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「広島が元気になった」が、道半ばの政策も。4期16年務めた湯崎英彦・広島県知事が退任会見

宮崎園子フリーランス記者
広島県知事退任会見に臨んだ湯崎英彦氏=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影

 4期16年務めた広島県の湯崎英彦知事が28日、広島県庁で退任会見に臨んだ。8月に5選不出馬を表明し、10月に行われた知事選では、事実上の後継者として自身も推した前副知事の横田美香氏が当選し、初の女性知事が誕生することになった。約300ページに及ぶ引き継ぎ書を横田氏に手渡した後、退任会見に臨んだ湯崎氏。男性の家事・育児の参画を促すことを目的にした肝いりの「男性活躍推進条例」案を県議会で成立させられなかったことや、ベンチャー企業を起業した自身の経験ももとに打ち出した「イノベーション立県」については「道半ば」と振り返り、「広島が元気になった」と一定の成果を誇った。会見での発言を詳報する。

16年「長かったし、短かった」

 知事としての最終勤務日となったこの日、16年前に知事として初登庁したときと同じという薄緑のネクタイを締めて登庁した湯崎氏。16年は長かったか、あっという間だったかと問われると、「月並みな答えかもしれませんけど、長かったですし、実際どう感じられたかっていうと、やっぱり短かった」と振り返った。

平和記念式典で広島県知事としてスピーチする湯崎英彦氏=2025年8月6日、広島市中区
平和記念式典で広島県知事としてスピーチする湯崎英彦氏=2025年8月6日、広島市中区写真:松尾/アフロスポーツ

 「国守りて山河なし。もし核による抑止が、歴史が証明するようにいつか破られて核戦争になれば、人類も地球も再生不能な惨禍に見舞われます。概念としての国家は守るが、国土も国民も復興不能な結末が有りうる安全保障に、どんな意味があるのでしょう」。そう訴えた今年の平和記念式典での知事あいさつ。毎年の式典あいさつで、力強い言葉で核抑止論を否定してきた湯崎氏は、「へいわ創造機構ひろしま(HOPe)」を立ち上げ、一般社団法人化するなど、核兵器廃絶に向けた取り組みを県政の大きな柱の一つに位置付けてきた。国際情勢が厳しい状況の中での退任となったことへの思いを問われると、厳しい表情でこう答えた。

「いわゆる核のタブーが今にでも破られてしまいかねない状況。核兵器あるいは力による支配、力による現状変更がまかり通るようになってきているのが最も憂慮すべきことではないか。危機感をしっかりとみんなで共有して核兵器廃絶や平和の取り組みに力を入れて前進させていかなければいけない」

「政治活動当面続ける」変わらず

 知事という立場を離れても引き続き核兵器廃絶に向けた活動をするかについては「私自身の今後については全く白紙なので、平和の課題・問題について関わっていくかどうかも含めてわかりませんけれども、何か社会の中で求められることがあればお役に立ちたいし、何かしらの形で貢献できればもちろん私としてもうれしい」と答え、「最後の部分はそんなに意味深な話ではありません」と付け加えた。8月の不出馬会見時、「政治活動は何らかの形で当面続けたい」とした方針については現在も変わらないとした。

 かねてからささやかれている広島市長選への出馬については、「具体的なことは全く何も考えてないので、出るとも出ないともない」と従前からの答えを繰り返した。

湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影
湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影

 16年の中で最も重い決断だったことが何かについては、新型コロナウイルスへの対応と回答。「人の命がかかっているし、他方で例えば飲食店に対する制約は、そういう事業に携わる皆さんの生活に直結をしているようなことでもありますので、これをどう進めていくかは非常に難しい判断。それでも前へ進めていかなければいけないので、非常に慎重に、迅速に、取り組まなければいけなかったのは大変だった」とした。

「広島が元気になったんじゃないかな」

 一方で、最も手応えを感じた政策について問われると、「ざっくりと言うと結構広島が元気になったんじゃないかなとは思う」と笑顔で答えた。県出身タレントの有吉弘行さんを起用した2012年の観光キャンペーン「おしい!広島県」など話題となる政策を打ち出した結果、「全国に広島県の存在を再認識してもらって観光客が増えている。それは県民の皆さんの誇りにも繋がってるんじゃないか」と振り返った。

 全国の都道府県知事として初めて育児休業を取得したことでも話題になった湯崎氏。「ジェンダー問題は人口減の問題」と位置付けて取り組みを進めてきたが、広島県が4年連続で人口の転出超過が全国ワースト1位であることとジェンダー問題とを掛け合わせたような議論は深まっていない。このことについて問われると、共働きを進めるにあたって、「男性活躍」と銘打って、男性の家事・育児への参加を促すための取り組みを訴えてきたことに触れ、「人権的な観点というか、ジェンダーエクイティという問題にも関わるし、経済の問題にも関わる」などと説明。「非常に難しい時代にあって、男性・女性が協力して、この社会を作っていかなければいけないということもあるので、男性自身、まさに自分たちとして何ができるかをもう一度よく考えて、その協働して社会作りを進めていただきたい」と訴えた。

「構造問題の反転、難しい」

 「男性活躍」の取り組みを条例化しようとした試みは、議会の反発もあって実現できていない。在任中の心残りについて問われると、その点をまず挙げた。「それを大きくひっくるめて、社会減とか若者の社会減を早く認識して取り組みをしてきたが、構造的な問題であるゆえに、なかなか簡単に我々だけの力で解決することが難しい。こういう大きな社会の方向をなかなか反転させるのが難しい」と悔しさをにじませた。

湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影
湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影

 知事就任前、起業家としてベンチャー企業を立ち上げた経験もある湯崎氏が力を注いできたのが、ユニコーン企業の創出やスタートアップ支援、DX推進などの産業政策。「イノベーション立県」と掲げて進めてきた各種政策の現時点での到達点について問われると、「『イノベーション立県』というところまではまだやっぱり行けてない」と振り返った。「新しい企業とか、これまでなかったようなものがどんどん生まれてくる環境を作っていくことについてはやはりまだ道半ば。スタートアップが大きく伸びていくというのはまだまだ少なく、既存の企業が新しいニーズを開発して大きく世界のマーケットで伸びていくといったこともまだまだ道半ば。これからもその取り組みは継続していかなければいけない」

「自分もできる」心理的制約の転換が必要

 そのために必要なこととして、ロールモデルを生み出すエコシステムの確立を挙げた。ロールモデルの必要性については、陸上記録を例に挙げてこう述べた。「例えば日本人ってなかなか100m10秒が切れなかった。でも10秒切る力を持ってる選手は実はたくさんいて、為末大さんが『誰か1人10秒切ったらせき切ったように10秒切る人が出てきますよ』と言われた。なかなか10秒が切れないという心理的制約があるが、誰が切ると『自分もできるんじゃないか』と転換する。スタートアップも同じで、大きなマーケットを取って成功する企業が生まれれば『自分たちもできるんじゃないか』となる。そういうロールモデル、そこに形成されていくエコシステムを作っていくということではないか」

 呉市で行われた災害復旧工事をめぐる公文書偽造問題について、県が設置した調査チームの調査が知事の任期中に終えられなかった点については、「これはある意味で言うと負の遺産的なもの。新知事にお渡しするのは非常に申し訳ないなと思っていましたから、それが完了しなかったのは非常に残念。ここはしっかりと調査をして、構造的なものがあれば改善する取り組みをしていく必要がある」とした。

 「県民へ何かメッセージを」。記者からそう問われると、こう返した。「広島県は非常に大きな底力を持っている。私の16年はその底力を引き出していくために汗をかいてきた16年だったと思います。これからもますます発展していく力があるので、人口減少だとかいろんな難しいチャレンジはもちろんあるが、それを乗り越えて必ず素晴らしい県に引き続き発展をしていく。県政だとかあるいは市や町の行政もありますけれども、やはり本当の力を持ってるのは県民の皆さんだと思うので、いろんなプレーヤーが連携して力を発揮して、発展していくことを大いに期待したい。私も何かお役に立てることがあれば、お役に立っていきたい」

湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影
湯崎英彦氏の広島県知事退任会見=2025年11月28日、広島市中区、宮崎園子撮影

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フリーランス記者

銀行員2年、全国紙記者19年を経て、2021年からフリーランスの取材者・執筆者。広島在住。生まれは広島。育ちは香港、アメリカ、東京など。地方都市での子育てを楽しみながら日々暮らしています。「人生再設計第一世代」。

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