプス的な廃墟群だった。高校生が平然と車を運転していることも、小型軽量化されているとはいえ8.8cm の高射砲を一人でテキパキと点検しているのももはやツッコむべきではないだろう。

 

 

「かなりの時間倉庫番だったけど機能面に問題はなし、記録用機材の設置もOKだ」

 

「……なんか仰々しいですね。すごく」

 

「まぁ、あまりの反動の強烈さや重量の観点からマンパワーで検証が行えなかった子だからね。前時代の遺物を魔改造して小型化したこともあって、データをフィードバックできるような機構がついていないんだ」

 

「はぁ……」

 

「そう、だからこうして全て別途設置して賄う必要があったわけさ」

 

 

 俺の横にズラリと並んだ機材の数々……ぱっと見でわかるのはなんか凄そうなカメラだけだ。あとは見たこともないような物がズラリと並んでいる。それらほとんどにミレニアムのロゴが入っていることを考えると、自分達の納得がいく機材を用意するため自分たちで作るなり改造を施すなりしたのだろう。

 やはり彼女からは職人気質というか、何か大きな情熱のような物を感じる。この小さな体にどれほどの力が眠っているかはわからないが、全霊で応える必要はあるだろう。

 

 

「射撃の動作は覚えたね?」

 

「はい。要素を分解すれば簡単ですし、かなり扱いやすくなってますし……」

 

「ならよし、準備OKだね。撃つ時は合図をお願いするよ」

 

「あとは引き金を引くだけ……」

 

 

 そう言った瞬間、ウタハさんの目の色が変わる。なんというか、後輩を見つめるような瞳から仕事モードに入ったというべきか。キリリとした目つきで見つめられると、自然とこちらの背筋も伸びる。

 

 

 一度深呼吸をして、強張った体の力を抜く。ドンパチがそこら中で発生する世界での記念すべき初発砲がこんな馬鹿でかい銃かも怪しい鉄の塊なんて誰も思いはしないだろう。

 

 別に、何かを狙って当てろというわけではない。ただ目の前の廃墟群に風穴を開けるだけ。簡単なお仕事だ。

 

 四肢に力を込め、衝撃に備える。覚悟も十分だ。

 

 

「……行きます!」

 

 

 ウタハさんのOKサインを目視で確認、視線を廃墟の方へと戻して引き金を引く。

 一撃の重さが指を伝わり、また少し緊張が走った。時間にしてみればコンマ数秒にも満たないであろう一瞬。しかしこの瞬間、目の前の建造物に向けられた射撃で真っ先に吹き飛ばされたのは俺の方だった。

 

 しかし、反動を制御しきれず後方へと転がろうとする俺は確かに、『轟音』と形容するにふさわしい音を聞いたのだった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 みっともなく地面を転がり、頭をぶつけてのたうち回ること十数秒、やっとの思いで立ち上がった俺の目の前に広がっていたのはもうもうと上がる土煙と跡形もなく崩れ去った瓦礫の山だった。

 

 

「……トオル。一応聞いていくんだけど、射撃の際に何か特別なことをしたかい?」

 

「いえ……俺はただ引き金を引いただけで……」

 

「そうか。いや、すまないね」

 

 

 それ以降、バタバタと収集したデータの確認に回っていたウタハさんに声をかけるわけにもいかず、状況を把握できないままに俺は手持ち無沙汰となった。

 ここへとくる途中の車内で、チラッと『高射砲』とか『戦車の主砲』とかなんて単語が聞こえて来はしたが、明らかに威力が自分の知っているそれとは大きく異なる。というか、元々のサイズならまだしもこれは小型化されたモデル。にも関わらず建物ごと吹き飛ばしてしまうというのはおかしな話だ。

 

 

「愛銃を持つのが当たり前と言っても、さすがにこんなものは人に向かってぶっ放せないよな……」

 

 

 常識的に考えて、こんな物が人に直撃すればきっと『人だった何か』へと成り果ててしまうこと待ったなしだろう。調べてみたところ*1銃火器が死因につながる事例はかなり稀なようだ。そもそもここ、キヴォトスの人間は喧嘩感覚で発砲するのでとてもタチが悪い。

 

 現代っ子の俺としては銃なんて向けることも向けられることも勘弁なわけだしかしそれが許されない環境であれば致し方なし、抑止力になりそうなものだけでも貰っておこうという考えで出会ったのがこれなわけだが……どうやら空に放って威嚇する以外使い道がなさそうだ。

 

 

「考え事かい?」

 

「ええ。こんなものは人に向けられないなと」

 

「確かに言えてるね。まさかここまでとは」

 

 

 どうやら俺がうんうんと一人考え事をしているうちに機材の撤収を済ませてしまったようだ。一人ぶらぶらとほっつき歩いている俺を危なっかしく思って呼びに来てくれたらしい。俺は促されるがままに車へと銃を積み込み、助手席でシートベルトを締めた。

 

 

「持ち上げられる、というだけであげるのはいかがなものかと思っていたけれど、さっきのを見て確信したよ」

 

 

 綺麗に舗装され、揺れらしいものもないミレニアム郊外の道路。流れていく景色を興味津々で眺めていると、不意にウタハさんに話しかけられた。

 

 

「やっぱり、あの銃は君が持っておくべきだと私は思うよ。調整なしであそこまで相性がいいのは何か運命的な物を感じるからね」

 

「でも……」

 

「大丈夫、きっと役に立つ時が来るさ。その時まで大切にしてあげてくれ」

 

 

あの銃を作ったであろう人にここまで言われてしまうと受け取る側としては何も言えない。ありがたく大切にさせていただこう。

 

 

「そういえば、銃の名前はどうするんだい?」

 

「名前……?」

 

「そう、名前。これから一緒に生活するんだ。名前があった方が愛着が湧くだろう?」

 

「確かに……だったら……」

 

 

 当たれば勝ち、外せば負け。一撃必殺が求められ、防御を何処かに捨てて来た逸品。

 

……となれば、つけるべき名前は一つだろう。

 

 

「……グラスキャノン」

 

「直訳するとガラスの大砲だね」

 

「スラング的に、低い防御力と高い攻撃力を持つキャラクターや武器に使われる言葉らしいです」

 

「これはまたピッタリじゃないか。いい名前だと思うよ」

 

 

 かくして俺は先生からのミッションを達成したわけだ。

 気付かぬうちに意識が飛んで、帰還したミレニアムが俺の射撃データの所為で騒然となったのはまた別のお話だ。

*1
銃を持ってて死人が出ないのか気になった

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