透き通るような世界観で地下に潜る   作:久保田紅葉

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なんかこんな概念をどこかで見た気がしたので……

追伸 大変遅くなって申し訳ありませんでしたぁ!


アリウスのパンとジュース

 私こと夕張タンネは、桝井ウイハと佐仲アオリの案内で再びアリウス自治区を訪れていた。アリウス生徒たちは一時的にマイナリー学院で食事療法を行っているため今はもぬけの殻となっているアリウス自治区、そこに見せたいものがあるというので連れられて来ていた。

 

 

 

「それで、私に見せたいものって一体何かしら?」

 

「アリウス自治区の天井がパネルによって覆われているでしょ?それを有効活用してアリウスを少しでもいいから自立できないかと思ってね。まぁ、マダムがいた頃にそんな事をすればどうなるかわかったものじゃないけどね」

 

「最悪皆の前で銃殺刑です。ほんとあの頃のわたしたちはどうかしてました。腐っていますね」

 

 

 

 随分と物騒な話をするアオリであるがそれ以上に今まで慕っていたベアトリーチェをボロカスに罵っている。やっぱり外から来た大人(ベアトリーチェ)は悪、滅ぼして正解であった。

 

 

 

「着きましたよタンネ。ここがコントロール室です」

 

 

 

 錆びついた扉には『天候調整室』と古ぼけたネームプレートが掲げられていた。錆びた金属が擦れる耳障りな音を立てながら扉を開ければモニターがいくつかあり、いずれもオフラインかつシャットダウン状態となっていた。

 

 

 

「ベアトリーチェはまともに使わなかったのかしら?」

 

「マダムは道具(生徒)には必要ないとしてアリウス生の使用を禁じていました」

 

 

 

 なるほどねーと思いつつも埃を払いタッチパネルを操作する。

 

 

 

(ええと、電源を入れて、リアルタイムリンクで起動っと……)

 

 

 

 スイッチを入れると画面が点灯し、室内がにわかに明るくなるとアリウス自治区内の各地がモニターへと映る。アリウス生の二人が声を上げる中1つのモニターが全く別の場所を移しているのを発見する。よく見てみると何かの入口のようであった。

 

 

 

「ウイハ、この場所がわかるかしら?」

 

「ここ?えっと…………え?どこここ?」

 

「おそらくですが……バシリカの奥ではないでしょうか?ほらここ」

 

「確かにバシリカみたいね」

 

 

 

 アオリが指摘した場所は確かにバシリカの建物と似ている。どうやら建物の後ろ側のようで一応確認してみようかと明るくなったアリウス自治区を歩いてみる。

 

 

 

「こう見ればアリウス自治区もしっかりと作られていたのね」

 

「内戦とベアトリーチェのババアのせいでこう荒れ果ててしまいましたけども」

 

 

 

 ベアおばに対して散々な言い草をするアオリ。まぁそういわれても仕方がないことをしているので擁護する気もないけど。

 

 バシリカの前に着いたところで内部には入らず外を回って裏手へ、枯れた薔薇のような植物がゆく手を阻んでいた。

 

 

 

「ちょっと面倒くさいね。何か……おっとちょうどいいものがあるじゃないですか」

 

 

 

 少し錆びついていたもののまだ使えそうな大鎌が転がっていたので植物を刈り払いつつ進んでいくとモニターが映していた場所の扉の前へと出ることができた。

 

 正方形型の建物に扉が1つ設けられた謎の建物、窓は無いので中の様子はうかがい知ることができなかった。

 

 

 

「入ってみますか」

 

 

 

 念の為にサイドアーム(コルト・パイソン)を構えて扉を開けるとそこには地下へと伸びる階段があった。

 

 

 

「……この場所については?」

 

「入口の存在すら知らなかった私がわかると?」

 

「そうよねごめんなさい」

 

 

 

 照明はあるものの、薄暗い階段を降りていくとまた扉があり、ドアノブに手をかけ慎重にあける。どうやら中の照明は生きているようで隙間からは光がこぼれて来ていた。

 扉を開けると青々と茂っている低木が目に入ってきた。

 

 

 

「これは……ぶどうの葉?どうしてこんなところに」

 

 

 

 構えていた銃を下げて葉っぱを触るとざらざらとしており、その近くには紫色の実を沢山実らせた房がついていた。

 

 

 

 『侵入者発見!侵入者発見!』

 

 

 

 突然響いた機械音声に驚き、銃を向けるとそこにはロボットがいた。だが戦闘用ではなく、どちらかといえば農作業に適した作業用ロボットであった。

 

 

 

『身分を提示してください』

 

「み、身分?……学生証じゃ、って私は学生だけど学生じゃないし」

 

「アリウスに学生証なんて物は存在していないわ」

 

「私は暫定だけどアリウス分校生徒会長桝井ウイハ……これじゃ駄目かしら?」

 

 

 

 三者三様の対応をしたがこれといった解決策には……

 

 

 

『桝井ウイハ様。ご確認のためにこちらへ手をかざしてください』

 

 

 

 ロボットがそういうと手形を象ったテーブルのようなものが出される。ウイハがそこに手をおくと目にも留まらぬ速さで手を拘束したかと思えば中指に針を刺して血を抜き出した。

 

 

 

「痛ッ!」

 

「貴様ァ!ウイハに手を出したな!」

 

「アオリ、落ち着いて!大丈夫だから」

 

 

 

 なんとか暴れようとしたアオリを押さえつけている間、ロボットは『解析中しばらくお待ち下さい』と繰り返していた。

 

 

 

『確認中……確認中……』

 

『検査が終了しました。アリウス生徒会長であることを確認いたしました。桝井ウイハ様、ようこそアリウスファームへ。お連れの二人はゲストとして承認してよろしいでしょうか』

 

「え、ええそうしてちょうだい」

 

『かしこまりました。ごゆっくりとご見学ください』

 

 

 

 そういうとロボットはどこかへと消えていった。ひとまず危機は去ったといえるだろう。

 

 

 

「まさかアリウス内にこんな場所があったとは思わなかったわ」

 

「さっきのロボットの反応を見るにこの場所はアリウス生徒会長に代々伝わってきた場所のようだったけど……」

 

「赤ババアが正当な生徒会長じゃなかったからこの場所は使えなかったんでしょう。だからアリウス生には使わせなかった……全部繋がりましたね」

 

 

 

 ブドウ畑を歩きながら考察を巡らせていると今度は黄金色が広がる区画へとつながっていた。

 

 

 

「こっちは小麦畑か……となるとどこかに収穫した小麦やブドウがあるはずよね」

 

「確かに、ちょっとそこのロボットさん」

 

『はい?どうされましたウイハ様』

 

 

 

 通りすがりのロボットを飛び止める。そのアームの先には束になった黄金色の小麦があった。

 

 

 

「その小麦なんだけど……どこで保管しているのかしら?」

 

『はい、隣の真空冷凍保管庫で3年間は保管しております。ご利用になられますか?』

 

「ええ、ぜひ」

 

 

 

 ロボットの後ろをついていく。案内された先には厳重に封鎖された扉があった。

 

 

 

「こちらで防寒着をご着用ください」

 

 

 

 防寒着を身に着けて中へと入ると天井まで届きそうなほどにコンテナが積まれておりそれぞれに日付が振られていた。

 

 

 

「これはすごいわね。これだけ小麦粉とブドウの備蓄があったのならあの子も、あの子達も……っ!」

 

 

 

 これほどの備蓄量があったと知っていれば過去の悲劇を防げたかもしれないと考えたのかこぼす言葉には怒りが感じられた。

 

 

 

「過去を振り返っても意味がないワケではありませんけど……前を向いて未来を見ることも大切ですよ」

 

「そう。……そうよね。ありがとうタンネ」

 

 

 

 衝動を抑えたウイハはコンテナを見回して3年前の日付が記されたコンテナを引っ張り出す。そこには小麦の実とブドウが真空パックに密閉されて入れられていた。

 

 

 

「……これはもらっていってもいいかしら?」

 

『はい。ご自由に使ってください』

 

「それをもらっていってどうするの?」

 

「パンと……ブドウジュースを作ろうかと思って」

 

「いいわね。平台礦泉のキッチンを借りてやりましょうか」

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 準備を整えて3人の姿は平台礦泉の2階にあった。エプロンと三角巾を装備していた。

 

 

 

「はいそれじゃレシピをみながらパンを作っていきまーす」

 

「「はーい」」

 

 

 

 当然パンを焼いたこともないし作ったこともないのでモモパッドでレシピを検索して簡単そうなレシピをピックアップしてスマホ片手に作る。

 

 

 

「用意する材料は……小麦粉に砂糖、イースト菌と塩、そしてお湯と。準備は?」「オッケー!」

 

「えっと、ボウルへお湯以外の材料を入れてから……お湯をちょっとずつ加えて混ぜていく。一気に入れるとダマになっちゃうからね」

 

「こ、こんな感じ?」

 

 

 

 ボウルの中では小麦粉だったものがお湯を加えていくと徐々に塊となっていき、やがて1つの塊となっていく。

 

 

 

「ひとかたまりになったらボウルからとり出して、表面がつるっとするまでこねる」

 

「つるっとって……アバウトな表現ね」

 

 

 

 レシピにそう書いてあるから仕方がない。やがてレシピ通りに表面がつるつるし始めてきた。

 

 

 

「そうなったら……またボウルに入れてからラップをしてオーブンの発酵機能を使って30分ぐらい発酵させる。だいたい2倍程の大きさになるぐらいまで発酵させるみたい」

 

「結構時間がかかるのね」

 

「まぁねーその間にジュースでもつくる?」

 

「そうしましょうか」

 

 

 

 これも、モモパッドにあったレシピを参考にして作る。

 

 

 

「ぶどうを洗ってから鍋にいれて強火で煮込みます……っと」

 

「皮ごと?」

 

「そう皮ごと」

 

 

 

 強火で鍋をかけているとやがてブドウから水分が出てきて鍋を満たしていく。ふきこぼれてしまえばジュースが少なくなるともかいてあったので強火から中火にしてしばらく煮込む。

 

 

 

「こっちも30~40分ぐらい煮込まないと駄目みたいね」

 

「意外と料理の下準備って時間がかかるのね」

 

「まぁ、料理ってそんなものだしね」

 

 

 

 モモトーク(アリウスの二人には使い方を教えた)をしたりスマホで時間を潰しつつ30分が経過したところで鍋を覗いてみれば皮と中身が分離していた。こうなれば良いらしいので後は金ざるを使って濾していく。

 

 

 

「最初っから布とかを使って濾していくんじゃないのか?」

 

「最初から目の細かいもので濾すと余計時間がかかっちゃうしね」

 

 

 

 一度目が終わるとすぐさま2回目を行う。今度はガーゼを使って濾していく。一度目でブドウの皮と実といったものは取り除けてはいるが小さく細かいものはまだ濾せていないためである。

 

 2回目の濾しが終わったら完成である。

 

 

 

「これでブドウジュースは完成。パンが焼き上がるまで冷蔵庫で冷やしておきましょう」

 

 

 

 オーブンから出したパン生地は見事に膨らんでいた。優しく力を加えてガス抜きをしてから複数に生地を分けて10分ほど休ませた。

 

 

 

「これをベンチタイムっていうらしいわ」

 

「なんでベンチタイム?」

 

「……さぁ?」

 

 

 

 ベンチタイムを終えてからクッキングシートに乗せてラップをし、再びオーブンで発酵させる。そうして10分後、室温で発酵させている間にオーブンを190℃まで予熱しておく。

 

 

 

「そうしたら後はオーブンで焼いていくよ」

 

「どれぐらいオーブンで焼くの?」

 

「えっと……190℃のオーブンで15分くらい。それで……焼色がついたら完成、のはず」

 

 

 

 信用のない返答をするがモモパッドにそう書いてあるのでそのまま作る。

 

 そろそろ焼けたかなーというタイミングでオーブンから出してみると程よいきつね色をしたパンが出来上がっていた。

 

 

 

「できた!」

 

「へぇ~初めてにしちゃ上出来じゃないかい?」

 

 

 

 焼き上がったところで平台礦泉の女将さんが買い出しから帰って来た。ちょうどいい出来がどんな感じなのか味見してもらおう。

 

 

 

「よかったら女将さんも味見してみませんか?」

 

「おや本当かい?じゃあお言葉に甘えようかしらね」

 

 

 

 焼き立てのパンを皿に載せ、冷えたぶどうジュースをコップに振り分ける。5人分の皿とコップの準備がととのったのでいただく。

 

 

  

「それじゃいただきましょうか」

 

 

 

 まずはパン。初めて焼いた割にはしっかりと膨らんでおり、柔らかく仕上がっていた。

 

 

 

「美味しいじゃない。しっかりと膨らんで柔らかくなってるし上出来よ」

 

「ほんとに美味しいわね。今回はただ丸めただけだけど次回は食パンもやってみたい」

 

 

 

 ウイハはパン作りに興味を示したみたいでアオリもパン作りを協力していくようである。こうやってアリウス生徒たちに様々な楽しみや夢を持ってもらいたい。ばにたす、ばにたす。語呂はいいので掛け声みたいな感じで残っていけばいいかなーと考えている。

 

 

 

「それで……貴女はいつからいるのかしら?」

 

 

 

 今まで全員が気がついていなかったのか一斉に振り向くとそこにはトリニティのシスターフッドのような頭巾を被り、腕先こそ白くなっているものの、上半身全てを覆い、下半身の大事な場所だけを覆った光沢のある黒いラバーめいた一枚の布地で覆われた所謂ハイレグレオタードとシスター服を一体化させたような服を身につけた少女がおり、顔に装備していたであろうガスマスクをテーブルへと置きもぐもぐとウイハが焼いた焼きたてパンとぶどうジュースに舌鼓を打っていた。

 

 全員の視線を感じたのかはっと顔を上げた少女、白い長髪と瞳、そして病的に白い顔を今は真っ赤にしながら焼きたてパンを両手に持ちながら透けるようにして消えていった。

 

 

 

「幽霊……?こんな日中に現れる?」

 

 

 

 SIG P226を構えながら追いかけたアオリであるが見失い銃をガンホルダーへとしまう。今のは幻かと思ってしまうがテーブルの上には彼女が身につけていたであろうガスマスクが置かれたままになっていた。

 

 

 

「幽霊だとしたらこのガスマスクも一緒に消えるはず。消えないということは……」

 

「実在していた存在ということになるね。この年になるまで怪奇現象なんかは信じたことは無かったけど実際にみるとねぇ」

 

 

 

 空になったコップと皿、ガスマスクがそこに何かがいたことを証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日からというものマイナリー礦業学院周辺で奇妙な出来事が多発していく。パン作りにハマったウイハが他のアリウス生徒を誘ってパンを焼いていると必ずといっていいほど一斤か二斤が足りなくなっていた。

 

 また襲撃をしようとした不良や悪徳企業(カイザーではない)の傭兵たちが朝になると校門前に無惨な姿で放置されており、いずれも『ドスケベシスターに襲われた』と証言したがそんなドスケベシスターはマイナリー砿業学院にはいない。

 

 正体不明として片付けられていたがタンネにはその正体に気づいていた。

 

 

 

 

(なーんでユスティナ聖徒会がウチの学院に現れてるんですかねぇ?あれマエストロの作品じゃないっけか?なんで?ねぇ?ウイハがロイヤルブラッドのせい?)

 

 

 

 謎が深まって頭を抱えるタンネであった。

 

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