【詳報】台湾有事と存立危機事態を巡るやりとり(2025年11月7日)

2025年11月7日の衆院予算委員会で行われた、高市早苗首相と立憲民主党の岡田克也元幹事長の質疑要旨は次の通り。(作成:時事ドットコム編集部)

岡田克也氏 まず確認したいのは存立危機事態以外、つまり限定のない集団的自衛権の行使は違憲である。これが従来の政府の考え方だと思うが、維持されているか。

 高市早苗首相 憲法上、わが国による武力行使が許容されるのは、いわゆる3要件を満たす場合の自衛の措置としての武力の行使に限られる。この3要件は国際的に見ても他に例のない極めて厳しい基準であり、その時々の内閣が恣意(しい)的に解釈できるものではない。存立危機事態における武力行使についても、限定された集団的自衛権の行使、すなわちあくまでもわが国を防衛するための、やむを得ない必要最小限度の、自衛の措置としての武力の行使に限られていて、集団的自衛権の行使一般を認めるものではなく、他国を防衛すること自体を目的とする集団的自衛権の行使は認められない、という政府の見解に変更はない。

岡田氏 存立危機事態の運用は厳格に、限定的に考えなければいけない。それを踏み外したときには単に法令違反だけではなく憲法違反になる。そういう認識でよろしいか。

首相 その政府見解を踏襲している。

岡田氏 2015年9月14日、当時の公明党・山口那津男代表と安倍晋三首相、法制局長官とのやりとり。「武力の行使はこれまで通り自衛隊法88条に規定されたわが国防衛のための必要最小限度の武力の行使にとどまる」「被害国を含めた他国にまで行って戦うなどという、海外での武力行使を認めるものではない」「存立危機事態に該当するのにかかわらず、武力攻撃事態等に該当しないということはまずないのではないか」。存立危機事態と武力攻撃事態というのは、ほぼ重なり合うということを言っているわけだ。現在でもこの答弁は維持されているか。

岩尾信行内閣法制局長官 当時の横畠裕介内閣法制局長官が答弁で述べられた見解に変わりはない。

岡田氏 当時の与党だった公明党代表と首相、内閣法制局長官のやりとりは非常に重みがある。長官は答弁を維持していると言ったが、首相も同じか。

首相 法制局長官が述べた通り、15年9月14日の委員会で当時の長官が述べた見解について変わりはない。

岡田氏 そういった答弁があるにもかかわらず、一部政治家の不用意な発言が相次いでいる。例えば高市首相は1年前の自民党総裁選で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合を問われて「存立危機事態になるかもしれない」と発言した。私も「絶対にない」と言うつもりはないが、どういう場合に存立危機事態になるという考えだったのか。

首相 台湾を巡る問題は対話により平和的に解決することを期待する、というのが以前からの一貫した立場だ。そのうえで一般論として言うが、いかなる事態が存立危機事態に該当するかは実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、すべての情報を総合して判断しなければならない。存立危機事態の定義は、事態対処法(武力攻撃・存立危機事態法)第2条第4項にある通りだ。

岡田氏 海上封鎖をした場合に存立危機事態になるかもしれないとおっしゃっている。例えば台湾とフィリピンの間のバシー海峡を封鎖された場合、迂回(うかい)すれば何日間か余分にかかるかもしれないが、別に日本に対してエネルギーや食料が途絶えることは基本的にない。どういう場合に存立危機事態になるのか。

首相 これはやはり他国に…台湾なら他の「地域」と言った方がいいかもしれないが、あのときは確か台湾有事に関する議論だったと思う。その台湾に対して武力攻撃が発生する、海上封鎖というのも戦艦で行い、他の手段もあわせて対応した場合には、武力行使が生じ得る話だ。例えばその海上封鎖を解くために米軍が来援する。それを防ぐために何らかのほかの武力行使が行われる。こういった事態も想定される。そのときに生じた事態、いかなる事態が生じたかの情報を総合的に判断しなければならない。単に民間の船を並べてそこを通りにくくすることは、存立危機事態には当たらないと思うが、実際にいわゆる戦争という状況の中での海上封鎖であり、ドローンも飛び、いろんな状況が起きた場合、これはまた別の見方ができる。

岡田氏 今の答弁ではとても存立危機事態を限定的に考えるということにはならない。非常に幅広い裁量の余地を政府に与えてしまう。だから懸念するわけだ。日本の艦船が攻撃を受けていないときに、少し回り道しなければいけなくなるという状況の中で、存立危機事態になることはなかなか想定しがたい。そういうことをあまり軽々しく言うべきではない。存立危機事態となれば日本も武力行使することになる。当然、反撃も受ける。ウクライナやガザの状況を見ても分かるように、地域がどこになるかわからないし、全体になるかもしれないが、極めて厳しい状況が国民にもたらされる。そういう事態を極力、力を尽くして避けていかないといけない。それが政治家の最大の役割だ。軽々しく「なるかもしれない」とか「可能性が高い」とか、与党議員や自衛隊OBも含む評論家の一部から述べられていることは極めて問題だ。

首相 あらゆる事態、最悪の事態を想定しておくことは非常に重要だ。「有事」にはいろんな形があるだろう。例えば台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。単なるシーレーン(海上交通路)封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれない。偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれない。いろんなケースが考えられるが、やはり戦艦を使って武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考える。実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府がすべての情報を総合して判断するということだ。実に武力攻撃が発生したら存立危機事態に当たる可能性が高い。法律の条文通りだ。

岡田氏 「いろんな要素を勘案して考えなきゃいけない」という首相答弁では規範、条文としての意味がない。もっと明確でなければ、結局どれだけのこともできてしまうということになりかねない。朝鮮半島有事を含めて近隣で有事が発生した場合に日本国政府として最もやらなきゃならないことは何か。それはそこに住む在留邦人を無事に安全なところに移動させること。自らが存立危機事態だと言って武力行使したら、そんなこともより困難になってしまう可能性が高い。あまり軽々に武力行使、武力行使と言うべきではない。

首相 そういう事態が起きたときに邦人救出をする。これがわが国にとって最大の責務であり、優先事項でもある。ただそのときにも安全を確保しなければいけない。軽々に武力行使、武力行使と言うとおっしゃるが、最悪の事態も想定しておかなければならない。それほどいわゆる台湾有事というものは深刻な状況に今至っていると思っている。実際に発生した場合にどういうことが起こっていくのか。そういうシミュレーションをしていけば最悪の事態は想定しておかなければいけない。即これを存立危機事態だと認定して日本が武力行使を行うということではない。(2025年11月22日更新)

用語解説

◆安全保障関連法 2015年9月に成立した「平和安全法制整備法」は、自衛隊法や武力攻撃事態対処法など関連する10本を一括改正。他国への攻撃が、日本の存立を脅かす明白な危険のある「存立危機事態」と認定されれば集団的自衛権を行使できるよう条文が整理された。自衛隊の海外派遣を随時可能にする新法「国際平和支援法」と併せて16年3月に施行され、これらの総称として安全保障関連法という。
◆重要影響事態 安全保障関連法は、放置すれば日本の平和と安全に重要な影響を与える状況を「重要影響事態」と定義。認定されれば米軍など他国の軍隊を後方支援できる。朝鮮半島有事を想定した「周辺事態」を引き継いだ概念だが地理的制限はなく、弾薬提供や戦闘作戦のため発進準備中の航空機への給油も可能とした。
◆存立危機事態 安全保障関連法の中の武力攻撃・存立危機事態法と改正自衛隊法に定められた。密接な関係にある米国など他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされる状態を「存立危機事態」と定義し、集団的自衛権の行使を認めた。
◆武力攻撃事態 日本が他国から直接攻撃を受けているか、攻撃の危険が明白な状態を指す。2003年に成立した武力攻撃事態対処法(15年に武力攻撃・存立危機事態法へ改正)で定義された。「武力攻撃事態」に認定されれば、首相は個別的自衛権発動のため自衛隊に防衛出動を命令できる。
◆武力行使の制限 個別的・集団的自衛権に基づく防衛出動は、原則として事前の国会承認が必要。武力攻撃事態または存立危機事態の認定に加え、「他に適当な手段がない」「必要最小限度の実力行使にとどまる」の要件を満たした場合にのみ認められる。自衛隊法88条は、防衛出動に際して国際法・慣例を順守したうえで、武力行使は「合理的に必要と判断される限度を超えてはならない」と定めている。

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