虐待を「生き延びた」子どもたち トラウマの苦しさ、映画で伝えたい

奈良美里

 虐待を「生き延びた」人たちが抱える苦しさを伝えたい――。そんな思いから企画されたドキュメンタリー映画がある。虐待の経験者が監督し、同じ境遇にあった当事者たちのその後の人生を描く。制作費用を集めるためのクラウドファンディングも実施している。

 「今日死にたいんです」

 虐待経験のある若者や大人を支援する一般社団法人「Onara」(東京)の代表理事を務める丘咲つぐみさん(50)の元には、幼い頃に虐待を受けた人たちからそんな相談メールが毎日のように届く。一つ一つの声に寄り添う丘咲さん自身が、虐待に苦しんだ当事者でもある。

 丘咲さんは「虐待をされた子どもが死亡した事件は、報道されても、虐待を『生き残った』子どもたちがその後をどう生きているのかは見てもらえない」と指摘する。

 京都大が2021年に実施した調査では、子どものときに虐待やネグレクトなどでトラウマとなりうる経験をした人は、大人になってから心身の健康上のリスクが高まることが示された。

 丘咲さんのもとに届くのは、虐待を生き延びた大人たちの悲痛な声だ。

 ある女性は子ども時代にお風呂場で壮絶な虐待を受けたことで、浴槽付きの部屋に住むことができなくなったという。

 この女性は、トラウマの影響で精神疾患があり、働き続けることが難しかった。生活保護の申請に行くと、児童養護施設に入っていなかったことを理由に、窓口の職員から「本当に虐待を受けたのか」と言われたという。

 虐待を受けていても、周囲の大人が気づかず、施設での保護などの支援につながらない子どももいる。そうした当事者は、病院や福祉で適切なケアも受けられないまま大人になり、孤立した状況に追い込まれていく人も多いという。

 丘咲さんは、そうした当事者の現状を、講演や政策提言などの形で発信してきた。しかし、「いくら言葉を尽くしても理解されない」と感じ、当事者のリアルな姿をドキュメンタリー映画で伝えることを思いついた。

 監督は丘咲さん自ら務める。虐待を生き延びた当事者がトラウマを抱えながらも精いっぱい生きる姿を描く予定だ。26年1月から撮影を始め、27年末には試写会を開きたいとしている。

 行政や教育機関に映像を提供し、トラウマの理解を深めるための研修資料として活用してもらうことも考えている。

 今まで相談を受けてきた中には、その後に命を絶った人もいる。「虐待を受けてきた子どもたちが、自らの命を奪うことのない社会にしたい」

 撮影費用などのため、11月30日までクラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/883090/別ウインドウで開きます)で協力を呼びかけている。

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この記事を書いた人
奈良美里
ネットワーク報道本部
専門・関心分野
人権、福祉、障害