念の為坑道内に入る前にガスマスクをつけて坑道に入る。第一や第二坑道は即座に防護壁で封鎖したおかげて蒸気は入り込んでいないが第三坑道は大慌てで退避したためか防護壁は閉められず、蒸気であちこちが結露していた。坑内爆発の可能性があるかもしれないので念の為にトロッコは使用せず徒歩で現場へと向かう。
『……蒸気が出ている割にはそんなに熱くはないわね』
『現在坑内の気温は42℃、湿度97%弱、ちょっとした岩盤浴場みたいになってるわ』
『ミストサウナでも開けそうな感じの環境ね』
などと話ながら歩くこと30分ほど、浸水した区画へとたどり着く。そこには湯気の上がるやや半透明の乳白色をした水がトロッコの線路と坑道を飲み込んで溜まっていた。……少し手を入れてみればちょっと入るにしては熱いような感じである。もしかするかもしれないけどこれって。
『『温泉よね……』』
うーん、地下鉱脈だけ映る神秘だと思ってたけどこれは地下資源といえるのだろうか……。地下に埋まってる判定なら何でもって感じになるのか。何にしてもここの坑道はもう使い物にならないことは明らか。
『これじゃ第三坑道は使い物にならないわね。現時点をもって第三坑道は廃棄、崩落を防ぐ為に坑道を埋め立てるよ』
『この温泉どうするの?下手に放置すれば温泉開発部の奴らに坑道もろとも開発と称して爆破されかねないわ』
確かに
『温泉開発部の彼女たちに来られたらたまったもんじゃないわ。オータム建築学園を呼んで頂戴。スパリゾート作るわよ』
『タンネ……急に何を言い出すの?』
◆ ◆ ◆
「どうもー、建設工事から区画整理までなんでもお任せ、オータム建築学園です!先日は学生寮の建設の請負を任せていただき……」
「いつもどうも、マイナリー礦業のタンネよ。早速だけど依頼があるの」
数日後、ハイランダー鉄道学園の敷設工事が進む中、というか建設工事は粗方終わって試運転の機関車や営業用の回送列車が走り回っている。そんな中オータム建築学園は建築部の担当者が訪れていた。……前回は依頼してから見積もりまで1週間ぐらいかかったけど今回は迅速に来てくれたわね。
「今回は早く来てくれて助かったわ」
「そうでしょう!そうでしょう!隣駅に引っ越しをしたかいがありました!」
「そうなのね……え?なんて?」
隣駅?隣駅には平台市街地に設けた中央駅しか設けてなかったはず、その他には交換設備を設けた信号場しか……まさか。
「もしかしてだけど信号場に引っ越したの?」
「はい!棟梁がハイランダー鉄道学園に相談したら快く受け入れてもらいました。ちなみにですが駅名はCCCの役員さん、
ま、まぁ建築関係の仕事がなければ鉱山のバイトをしてくれるから私たちからしたらメリットしかないから……いいのか?いいことにしておこう。
「えーと、話がそれたわね。まず1つ目なんだけど、温泉が湧き出たから鉱山で働くアルバイト向けの銭湯を作ってほしいの」
「学生向けの大衆浴場ですね。でしたら……こんな風な見た目でどうでしょう。内装はこのような感じで……」
さっと担当者は完成予想図を描く。コンクリート作りでレンガ風造りの2階建ての建物で1階には脱衣所や浴場を設けて2階部分には入浴後に休憩できるスペースやちょっとした軽食を食べられるような食堂を設置しているようである。
「デザインはいいわね。何となくレトロっぽさを感じるわ」
「お褒めいただきありがとうございます!許可をいただけたら明日からでも工事に着工できます!」
「中に入る食堂はこちらで選定しておくから着工をお願いするわ。……それともう一つの方なんだけどこっちが難題でね。温泉開発部に見つからないようになんとかスパリゾートを整備したいのだけれど……」
「それは……難題ですね。見つからないようにとなると大規模な工事は難しくなります」
「そうよねぇ、かと言って放置するのもね……。温泉開発部を気にせずに作れたらどれだけよかったか」
「もし、もしですよ、温泉開発部を気にすることなく開発できたらどんな風にしますか?」
「そうね……ハワイ、じゃなくて南国風の砂浜のビーチがあって……」
頭に思い浮かべるのはキヴォトスに転生する前、私が小さな頃に行った今は無き屋内型スパリゾートのである。波の出るプールに全長300メートルはある流れるプール、ウォータースライダー、そして水着で入浴のできる温泉があって……。
「……タンネさん。社長!イメージはこんな感じでいいですか?」
「え?えぇ、見せて頂戴」
物思いにふけっていたが、担当者がイメージ図を見せてくれる。そこには思い描いていたそのもののスパリゾートがあった。
「……どうですか?」
「パーフェクトよ。ただ実現できないことに目を瞑ればだけれど……」
担当者と一緒にため息が出る。おのれ温泉開発部……この恨み晴らさでおくべきか。そんなことなどと考えていたら校舎全体にサイレンが鳴り響き生徒会室の扉が強く開け放たれる。
「タンネ!第一立坑に襲撃よ!今スケバン三人衆と校舎にいたゆるゆるヘルメット団が対峙してるけど圧倒的劣勢、加勢して!」
ボディアーマーにアサルトライフルを装備したヒイラが生徒会室を訪れた。襲撃……まさかだけど……。
「残念だけどゲヘナの温泉開発部に感づかれたわ。覚悟して頂戴」
◆ ◆ ◆
『我々は温泉開発部である!温泉が噴出したとタレコミがあった!大人しく場所を明け渡し、温泉開発部に開発させるべきである!抵抗するのであれば容赦なく排除する!』
工事用ヘルメットに『温泉』と油性マジックで書かれたゲバヘルもどきを被った温泉開発部リーダーが拡声器片手に語りかけている。赤い髪では無いので下倉メグでは無さそう。……いやモブの中に混じって赤い髪がいる。一年生時代のメグかもしれない。
それは今はおいておこう。温泉開発部員は少なく見積もっても100人近くおりダンプカー、ブルドーザーにショベルカー、そしてなぜかⅢ号戦車を数輌持ち出してきていた。
それに対してこちら側……マイナリー学園側は私やヘルメット団を含めて20人弱、今オータム建築学園に救援要請を出してはいるがそれでも4、50人、戦車はヘルメット団が持ち込んだM4シャーマンのみで対戦車火器は無し、圧倒的に防衛側が不利であった。
「で?社長、どうしますか?このまま相対していても数にまかせてすり潰されるだけです。はっきり言ってジリ貧なだけです」
土嚢を積み上げた即席の防御陣地で指揮をとっていたクロエと合流して対策を考える。温泉開発部連中に大人しく明け渡す訳がない。
しかし、防衛戦を行おうものなら数に押しつぶされる上設備に被害を受けることは確実であり、此方側が明らかに劣勢であった。
それならば大人しく開発されるよりもあがいてあがきまくってから開発された方がいい。
「私が代表の夕張タンネである!温泉開発部の代表と交渉を行いたい!」
「正気ですか!?相手はあのテロリスト共ですよ!テロリストと交渉するなど……」
「まぁ、ちょっと私に考えがあるから任せて」
私が防御陣地から出ていくと温泉開発部の代表と思われるヘルメットを被った温泉開発部員が出てくる。どうやら拡声器で煽っていたのが温泉開発部の代表のようであった。
「命乞いか?そんなことをしても温泉開発は止まらない」
「……実を言うとこの当たりを再開発したかったのよね。それこそ噴出した温泉を利用してね」
そう言い先ほどオータム学園の担当者が描いたイメージ図を見せた。興味深そうに見ている。
「このスパリゾート(仮)には温泉を引っ張るのか?」
「ええ、ちょうど掘り当てた天然温泉の入浴施設を作るわ?どう?やりたくない?」
「大衆浴場はセンスが良いこのまま着工できる。だが、スパリゾートの方は……これでは駄目だな」
駄目……か、仕方がないせっかく作った立坑ごと爆破されてしまう。
「今のままでは温泉と温水プールが混じり合ってしまう。エリアを分けなければならない。混じり合ってしまえば温泉への冒涜であるからな」
……なんかまともな難癖をつけられたのが悔しい。
「それとこのイメージ図を書いたのは何処のどいつだ?」
「はい、私ですが……?」
ちょうどオータム学園の応援部隊も到着したところでイメージ図を書いてくれた担当者に声がかかる。
「君は温泉開発部に相応しい人材だ。我々と一緒に行動を共にしないか」
「いや、嫌ですけど!?」
「ウチのエースの引き抜きは辞めていただこうか!温泉開発部!」
オータム建築学園のリーダーも出しゃばってきてもうめちゃくちゃだよ。
◆ ◆ ◆
その夜……温泉開発部班長とオータム建築学園建設部、そして私とヒイラで打ち合わせ……という名の起工式が開かれた。
具体的にはオータム建築学園と温泉開発部が共同で工事を行うことになった。しかも資材や重機といったものは全て温泉開発部が持つという。
翌日には大衆浴場の工事が始まり、鉄筋を組みコンクリートが流し込まれ基礎が出来上がっていく。レンガ風なのは外壁だけであるので耐爆性はバッチリなのでテロにも耐えることができるであろう。
「駅前が寂しいですね駅前に足湯でもつけましょうか」
「いいね採用しましょう!」
温泉開発部の思いつきで既に出来上がっていたマイナリー中央駅にオータム建築学園の生徒が足湯をつけたりなんて出来事もあったが、一週間も経たないうちに大衆浴場が完成、バイト帰りの不良生徒やヘルメット団は大喜びであった。
「久しぶりのお風呂だー!」
「もう給湯器でシャンプーする生活とはオサラバ!温泉最高!タンネ社長最高!マイナリー礦業バンザイ!」
「んふー!源泉かけ流しで作った温泉卵おいしー!」
一人温泉で料理をしている奴がいた気がするがおおむね好評である。温泉卵が温泉開発部の逆鱗に触れてないから大丈夫なのであろう。
「大衆浴場は完成したわ。残りはスパリゾートの方だけど……」
「かなり大規模になるからそれ相応の時間と労働力を取られるわね。それに温水プール用の水道の整備もしなきゃいけないし……建築場所だってまだ決めてないわ」
「我々としては今すぐにでも開発したいが……」
「まぁまぁ……今は無事に完成したことを祝いましょう。ね?」
大衆浴場の完成……『平台礦泉』を祝ってマイナリー礦業主催で温泉開発部、オータム建築学園、マイナリー礦業の社員(アルバイト)で平台礦泉の二階で打ち上げを行った。
「まさか温泉開発部と一緒に仕事をするとは思わなかったわねー」
「温泉同好会が来た時にはもう駄目かと思った。美味いことタンネが機転を利かせてくれたからなんとかなったわ」
「ホント、一時期はどうなるかと思ったっス!でもなんとかなって良かったっスね!」
平台信用銀行の伝手で雇った猫獣人の女将さんが腕をふるった料理に舌鼓を打ちながら過ごしていると温泉開発部のリーダーのスマホが鳴る。
「はいこちら……ああ部長!お疲れ様です。一体どうしたんですか?はい、はい?えぇ……今はマイナリー礦業学院で1つ目の開発は終わりましたが……ええ?こちらの開発は?……はい。はい、わかりました」
電話を切ると温泉開発部リーダーは立ち上がって一声を上げる。
「部長より連絡があった!これより温泉開発部第二班は本隊と合流し、トリニティ自治区内の温泉開発を行う!」
総員撤収!との掛け声に温泉開発部員たちは一斉に荷物をまとめ、車両にエンジンをかける。
「あー、温泉開発部班長、貴女方がいない間、我々が温泉開発を進めても?」
「かまわない。……そうだ、開発許可証を書いておこう」
いつの間に用意したのか温泉開発部・開発許可証に名前を記入してタンネに手渡した。
「それでいつ何時でも開発ができる。なんせ私の名前入りだからな」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
「うん。それではまた会う日まで!」
タンクデサントやダンプの荷台に乗り込んだ温泉開発部が手を振りながら去っていく。総出で温泉開発部に手を降って見送り最後の車両が見えなくなるまで見送った。
「……よし、見えなくなったわね。開発証明証は?」
「ちゃんと手元にあります。……つまり?」
「温泉開発部の脅威は去った……といえるでしょう。みんなお疲れ様!」
タンネがそう宣言すると荷が降りたように座り込むヒイラ、その脇で安堵の表情を浮かべるスケバン3人衆にゆるゆるヘルメット団、なんとか乗り越えたと喜ぶオータム建築学園の生徒たち。
トリニティ自治区での温泉開発となれば正義実現委員会と全面戦争をしつつ温泉開発となっていくはずである。そうなればマイナリー礦業学院の話題は何処かへと流れて、忘れられるであろう。そうなってしまえばタンネたちマイナリー礦産側の勝利となる。
「さー!これから忙しくなるわよ!温泉開発部対策もしつつスパリゾートをちょっとづつ整備していくよ!」
おー!と全員が拳を上げた。
タンネが思い描いていたのはかつて北東北にかつて存在したウォーターアミューズメントパークです。
……というのも私が初めて行った時に衝撃を受けて何度も行っており、最後の夏も行った思い出の場所です。もしよろしかったら検索してみてください。