透き通るような世界観で地下に潜る   作:久保田紅葉

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マイナリー礦産アビドス支店

「やっほーホシノー。元気してるー?」

 

「何しにきたんですかタンネ。ユメ先輩ならまだ入院していますよ。用が無いのなら帰ってください」

 

 

 

 温泉開発部の一件がひと段落したところで再びアドビス高校に私はいた。別に一人寂しく過ごしているであろう小鳥遊ホシノを見に来た訳では決して無い。

 

 

 

「そんな硬いこといわないでさー、ちょっとマイナリー礦産と取引しない?勿論ホシノに話した後でユメ先輩に許可は取りに行くけどね」

 

「取引って……アドビス高校には取引できるような物なんて無いですよ」

 

「眼の前にあるじゃん。商品になりえそうなものがさ」

 

 

 

 私の目の前……正確には視線の先に砂へ埋もれた街が広がっている。ホシノも私の視線に気がついたのか視線を外に向けていた。

 

 

 

「まさかとは思うけど……この砂を買い取るってこと?」

 

「そう。今建設してるスパリゾート(仮称)の砂浜として使いたいし、セメントと混ぜればモルタルになるしそこに砂利を入れればコンクリートの材料にもなる。熱して溶かせばガラスの主材料にもなるから、私たちが今欲しい建設資材のひとつなのよ」

 

「別に……ほしければタダであげますよ」

 

「そうは行かないでしょ。借りにもここはアドビス自治区なんだからその代金は支払わないと……ね?」

 

 

 

 ホシノが悩んでいる。正直9億円も借金があるのであれば悩むことなく縦に首を振って欲しいところなんだけど……何か気に障るようなことを私がしたのか?記憶にないのだけれど。

 

 

 

「一応キロ単価で計算すると200円、20キロだと4000円、大型ダンプなら200万円ぐらいで買い取りする予定だから」

 

「……うん。そうだね。背に腹は代えられないし取引しよう。私が集めればいいの?」

 

 

 

 不服そうだったけどこれで契約は成立、後はユメ先輩のとこに向かって正式な書類の発行を済ませて……っとそうだそうだ、まだホシノの許可を取らなきゃいけないことがあったんだった。

 

 

 

「いや、それよりも砂の採取をするためにアドビス高校にウチ……マイナリー礦産の支社と社員(アルバイト)を置きたいんだけどいいかな?」

 

「……それぐらいなら別にユメ先輩も許可すると思いますよ?」

 

「ありがとね。それと暇だったらウチの社員にトレーニングつけてもらってもいい?トレーニングしてもらったもらった分はちゃんと報酬に上乗せしておくから」

 

「……それは徹底的にやってもいい感じかな?」

 

 

 

 ホシノが悪い顔をしていた。徹底的に鍛えてくれたらこちらも温泉開発部やカイザ……ゲフンゲフン、その他敵対勢力に対するアドバンテージになるから万々歳である。

 

 

 

「勿論、徹底的にやってもらっていいわその分弾ませてもらうから」

 

 

 

 ホシノとの交渉が終わってアビドス高校を後にする。この後はユメ先輩が入院してるD.U.地区の病院に行ってから正式な書類を作って契約を結んで……。

 

 なんて考えながら歩いていると急にお腹の虫がなった。

 

 

 

「そういえば朝早く出てきたもんだから朝ご飯食べてなかった……お腹すいたな」

 

 

 

 ここら辺で飯屋といえば柴関ラーメンがある。今日のお昼はそこにしよう。

 

 

 

「いらっしゃい!お一人?」

 

「ええ、テーブル席でも?」

 

「いいよ!注文が決まったら声をかけてな!」

 

 

 

 セリカはまだ入学前なので柴大将一人で切り盛りしているようであった。うーん、どうしよう。ここは一つ……。

 

 

 

「大将ー、柴関ジャンボラーメンひとつ!それと半ライスと餃子もつけて!」

 

「あいよっ!」

 

 

 

 出来上がるまでにスマホで緊急の連絡等が入っていないかとチェックしていると不意に店の扉が開き、別の客が入ってきた。

 

 

 

「らっしゃい」

「クックックッ……失礼、相席よろしいでしょうか?」

 

 その客は私の近くに寄ると、どこか胡散臭い声で話しかけてきた。ふと顔を上げれば目の前には黒いスーツで全身を固めた人物が立っていた。右目にあたる箇所からは白い発光部があり、そこから顔全体に亀裂が走っている。

 

 

 

「く、黒服?私に一体何の用?」

 

「おや?その呼び名は暁のホルスだけがしているものだとばかり思っておりましたが……まぁ良いでしょう。それで相席よろしいですか?」

 

「別にいいけど……」

 

「……ダンナ、ウチの店は冷やかし厳禁だよ。相席するんなら何か注文してもらおうか」

 

「クックックッ……、これは失礼。では柴関ラーメンを1ついただきましょうか」

 

「あいよ」

 

 それでは失礼……とテーブル席の対面に座る黒服。テーブルに両肘を立てて寄りかかり、両手を口元で組みながら私のことをジロジロと見ていた。

 

 

 

「で?……黒服?私に一体何用で?こう見えても私色々と忙しいのだけれど?」

 

「それは貴女、夕張タンネ自身が一番理解しているのではないでしょうか?『暁のホルス』とほぼ同格の神秘を持ち、そしてほぼ互角の戦闘力を持つ貴女がどんな人物なのかと。それに加えて彼女……小鳥遊ホシノの神秘、それが急激に洗練されてきたのです。これにはゲマトリアの一員として神秘の探求、我々にとって彼女の変化は非常興味深いものだったのです!ですから……――」

 

 

 

 あー……、この前のホシノとやった模擬戦のことかな?あの時ホシノがめちゃくちゃイキイキしてたからそれを観測しちゃったって感じか。

 

 神秘が洗練されたというけど、ホシノもユメ先輩が生きてるからメンタルつよつよだしそりゃ神秘も洗練されていくよね。……というか原作でなんでユメ先輩を見殺しにしたんだ?その気になればユメ先輩を人質にしてホシノを強制的にでも神秘の研究とやらに協力させることができたんじゃないだろうか。

 

 

 

「はいよ。柴関ジャンボラーメンと半ライスと餃子。でこっちがダンナの柴関ラーメンだ」

 

「……はっ、美味しそう!ありがとうね大将!」

 

 

 

 思考の沼にハマりそうだった私を二郎ライクな柴関ジャンボラーメンが引っ張り上げてくれる。山盛りのもやしにクソデカチャーシュー。更には煮卵がついており非常に美味しそう。

 

 ラーメンに手をつけつつ黒服の話を理解半分できき流す。食べながら会話しないでほしいなと思いつつ……というか黒服ってラーメン食べられたんだ。口どこにあるかわかんないけど。

 

 

 

「――……ということでして貴女の神秘をぜひ私の研究させていただけないでしょうか!」

 

「えっ何?私の身体と神秘を研究させてほしい?ならカイザーと縁切った上、私にマイナリー礦産アビドス支社の土地をくれて、アビドスの借金帳消しにした上、私にアビドスの土地全部くれるなら考えてもいいけど?」

 

「……流石にそれは難しいですね。」

 

「でしょ?それぐらいしないと私は首を縦には振らないから」

 

 

 

 心なしかラーメンを啜る姿が寂しく感じるが気のせいだろう。だってゲマトリアだし。

 

 

 

「そっちの質問が済んだのなら私の方から聞いてもいい?」

 

「ええ、構いませんよ?」

 

「ゲマトリアって名乗っているのなら他にもメンバーがいるのよね?他のメンバーの探求を私がメチャクチャにする可能性があるとしたら……どうする?」

 

 

 

 黒服のラーメンを啜る音が止まるが、すぐさま食事を再開する。

 

 

 

「その破壊活動がどの程度かによりますが……あまり良い目はしないことは確かですね」

 

「そうよね。でも大丈夫。多分だけど黒服や他のメンバーには迷惑をかけないと思うから。一部のババ、いやメンバーだけが被害者になるわ」

 

「そうですか。ですが安心は……できませんが……」

 

「それとも今、ここで私とホシノをたぶらかした罪で断罪されるのがいい?」

 

「クックック……流石にそれは遠慮させていただきます。大変美味、ご馳走様でした。神秘の研究の件検討をお願いしますね」

 

「ちゃんと対価を用意できたら考えてもいいわ」

 

 

 

 いつの間にか平らげていた黒服、会計を済ませて柴関ラーメンを後にしようとした時私に向かって忠告のような言葉を残していった。

 

 

 

「そうそう、マイナリー礦産の近くには遺跡が埋まっているそうですのでくれぐれも、くれぐれも気をつけてくださいね。それでは」

 

「それは肝に銘じておくわ」

 

 

 

 そして消えるように黒服は柴関ラーメンを後にしていった。私も残った餃子とライスを平らげて会計をしようとしたところ、すでに支払われていた。

 

 

 

「さっきのダンナが一括で払って行ったぞ」

 

「はぁ……黒服ぅ。今はいいわ。ごちそうさま。美味しかったわ」

 

 

 

 変に黒服へ借りを作ってしまえば絶対後々面倒くさいことになる。できれば関わりたくはないけれど……まぁ後々ちょっかいはかけて来そうな気はするよね。面倒くさい……。

 

 

 

「めんどくさいなぁ……やっぱり一発ぶん殴っておけばよかったかな?」

 

 

 

 柴関ラーメンでちょっともやっとした食事をした後、D.U.の病院でユメ先輩と正式な契約書類を交わす。大分元気になったようだけどまだ入院する必要があるらしい。……ユメ先輩これ留年の可能性が大いにあるのでは?ホシノからしたらずっと一緒にいるからいいのか。

 

 

 

「……ホシノちゃん、元気にしてる?」

 

「はい、私になぜか冷たいですけどね。早ければ数週間後にアビドス高校の校舎に支社を設置しますけどいいですよね?」

 

「うん。契約書の通りにお願い。……一人だとホシノちゃんさみしくなりそうだから助けてあげてね」

 

「言われなくてもわかってますよ。それよりもユメ先輩は早く退院してホシノを支えてあげて下さい」

 

「うん、それじゃあね」

 

 

 

 病院を後にしてマイナリー礦業学園にいるヒイラに連絡を取る。

 

 

 

「もしもし、ヒイラ?そっちの様子はどう?」

 

『お疲れ様。第三坑道の閉鎖作業と温泉パイプの整備は順調、新しい第四、第五坑道を掘り始めてるけど人員はもふもふヘルメット団が合流して十分人手はある。だけど今度は人が溢れそうになってるわ。そろそろ三交代制を導入すべきじゃない?』

 

「うーん。それはまだね。それよりもアビドスに支店作るんだけど出張手当が出るなら出張してもいいっていう子がいたら教えて。人数は10人から20人ぐらいでお願い」

 

『わかったわ。帰りはいつになりそう?』

 

「今D.U.だから……今日の夜には帰れそうかな?」

 

『わかったわ。気を付けて帰ってきてね』

 

 

 

 電話を切った後で気がついてしまった。アビドスの出張にホシノとの猛特訓もあると伝えることをヒイラに伝え忘れてしまった。

 

 

 

「……ま、なんとかなるでしょう」




黒服エミュムズカシイネ……
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