路地裏でガタガタ震えていた俺は三人の少女たちに発見されて保護──もとい彼女らの拠点へと連行された。
その途中に聞かされた話には大層度肝を抜かされたものだ。やれ、『学園都市』だの『銃の携帯は常識』だの、『私たちはミレニアム学園に通う高校生』だの……はっきり言ってにわかには信じ難いことばかりだったが、ここに来て経験したことから考えて腑に落ちないとしても飲み込んでおくしかないだろう。それに、最後の一点に関しては俺もこの体裁で『大人』を名乗るのは信用に欠けるということで、ひとまず『迷い幼女』という評価に甘んじておいた。
学園に入る時、ヴェリタス?とか電話で呼んでいた人に何やら頼み込んでいたが大丈夫だろうか。
防犯カメラや入り口の改札*1など、節々に高いセキュリティ意識が垣間見えたが俺は本当に入って大丈夫なのだろうか。追い出されたら本格的に行くアテがないぞ。
「さぁ!我らゲーム開発部の新たな仲間……仲間よ!門をくぐるのです!」
俺を見つけた張本人である青い少女──アリスに促されて彼女らことゲーム開発部の部室へと入る。ものの、足の踏み場がない。ゲームの情報誌に攻略本、お菓子のカスやカセット、ゲーム機の本体やその他諸々……
「これは……」
「あっちゃ〜……」
「忘れてた……」
おそらく、外から誰かを招くことがほとんどないのだろう。いや、あそこにお客を招いてるなんて考えたくもないが……どうするべきか。想定外の来客だったために招かれた大事故、ということで見なかったことにしておくか。
「す、すぐ片付けるから!!ほんとにすぐだから!!ね!ちょっと待ってて!!」
場を仕切り直すように大きな声を出したモモイにぐいぐいと部室の外へと押し出され、俺はまた一人となった。部屋の中からはドタバタと走り回る足音が聞こえてきて、片付けの壮絶さが伺える。
しかしまぁ、勢いに押されて付いてきたものの、これからどうなることやら。ここへ向かう道中、ミドリが『こういう時頼れる人に連絡しておいた』と言っていたか。モモイがファインプレーだと言っていたし、かなり大きな信頼を寄せているようだ。
今持っている情報ではこれ以上考えようもなく、ぼんやりと辺りを見回してみる。学校らしさは残しつつも所々に見える機械たちからは高い技術力が伺え、自分の知っている場所とは違うといやでも痛感させられる。生徒たちは銃こそ携帯しているもののところ構わずぶっ放すとかそういうわけでもないらしく銃撃戦になっている様子もない。
外はポカポカとした陽気が漂っていたが、ここは空調が効いていてまた別の過ごしやすさがある。とはいうものの上着を羽織っている生徒も多かったし、まだ風の冷える季節なのかもしれない。
「あら?あなたは……」
じっと窓の外を眺めていると背後から声をかけられ、思わず振り向く。
整った顔立ちにきっちりと着こなした制服、それとは対照的に可愛らしい髪型の少女……と、成人男性がそこに立っていた。
「“ミドリたちから話は聞いてるよ。はじめまして”」
「えっと……あなたは?」
「“私はシャーレの先生だよ。ミドリから『自分のことがわからないって言ってる子がいる』っていう連絡が来てね。大事だったらいけないと思って”」
先生、先生か。確かに高校生が頼れる相手といえば妥当かもしれない。ここは素直によろしくと頭を下げておこう。
そんな調子で軽い顔合わせが済んだ頃、部室のドアが開いてモモイがひょっこりと顔を覗かせた。
「ごめんごめん!掃除終わったよ〜って先生とユウカ?!思ってたより早く来たね!ささ、入って入って!」
再び入った室内はかなりきれいになっていた。ソファーの上でミドリとアリスの二人が息を切らしているのが何よりの証拠だろう。どこか見覚えのあるゲーム機を眺めていると、鼻息を荒くしたモモイに声をかけられた。
「ねぇねぇ!もしかしてゲーム好きなの?」
「えぇっと……人並みには?」
「じゃあみんなでスマシスやろうよ!こんな人数で集まることそんなにないし──」
「お姉ちゃん。今はそうじゃなくて」
「ごめんごめん!実はユウカと先生に頼みたいことがあってさ」
彼女の語った詳細はミドリからの連絡で概ね伝わっていたらしく、ユウカと呼ばれた少女と先生はすぐに納得の行ったような表情をした。
自分の処遇に耳を澄ませていると、『ミレニアムの生徒は全員把握しているけれど、記憶の限りでは知らないわね』なんて聞こえてきた。ちょっと見回しただけでもかなりの規模があるとわかる学校だと思うのだが、それを全員暗記で把握しているとなるとナチュラルに超人なのではなかろうか。俺は訝しんだ。
「それに、こんなかわ……ほっとけなさそうな子を見逃してる訳ないもの」
「“うーん。私も記憶の限りでは会ったことないかな”」
「そっかぁ……」
「“ただ、一応シャーレに戻れば生徒の名簿はあるからそれと照らし合わせてみれば何かわかることがあるかも”」
と、向こう側の会話が一区切りついたところで話題がこちらに振られる。
「“君はどうしたい?”」
「俺は……自分について何かわかるなら、お願いしたいです」
『シャーレ』がどのような場所かどうかはわからないが、まあきっと悪いようにはされないだろうという希望的観測の元、わずかな間ではあったが行動を共にした三人に別れを告げ、先生と共にシャーレへと向かうことになった。
現実か夢かもまだはっきりとわかったわけではないが、目の前の問題は片付けていく必要があるだろう。つまりは、自分が今何者なのかをはっきりさせる必要がある。大きな不安と少しの希望を抱えながら、俺はその『シャーレ』があるという場所、D.U.シラトリ区へと続く電車に揺られるのだった。
他のメンバーがバタバタしている間、ユズはロッカーで不動を貫いていた物とします。