アリウス分校が合流してから数週間、初めはかなり警戒心を持っていたアリウス生たちも少しずつ心を開いてきたのかはたまた安心して眠れるようになったのか定かではないが夜中にぐずついて泣いたりすることが大分少なくなっていた。
マイナリー坑道に潜りたいと言い始めたアリウス生もちらほらといるのでヒイラやスケバン三人衆にまかせてタンネは生徒会室(社長室)でマイナリー砿業社員とアルバイトの人材配分に頭を悩ませていた。
「うーん……アリウス生徒たちに鉱山を任せて、今鉱山に潜ってる
「……タンネー、私はもう上がるけど……あんまり無理したら駄目だからね」
「わかってるよー。私ももう少ししたら切り上げて帰る予定だから。お疲れ様ー」
お先にとヒイラが帰宅の途につき生徒会室(社長室)にはタンネ1人が残される。壁にかけている振り子時計の音だけが響きわたる中、生徒会室の扉がノックされた。
壁にかけられた振り子時計をみると午後7時半、残業をさせないよう他の生徒たちは定時で退勤しているはずであるので、校舎には誰もいないはずなのだが……盗人や半グレロボ連中はその限りではない。念の為と
「どなたですか?事によっては……」
『クックックッ……私ですよ夕張タンネさん』
タンネが扉を開ける前に扉が開き、そこには全身黒尽くめ、顔まで漆黒の黒に覆われ、黒いスーツで全身を固めた人物、通称黒服が立っていた。
「黒服、一体何の用?赤ババアを潰した落とし前でもつけさせにきたの?」
「クックックッ……そういうワケではございません。中に入っても?」
「……ええ、構わないわ」
それでは失礼……と黒服が入り応接用のソファーに腰掛ける。気が付かなかったが手には何やら紙袋を提げていたようでことんと机の上においた。
「そちらはお土産です」
「これはこれは……わざわざありがとうございます」
中を見れば今ギヴォトスで大人気(仮)であるペロログッズとコラボしたシュークリームであった。
「クックックッ……手に入れるのに苦労しましたよ」
「そりゃそうでしょうね……」
こんな
「何か飲みますか?」
「では珈琲をいただきましょうか。ああ、砂糖とミルクはいりませんよ」
その見た目で砂糖とかミルクマシマシと言われたら解釈違いを起こしてしまいそうになるのでよかった。珈琲を出すと『いただきます』と丁寧にコーヒーカップを持ち上品に飲む。こういうところが癪なのだが気にしないことにした。
……本当にどうやって飲んでるのであろう。
「それで?一体何の用で私のところにきたの?やっぱり赤ババアの落とし前?」
「いえいえ……何やら面白い現象が頻発しているとの噂を聞きましてね。その噂を確かめに来たというわけですよ」
どこから小耳に挟んだのだろうと思いつつもまずは雑談をして情報収集、それとあの赤いババアの動向も収集しなけければならない。あの赤ババアは必ずとアリウスを取り返しに来るだろう、何時でも襲撃に来る予感がしているから情報収集は欠かせない。
「……面白い現象、とは?」
「おやおやおや、とぼけても無駄ですよ。近頃マイナリー砿業学院周辺で目撃されている謎のヘイローを持った生徒のような人間たち、彼女たちはどこからともなく現れてはマイナリーに害を与える者たちをことごとく排除して消えていく。神秘の探求者としては見過ごせない出来事です」
「あー……ハイハイ、ソウデスネー」
「ええ、そうなのですよ。是非私にもその現象を観測させていただきたく……っ!」
私が適当に返した返事に思うところがあったんだろうと自分の紅茶を用意したところで振り向くと黒服に多数の銃口が向けられていることに気がついた。
修道服のベールのような帽子に際どい上下一体型のハイレグ、そして手足を被うロングソックスとロング手袋、ガスマスク、そして壊れかけのようなヘイローを持った生徒のような人間が数人、黒服へ向けてARやSGを向けていた。
「おやおやおや……随分と手荒な歓迎ですね夕張タンネさん。これも貴女のサプライズということですかな」
「いや、知りませんし……ほら、今のところ、この黒服おじさんは私たちにまだ危害を加えるつもりはないみたいだから大丈夫よ」
私が、そういうと納得していないような仕草を見せつつ消えるようにして姿を消していった。……というかなんで私の指示を聞くの?普通ロイヤルブラッドのアリウス生じゃないとダメなんじゃないの?
「ほう……今のが件の生徒のような人間たちですか……実に興味深い。出現条件や場所の特定、そしてどんな性質なのか……」
「あんま深く関わると碌な目に遭わないよ黒服、ある程度のところでやめておいたら?」
「フッフッフッ……ご忠告ありがとうございます。ですが私は探究者、謎があるからこそ解き明かしたくなるそんな性分です」
そう真面目な話をしながら少し笑う黒服であるが視界の端でユスティナ生徒が現れたり消えたりしているのを何回も繰り返されると自然と笑いが出てきてしまい、笑ってはいけないブルーアーカイブ状態となっていた。
「?どうかされましたか、夕張タンネさん」
「い、いえ?何も?それよりも黒服、あんたハゲタコ野郎とアビドスでなんかつるんでるんでしょ?」
「おや?どうしてその事を?ゲマトリア以外には話してはいなかったような……?」
「と、ともかく、それに私も一枚噛ませなさいよ。報酬として条件付でこの子たちの調査をしていいからさ」
「ほう……どういった条件ですかな?」
「アドビス高校周辺の事業で砂を回収しているんだけど……事業拡大のためにカイザーが持ってるアビドス高校周辺の土地がほいしいんだけどくれない?だいたい、ここから……ここら辺まで」
地図でアビドス分校、現アビドス高校の周囲をぐるりと囲んでやると黒服の白いところが眉を顰めたようにゆがむ。そんなに無理強いをしているつもりはないのだけれども……。
「あの土地はカイザーグループがアドビス高校の借金返済のカタとして所有している土地、そう易々と手に入れる事は……」
「そうそう、ハゲタコ野郎が探しているウトナピシュティムの本船は
ウトナピシュティムの本船、という言葉に動きが止まる黒服、ニコニコとしていた声色は低く、真面目そのものへと変わっていた。……やっぱり食いついた。
「…………どこでそれを?」
「さぁ?それよりもこの子たちの研究をするならマエストロも呼んだ方が良いんじゃないかしら?勿論あの赤ババアは除外してね」
「貴女一体……?」
「で?どうするの?私にアビドスの土地を売って神秘の研究をする?それとも全てを諦める?」
私からしたらだいぶ譲歩した提案だと思うけど……ちょっと語尾を強くし過ぎたかな?いやそんなことは無いはずである。まぁこれで駄目だったとしてもアビドスの土地は欲しいしカイザーグループを札束と偽装工作でぶん殴れば手間は掛かるけど手に入れられるからね。ウィンウィンというやつよ。
「……わかりました。ですがくれぐれも、くれぐれも!内密にお願いいたします。万一、暁のホルスにでもバレてしまえば……」
「だいじよーぶ!ホシノにはうまいこと誤魔化しておくから、それにカイザーへの欺瞞工作、よろしくね。近いうちにあの会社は大きな損害を被る予定だから」
「なるほど……それに乗じて私には無関係を装えと」
「察しが良くて助かるわ。よろしく」
黒服が襲来してから数日後、カイザーグループから封筒が届いた。すぐさま開けてみるとアビドスの土地が正式にウチ……マイナリーのものとなったのである。もちろんこれはアビドスにもカイザーにも知られていない。かんぺき〜な欺瞞工作である。
「ふっふっふっ……完璧ね黒服。ヒイラ、突然だけどアビドス支店を拡張するわよ」
「藪から棒に何よ?拡張するってアビドスとは話をつけてるの?」
「ん、これからつけにいくとこ。まぁ許可を出してくれるでしょう。じゃ行ってくるわ」
D.U.行きの急行列車に飛び乗って未だ入院中の梔子ユメ(留年確定)から正式な許可をもらい、そこからアドビス方面へ向かう列車に乗り換えてアドビスにいる小鳥遊ホシノ(実質生徒会長)の元へと向かった。
あまりいい顔はされなかったものの、『まぁ、ユメ先輩がいいなら……』とのお墨付きを貰いアドビス支社の拡張を進めていこうか。