……まじでつらい。
「ぜぇぜぇぜぇ……これで、まだ出てこねぇのかよ。いい加減なにかしら出てこいよ……」
あれから三日三晩?ぐらい掘り続けてみたが何も出てきやしない。……正確には青や緑色をした宝石のような石や本、人形が出てきたけど使い道がわからないので防水の袋に詰めてまとめていた。
それと流石に50メートルプールサイズで掘るのは5メートルぐらい掘ったところで諦め、今は4×4メートル幅で階段状に掘っていってる。かれこれ2、30メートル、いや50メートルぐらいは掘っている。そろそろ目当ての物を掘り出してもいいと思うんだけどね。
「はぁー、もー流石に体力の限界……1回地上に上がって休もう」
いくらギヴォトス人といえども3日も寝てないとなれば流石に限界がくるようである。勉強になった。
「よっこいしょ!」
休憩前に最後の一振りを振り下ろす。ふいーっ、一旦休憩とるかー……あれ?
「……はしご、買い忘れた」
なんと致命的であろう。少し掘ったところで気がつけば良かったが一心不乱にツルハシとスコップで掘っていたら仕方がない……いや仕方がない訳ない。
「どうしようかなぁ……」
気合で登るか?この疲労困憊の中?流石にそれは非現実的である。うん、ちょっとだけ仮眠を取ってから壁登りをしようとしたところで足元に水が溜まっていた。……水?足元を確認したところで背後から殴られたような衝撃に襲われた。
「ぺっぺっ……一体どうなったのか」
衝撃に襲われたかと思えばいつの間にか地上に放り出されていた。穴を掘っていた方を見れば黒い水柱があがっていた。
「は、ははっ!」
「やった!やった!やったぜ!石油だ石油!これで私も億万長者だぁ!あはははははっはははは!」
土と油にまみれた身体なんか気にすることなく私は大喜びした。石油が出たのである。空高く吹き出した石油はプール状に掘った穴へと溜まり並々と黒い水が溜まっていた。
視界にあった光もきれいさっぱり無くなりクリアな視界がひろがっていた。これが私の神秘?ってやつなのかな?地下に何か埋まっていると光るっぽい。
「やっぱり地下に何かが埋まってると光るんだ。便利だけど……なんだかなぁ」
あれ?この神秘ってもしかしてカイザーコーポレーションに見つかったら終わりじゃね?あいつら確かアドビス砂漠でなにかを探してるんだったっけ?しっかりとブルーアーカイブを履修しておくべきだったなぁ。
「……まぁとりあえずはこの油田を高値で売っぱらおう。多分そんな埋蔵量は少ないと思うし、しばらく暮らすぐらいのお金にはなるでしょう」
疲れなど何のその、着替えもそのままに自転車を走らせて舞い戻ったのはブラックマーケット。スマホからと思ったが充電がキレていたので小売店の店主から電話を借りようと思っていたのである。
「てんちょーいるー?」
「はいはい、いらっしゃい。ん?いつぞやの嬢ちゃんか……ってなんだその汚れ!ウチの裏で風呂に入ってきなさい!服は洗濯しておいてあげるから」
「ん、ありがと。あ、それと何だけど油田見つけたから電話かしてもらってもいい?私のスマホ電源が切れちゃって」
「ああ、それぐらいいい……待て待て待て!油田だって!?どこで見つけた!」
「この前話してた荒野ー、勝手に電話しないでねーあっ、それとそこの袋の中身買い取ってー」
石油まみれの服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。油汚れは強敵だったよ。
シャワーを浴びて予備の制服に着替えると店長から電話を借りる。
「おまっ、こんな数のオーパーツどこで見つけたんだ!?数百万はくだらんぞ!」
「ん、これオーパーツっていうのね。あの荒れ地を掘ってたらぽつぽつと出てきたの」
「はぁ、買い取りはしっかりと吟味してからやる。で?油田をどこに売るんだ?カイザーコーポレーションか?」
「あんなブラック企業のカイザーに売るなんて論外、まともそうなセイント・ネフティスに売っぱらおうかとね。店長番号わかる?」
店長から電話番号を引き出してセイント・ネフティスに電話をかける。いたずら電話かと思われたが紆余曲折あって担当者が飛んでくることとなった。
「店長、電話ありがとね。またくるよー」
「お、おい!」
そのまま自転車を漕いで油田の場所で待機しているとヘリコプターが降りてくる。機体にはセイント・ネフティス社の社印が書かれていた。
『おまたせいたしました。貴女がご連絡をくれた……』
「夕張タンネ。それで……これをいくらぐらいで買ってくれるのかしら?」
セイント・ネフティス社のロボ社員は並々と溜まった原油を見つめていた。
「……そうですね埋蔵量がいかほどかはわかりかねますが、湧き出す勢いからしてかなりの埋蔵量がありそうです。ですので……」
ロボ社員が電卓を弾き金額を見せてきた。えーと、ゼロが7つ。……7つ?
「こちらの油田ですが1億4000万円で購入させていただこうかと」
「い、いちおくよんせんまん?そんなに?」
「はい!正確には1億4285万円になります。分割払いでもよろしければこちらの書類へサインをお願いします」
軽い気持ちで掘り出したら約6分の1アドビス分ぐらいの金額が懐に入ってきた。こんな金額になるなんて予想してなかったよ。
「は、はい……これでいいですか?」
「確認いたします……確認がとれました。お客様のネフティス・ローンバンクの口座に振り込んでおきますのでご確認をお願いたします。今後ともネフティスグループをよろしくお願いします」
会釈をしてセイント・ネフティスのロボ社員はヘリコプターへ乗り込んで帰って行った。予想外の高値がついてしまい一人残された私がスマホの通知音で再起動するまでに暫く時間がかかった。
「ネフティスバンクからだ……。本当に支払われてる」
分割払いとは言うが1回の金額が大きい。4000万円ぐらいが口座に入っていた。暫くは豪遊しても数年は暮らせるぐらいの資金を手にしてしまった。
「……そうだ、とりあえず預けてたオーパーツの買い取りがどうなったか聞きに行かなきゃ」
現実逃避をするようにゆっくりと自転車を漕ぎ出してブラックマーケットに向かうことにした。
◆ ◆ ◆
途中休憩をはさみながら1日かけてブラックマーケットへと戻り店長の店に顔を出した。
「てんちょーいる?」
「またお前か!ちょっと来てみろ!」
店長に促されるままテレビの前につれてこられるとクロノススクールがネフティスグループの緊急記者会見を生中継で放送していた。テロップが出ていたが『取締役:十六夜……』そこに写っていたのは原作キャラ、十六夜ノノミの父親?親族?と思われる人物であった。
「これ、お嬢ちゃんが見つけた荒野で油田だろ?」
会見の合間にクロノスの報道ヘリが上空からの映像をリアルタイムで伝えている。確かにあれは私が見つけた油田であった。
『――……してこの大油田はどれほどの埋蔵量があると推定されますか!』
『推定ではありますが油層が4、50メートルはあり、埋蔵量は600万キロリットルになると試算が出ております』
『なぜ!今まで発見することが叶わなかったのでしょうか!』
『今まで鉱物資源が存在しないとされていた地域ですので発見が遅れました』
『その油田の名前は!』
『……発見者の名前にちなみたいところではありますがプライバシーの問題もありますのでユウタン油田と命名しました』
……間違いない。私が見つけた油田であった。というかそんな大油田を私は見つけたわけ?
「私が見つけた油田だ……」
「……嬢ちゃん。とんでもねぇの見つけたな。それとオーパーツの値段なんだが全部買い取ることにした。値段だが」
「まさかこれも億を超えるとかいいませんよね?」
「流石にそこまではいかん。全部合わせて1457万円だ。だが俺にはそんな金はねぇ。売れたそばから入金となるがそれでもいいか?」
少ないといいつつ余裕で1000万を超えてきた。もう何がきても驚かないような気がする。
「で?どうするんだ嬢ちゃん。そんな大金を持ってブラックマーケットにいるなんて襲ってくださいと言ってるもんだ。どこかに身を隠したほうがいい」
身を隠すか……それも手だけどこれだけの大金、死蔵してしまうのがもったいない。
「隠居はしないわ。今やりたいことができたから」
「ほう、ユメができたのか。それならいい、決して楽な道のりではないと思うけれどね」
俺は応援しているぞと店長がいってくれた。それにチャレンジするのは大切だしね。
「じゃ、店長、別の足がほしいからバイク頂戴!」
「馬鹿言え!オーパーツの買い取り代金から天引きだからな!」
ちっ、騙せなかったか。